業火の英魔王
囲まれた中、背中合わせの私たちは一つ一つ確認する。
「お姉ちゃん……やっぱり。この人達は私たちを倒しにきてませんか?」
「ええ、暗殺者です。誰の差し金か予想は出来ないですけども、魔族側かもしれませんね~」
「四天王殺したもんね……」
(いや、ワシらはそんな事をせぬぞ。四天王は王を名乗る。卑怯物じゃないぞ。物量で押す)
久しぶりにアンジュの肩にいるダンゴムシが頭に声を伝える。ゆっくりと間合いが詰められる中で私は炎を右手に生み出し、構える。
「じゃぁ、わからない。アンジュちゃん……行くよー」
一枚の金貨を弾く。
「はい」
応答の後に金貨が地面に落ち音を立てた。
ダッ!!
私たちはその瞬間に反発しあうように走りだし目の前の暗殺者に肉薄する。アンジュはそのまま両手で片手剣を持ち。下から救い上げて一人を斬り上げ、その激しい剣激は後ろの人もろとも体を二つに分かつ。
逆に私はそのまま、路地一面に右手に宿った膨大な火を砲のようにうねり打ち出した。目の前が一瞬で業火に包まれ相手に迫り来る火の壁を生み出す。押し込むような炎を防ぐように何人も対抗呪文や剣や武器などで斬り払おうとするがそれを意も介さずに一瞬で剣は溶け、叫び声さえ出させずに暗殺者を焦がした。業火は大きな大きな音を立てて終息し、肉の焦げる臭いと白骨の遺体だけが残る。
高温で焼かれたためか白骨の遺体は至るところで変に曲がっており、泥々とした熱された金属と混ざり合う。泥々に溶けたマグマが暗がりの路地を照らした。一瞬で全てを消し去った。
「お姉ちゃん……剣も何もかもいらないじゃん」
アンジュは動きを止めてあまりの惨状に身を震わせた。あまりにも無慈悲で、あまりにも容赦のない攻撃にこれが殺しあいだと懐かしむ。魔王と言う文字が頭に浮かび上がり私は生き残りを睨み付けた。次はお前たちだと。
「ひ、ひえ……」
「に、にげ!!」
そして、一瞬で地獄絵図となった暗殺者にアンジュの目の前の助かった人達は逃げ出す。あまりの呆気ない終わりにアンジュは拍子抜けをし、私は炎を振り払い火の粉を撒き散らして終息させる。
「……暗殺者なの? 彼ら?」
「どうやら、暗殺者でもド素人ですね……相手に先手を打たせた」
「はい、お姉ちゃん。ありがとう、剣」
「ん」
私は剣を受け取りそのまま元に戻す。
「誰も居なくなったね。アンジュちゃん」
「そ、そうですね」
「帰りましょ」
少し彼女はひきつっていた。そして……
「う、うん……もう少し手加減しても……」
「手加減してますよ。追いかけず、逃げる事を許してます。私の線引きはここまでです」
「……」
アンジュは恐ろしいまでの冷徹な言葉に表情が固くなる。だけれどもその意味もまたわかり、黙って後ろをついてくるのだ。果たして、彼女に敵を慈悲なく倒せるのかと疑問を私は胸に抱きながらもそれは彼女が決める事と切り捨てたのだった。
*
早朝、大司教の私の元に一人の懺悔したいと言う勇者が教会に現れる。大司教と言う役所は本来そんな細々した一人だけ懺悔など話を聞いたりしないが今回は別であった。そう、私の耳に暗殺者として動きがあったことを騎士から聞いていたのだ。
現れた勇者の男は酷く汚れ、目に隈をつくり、泣き晴らした表情でポツポツと言葉を溢す。愚か者の姿に優しく問う。
「あなたの罪は何ですか?」
「はい……昨日の出来事です。悪魔を倒そうと皆で立ち向かい……お、おえぇ……」
「悪魔?」
「は、はい。勇者ネフィア……あれは悪魔だ。皆、一瞬で骨に……」
昨日の大きな事件をすでに起きて知っておりその当事者から話を引き出そうと質問を続ける。
「悪魔……では、どうやって骨に?」
「火です。道にいっぱいに広がる炎が仲間を飲み込み。一瞬で何もかも焼き付くしたのです。それをみた瞬間に恐怖が……何もかも怖くなり逃げて路地に潜んでやり過ごしました」
「炎……」
恐ろしいほどの魔術を一瞬で唱える魔法使い。私はそうネフィアを評価し、能力は即席の魔法詠唱と考える。しかも、一瞬で業火を生むのだ。恐ろしい使い手である。
「そうですか。では、懺悔内容は暗殺しようとしたその忌まわしい行いですね」
「そ、そうです!! 俺は死にたくない……この異世界で幸せになりたかっただけなんです!!」
