邪眼の勇者
馬車を降りた私たちは大きな屋敷の前で立っていた。一等地なのか豪華な町並みの一角。一際、大きい豪邸に招かれる。
「こちらです、どうぞ」
「「「お客様お待ちしておりました」」」
庭園を進み、屋敷内に案内されるとそこにはすでに複数人の使用人が立ち並んで歓迎をうける。各々がお洒落な、スカート丈が短い服を着た人たちでドレスを着ている。それにアンジュとウィンディーネは反応を示す。
「うわぁすごい。すごいね、お姉ちゃん……」
「姉さん。皆さん綺麗な服ですね」
「ええ、考えてみれば。この場としてはこれが正解なんですよ。でも、お金はないですから……使用人の普遍的な服になるのです」
そうこうしていると屋敷の上から黒髪の短髪、細身の男性が私服でお出迎えしてくれる。素朴な服装で花がないが男性として女性より大人しい雰囲気である。正直どこか、ここの世界の住民のような顔ではない。落ち着く普通な顔と私は評価する。旦那に似ているのだ何処か……
「うむ、いらっしゃい。噂で聞いているよ。ネフィアさん。ようこそ、『栄光の世界』に。多くの敵を倒せる天使である勇者どの」
優しい声音で話出し、パチンと指を鳴らす。
「君達に衣装を用意させていただきます。そのあと最低限のテーブルマナーと品位を見させてください。王の前ですので少し堅苦しい物ですが申し訳ないのですが学んで欲しいです。では、私はバルバトスと申しますので何かあればお伝えください。その前に使用人に体をチェックをさせていただきます」
矢継ぎ早に説明を受けた私の周りを囲む。私は彼の吸い込まれる目を見たあと頭に『ピリッ』と言う音のような物が聞こえ慌てて耳を押さえた。その動作にバルバトスも『んっ』と声を微かに漏らす。気のせいかとも思ったが……どうやら違うようだ。魔力というより、目になにか良からぬ物があった。頭から何かを追い出したような感じである。
「では、こちらへどうぞ」
「こちらで測らせてもらいます」
「私は少しバルバトスさんと話をしましょうか」
アンジュやウィンディーネは使用人に体を測ると言われ個室に連れていき。私だけが残る。
「ええ、ネフィアさん……お初にお目のかかります。なんとお美しい方でしょうか? 驚きました。連れている方々もお可愛い」
「誉めていただたこと。そして衣装を用意していただける事を感謝します。そうですね。皆さんかわいいです」
「ええ、ですが一番は君が欲しい」
バルバトスは強くそう宣言すると私はクスっと笑う。間違いない、目線を合わせると魔力を流し込もうとするのだ。そう、邪眼の類いだろう。そして私の血が囁く。誘惑してきていると。
「……えっと。誘惑の魔法か魅惑の魔法かわからないですが。やめてくださると嬉しいです」
「ははは、すいません。心に決められた方がいると言うことですね。すいません、ついつい告白をしてしまいまし
た」
「いえいえ、ありがとうございます。そして、すいませんでした」
バルバトスは己の力を言い当てられ誤魔化す。私もそのほんのちょっとの仕草で当たった事を内心焦った。婬魔である私にはその力をよく知っており。呪いのような類いなため、陽の聖職者でもある私は弾いたのだろう。一瞬での問答で、我が物としようとするバルバトスの考えを肌で感じ取り悩む。どうしようかと考える。
完全に敵である。
「では、私も……体を測ってもらいます」
私は睨みつける。二人に何かしたらわかっているなと言う意思をつめて、それにビクッと体を反応させたバルバトスが言葉を溢した。ビビっているのだ。
「あ、ああ。すまない。彼女に体に合うドレスを探してくれ」
