野営浴場
日がくれる前に私たちは木々が剥げている場所か、大きな岩のある場所を探す。そしてちょうど山から転がっただろう大岩の上に降り立った。最初はネフィアお姉ちゃんが降り立ち、岩をマグマとして溶かし、平らに整地したあとにそのまま冷やす。
すると何故か黒いガラスにような物が出来上がり平らになった面にネフィアお姉ちゃんが降り立った場所に私はその胸に飛び込む。なお、鎧で硬くぶつかると金属のいい音がする。
「いたい」
まじ、いたい。
「鎧だからね。ウィンディーネ!!」
バシュン!!
叫びながらウィンが入っている瓶を胸元からネフィアお姉ちゃんは取り出し蓋をあける。膨張し大きくなったウィンが現れる。服はそのまま、濡れた状態であり、服を着ているように皮膚を変えていく。
「んんん」
背伸びをするウィン。そして、腰を回して体をほぐし岩の下を見る。
「結構大きい岩ですね。姉さん」
「そうね、火山が近いから飛んできたんじゃないかしら? 中々大きいから穴作って汗を流しましょう」
そう言うとネフィアお姉ちゃんは私たちに『ドケドケ』と言い、岩を泥々に溶かして中を開けていく。ブクブクとする熱さの中でお姉ちゃんは涼しげに準備を行い。その間に私たちは荷物を下ろし野宿の準備をする。まぁ野宿準備と言っても飲み物と携行食を用意するだけである。
「お水、取りますね。アンジュ」
「はーい」
ウィンからお椀に水を注いでもらう。ウィンいわく空気に含まれる水分を貰っているそうでみるみるお椀に水がたまる光景は不思議である。
「ネフィアお姉ちゃん。火」
「はーい」
ネフィアお姉ちゃんにお椀を見せると小さく小さく火の粉をネフィアお姉ちゃんが投げてくれる。それがお椀の中に入るとお水をブクブクと熱した。干した米を入れ、瓶詰めされた梅と言う物を塩でつけた食べ物を取り出して入れて完成。携帯食の完成である。
「……よし。お姉ちゃん!! たべよー!!」
「わかった!! 降りるわ」
すっと岩を溶かすのをやめて飛び降り、そのまま私からお椀を受けとる。お箸をお渡し、器用にすすりながらご飯を食べていく。味は本当に素朴だが携帯食よりうまい。
「お風呂できたので、水を空気から取り出しましょう」
「お姉さん。私がやります。風魔法からなので一手間とか時間かかるでしょう?」
「じゃぁ、ウィンちゃんにお願いする。でも風ではなく水の魔方陣書くの大変なの」
「ネフィアお姉ちゃんも水の魔法使えるの意外」
「一応、魔法使いですからね。聖職の奇跡も使うのでちょっとあやふやですけど。実は炎の魔法もよくわかってない部分あるんです」
これぞ、長い年月戦って来た人の強さだ。冒険慣れがとにかくすごいなぁと思う。
「ネフィアお姉さん。お水いれてきます」
ウィンが食べ終え、穴の空いた岩に水を入れにいく。ズズズとふやけた干し米と塩味の梅を食べながら、私は疑問に思う。
「あのぉ。なんでそんなに風呂にこだわり持ってるんですか?」
「こだわり? もってませんよ?」
「本当ですか? なら水浴びでよくないですか?」
「そんな~風呂がいいに決まってますよぉ」
「う~ん」
ネフィアお姉ちゃんの熱心な所を見るとちょっと色々と気になる事があった。というか既に湯じゃないとこだわってる。
「一番風呂って大事ですか?」
「もちろん。温度の高いお湯なので一番風呂が好きな人は多いです。私の旦那も私も温度が高めが好きです。なので一番風呂に関しては旦那に譲ってます。そのあと温くなった出汁………いいえ違います。お湯を暖めて入ります。温度に関しては一番風呂より高めにしており、湯の花のみ入れることもあります。あと、家のお風呂もいいのですが~衛兵用の大きい湯船とか、あとは一般客向けの大衆浴場はたまに行きます。お湯は多めにたっぷりあればあるだけ気持ちいい物です。濾過機を通すのもいいのですが、一番いい純水を沸かしてのかけ流し温泉は極上で魔法回復効果も高いです。美肌効果として源泉が一番でその次に家の旦那の後、胃の調子も女性の大切な部位もよくなります。最後に大衆浴場なんですけど。大衆浴場はたっぷり手足を伸ばすので何故か気持ちいいのです」
