ウィンディーネの報告
「えっと、以上が報告です!! エルフ族長、トキヤ王配様」
ウィンディーネはネフィアの近況を報告に異世界を渡る。短い期間で英魔国の必要な常識を身につけた私は二人は笑みを向けて報告紙を貰う。一人はエルフ族、エレメンタル族などを統べる王に類する者。もう一人は姉さんの旦那さんだ。
女神がペコペコしないといけないのも理解出来た。姉さんが上なら自ずと処世術はこうなるのだ。それに信仰をもたらすのに敵対するのも悪い。
そう、両方に良いことがあればいいのだ。
「……創造の力で喧嘩ですか? また……問題を」
エルフ族長は顔を暗くし、王配であるトキヤは頭を押さえる。まぁその2人の印象で何となくわかってしまう。
姉さん縛るにはそれ相当の力が居ることに……
「あまり、あの力は使うなと言っておいてくれ。ネフィアはすぐ使ってしまいそうになるだろうからな」
姉さんそんな事ないと思う。がっ……念入りと言うことだろうと私は読んだ。
「はい!!」
直立で返事をするとそれに二人は満足した表情をする。早くから郷に従えば良かったなぁーと思ったのだ。ここまで有効的なら……もっと早くから気付けば良かったと思う。
「まぁ、口頭で色々と言っていたが後は文字が書けるので報告書提出で大丈夫。それにしても……その背負っている棍棒はバットではないか?」
王配が指を差す。私は背からそれを取り出して見せつける。
「あっはい!! これですね。ネフィア姉さんが鉄を加工して作ってくれたんです。金属バットです!!」
その言葉にエルフ族長が反応した。そして同調する王配。二人は腕を組んで頷き合う。
「金属は飛びやすいですが、やはり木製の方が私は正式にオススメしたいですね」
「金属は反発が強いからな。実力がわかるのは木製からだ」
そう、和やかに会話をして楽しそう顎に手をやっていた。
「……あのぉお二人も野球を?」
「ええ、今。秘密裏で六騎士球団構想があるのですよ。衛兵など。税金と言えば言い方が悪いですが……国や我々に寄付金を集める一貫で行うのです。自由献金のため、中々大変なんですよ」
「エルフ族長や族長の軍を軍縮すればいいと思っていたんだが。異世界がある事や、大陸外の敵から。神などの防衛費を算出するためにリーグ戦などで自由献金を募るんだ」
「そうなんですね!! わぁ楽しみ」
ワクワクしながら両手をあわせてニコニコとその話を詳しく聞く。それにエルフ族長も腕を組んで自慢するように話を始め……椅子に座って報告よりも長く話し合われる。
「……実は私が6球団の一つに決まっており。皆は昔からの敵だった者をルールに乗っ取りぶっ叩けますから。怖い怖い」
「俺もだな。赤いチームカラーがあるかなと、何故か懐かしく魂を揺さぶる。きっとあるだろうな。赤いチーム」
私はそれはそれは目をキラキラさせ、赤いチームが楽しみな王配はそんな私に提案する。匂い立つ同胞の匂いに。
「せっかくなら。一回、球団見ていくかい? ここのエルフ族長の持つ。『エルフホワイトスワローズ』に……いいんじゃないか?」
王配が横目をエルフ族長に流す。するとエルフ族長は手を叩いて立ち上がる。
「いいんですか!?」
「ああ。いいだろエルフ族長。彼女は頑張っている」
王配が強く押してくれる。この人凄く優しい……女神の仇敵らしいのに。
「いいですよ。連絡取れました。もちろん、私のチームを見学しましょう。衛兵教育も後で受けないと行けませんが、入団テストもどうですか?」
「いく!! 行かせてください!! 一人で寂しかったんです!!」
一人黙々と練習は寂しく、そして……ワクワクしたものだ。9対9で出来る事を願いたい。
「なら、決まりか。では行こう」
私は喜びながらついていくがこれのせいできっともっとのめり込み。滞在が長くなってしまうとは思うのだった。
*
「姉ちゃん……窓の外で玄関に勇者が待ち伏せしてる。声を拾える?」
「拾ったけど。勇者同士で牽制してる……耳腐りそうな自慢合戦よ」
宿屋の一室で外を眺めていた私はため息を吐く。外に人が待っているのだ。もちろん勇者たちである。アンジュには騒がない事をお願いする。
「耳腐りそう? どんなこと言ってるの?」
「俺はモテるから大丈夫って……昔とは違うとか……」
(夢見で昔を見てきましたが……元々力もない方が多く。こちらに来てから能力、力を手に入れた方々らしいですね。強いですのになんで頼ろうとするのでしょうかね?)
「それは姉ちゃんを手に入れば国も盗れるからだとおもう。『虎の威を借る狐』ですね」
「ん??」
(ん??)
