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二人の答え合わせ後..


 風が冷たいので屋根から降り、リビングのソファに自分は座った。ネフィアも隣を座り、少し逡巡した素振りを見せたあと。ソファに置いている自分の手を触る。握ることが出来ないネフィアは恥ずかしがっているのだろう。


「えーと…………薬の効果、切れちゃったね」


「まぁもう。薬に頼らんでもいいだろ?」


「そうだといいなぁ………」


 気恥ずかしい。すっごく気恥ずかしい。


「口移しにはビックリした」


「そう? 口移しは慣れてるから大丈夫。ずっと寝ている間はそうしてきたから」


「なんだ、キスは沢山してるじゃないか……」


「ううん、あれは違う。寝てるし、元気になってほしい一心での行為。今日のあれだって違うし…………トキヤ」


「なに?」


 ネフィアが少し見上げる。何が言いたいかわかった。もちろん応えるつもりだ。


「普通のキスがしたい」


 彼女の顎を持ち、顔を近付けて触れる。


「満足?」


「まんぞく!!」


「本当に、女になったんだなぁ………」


「なったよ。ありがとう。毒は全身に回ってしまった」


「ああ、いや。懺悔を」


「ふふ!! 聞こう聞こう!!」


「お薬、盛ったのは側近だけどすり替えたの俺」


「抱き締めたら許してあげる」


 もちろん抱き締める。


「許す!!」


 幸せそうに微笑んでる。年相応の少女になったかのような錯覚。これが本当の彼女なのだろう。


「嘘ついたのもぜーんぶ許してあげる。だって、私の事を想ってくれたんでしょ?」


「もちろん」


「だから許せる。遅かったけど。それと、いままで殴ってごめんなさい」


「気にするな、気にするな」


 我慢は得意だ。


「トキヤ、いつから好きだった?」


 顔を寄せて聞いてくる。綺麗な口元を見るたんびにキスを思い出してしまい。恥ずかしくなる。


「恥ずかしい事を聞くな!!」


「恥ずかしくない。だって私は好きだよ? やっぱり最初にしたキスのとき?」


「やめてくれ心臓がいたくなる。攻撃力高すぎなんだよ、お前の顔。あのとき……まぁその…………あまりの嬉しさに………歯止めが効かなかったんだ」


 長年追い求めた彼女の姿をした人を見た故に反動が感情が押さえきれず爆発した結果だった。感情で動くとろくなことがない。


「あれだけ想ってたのによく我慢できたね」


「我慢は得意」


「私は我慢出来ないなぁ~だから今日から一緒に寝よ?」


「お、おう………」


 その日から、普通に同じベットで寝るようになった。恐ろしく積極的なのでビックリする。そして人肌と柔らかさを知った。





 次の日の朝。希望を持って起きた私は隣にトキヤがいないことをに気が付く。


「ちょっと気持ちよくて寝すぎたかな………ふぁ~イテテ……痛かったなぁー」


 昨日、すごくいい事があった。夢が叶ったのだ。これからは私も頑張らなくてはいけない。彼が努力した分。女になりきらなくてはいけない。そして愛の女神に感謝をする。懺悔からここまでこれた事を。


