英魔の族長たち~剣の女神の特訓
私は今の英魔国の状況を反芻していた。大きく分けて9つと2つの地域に分けられて統治されており。2つは例外としてヘルカイトと言う竜人の治める地と揉めに揉める土地は女王が直接治める地として捧げられた。それ以外で族長が治める国が9つあるのだ。
その9つを治める者を昔ながらの族を治める者の称号。族長と呼び、よく喧嘩、戦争もしていた。膨大な領地を治める王と言える者達であり、ネフィア女王が魔王に座るまで領土争いは絶えず行われてきたのだ。だがそれも下克上となり、やっと落ち着いたと言える。
そして、その者達が今日の会議室に集まり座るのだ。
海を制する種族を束ねるスキャラ族長。オーク族単一を治めるオーク族長。悪魔族などを治めるエリック族長。吸血鬼、狼男などを束ねるセレファ族長。獣族等を治めるリザード族長。昆虫亜人族などを治めるアラクネ族長。トロール族など大きな種族を束ねるトロール族長。
以下、ダークエルフ族長とエルフ族長以外が睨み合いアイコンタクトで会話をし……静かに会議室で待っていたのだった。7人である。入った瞬間にドア側にオーク族長と蜥蜴男のリザード族長が待機している状態で。今か今かと待っていた。私が足を踏み入れた瞬間……
ガチャン!!
扉を勢いよく閉めた。
「遅くなりました……ん?」
ガチャ、がしゃっ!!
オーク族長とリザード族長が扉に鍵をかけて退路を断つ。違和感が背中を走る。
シュパ!!
「んんんん!?」
下半身蜘蛛で上半身は人型の蜘蛛姫たるアラクネ族長が糸をだし。私を拘束する。それに先立って皆が囲むように立ち睨み出した。
「何ですか!?」
「私が話そうエルフ族長」
代表として退路を断っていた。この中で下克上もなく族長の地位に居続ける者。年長者のリザード族長が話し始める。激情家の彼らしからぬ、落ち着いた表情だった。
「リザード族長!! 何故こんなことを!! 女王陛下のいない、この時に!!」
「そうだ。いない、この時だからこそだ。エルフ族長、お前が国を乗っ取るつもりだろう」
皆が頷き各々が私が怪しいと言う。集めた理由が魔王は我であると言う宣言なのではと思われているのだろう。なお、私が彼らを集めた理由は誰かが決起するのではと言う牽制だったのだが……どういう事だ? いや!! 弁明を!!
「いや、私はただ!! 女王陛下がいないのでこれは一大事ですから……そう!! 内乱の好機で危ないと思いまして!!」
「それを考えるお前が怪しい、ダークエルフ族長が来るまでお前を信じれん。皆が集まっての決定だ」
「いや、信用してくれ!! というかお前らこそ反乱しないのか!?」
「失敬な」「しないよ」「するわけない」「バカだろ」「……姉さんには恩がありますし」「しませんね」
各々が否定しながら顔を見合う。その中で扉が開かれ、ダークエルフ族長が現れた。我が弟が入った瞬間に空気が柔らかくなる。本当に信じてるなぁ……皆さん弟を。
「……なんの騒ぎですか? 義兄が縛られてますね。また何かしましたか? 罰金の証明は私が書きましょう。現行犯です。しっかりと寄付お願いしますね」
「わかった。リザード族長の名で謝ろう。皆、着席だ!! 着席!! ダークエルフ族長がいつも通りだ。安心したな。ガハハハ。すまんかったエルフ族長」
「………フフはははは!! 私も怖かったですよ」
シュルシュルシュル
私は解放され何事もなかったように全員が座り紅茶を飲む。私はそれを見て頭を押さえて首を振った。
「私の杞憂でした……にしてもねぇ~私を危険視しすぎですよ」
文句を言う。リザード族長が笑いながら代表で意見を言い私は呆れる。
「なーにお前以外は今さっきの話し合いで信用してるからな。それで……問題は女王陛下が拐われたと聞いている。皆は静かに話を聞く準備は出来ている。教えてほしい……今の状況をな」
「……それはですね」
スッ
ダークエルフ族長が言葉を遮るように前に出た。私は静かに黙って弟に譲る。何かがあったのだ。わざわざ、前に出るのだから。
「エルフ族長の義兄よ。私から皆さんに話があります。ダークエルフ族長宛に女王陛下から手紙が来ました。今、女王陛下は異世界にいます。そして……異世界からお便りをこの方からいただきました。女神ウィンディーネです」
「こ、こんにちは。えっと……ウィンディーネ?」
青い髪の少女は恐る恐る顔をだし、ダークエルフ族長は頷く。
「彼女から詳しい話を聞きました。そして、彼女は異世界に行き交う事が出来ます。生存を確認しているので安心してください」
私や一同は胸を撫で下ろし、談笑をする。『簡単に死なないだろ』と言う言葉に賛同しかなかった。
「それよりもなぁ、私は縛られた理由……」
「日頃の行いです……義兄。どれだけ婬魔をたらしこみました?」
「くっ」
否定できない。心当たりしかない。先日の廊下での事もすべて。
「では、私が愚かな義兄から引き継ぎ説明します」
英魔国内の危機は全く危機とならず。そのまま会議が始まるのだった。
*
泉の悪霊に報告を済ませた私たちはご飯を食べた後に宿に帰り、そのまま眠りについた。そして……私にとって悪夢が始まった。
「……ようこそ我がブートキャンプへ。アンジュちゃん。ヴァルキュリア教官です」
「……はい、ヴァルキュリアお姉さん。起きてたのに……」
「問答無用で夢に落とします。逃亡は許しません。では、今から私が指導します」
「……お手柔らかの」
「もちろんです。なお、今からあなたは……『はい』か『いいえ』としか喋ってはダメです。わかりました?」
「えっ?」
ボゴッ!?
