2つの聖剣
よくある、よく聞く名前がある。それは四属性の英魔族エレメンタル達の名前で、属性を示す名前となっているし女の子が生まれたその名前をつける人もいる。その水を示すウィンディーネの名前を私は便宜的に泉の女神につけた。何故なら悪霊ではなくなったので呼び方に悩むからだ。しかし、まぁ、もう会うこともないだろうと思っていた。反省してそれで終わりだと。そう思っての数日後……
「おはようございます」
ウィンディーネが目の前に大荷物を持って宿屋に現れた。鞄に色んな物を詰め込んでいる姿で。私は彼女を部屋に入れるとアンジュちゃんも驚いてベットから降りてくる。
「アンジュちゃん、中が見えてます」
「ごめんなさい、お姉さん。テヘ」
スカートははだけるので注意はしておくと元気な返事が帰ってくる。最近、彼女に女性としての座学を私が教え。戦闘に関してはヴァルキュリアが教えてここ数日はのんびり宿泊していたのだ。たまに来るクエストは断りながら。
「えっと、ウィンディーネさん……おはよう。もう会わないかと思いました」
本当にもう会わないと思った。
「そうですね。色々とすごく……こう。大変になったのですがお陰様で地位向上し、この度にしっかりと泉の女神として英魔族に認めていただけました。それでですね。これ親書です」
私はそれを怪訝な目で見る。ウィンディーネのお礼の手紙だろう。いらん。すぐに帰る。
「そんなことよりも私をすぐに帰せるでしょ。あなたの力で……」
「それ、向こうでも聞かれましたが……残念ながら、生きている物や魂が宿っている物などは移動したら水圧でつぶれてしまいます。水圧でつぶれても大丈夫な物、私が手で抱えられる物しか移動できないです。あっ!! でも!! 私を広めてくれるかわりに移動方法をなんとなく教えたので迎えに来てくれるかもしれませんよ!!」
「そっか、まだ帰れないのね。でも、手段が出来そうなのだから安心した。それは……いいけど……親書の宛先は誰だろう」
私は裏を見て慌てて開封する。名前と字に覚えがあった。匂いも嗅ぐと仄かにその人の魔力も感じる。間違いない!!
「ネフィア姉さん怖いよぉ。どうしたの? 誰から?」
アンジュが私の変な行動に怖がるが気にしない。そんなの今は大切でない。
「向こうの旦那からです!!」
「ふ~ん……ふ!? 本当に!? お姉さんの旦那さん!?」
「そうです。この字に魔力の匂いがそうだと感じさせます。わかるのです」
「いや、何も感じないけど!?」
感じないのは仕方ない。私にしかわからない物なのだ。
「旦那の匂いは4km離れても感じます。たぶん」
「動物以上に鼻が良くて笑うよ、姉さん」
アンジュちゃんが驚くなかで手紙を読む。内容は英魔国内で私が異世界に飛んでいることを公表し魔法使いを募った事。英魔国内は普通に内乱ならず平和であること。そのままウィンディーネに監視役として王配直々任命している事。武器を送った事など事務的な言葉で書かれていた。
そして最後に……注意として書かれていたのは……
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①世界や人に迷惑をかけないこと
②女神を倒そうとしないこと
③魔王とか勇者とか関係なく生き残ること
④イチゴジャム食べ過ぎるな
⑤無茶苦茶な事をして大火災を起こすな
⑥……
⑦………
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めちゃくちゃ注意書きが伸びており。私はビリビリの破いて灰にする。
「お姉さん……トラブルメーカーなの?」
アンジュちゃんが横から手紙を読んでおり感想を述べた。もちろん首を振る。
「違う!! 普通に生きてるだけ!!」
「いや……普通に生きててトラブルならそうだと思う……」
(アンジュちゃんの言うとおりですよ。普通とは如何なものでしょうね)
くっ……仕方ないじゃないか。そういう人生なのだから今まで。
「ネフィアさん。あの……灰が動いてます」