ヴァルキュリアと私は疑問があると言うようにアンジュを見る。狐が何故、虎から威を借りるのかと思ったが……ここで私達とこの世界が違うことを思い出す。コトワザが違うのだ。
「えっ? いや、だから。威を借りた狐がしゃしゃるのです」
「たぶん、それ。言葉が違うんですね私たちは『狐の威を借る』でしょうか? 狐は強いですのでね。虎と狐の英魔人どっちもどっちですが」
(九尾の女優さんのせいですよねぇ。逆に彼女の威を借りる者は多い。絶滅危惧種の男性夢魔のエリック族長の補佐ですし)
「ここで、異世界との違いを感じるとは……」
アンジュはことわざの違いに異世界との違いを感じながら、外に指を差す。私は外の光景を眺めた。
「あれどうします?」
「……もう。都市にいられないわね。断るのも面倒。絶対にハーレムに入らないわ」
「別に全員が全員……ハーレム作らないと思いますよ?」
私はわかってないなぁと思いつつ、優しく男の性に関する知識を説明する。
「力があると昔から無かった物を手に入れたくなるのよ。コンプレックスを満たすためにね。私たちは強欲の生き物だから。ごはんも欲ですね。もっと美味しいものをと言のと一緒です」
「……そ、そんな。ごはんも欲なの!?」
(あれを欲言わずして何が欲なんですかね? ごはん食べなくていいでしょうにアンジュちゃん)
「そ、それは……」
この女神……3大欲求を知らないと見える。場所によっては5大欲求、8大欲求とも言われるが私は3つのが親和性がある。睡眠、食、性の3つが大きいと思う。
「まぁでも。何処かでそろそろ……仲間を増やすのもいいかもしれない」
にっこりと優しい笑みで窓を見たあと。アンジュに向き直る。『どう?』と言った感じの表情で。そしてイタズラぽく問いかける。
「ねぇ、もし今、私を誘うならどうする? 向こうへ行っちゃうけど」
「そ、そんな!? 待ってください……えっと」
可愛くしどろもどろになるアンジュ。私は微笑ましく思う。
「待つ」
唐突な話にアンジュは……一回頷き、顔を真っ直ぐ瞳を覗くようにネフィアを見つめた。
「決めました。ネフィア姉ちゃん」
「はい」
「私は……女神として世界を知らず。戦いも知らず。何もかもが中途半端で芯のなかった女神です。しかし、ネフィア姉さんに出会ってわかりました。私は師事をしてくれる人が欲しかったのです。そう、私はネフィア姉さんに私が真の女神になるためのきっかけをくれる筈です。お願いします。私の先生になってください」
「うーん。どうしようかなぁ。じゃぁ……あなたが思う。世界最高の女神はなんですか?」
「……えっと……語るにはまだ。その……ネフィア姉ちゃんのような人です。そう!! 知るために連れていってください!!」
私は冗談で言ったのに何故か真面目に問いかけるアンジュちゃんにこれはと思い。冗談をやめて真面目な事を言った。
「私は手本になりません。考えるのはあなたです。では、逃げましょ……私は今は一人しか弟子はいないのでね」
「はい!! わーいお姉ちゃん!!」
アンジュが抱きつき私もそれを抱擁し頬を擦る。女神の頬は柔らかくモチッとしていた。妹みたいな子だ。
「あっアンジュちゃんのほっぺた柔らかい。でも、あっ!? ほのかな膨らみある!? まったいらじゃない!! 胸ある!?」
「姉ちゃん……一緒に風呂入ったよね」
「えっ、何、耳を摘まんでるの? あだだだだ!? 違う違うの!! 前より大きくって!!」
「胸の事はバカにしないでくださいいいい!!」
「あだだだだ!? ごめん!! ごめんね!!」
「胸の事は言わないでくださいね!! いつかきっと姉さん並みに大きくなる!! んで男を釣る!!」
「……あい」
(女神って……不変なのでは?)
「あだだだ!? ヴァルキュリア!? いっちゃだめ!! なんで私に八つ当たりするの!? 大きくなってる大きくなってるから!!」
「ぐすぅ。そんなことない!!」
頬をアンジュにつままれた私はギブアップを示すように手をぺちぺち叩く。するとトントンと扉で音がし、声が聞こえた。
「失礼します!! 王からの親書をお届けに参りました!!」
アンジュは手を離し。私が応対する。耳を擦りながら。
「はーい。居留守してもいいんですが。なんですか?」
ドアの前には立派な鎧を着た男が立っており、手紙を受け渡しに来ている兵士なのだとわかる。
「失礼します!! ネフィア様ですね。こちら、親書になります。我が王からです」
「読み終えたら燃やしましょうか」
「お願いいたします」
「では、確かに受け取りました。これが証拠です」
私はそれを受け取り、手紙を開封して手紙の封筒を渡してドアを閉める。アンジュが近寄り私が開ける手紙を覗く。内容は四天王を倒した功績を称えたいと言う旨と城でお食事会のお誘いである。期日はちょうど3週間後。ここからゆっくり馬車で戻って大丈夫な時間が設けられていた。
「表彰ですか。確かに四天王を倒しましたね」
まぁ、もう二人も倒してしまっている。族長を二人もと思うとそれはそれで大偉業だ。
「考えてみれば大偉業だよね。簡単に倒すからなぁ……お姉ちゃん……もっと苦労して」
「もっと強くなって出直してこいと四天王に言ってもいい?」
「お姉ちゃん。四天王はもう、死んでる死んでる」
(でっ結局。行くのですか?)