「げほ!?」
私はお腹に衝撃を受けて体が崩れる。痛みが全身に伝い驚き、片目を瞑りながらヴァルキュリア姉さんを見ると目も眼孔も開ききっていた。
「起きなさい。女神ならそんな情けない姿を人に見せるの? 皆が苦しい時ほど立ち上がれる気概をもちなさい」
ヴァルキュリアお姉さん。めちゃくちゃ厳しい!!
「……」
「返事は!!」
「はい!!」
怖いよぉ!!
「まぁ、あなたには今から訓練のがしんどかったと感じさせるほど苛めます。不屈の精神を鍛えますから」
「も、もう少し優しく」
バシンッ!!
「返事は『はい』と『いいえ』のみ!!」
「はい!!」
「よろしい……では。私の戦った事がある。または……私の知る人と戦ってもらいます」
「はい!!」
元気よく返事をした瞬間、ズシャっと背後で音がする。背後を見ると恐ろしい姿をしたドラゴンが睨んでいた。
「では、初め!!」
「えっ!? えっ!?」
ガブッ!! ブンブン!!
私は噛みつかれそのまま振り回され地面に叩きつけられる。
「かはっ!!」
「ふむ。武器がないといけないですね。この中から好きに選んでください」
ヴァルキュリア姉さんが手を振り下ろす。すると幾多の武器が降り注ぎ、地面に刺さった。
「まずはこの中から一番しっくり来るものを探しなさい」
「えっ!? でも戦いながらなん……ぐふ」
腹に尻尾が食い込み吹き飛ばされる。痛みが鈍く残り、涙が出る。
「くぅ……弟子になるなんて言わなきゃよかった!!」
「もう、遅いです。スパルタで行きます。死にませんからね」
「わぁあああああん!!」
迫り来るドラゴンに私は怯えながらも近くに落ちていた武器を拾うのだった。
*
何回吹き飛ばされただろか。何回噛み砕かれただろうか……何回、爪で切り裂かれただろうか。ブレスに焼かれ最初は悲鳴ばかりで痛みを耐えて色んな武器を手にし竜に立ち向かった。
だが、出来ているのは転がっているだけ。惨めな女神。なのに何度も何度も地面を舐めても立ち上がれた。いつしか悲鳴もあげずにただだた蹂躙されるがそれでも。
「くふ」
しかし、強い竜だった。本当に強い鋼の竜だった。生半可な武器で戦っても鱗で弾かれていたし、私の知る世界の誰よりも遥かに強い竜だった。手加減されているのがわかるほどに。
「……」
意識が朦朧とするなかで、ふらつく足を叩き、立ち上がる。勝てない……だけどやっぱり痛いのは嫌だった。しかし、今……目の前の爪を避けれるほど。動けない。
女神ってなんだろ……
ガシッ!! ギャン!!
ボーっとした意識の中ですがるように右手で何かを掴みそれをそのまま目の前に構えた。大きな鉄板のような物で私はゆっくりと目が覚めるように意識がハッキリする。
何かを掴んでいた。何かで防御していたのだ。意識のない状態で。
ギャアアアン!!
鉄板に爪が叩きつけられる。私ごと押し潰そうとしているのだ。地面が窪み沈む中で私は……
「ん!? んんんん!! んがぁあああ!!」
力一杯押し退ける。
ブォオオン!!
「ふぅ、ふぅ」
竜は爪を押し退けられ、何故か距離を取る。そして……ゆっくりと消えていった。その姿を見ながらヴァルキュリア姉さんが現れて笑みを向けてくれる。
「それが一番しっくりくるのですね。決まりです」
「……えっと。これは……」
ずっしりした重さの武器だった。そして、無骨であり装飾もない。ただの鉄の塊である。剣としてはただただ大きいだけである。
「見ての通り、大剣です。切れば重量で押し潰し。構えを変えれば盾にもなる。多くの者が両手、片手で持ち、自身の身長よりも大きい魔物を狩るためにそれを持ちました」
「大剣……」
私は女神らしからぬ武器に戸惑いを見せながらも剣を一回転させて地面に差し込む。そしてあえて他の武器を拾う。拾ったはいいが全く馴染めそうになく。また別の剣を持っても何故かしっくり来なかったのだ。
地面に刺さった剣。大剣がどうも私は気になってしまう。それ以外は……合わないと。
「人によるのですけど。案外、しっくり来るものがあるものです」
「……はい」
大剣が私にはいいのだろう。何故かわからない。でも……今は何故か信頼をその武器に託したかった。竜の一撃を止めてくれた武器に。
「そろそろ朝です。朝までに見つけれましたね。では、おはようございます」
目の前がスッと暗くなり。宿屋の天井が目に写る。そして、何処か右手にあの大剣がない寂しさを覚えながら起き上がるのだった。