ビリビリに破き燃やした灰が風に舞うように浮き上がる。そして……男性の声が響いた。それも旦那の声だ。
「全く……予想通りだな。全部読んでないだろ。燃やすだろうなぁ思って声を入れ込んだ。ダメだぞ……おまえ。女王だろ」
「姉さんばれてーら。クスクス。流石旦那様ですね」
(クスクス)
「……」
私は驚き、そして……照れながらもその声を聞く。ああ、好きだなぁ。やっぱり大好きだなぁ……
「まぁ、手紙なぞどうでもいい。皆が心配してたぞ。そして、元気で安心した。まぁ俺も安心した」
「ひゃああああああああああ。あああああ!! トキヤさんが、照れながら本心言ってる!? すごい!! 最近全然愛してるとか言ってくれないのに!? いいじゃん異世界!! 最高ですね!!」
「えっ!? お姉さん翼が!? あつい!? あつい!! ああウィンディーネ!?」
「きゃああああ!? 燃える燃える!? なんで!? 私燃える!?」
ダメだ。感情で暴走しそうになってしまった。
「まぁ、待ってろネフィア。迎えに行くからな。状況的に異世界、救ってなんとかするだろう。じゃぁな」
灰が消え、声も魔力も感じなくなる。私は満面の笑みで拳を振り上げる。ちょっと熱くなった。
「よし!! 世界を魔王から救ってやろう!! アンジュちゃん。頑張るよ!!」
「お姉さん!! 少し離れてもらっていいですか!! めっちゃめっちゃ嬉しいのはわかります!! でもめっちゃ熱い!!」
「うん!! 嬉しいよ!!」
「……翼出てウィンディーネさんが燃えてます!!」
燃える!?
「ウィンディーネさん!?」
私は慌てて翼を納め。火だるまの彼女をそのまま火を押さえて救う。
(①番、1発アウトですね……感情を糧にする力は危ないですね)
「ごめんなさい……ウィンディーネ大丈夫?」
服は焦げていないがげっそりした顔をするウィンディーネ。
「火で焼け死ぬかと思いました……けほけほ」
「ネフィア姉さんって実は……ポン……」
「アンジュちゃん。それ以上は言ったら、つねるよ」
「横暴だぁ!?」
ガヤガヤと騒ぎ、ウィンディーネが回復したのか……鞄を漁りだした。流石、変な感じだったが水の聖霊と感心する。そして彼女は鞄から二本の剣を持ち出した。
「あっそれは……」
「ネフィア姉さん。それは……姉さんの剣?」
(聖剣と聖剣となった剣ですね)
そう私の武器である。
「えっ!? すごいすごい!! 姉さん見せてもらってもいいですか?」
「いいですよ。ウィンディーネちゃん渡してあげて」
私は一本は緑色の柄と袋に剣先を保護して入っている聖剣とブロードソードの鞘に入っている剣をウィンディーネからアンジュちゃんに手渡すようお願いする。
「はぁ……これが姉さんの剣……魔王なので魔剣ですね」
「……魔剣なのかなぁ。どうなのなんですかね」
(聖剣ですね。詳しく説明ほしい? アンジュちゃん)
「はい!!」
「じゃぁ、私はウィンディーネの持ってきたの見るね」
そう言い私はウィンディーネに近付き、鞄を見せてもらうのだった。あまり、大層な物は入ってないが色々と物を用意してくれたと信じている。何故なら私の旦那は世界最強の冒険者だから変なのは入っていないと思うのだった。
*
姉さまの武器と言うことで気になり、お借りして机に置く。一本は緑の剣で鞘がない。もう一本は普通の剣である。普通の剣を持ち眺めるが特別な感じはしない。
「うーん。普通の剣です」
(普通の剣です)
「えっ?」
(名無しの剣です。ただただ、量打ちを火石と言う魔石での打ち直ししただけの剣です)
「そうなんですね」
私は剣を少し引き抜くとほんの少し火の粉が零れた。だがそれよりも……
ズンッ!!
抜いた手にとてつもない重さを感じ、目の前で私は……魔物を切り伏せるネフィア姉さんや、暗闇の中で女性を切り払う姿。オーク族らしき大男の腕を落とす姿。そして……万の兵を前に剣を抜く姿。そして、私と同じような存在の女神の鎌と打ち合ったのも剣を通じて伝わる。回想が頭に過ったのだ。
(アンジュちゃん?)
カシャン!!