 ゆっくり1階に降りると。トキヤが朝食を作っており

懐かしさを感じる。半年前の出来事なのに。あれからスカートなどに馴れてしまった。お洒落もしないといけないと考える。


「…………懐かしい」


彼の背中を見ていると。昔は声をどうやってかけようかとかそんな事を悩んでいた時期を思い出す。


「よし……行こう」


 でも、今なら。迷う事はない。恥ずかしくもない。胸を張って、言える。


「トキヤ、おはよう」


 挨拶でもなんでも声かけられる。


「おはよう。今日はお寝坊だなぁ」


「気が抜けちゃって………へへ」


 背中から彼に抱きつく。こういう事も我慢しなくていい。彼のいい匂いがする。堅く逞しい体が愛おしい。こんな所も女性だから出来るのだろう。


「ここたま、ここたま~」


「なに、それ?」


「ここが私の魂の居場所~」


「元魔王なら、玉座が居場所じゃ………」


「玉座? なにそれ? 私、しーらない」


「おい、玉座奪還はどうした!?」


「トキヤの言葉を借りるなら、そんなのは小事」


「えぇ~ええ………」


「私はトキヤがいれば何もいりません。けじめに行くぐらい。のんびりでいいかなって」


「まぁええっと………お前がそれでいいなら。さぁ離してくれ。朝食にするぞ~」


「はーい」


 望んだ幸せを噛み締める。





 ネフィアと朝食をとった。今までが嘘のように明るく溌剌な彼女にビックリする。まぁ……夜もすごかったが。


「そこまで、変わるものなのか?」


「女の子は愛を知れば変わるのです」


「へ、へぇ~」


「意外な顔をしますね?」


「この前まで『女扱いするなぁ』て言ってたからな」


「では、男扱いしてもいいですよ? では!! 一日男扱いするのはどうですか?」


 ネフィアがいい思い付きと両手を合わせて提案してくる。遊び感覚のような軽さ。昔に怒鳴り散らかしていた彼女はいったいどこへ行ったのだろう。


「あー………男扱い、男扱い………どうすればいいんだ?」


「親友と同じ事されたらいいと思います」


「親友? 親友、あいつそういや元気かなぁ~ん? なんで親友を知ってる? あっ、記憶見たって言ってたな」


「はい。格好いい皇子様でした!! あっ………トキヤの方が私は格好いいと思いますよ?」


「つぅ!?」


「へへ、照れられますと言った私の方が恥ずかしいですね」


 好意の刃で斬りつけられている気がして心が休まらない。


「なぁ、ネフィア。好意をもうちょっと押さえて」


「何をですか?」


「こう、恥ずかしくなる言葉とか……」


「言葉を抑えろですね?」


「そうそう!!」


「嫌です」


「落ち着かないから頼む!!」


「トキヤ」


「お、おう」


 俺はたじろく。


「好きって気持ちは抑えられない物なのをご存知でしょう? いままで、あなたは誰に会いたくて努力してましたか? 私でしょ?」


「やめてくれ。顔から火を吹きそうだ」


「だから、好きです。ときやぁ~~」


「あーくっつくな!!」


「トキヤが今まで見たことがないぐらい照れてます。大丈夫、親友と同じ男だと思い込んでください」


「男同士でもくっつかない!!」


「男扱いするでない!! 私は女性だ!!」


「だぁ!! どっちでも離す気ねぇなぁ!!」


「うん!!」


 結局、ネフィアのかわいさに根負けしてしまった。


「はぁ……今日はどうする?」


「あっ…………ヘルカイトさんに挨拶行ってません」


「よし、行こう!! すぐに行こう!!」


 知っている。どんな恐ろしい御仁かを。


「トキヤ、案内するね」


「頼む」


 自分は先ずは金を返さないといけないことを思い出したのだった。






 この都市の大きな屋敷に彼だけが住んでいる。目的の部屋に勝手に上がり込んだ。使用人がいないことが問題と思うが、気むずかしい人なので仕方ないとも考える。


「お邪魔しまーす」


「こんにちは」


 ネフィアと二人で執務室に顔を出した。今日も怖いおじさんが一人で悩んでいる。


「ん………お前は。臭いは鋼竜だが」


「すいません。別人のトキヤです。ごあいさつが遅れました」


「ヘルカイトだ。ふむ……お前がネフィアの想い人か。ようこそ我が都市へ。安心して生活すればいい。ヘルカイトがいるからな」


「ありがとうございます」


「まぁ、借りは返して貰う。そっちの娘からお前との旅を長引かせるように頼まれている。しっかり働いてくれ」


「…………ネフィア」


「えーと……………ごめん」


 ネフィアが顔を背けて小さく謝る。


「傷の癒えるまでとかあったんだけど。二人で生活したかったし。長く一緒に少しでもいれるために。手を回してくれたの。ごめん」


「………いいよ。怒ってない」


「うん、ありがとう。お仕事頑張ろう」


 両手でガッツポーズがかわいい。


「ああ、頑張ろうな」


「おい!! 目の前でいちゃつくな‼ 全くこれだから若いもんは………まぁいい!! ワシのこの都市は出来たばかり!! 発展させるために力を借りたい風の魔術師!!」


「発展のために………かぁ」


「そうだ!! 俺は何もわからん!! だから何をすればいいかを聞きたい!! 竜人も少なくて困っている」


「知名度を上げれば自ずと集まりますよ。未解地開拓を名目に冒険者でも集めればいいと思います」


