軍港突破①
元々軍港、騎士が多いのは当たり前だろうと思われていた。理由はもちろん最前線に送るためや、海を渡って攻めるために必要だったのだろう。そんな思考を巡らせるヴァルキュリアはネフィアの体を借り。盾と槍で武装した騎士たちを氷付けにし、近付き殴りつけてべこべこに鎧を凹ませながら、吹き飛ばす。
「さぁ、ウィンちゃん、アンジュちゃん。行きなさい」
「はい師匠!!」
「はい監督!!」
各々がヴァルキュリアに返事したあとにアンジュは走りながら飛び上がり、屋根へと移り。ウィンディーネはそのまま走って路地に隠れながら進んでいく。3方に別れてそれぞれが港を目指す。
(ヴァルキュリアさん、あまり騎士様は殺さずに勇者だけ倒してください。我々は魔王ですから)
「……わかってます。ネフィアさん」
頭の中で、勇者だけを仕留める事に注意する。勇者だけは手加減出来ない存在であるという認識が二人にはあったのだ。勇者を伴侶とした魔王の意見と多くの勇者を見て来たヴァルキュリアの意見が一致する。
ゴロゴロゴロゴロ
(天気良くないですね)
「雷が落ちそうです……」
(魔法の匂いがする。今さっきまで無かった)
「空から行くのは危ないですね」
(同意見……屋根も危ない)
同じように同じ事を考え、同じ答えを出す。ヴァルキュリアはそれに自分の存在がバレると危機感を覚え、ネフィアは親近感が湧く。
(本当によく似てますね)
「そうですね……似てますね……」
ドガァ!!
一人の騎士を蹴り飛ばし、大きな中央道を堂々と進んでいく。
「くっ!! 俺に強化魔法を!!」
「「「「はい!!」」」」
一人の勇者が道を塞ぐように立ち、背後に女性ばかりの魔法使いなどを用意する。
(やりずらい……全員一人に好意を寄せてるじゃん)
「……戦場ではそれは意味のない物です」
(そうだけど……かわいそうかなって。操られてる訳じゃないし……まぁそんなの言ってたら戦えないですね。ささっと倒して行きましょう)
「一夫多妻推奨ですか?」
(場合によりけり。私は嫌だけどね。他は違う)
「わかりました……」
(何をするの?)
「こうするんです!!」
手のひらに氷の槍を作り大きく振り上げて剣を構える勇者の男子に当てずに投げつける。結果……背後の詠唱していた女魔法使いの腹を深々と突き刺さり。氷の槍が砕け、その他の魔法使いをも怪我をさせる。
(えっぐ!?)
「なっ!? 皆!?」
「あなたたちが築いた信頼はどれ程のものか知らないけど。戦場に愛人を連れるなら……もっと死を覚悟して来ないと……世界はそんなに甘くはないわ」
勇者は後ろを振り返ってしまった。その一瞬だけ、その一瞬だけで深々と懐にヴァルキュリアは入る。そのまま腹を力いっぱい殴り抜き、鎧を通して衝撃で内臓を破裂させる。彼は血を吐き出し、ゆっくりと膝から落ちる。そして屍を無視して女魔法使いたちを氷の刃を投げつけて一方的に命を奪う。
震えて動かない彼女たちに無慈悲に同じ場所へ送り続け。ヴァルキュリアはスッと火を落として遺体を燃やす。あまりの惨殺行為に援軍に来た勇者たちの心をへし折り。誰も戦おうとしなくなる。
(無慈悲。だけどそれがいいんですよね)
「……ネフィアさんも同じ事をして立ち向かって来る者を減らしたでしょう」
(ええ……そうね。そう)
返り血を拭いヴァルキュリアは叫ぶ。
「死にたい奴はかかってきなさい。それ以外はそこを退きなさい。魔王を狩るというのなら……死を恐れるな」
ヴァルキュリアが走り出す。その瞬間、皆は剣を捨てる。盾を捨てる。あわよくば肉盾として勇者を前にするもの現れ出し、統率が取れなくなる。リーダーらしき者は静まれと叫ぶが逃げ惑い逃亡兵を出した。
