丸い生き物
「……ようこそ、我が戦場へ」
そう、呟くは夢の中の主。ヴァルキュリアだ。何故かネフィア姉さんもいて、私とウィンディーネは座って見学することになった。
「ヴァルキュリア……あなたの姿初めて見たけど私そっくりね」
そう、私も驚いていたがまるで鏡写しのようにそっくりであり、違っているのは……胸の大きさと腕の太さと足とかの太さがヴァルキュリア姉さんのが大きい。いや、胸の大きさはネフィア姉さんのが大きい。
「そっくりですね。ドッペルゲンガーとか世界には良く似た人が一人は居るっていってましたけど。本当ですね」
「……一人どころか100人ぐらい似てるの知ってますけどね。私は」
「エルフ族長の婬魔コレクションですね……」
二人は同じ人を思い浮かべ身を震わせていた。話を聞いている婬魔の力を最大限個人で悪用しているヤバい族長がいるとのこと。悪用と言うより趣味であるが。
「でっ、監視しないといけないのに、この夢の中。戦場に私を呼び出したのはなに?」
「危機感です。安心してください。氷の花が咲き誇り。割れた瞬間音がして起きますよ。氷の網です」
「……危機感……なにがあるの」
「……それは。しっかりと球を投げたら教えます」
ヴァルキュリアがグローブとボールをネフィア姉さんに投げる。
「野球しながらね。キャッチボールしましょ」
「……わかった」
中腰にヴァルキュリア姉は構え、キャッチャーミットを開ける。ここへ投げろと姉さんは言い。ネフィア姉は大きく振りかぶり投げつける。普通のブレた球が構えたミットから大きく外れ変な所へ飛んでいく。
「……あら」
「…………………はい?」
ヴァルキュリア姉さんが首を傾げる。
「今度はそこに投げるから!!」
そう言いながら捕球し、ネフィア姉さんがミットに向けて投げる。それを受け取ったヴァルキュリア姉さんの眉間に筋が入る。
「……なんたる腑抜けた投球。なんたる腑抜けた球筋!!」
「……?」
「危機感しか抱きません!!」
ヴァルキュリアがミットを地面に叩きつけ。指を差す。
「それでも上に立つ魔王か!! 全ての英魔を統べるネフィア・ネロリリスですか!! 情けない!! 情けなすぎる!! わきまえなさい!! あなたは英魔王なんですよ!!」
「えっ!? いや、その……遊びですよ? 魔王だからって得手不得手もあるよ……」
ヴァルキュリア姉の激情にネフィア姉はしどろもどろになる。遊びと言われカチーンと来たのかヴァルキュリアがミットを拾いネフィアに投げる。『私の球を取れ』と強く言い放つのだ。
「わ、わかった。こうかな? こう構えて取ればいい筈」
「行きますよ!! ネフィアさんと球質は違いますが!! これがあなたに求められる投手力です!!」
ヴァルキュリア姉は背中を向け、そしてそのまま大きく旋回し、右手をオーバーに全力で投げつけた。放たれたボールは真っ直ぐ勢いが落ちないまま。逆に加速するような錯覚とともにネフィア姉のミットに大きな音を立てて入り込み。ネフィア姉はそのまま『痛い!?』といい。掴めずにポロっと球を落としてしまう。その瞬間に痛みで立ち上がりグローブを脱ぎ手を振りながら回復魔法を唱えた。
「いたいいいいい!? はっや!? グローブに突き抜ける!!」
「えっ? 何あれヴァルキュリア姉ちゃんの球」
隣でウィンディーネが驚くが私も同意件である。あんなのに当たったら痛い。
「ほえぇ。ああいう事も出来るんですね。なんか楽しそう」
「えっ、ウィンディーネ!?」
おとなりさん!? 楽しそう!?
「ネフィアさん。これはネフィアさんの球です!!」
「いや!? どゆこと!?」
私もおんなじ意見です。ネフィア姉さん。
「この投げ方、力。全部習得してもらいます。英魔族のためです。私は知っているのです!! 英魔に野球文化が広まる事を!! ガス抜けとして必要不可欠なんです!!」
「嘘でしょ!? 野球文化いる!? いや無理だって!?」
「………ネフィアさん。問答無用です!!」
「ああ……ネフィア姉ちゃんもヴァルキュリア姉ちゃんの熱血訓練に……血反吐吐くね」
「ヴァルキュリア姉さん!! 私も私も教えて下さい!!」
「ええ、もちろん。3人まとめて鍛えあげるわ!!」
どばっちりである。これ以上訓練増えるのご勘弁願いたい。なお、ヴァルキュリア姉さんは私の考えを読み取ったのか睨んできた。ふぇええ……
「……アンジュちゃん。夜中で苦しそうに唸ってた理由わかったわ。こういうことなのね。こういう事だったのね……」
「……うん。ネフィア姉ちゃんと一緒なら頑張れそう。頑張ろうね。血反吐を一緒に吐こうね」
「うん。頑張ろう」
なお、この後に私は絶望する。そつなく簡単にこなしていくネフィア姉には一緒に頑張ろうと言ったのにすぐ追い抜かれ。惨めな思いをしたのだった。
異世界の魔王……ヤバいです。
*
テントの周りでこそこそと声が囁かれる。
「………眠っている」
「雪の花がある」
「危ない」
「……しかし、今の寝ているうちに倒せば」
「そんな騙し討ち。いいのだろうか?」
「弱肉強食」
「意見がまとまらない。だが、我々は……包囲出来た」
「なら、戦うまで」
黒い物体が覚悟を決めて氷の花を踏んづける。氷の割れる大きな音を大地に響かせたのだった。
*
ピキーーーーン!!
「ん!?」
「あうぅ助かった!! 訓練終わった!!」
「あうぅ!? 私、私の番は? 打席が残ってる!!」
氷の花が割れた音に3人が起き上がり。一人は四周を警戒し、一人は訓練が終わったことに安堵し、一人は遊びが物足りなさそうに指を咥えた。私はと言うともちろん安堵した一人である。
「……寝よ」
「ウィンちゃん!! 起きなさい!! 敵よ!! 打席なんかいいから!!」
「!?」
ネフィア姉が叫び、炎の魔法を撃ち込むとその灯りに黒い物体が蠢いているのがわかった。その姿は深いお皿を逆さまにし、多くの足を持ち。継ぎ目を持つ生き物であり。皆はその虫に心当たりがあるほど一般的な昆虫だった。岩などに隠れている生き物。草葉の土壌などをなめるように食べてる生き物だ。
私たちは口を揃えて。その生き物の名前を呼んだ。
「(「「ダンゴムシ!?」」)」
そう、大きな丸まったダンゴムシの集団が声に反応して転がり出し、大音をたてながら地面を爆走して私たちのテントを押し潰したのだった。