ヴァルキュリア姉さんの声を聞き慌てて剣を鞘に納めて机に置く。重たい。重たい。そして、折れない剣だ。抜くのを憚れるほどに私にはまだ抜けないと感じた。
(どうしました?)
「今さっき……剣の辿った記憶を見ました」
一瞬の出来事だったが濃厚な記憶を私は剣から知った。剣は確かに何処にでもある剣だった。しかし、戦った歴史はそんな何処にでもある物じゃない。長い旅をしている。
(この剣はね)
説明する前に私は感じた。見た事を言葉にする。
「この剣は最初は何処にでもある剣でしたがネフィア姉さんが選び、そして……最後も今もずっと一緒に戦って来た剣なんですね。聖剣じゃない。でも、この剣を持っていた人が英雄だった。だから聖剣と言われてる名のない剣」
(すごい!? アンジュちゃんその通りです)
私は何故かスッと落ち着き冷静に剣の歴史を思い出す。何も疑うことなく全て剣を通して見えた。私はもう一本の緑の聖剣を掴み袋から出す。鞘がない剣であり、綺麗な緑色の刀身は仄かに緑色に輝いていた。きっとこれも同じだろう。
「見えるんです。たぶんこれも……なんでか剣の歴史が見える……」
優しく刀身に触れ目を閉じ少しして開ける。すると……一瞬で世界が変わり。森が目の前に続き、清らかな空気とともに水の音などが背後から聞こえた。そして背後に大きな存在を感じて振り向いた。そこには大樹が空を突き抜けるように湖の上にそびえ立ち、大きな根っこに……剣が刺さっていた。
その後、首を振ると宿屋の見慣れた机の前に私は立っている。幻覚だったが……非常に鮮明に見えた。
「これは本物の聖剣ですね。木に刺さった剣」
(そうですね。アンジュちゃん。そんな見ること出来るなんて……剣に深い女神かもしれませんね)
「ん……」
机に剣を置き。二つの異なる聖剣を見続ける。本質を受け止めて私は頷いた。
「そう、聖剣を抜いた者が英雄となる聖剣と。英雄が戦い続け、後にそれは聖剣と言われた物です。元から聖剣なのは抜けば活躍は約束され勇者になれるでしょうが……この何も変哲のない剣はネフィア姉さんが聖剣に押し上げたから……私の手にはすごく重く感じました」
(旦那からいただいた物と亡き世界樹の友達からいただいた物に差があるわけですよね)
「……」
ヴァルキュリアお姉さんのせいで、旦那さんの方が上と言いそうなネフィア姉さんが見える。そんな理由なのかもしれないと思い本物の聖剣を憐れんだ。お前も立派な剣だよ。
「それでも、私は……こんな剣を持ったことがないですね」
(そうでしょうね。今は大剣を探しに行くのが大事ですね)
「私もこんな感じに皆から聖剣と言われるよう頑張りたいです」
(なら、ネフィアさんの背中を追いかければ大丈夫です。あと……もっと厳しくしてもいいかしら?)
「はい」
(あら? 元気な返事)
「……私は甘かったのかもしれない。この剣を見て思いました。この剣のような、女神なりたい」
(応援してます。この世界の女神さん)
拳を握りやる気を震わせ、尊敬の眼差しでネフィア姉さんの方を見る。お姉さんはちょうどウィンディーネさんに新たな手紙を手渡していた。
「はい、ウィンディーネさん。これが旦那への恋文です。お願いします」
「はい、しっかりと受け取りました。お渡しします」
「……」
おかしいな。今のネフィア姉さんに何も感じないぞ。
(はは……アンジュちゃんも恋したらわかるようになるよ)
「……恋したら強くなれますか?」
(最強かな?)
恋も探す決意を決める。私は……姉さんみたいになりたい。
*
遠い何処かの森でぐっと黒い巨体が持ち上がる。
「……すまない。ワシは戦わないといけない理由が出来た。お前を待つことは出来そうにない。修行中のお前を……世界は危機に瀕してしまう」
黒い大きな体の四天王はそう呟き、海を越える事を決めるのだった。四天王、土鋼竜は歩き出す。女神たちに向けて。己の使命と忠告のために。