使用人はお辞儀をし私を連れて個室に入る。残されたバルバトスは大きく大きく肺から息を押し出しているのか大きい呼吸音を私は拾った。そして……愚痴を溢す。
「誰を召喚したんだ? いったい……何者なんだ。本当に天使なのか? なら……」
睨みつけた瞬間から、何もかも効かなかった者に危機感を持っている。最初よりも異常に危機感が生まれ恐ろしいと思うのだろう。
「俺の物にならず。それ以上に……差し向けた勇者を一瞬で倒した結果から導くに……」
バルバトスは悔しさを滲ませた言い方をする。絶対にハーレムの一人に加えられると出来ると思っていたのだろうか。私にはわからないが底の浅い男だなと考える。
「……俺の今を壊す要因になるかも知れぬ久しぶりの相手だな」
そして、それが敵わない事がわかり。彼は使用人に命令を下す。その声を拾う。
「今回の勇者も。ダメだったよ」
そう。使用人に答えていた。暗殺者を向かわせたのは……『こいつだな』と心で囁き、私は耳元の魔法を切った。
*
私はお姉ちゃんから離れ、体を測った後に用意してくれるドレスにおおっと声を漏らす。
想像のドレスより可愛くて可愛くてたまらない。大きなリボンにフリルのスカート。私はそれを喜んでクルクルし、大急ぎで使用人に部屋を教えてもらいお姉ちゃんに見せに行く。
見せに行くと、ドレスを着こんだウィンディーネの部屋で間違えて入った。どうやらお姉ちゃんと言っていたのでこっちをお姉ちゃんと間違えたのだろう。身長差での誤解だ。
「ウィンだぁ!?」
「あら、子供が紛れこんでますね。かわいいお洋服着て……あら、アンジュ、じゃない。かわいい」
ウィンディーネが白い色のドレスにスタイルの良さを見せつけてニヤニヤとし、そして……
「おこちゃまっぽいですね。特に大人しいその前面。もっと開けてもいいのでは?」
「……」
全力で走り。飛び上がり両足を挟んで飛び蹴りを行ったが、ウィンディーネにそのまま椅子で大きな振り抜かれ足と椅子が当たり木の椅子は砕け散る。
「……おう。ウィン。なんで煽るの?」
「かわいいからちょっと嫉妬した」
「……ほう。ウィンのその胸ずるい。ちぎっていい?」
トントン
「着替えた? 二人とも」
ジリジリする間合いで使用人が距離を取るなか。扉が開きネフィアお姉ちゃんが入ってくる。赤い紅いドレスにスタイルの良さと品性を見せるその姿に私は驚き。自分の姿に恥ずかしくなる。ウィンディーネもちょっと引いていた。着る人が着ている。そんな感じなのだ。
「あっお姉ちゃん……」
「ふふ~紅いドレスなんて初めて挑戦しました。二人とも可愛いドレスですね。よく似合ってます。アンジュちゃんの小さい体のそのキュートさをよく見せれていますし、ウィンディーネの青い髪を目立つように。白い色のドレスなんですね。いいと思います」
「……」
「……」
「二人ともどうしました?」
「いえ、胸がないのです。お姉ちゃん」
「……私も自信あったんですけど。お姉さん。本当にスタイルいいですね。あれ? 私、お腹でてるかもしれません」
「ふふ、スカートで隠してますが足ちょっと太いですよ……諸事情で。やめましょう。ネガティブな事はやめましょう。お腹、出てないだけいいと思いましょう」
私はウィンディーネをみて、頷き黙ることにした。そして……そんな私たちを遠くで様子を見ていた使用人がチャンスだと声をかける。
「お食事をご用意しておりますので」
「行きましょうお姉さん」
「行こう行こう!! お姉ちゃん!!」
「……ええ。目の色変わってるわね。衣装よりも花よりも団子ですね」
お姉ちゃんは呆れながらも私たちの瞳を見てそのまま頷き使用人に案内を頼む。使用人はお辞儀をし、こちらへと案内を始め、私たちはそれに着いていき食堂へ向かうのだった。




