トキヤと言う剣・ネフィアと言う柄..
「助けて」と言われて慌てて俺は起きた。
「ネフィア!!」
体を起こし、廻りを見て情報を目で捉える。即効魔法を脳内で練り上げ、剣を探す。しかし、部屋は穏やかな空気が流れていた。「どういうことだ?」と混乱する。
「ここは!?」
もう一度落ち着いて廻りを見渡した。わかったことは部屋で自分は寝ていたのだ。あれから時間がたっているだろう。外から日差しがあるということは朝。そしてすぐに彼女を見つける。
「…………ネフィア?」
穏やかな寝息を立てて嬉しそうに満面の笑みで夢を見ている彼女を見つめた。
「天国?」
ずっと見ていられそうな綺麗な寝顔で完全に落ち着きを取り戻す。取り戻すと腹部が傷み出した。見ると包帯が巻かれ、傷口が塞がっている。生きている自分に驚く。
「ん………んん。ん!?」
ネフィアが目を擦って起きた。起きた瞬間に驚いた顔の後、彼女が笑みを浮かべて抱きついてきた。ああ、そうか。看病してくれたんだ。この時になってやっと理解する。彼女に生かされたんだと。
「トキヤ、おはよう!!」
「ああ、おはよう。ありがとう、助かったらしいな」
「うん!! うん!!」
すっごい可愛い。
「ごめん、もう。離れてもいい………」
「うぐぅ………ぐすん………うううう」
中々、離れそうにない雰囲気だった。
*
時間が少したち。様子を見に来た誰かと目が合い声を出してしまう。
「爆竜ボルケーノ!? なんでお前がここに!?」
俺は覚えている。いや、俺の魂の記憶が彼女を知っていた。
「お前は誰だ!? 我の名前を呼ぶ者は少ない!! 会ったことがないのに!?」
「あっ………うん。申し訳ない。初対面だが記憶はあってな。鋼竜ウルツウァイトはご存じか?」
「ああ、あの都市を壊すことが好きな奴な。冒険者に喧嘩売って遊んでた阿呆な」
心臓にチクッとする。俺ではないが俺である。
「トキヤさん。けっこう悪食なの? 選んで魂は食べないと。ダメよ」
「何故、ネフィアが魂喰いの禁術を知ってるんだ!? いや、それよりもまだ全然いいやつだぞ……いや……俺だからな」
一応説明し、今の状況をネフィアから聞き出した。デラスティも帰ってきたので挨拶を済ませる。
「ああ、感謝します。エルダードラゴンのボルケーノさま」
「ボルケーノでいいよ。気にしないでくれ」
「トキヤさん。ボルケーノさんはお婆ちゃんでも乙女だから扱いは女の子扱いをお願いしますね」
「そこの娘!! 黙っとれ!!」
「娘じゃないです!! ネフィア・ネロリリスと言う立派な本名があります!!」
起きた瞬間からネフィアの豹変に驚く俺。昔を知っている自分が目を疑う光景だった。
「ネフィア? どうした?」
「気付いたんです。もう私は一つ以外の事、以外。全く怖くはありません!! 幽霊は別です」
何があったのだろう。しかし、まぁ大丈夫なのだこれが彼女なのだから。そんなことより彼女に渡さないといけない。
「ネフィア。まだ魔国の道のりは険しい。鞄を取ってくれ」
自分の鞄からある薬を取り出し、ネフィアに渡す。彼女は目を輝かせていたのだが出したものを見て大いに露骨に落胆する。
「不味かったか?」
「ゆび………期待したのに………あっうん。なんでもない」
「まぁなんか知らないが、これは『男に戻る薬』だ」
「!?」
「女のお前が賞金首なんだ。元の男姿でも関係ないし、剣は男に戻ったほうが強いだろ?」
「…………トキヤ!!」
バッチーン!!
頬をぶたれた。ボルケーノとデラスティが何故かオロオロしている。そして痛い。胸の辺りがすごく痛い。
「遅い!! いいえ!! 遅くて良かったけど!! 違う………」
「何が違うんだ?」
「男に戻っても、あなたは報われない!!」
「ああ、大丈夫だって」
俺は大丈夫と言い聞かせる。
「違う!! なんでそんな簡単に捨てられるの?」
グッとくる言葉だが。けじめはつける覚悟はある。女にしたのは全部俺のせいだ。だが、どんな物でもこの言葉を言えば納得できる。
「お前のためなら」
「そうだね。そういう人だったね!! はぁ………ありがとう。でも使うのは私に決めさせてね」
「ああ、好きにしてくれ」
「うん。デラスティ!! 買い物行くよ!!」
「は、はい!! 怒った瞬間ビックリしたぁ」
二人で何処かへ出掛けるのだろう。自分は頬が緩む。元気になって良かった。アクアマリンから少し影が見えていたし、嘘をついてでも。好意を見せるのは避けてきたから。
「ウルツァイト。いいやトキヤか」
「どっちでもいいですよ」
「何故、歪まない? 他人の意識だろ? 混ざったら違和感でる筈だお前でなくなる」
「真っ直ぐですからずっと。意識が混じっても迷うことはないんです」
「そうか………そういう形もあるのだな。恋愛とは奥深い」
何か含んだ言い方に親近感を感じる。今ならボルケーノを理解できるのだろう。
*
「ご飯出来たよ。トキヤ!! 安静にしてなくちゃ‼」
ネフィアが勢いよく部屋に入ってくる。立ち上がって、体の調子を見ていたら怒られた。穀物をすりつぶした物を皿に盛っているのを見るとあれがご飯らしい。
確かに胃に穴が空いていた事を思い出す。あの魔法の後遺症は残っているようだが。
「大丈夫だ。剣は何処だ? 落ち着かない」
「だから!! 安静に!!」
「安静にしたいが隣に武器がないと………」
「はい!! この剣、置いとくから」
「あーネフィアのじゃないか?」
「いいの。ここ安全だし。黒騎士もいなくなった。刺客………来ないなぁ」
ネフィアが帯剣していた剣をベットの横に置き。皿を机に置いたあと。俺に「ベットに入れ」と言う。仕方なく安静にする。
「傷もそこそこ癒えている。大丈夫だ」
ネフィアが皿を持ち、近付く。
「トキヤが魂喰いで人間より生命力があるのは知っているが本調子ではないと思う。はい、アーン」
「皿を貸せ。自分で食う」
「はーい、どうぞ」
「………お前、なんか変わった?」
一ヶ月だ、何かしらあったのだろう。
「えーと」
ネフィアが余所を向いて髪を弄りだす。恥ずかしがりながら喋る姿は本当に愛しく思える。貰ったご飯は美味しい。香草と塩味がうまい。
「私の人生も捨てたもんじゃないなって………自信がついたかな。色々」
「ふーん」
「あっ、そうだ。ごめんなさい実はその………」
ネフィアが申し訳なさそうな事をしたあとに。少し悪い顔をした。初めて見る顔つき。
「新しい都市で家を買ったんだ」
「新しい都市ヘルカイトか。本当にヘルカイトのおっさんがやってるとは………」
ボルケーノに聞いたとき。驚いた物だ。
「で、その。ごめん。借金したんだ」
「借金かぁ、お金を借りてまで何故家を?」
「ヘルカイトさんに返済しないと魔国へ行けない。だから頑張ろ」
「まぁ借金なぞ踏み倒せば。ヘルカイトからだ!? 人間じゃない!! あぁ。返さないと追いかけてくる?」
「追いかけてくるね、きっと」
新しい都市に首輪をつけられた気分になった。「よりによって……何故……あの奴から」と思うのだった。




