新たな仲間は水の女神
冒険者ギルドで監視役として新たな仲間の冒険者として泉の女神ウィンディーネを登録し、ギルドカードを捏造した私たちはそこで何故かアンジュちゃんが『面接をする』と言い出した。泉での一件は塩漬けし、クエスト破棄の話をしてそろそろ次の都市へ行きたいと言い出したのだが……
「面接するべきです。姉さん」
「面接……しようかぁ……一応」
パーティーを組むと言うのだから何が出来るかを知らなければならない。知ることはいいことである。私は頷く。
「とっ、姉さんが言うことでね。ウィンディーネ。おうおう。仲間になるための面接だよぉ!!」
なんか、アンジュちゃん張り切ってる。小さな体をぴょんぴょんと揺らして満面の笑みだ。
「よろしくお願いいたします」
それに礼儀正しいウィンディーネ。なるほど、普通。私は彼女に質問を投げる。もちろん近くの椅子に座ってだ。
「……では。えっとウィンディーネ。あなたは何が出来るの?」
「見ていてください!! ここに銅貨があります」
銅貨とコップを用意するウィンディーネ。
「これをコップに2枚入れると」
「「……」」
チャ、ポン
「なんと!! このようにですね!!」
そのまま銅貨を入れたコップをひっくり返すと水は落ちずに金貨と銀貨がコップから落ちてくる。素晴らしい錬金術師だ。
「どうですか!!」
(通貨偽造の罪)
「わぁ!! ウィンディーネ悪いんだぁ~!!」
「国家転覆が出来ると……メモメモ……危険ね」
「えっ!?」
ウィンディーネが驚いた表情で、焦りだす。
「ウィンディーネは悪い女神と。うわぁ楽しい!!」
「えっ!? えっ!?」
「では、次に……ウィンちゃん、他に特技は?」
「お、お水を操れます!! ウィンちゃん?」
「名前長いのでウィンちゃんと呼称しますね。魔法使いですね。メモメモ」
(水を扱う方はそういえば初めてですね~)
「そうですね。私も初めてかもしれません。いたけど忘れてるだけかも。アンジュちゃんはなにかある?」
ドンッ!!
「よし、後輩として先輩を敬え」
椅子にアンジュちゃんが足を上げる。いや、お下品。
(お下品ですよ。女性がそんな事をしちゃいけません!!)
「ごめんなさい。しかし、ウィンディーネ。私が上です。問題ないですね?」
「あっはい……」
「アンジュちゃん……先輩も後輩もないとおもう」
「いいえ、ハッキリと立場をわからせないといけないのです!!」
(アンジュちゃん。私からも言いますね。たぶんウィンディーネさんのがしっかりとしているかもしれません)
「大丈夫です。私は」
「よし、ならネフィア姉さんの事は姉と敬いなさい。怒ったら怖いからね。怒らせないように」
「それはもう知ってます……」
「よし、なら……靴なめ」
「アンジュちゃんちょっと裏行こうか?」
少し目につく。私は彼女の首を掴み引きずった。
「はい!? ネフィア姉さん!?」
アンジュちゃんを私は酒場の裏でしめる。
*
「……ひっぐ、ごめんなさい。先輩面して変なことしてごめんなさい」
「わかればよろしい」
すごく選らそうだったのを注意し、泣き出したアンジュをそのまま放置する。甘やかしはダメだと思った。
「ははは……えっと。面接は以上ですか?」
「ええ、ウィンちゃんよろしく。まぁ私が帰るか魔王倒すかするまで一緒に冒険しましょ。そこで色々と知り、一緒に祖国で泉の女神のあり方も模索。あなたの人柄次第ですが頑張ってください。これは私があなたを試す理由も付随します」
(ごますりを行ってくださいみたいで……ごますりしかならないような気がします……)
「はい。ごますりです。ごますり……」
(とにかくに気に入られようと取り入ることです。ウィンディーネちゃんわかってないね……)
「まぁ、露骨なのは避けてね。減点します」
なお、アンジュちゃんにも睨みをきかす。アンジュちゃんはそのまま泣き止み首を傾げたあと。私の瞳を見つめ返して笑い、私がそのまま目線を反らした。釘を刺す行為なのに予想外な反応に可愛いと思ったのだ。そして、悲しい。昔はこんなに私も純情だったような気がする。アンジュちゃんに失った若さを感じた。
(……私もそこそこダメージ入りました)
「若い筈なの……若い筈なの……私は」
「姉さん?」
「いえ、なんでもない。ではでは……旅の支度してもう飛んで行きましょう。こそこそ隠れるのはもう無理そうだから」
「はい」
「……私は飛べないです。ネフィアさん」
「体は小さくなれるんでしょ?」
一応、ウィンちゃんは体を小さくする事が出来るらしい。なので……
「瓶詰めで運びましょう」
「え、ええ!? 窮屈です」
「ネフィア姉さん置いていきましょう」
「そうね」
「行きます!! 行きますとも!! やります!!」
「じゃぁ……これにお願い」
前もって用意していた瓶を机に置く。小さな薬瓶程度であり小瓶にコルクの蓋に紐を通す穴の空いた金具がついている。密書を入れたりと色々と女性冒険者の道具兼お洒落グッズである。中には愛しい人の恋文を入れる強者も。英魔国では男の人も使用し恋人の監視で瓶に入る妖精も精霊も悪霊が多い。そんな小さな瓶に入れと言う。
「……ち、ちいさすぎでは!? ネフィアさん!?」
「だって異世界に渡るための穴ってこんぐらいって教えてくれたじゃん」
「いや、あれは水圧で押し込めるから……」
「……」「……」(……)
「ああ、やりますよ!! やってやりますよ!! 信仰のために!!」
ウィンディーネはやる気を見せた。
*
液体を圧縮するとそのもののに熱が押し出される事は私は知っていた。なので、瓶が熱々になるがなんとかウィンディーネは瓶に詰まりコルクで封をする。
「……案外、いけますね。私もびっくりです」
瓶から声がする。このガラス瓶。すごい頑丈だった。
「じゃぁ、アンジュちゃん。首につけてね」
「はーい」
ネックレスをアンジュちゃんに渡し、それを首にかけて貰う。
「では、行きましょうか。そのまま海の都市へ行きますよ」
「海ですかぁ。何食べます? ネフィア姉さん」
「何、食べよっか。まぁ、ついてから考えましょ。ウィンちゃんも何か食べられる?」
「一応、何でも。好き嫌いないです」
「好き嫌いないですはまだ嫌いな食べ物に出会ってないだけよ」
(……調味料ありと思います?)
「あるでしょう。ヴァルキュリアは何が好き?」
(私はですねぇ……)
そのまま談笑しながら部屋を出る。多くの冒険者に見られながら。私たちは都市郊外から空を飛び、海を目指して旅を続けるのだった。