そんな陣の崩壊をヴァルキュリアは飛び越え、空中を走る。いや、氷を生み出しそれを足場に走り抜ける。追撃はなくそのまま。邪魔されず……包囲を突破した。
(えらく包囲が弱いですね)
「3人に分散したからでしょうね。それと……全く強さも信念もない者ばかり。一攫千金に釣られた者達では……ねぇ。それと多分……正面はそんなに人員をさいてないのでしょう」
(一番真正面正攻法が一番の近道になりそうなんですねぇ)
「……ええ。お体お返しします」
ヴァルキュリアが目を閉じる。そのあとすぐに開き、走りにながら港を目指す。
「他に追っ手もいませんし……旗は見えるまで行きます」
駆け、潮風を感じる町並みを抜け、船着き場まで顔を出す。多くの船は鎖で繋がれ、騎士が守る中で、一隻の船を見つける。大きな大きな髑髏の旗が翻り、なんとも言えず存在感を示す。
(堂々と掲げるなんてね……)
「今はそれどころではないという事で見逃されてるのでしょうね。だけど……それが本命」
脱兎の如く、騎士が指を差し、盾でとうせんぼするなか、逆にそれを相手にせず避けて海賊船に近付く。橋はかけられておらず。ネフィアは飛び越え、甲板に乗り転がっていく。
「……おっけー予言者能力者もさすがにここまで予言できてないのね」
甲板の上で姿勢を整え、誇りを払いながら翼を納める。すると一人の女性が甲板に顔出して如何にも海賊ですと言わんばかりの風貌を見せた。なお、剣のネックレスなどなどから教会の信者であることもわかる。ネフィアは驚いた。その人が似た匂いを感じて気が付いたからだ。
「よぉ、一番乗りの乗客さん。あんたかい? 今、うわさの魔王さんってのは? まぁあんな翼は人間じゃぁねぇな」
「こんにちは。今日はよろしく、名をネフィア・ネロリリス。その通り英魔王です」
「こちらこそ。船長のワイバーンだ。名で察するから先に行っておく。土海のじいちゃんの親戚だ。船員には秘密にしているから気を付けてくれ」
竜……この世界の竜は世界に紛れて生活している。彼もその一人であり、ネフィアはその赤髪のワイバーンと握手をする。
「わかった。気を付けよう。一つ質問いいかな?」
「あん? 出発準備かい? あんたが乗り込んでから後ろが騒がしいだろ? もう出発してるぜ」
「いいえ、違います。なんで女性になったのです? 船長さん」
「あ~あ、よくわかったなぁ。嫌らしい呪いのかかった金貨でこうなっちまったんだ。竜だからすぐに影響うけちまう。金貨で女も買って楽しむ事も男の欲を満たせる事も出来ない呪いだ」
「……竜なら変化自在と思われます」
「しっ!! わかってる。最初は戻ろうとしたが……案外、女性の方がまとまりも部下もしっかりと働くし身嗜みにも気を付けるからこっちのがいいんだよ。本当になんで一瞬でわかったんだ?」
「えぇ~と。実は私も……」
「おっ!? もしや!?」
「そうそう」
「あぁ……なるほどな。まぁ詳しく聞きたいが。今は港を脱出が先だ。落ち着いて船内でも見てくれ。野郎共!! 行くぞ!!」
船内に姉貴と言う言葉が響き、紳士的な貴族風の衣装を着た船員が準備を行う。まるで劇場のきらびやかな海賊のような出で立ちにイメージと違うことにネフィアは感心し、甲板で二人を待つ。港には騎士が集まり指を差して驚いていたのを舌を出しておちょくる。
「大丈夫かなぁ~二人は」
(二人は大丈夫です。私が教えたのです。これぐらい切り抜けなくて世界を救えはしませんよ)
「お厳しいことで」
(船内に入らないのですか?)
「潮風を感じたいの……今は曇りでも……青空になる気がしてね。あと港の船は少なかった。沖に出て待ち構えてる」
ネフィアは髪を押さえながら港を見続けた。二人が来るのを支援するため。火球の準備をしたまま……待つのだった。