すっごい饒舌に語ってくれる。なので……
「許せないことは?」
「……体を洗わず湯舟につかること。タオルいれるのも許せません。フロあがりの飲み物も牛乳類が一番です」
「牛乳ないよ」
「絞ってあげましょうか?」
「ぶふぅ!?」
「ふふ、冗談です。出ませんよ」
手で口を隠してお上品に笑うお姉ちゃんにジドッとした目で睨み付ける。すごく反応に困ったが、私はそれよりもこだわりしか感じない事を喋るお姉ちゃんに疑問を持った。
「それ、こだわりでは? あと……お姉ちゃん……胃の調子って……飲んでる?」
「………」
そう、色々と不穏な事を聞いていたのだ。出汁とか、どういう事かは予想できないことはない。旦那好きと言う事は知っていた、だが。
「……アンジュちゃん。世の中は白湯の文化があります」
「飲んでるんですか?」
「……少々」
「……」
「……」
沈黙する。というか絶句する。
「……仕方ないのよ」
「幻滅します」
「!?」
「ウィン!! 聞いて!! お姉ちゃんがぁ!!」
「あっ聞いてました。アンジュ……それ普通じゃない?」
「!?」
予想外の反応に私は自分の道徳を疑いだす。
「泉のお水をよく皆さん飲んでます」
「「あっ」」
「変わらないですよね? お水もお魚さんいますし」
「「「……」」」
「ごめんなさい。飲むのは本来ダメです。二人とも……私の行為はいけない事なので真似てはだめです」
「お姉さん……知らなかった……」
「よ、よかった。私自身、皆するんだと思っちゃいました」
「認める。やっちゃいけない事なんですけど。婬魔なんですよ。いけない事はしちゃうんです。ついつい」
「お姉ちゃん。後で飲まないでね」
「飲みませんよ!!」
今日も今日とて、ネフィアお姉ちゃんの意外な面を見るのだった。
*
「っという事がありましたヴァルキュリアお姉ちゃん」
私は夢の中でウィンディーネがバッティング練習に付き合う中で一緒にベンチでそれを眺めるヴァルキュリアお姉ちゃんと世間話をしていた。最近は鳴りを潜めており、夜にしか会わない。
「そうですか。ネフィアさんらしいですね」
「意外でした。ヴァルキュリアお姉ちゃんも風呂好きなんです?」
「……だ、大好きですよ」
ヴァルキュリアお姉ちゃんの声が震え出す。何かあったらしい。
「何か……あったんですか?」
「……一部の温泉施設出禁」
「何したんです!?」
「……湯船凍らせた。水にしたんですよ」
「二度と入らないでください」
「いやぁ……いやぁ……入りたいの」
「あのぉ。異世界はお風呂好きすぎじゃないですか?」
「そうよ。ある湯竜と言う人が熱心に広報した結果です。体にいいから流行りましてねぇ~あっ、お湯の温度は灼熱がいいです」
私は腕を組む。異世界の人はなんか変わり者が多いのではと疑いが生まれるのだ。
「……温泉好きじゃないのですか?」
「気持ちいいですが。お姉ちゃんたちに比べればそこまでは……」
「……じー」
「ヴァルキュリアお姉ちゃん。胸ばっかり見てるのでつねっていいですか?」
「裸が好きじゃないのね。自信出ないもんね……うん。ダメよ怒っても……膨らむのは怒りだけよ。なんちゃって……あれぇ!?」
私は脇に置いてある大剣を掴んだ。もちろん、ヴァルキュリアお姉ちゃんは逃げ出しそのまま朝まで追いかけ続けたのだった。胸に関してはもう、誰でも許さない。たとえ恩師であろうと関係なかった。