そんなの皆がそうだ。幸せになりたい。だが……それはこの元々の世界の住人もだ。
「わかりました。聞き届けました。保護してあげましょう。それでは連れて行って下さい。安全な地下へ。地上は目につきます。避難するために地下へ」
「ありがとうございます!!」
私は騎士にそう命令し、騎士がこちらへやって彼を案内する。そして神に祈りを捧げた。処刑を下した私は神に願う。
「罪深き罪人には死を……死後救済をお願いします」
勇者の男やその仲間たちは皆、聖騎士に捕らえられ地下深くへと導かれた。もう二度と太陽の光を浴びる事はないだろう。そう、未来永劫冷たい地面の下である。
*
王室の執務室に王は腕を組んで座っていた。報告に上がった勇者を仕向けた者は笑いながら失敗したことを報告する。
「なかなか、驚くほど強者のようですね」
「ふむ。そうかそうか。では、奴を殺す事はできなかったわけか」
王は唸り、困ったような表情で話をする。
「ああいう勇者は困る。勇者の元締めのお主も危険と考えるだろう」
「どうでしょうかねぇ。私の方が強い。チートがありますから」
「そうか……なら。安心しようか」
王はそう言いながらも、頭を掻き。棚から薬を取り出してポンっと机に置いた。
「一応、毒殺も試みろ。それから、仲間に率いれる算段としよう。交渉は任せる。ワシをダシにするがいい」
「ええ、仲間ですしね。では、宴会を早めてください。勇者連盟と王国に栄光あれ。危険な人物は消さないといけない」
「ああ、栄光あれ。まったく……厄介な勇者が召喚されたよ」
二人の王と勇者は次の手を考えて準備をする。政略への準備を。
*
色々あって数日後、私はそろそろ帰らないといけないと思い。エルフ族長とトキヤ王配に中庭の泉の中で挨拶をする。
「いろいろとお世話になりました」
頭を下げる私にエルフ族長は満足げに手をあげてくださった。
「いや、こちらこそ。ただ、練習はしといてください。守備練習と打撃練習です」
「はい、がんばります。まだまだ至らないところがありますから」
やる気を見せる理由は私が彼のチームに入団が決まったからだった。まだまだ荒削りだが身体能力の高さでの指名である。それにトキヤ王配は笑みを溢しながら歓迎をしてくださった。
「全く、荒削りだが。ロマンがあって羨ましい。エルフ族長のチームなのが残念。応援しにくい」
「運も実力ですよ、トキヤ殿。そうそう、向こうへ行く前に……」
エルフ族長は鞄からグローブと木製のバットを持ちそのまま泉に投げ入れる。私は驚き泉からそれを引き揚げてエルフ族長に問う。
「どうしてこんな事をいきなり!?」
「おやおや? 言葉が違うようですが? トキヤ殿もそう思うでしょう?」
「そうだな。おかしいな。泉に投げ入れたんだが……エルフ族長。泉の女神が現れてるが変だな」
「あっ……」
二人の会話で思い出したかのように照れながら言葉を思い出す。慌てて泉から金と銀のバットとグローブを取り出す。もちろん……きっと……
「あなたが落としたのはこの金のグローブセット、銀のグローブセットですか?」
大人しい優しめな声で問い。二人は笑顔で頷く。
「そうです。私が落としたのは銀のグローブセットです」
「俺が落としたのは金のグローブセットだな」
「そうですか……では。嘘をつきには何もお渡しできません」
「ああ、そうですね。仕方ない、行きましょうトキヤ殿」
「ああ、行こうか。では、嫁を頼んだ。泉の女神さん」
そう言いながら背中を向ける二人に私は深く深く頭を下げる。泉に落とされたグローブとバットを胸に抱きながら。よくみると……文字で私の名前もあった。
「ありがとうございます……ありがとう……ございます……」
グローブには金の文字でウィンディーネと言う名前が刺繍されており。そして……まだ皮が硬めのグローブで新品だった。それを強く強く私は抱き締めて泉に落ちる。あまりの優しい嘘の暖かさに触れ、だただた静かに泉に沈み、逆に力が沸き上がる気持ちになる。
英魔国での泉の女神は認知された。だけど……違う方法で。
「……頑張ろう。もっと……頑張るんだ」
胸に熱い想いを秘めて。私は今度は浮上する。夢と希望と未来に胸を馳せて……仲間の元へと。