「そうね、アンジュちゃんはどうする?」
「私は行くべきと思います。首級を自慢するべきです」
なるほどね。
「アンジュちゃんを宣伝しようか。一応、四天王倒したし」
「おおおお。うん、うん!! これで私も立派な勇者です!! 女神ですけど」
「勇者がね……ふがいないからねぇ……」
手紙を燃やしながら新たな紙を用意する。
「ウィンディーネに置き手紙置いておきましょう。美味しい美味しいご飯を食べに行きますとね」
「はい、やっぱり美味しいのでしょうか?」
「金持ちは食に金をかけるので美味しいと思いますよ」
「じゃぁ、すぐに行きましょう」
「食べ盛りね、胸にいけばいいのにね。ちょっとヴァルキュリア!?」
口を押さえる。頭のヴァルキュリアの高笑いが響く。
「……」チャキ
「あ、アンジュちゃん。剣を下ろして。私じゃないヴァルキュリアが言ったの!!」
「……本当に?」
「ごめん、私も少し思いました。食べたのどこ行ってるのかな~って。まぁ、無理よ。たぶん」
「お姉ちゃんお覚悟!!」
「う~ん!? なんで怒るの!?」
ちょっと笑いながら私は扉を開け、飛び出し。アンジュはそれを追いかける。布でくるまれた大剣を構えて勇者の仲間の誘えないような空気を纏いながら追いかける。多くの勇者が声をかけるのを断念するほどに鬼気迫る表情のアンジュ。
「お姉ちゃん!! 逃げないで!! ぶったたく!!」
「話し合いましょう!! もう、諦めなさい。無理よ!! 正直言います!! 神でも無理なものはある!!」
「……うがあああああ!! 聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない!!」
私の背中に大剣があたり、道路一面に私の防御した翼の羽根が散った。
*
王国の首都。大司教が教会の中で剣を眺めていた時に背後に複数の騎士が並び、規則正しく跪く。
「大司教様……監視の騎士からある報告が上がりました。皆と一緒にお聞きください」
「はい。なんでしょうか?」
「……ギルドカードが偽装されているかもしれないのです。3名ほどのステータスと四天王のステータスの差が大きく。勝てる筈がないのです」
「……ステータスに偽装があるのですか?」
大司教が振り向き、騎士に問いかける。
「そうとしか思えない状況です。では実際に見た彼に聞きましょう。誰にも話していない情報です」
隣に同じように跪いていた騎士が一人立ち上がる。そして、身振り手振りを加えて話をする。
「はい、報告します。私は実は壁の上で戦いを見ておりました。彼女達を遠くから監視中の出来事です。多くの勇者が負ける中で……あの金髪の天使が大きく四天王を吹き飛ばし都市郊外へ押し出したのです。それも素手で……空を走っていました」
周りがざわつく。素手と言う言葉とその行為に想像できないと言うように。
「みなさん静かに。それでどうなりました?」
「壁の外で押し出したあと。天使として翼を広げ、そのまま殴り勝ち、衝撃により地面は揺れたのを覚えています。一瞬で現れる氷の壁。巨体を押し退ける女性と思えない力。何もかもがいままでの勇者では考えられない力でした」
「能力ではないですか? そう、授かった力。それは世界を揺るがすほどですから……その一つでは?」
「それが……魔道具に反応を示さず、使った気配がないのです。私のこの能力を読み解く魔道具に何も表示されていません。そう、自前の力なのです。そして……強さを見ました。四天王の方が数倍も強いです。ステータスが」
「……ですが、勝ったのは勇者と」
「はい。それも私には余裕に見えました。楽々勝ち取ったと思います」
大司教は目を閉じる。そして少し目を開け、一つ指令を出す。
「偽装されているかもしれない根拠はわかりました。許可します。調べることを。いきなさい……」
「「「はい」」」
複数人の返事に大司教は頷き、剣を眺める。
「宴会があります。それまでに調べてください。王が何か良からぬ事を考えております。みなさん注意してください」
「……わかりました。いくぞ」
騎士の隊長らしき人が教会を去る。大司教は一人で言葉を溢した。
「何者なのでしょうか。異世界から来た。あの天使は……剣の女神に遣わされていない天使。もしや……本当に……占い通りの魔女神?」
大司教は悩む。世界の変動する気配にどう動くかと。そして私の身分を明かそうかと。女神に対して。