「ふむ。冒険者ギルドを作り広報すればいいのだな?」


「はい。未開地の拠点として活用すればいいと思われます。資金も考えなければいけないでしょう。実際旅をしながら広報しますよ」


「…………ふむ。わかった。ギルドが出来るまで待ってろ。そっから仕事を用意する」


「はい」


 借金分は働こうと思う。借金分はだ。それでチャラだ。







 帰宅。結局仕事はギルドが出来てからだ。先ずは仕事を作らないといけない。まだ、この都市は出来たばかりでゆっくり発展していくだろう。他にはない強みがある。


「トキヤ」


 竜人が居るというだけで安心できる都市なぞ世界に一つだけの強みだ。それをうまく使えばいい。


「トキヤ!!」


「お、おう!? ごめん。考え事してた」


「仕事熱心~」


「借金分はしっかり働かないとな」


「うん、そうだね………ねぇトキヤ」


 ネフィアが後ろに手を隠してゴニョゴニョ言う。聞き取れないので魔法を唱え、無理矢理音を拾った。


「もう一回。聞こえない」


 ネフィアが自分の腕の袖を摘まむ。


「…………あの。その………私のお手々、空いてます」


 遠回しの意味に胸が高鳴る。昔なら気付かないふりをしていただろうが。今は………手を差し出す。


「はい」


「ありがとう。離さないでね」


 差し出した手に彼女は重ねた。それを自分はしっかり握り返してあげる。


 そしたら………嬉しそうに。彼女は微笑むのだった。






 家に帰るとお昼頃だ。何か、食べようと悩んでいるところトキヤが台所に立つ。


「小麦粉に砂糖と牛乳があるな。バターも用意と。とっておきのを作ってやろう」


「えっ? えっ?」


 何をするんだろうか? 木のボウルに中身を入れかき混ぜる。即効魔法を唱えて再度かき混ぜる。


「よしよし、机に座って待ってろ」


「はーい」


 トテトテと机に座る。小麦粉の焼けるいい匂いがする。


「なに、作ってるの?」


「パンケーキ」


「ああ!! あれ!! 私、大好き。あっトキヤ以下だけどね?」


「そんなフォローはいらない。言わなくてよろしい」


「はーい」


「まったく隙あらば言うな、お前」


「言わなくちゃ伝わらない」


「伝わったから言わなくていい」


「むり~」


 喋っている合間にパンケーキが出来たらしく。バターと一緒にお皿に盛って目の前にそっと置いてくれる。綺麗な丸い焦げ目と、美しい丸。お店で出す物より美しい。トキヤが作ったからっと言う贔屓ではない。


「うわぁ!? すごい!!」


「どうぞ」


「いただきます」


 ナイフで切るとわかる。すっと空気を切っているような柔らかさ。そして、それをフォークで刺し口に入れた瞬間。驚く。


 味はパンケーキなのだが………柔らかさが段違いでフワフワしている。


「す、すごい!! お店で出す物より美味しい!!」


「よかった。練習しててよかった」


「練習?」


「数年前にな。戦争が終わって穏やか暗殺日和の間に女性が喜ぶ事を調べてたんだ」


 穏やかな暗殺日和とはいったい……それよりも。


「なんで、最初にしなかったの?」


「いや、もう。黒すぎて胸張れるほどいい人間じゃないしな。釣り合わないだろうと思ったんだ。結構、悩んでてずっとな」


「自己評価低いのか………そっか………私こそ釣り合わないかと思ってたのに」


「そうなんだ。何処を見てそう思うのか聞いてもいいか?」


「えーと。元精鋭黒騎士であり。色々やってお金持ち。冒険者でも最高ランクで。家もちだったし、恐ろしいほど強い。一人で魔王城に乗り込むほどの実力者なのに。親友に皇子ランスロットがいるので皇族との縁有り。すごいよね」


「………ランスロットか。夢を覗いたんだなぁ本当に」


「起きてこないトキヤが悪い!! ずっと寂しかったんだからね‼」


「ごめん」


 すぐ、謝るトキヤ。好きである。


「まぁ、その………こんな何も持ってない女の子といっぱい持ってる人じゃ釣り合わないかなって」


「気にするな。元魔王って肩書きがある」


「いらない肩書き。御馳走様でした。また、作ってね?」


「お粗末様でした。もちろん、姫様のお口に合いまして光栄です」


「うむ!!………ふふ、変なの~」


「ランスロットほど上手くはいかないな~」


 私は、口に手を当てて笑う。トキヤも静かに笑い。和やかな空気が漂う。


「ねぇ、女性が喜ぶ事を勉強したんだよね」


「ああ、一応な。研究をランスロットと一緒に色んな所で聞き込んだ。あいつモテるから便利だった」


「親友を餌にするんだ。うん? 親友だからか?」


「まぁ無礼講だよ。だからこそ……処刑だけは見逃して貰った」


「ねぇ。研究結果、私で試してみませんか?」


「笑うなよ?」


「うん!! 絶対笑うと思う!!」


 絶対、笑うだろうと思う。今だって口元が緩いもん。


「やりたくねぇ………」


「3日後でお願いします」


「仕方ない。わかった、3日後な」


 私はほくそ笑む。既に手は打ってある。くそったれな母上様、婬魔として生まれてきたことを感謝します。くそったれな父上様。生んでくれて感謝します。愛の女神さま。祝福を感謝します。





























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