指名手配犯、泉の女神
昼頃、ネフィア姉さんは夜更かししてまでお仕事をしたため。起きた時間は太陽が登りきった時間だった。起きたあと、ネフィア姉さんは身支度を済ませて朝食兼昼食を一緒に取り、紅茶を啜る中で姉さんがやっと落ち着いて話を始めた。
「今日は落ち着きましょうか?」
「なにもしないと言うことですね。どうして?」
首を傾げてネフィア姉さんに問いかける。
「筋肉痛で動きが……あなたも魔力を失ったでしょう」
「私は元気です!! ほら!!」
二の腕を見せる。真っ白い肌を晒し、笑みを溢した。
(鍛えなさい……ネフィアさん。アンジュちゃん。筋肉の量が足りないわ。特にアンジュちゃんのその腕。骨かしら?)
「ヴァルキュリア姉さんがおかしいんですよ」
夢の中での彼女はそんなに筋肉ついてないじゃん。
(ふ。今夜……アンジュちゃんを鍛えるから安心ね)
「お姉さんは素晴らしいなぁ!! 尊敬しますよぉ」
(ふふ、私は優しくないわよ。女神なら当然耐えるよね?)
背筋が冷える。ヴァルキュリア姉さんの魔法にかかったように体が冷えていき震えだす。いけない。これは……夢だ。そう夢の中だ。
(現実です。あら? お客様? ネフィアさん)
トントン!!
「ん、どちら様?」
小さな個室の宿屋に誰かが訪ねてくる。恐る恐るネフィア姉さんがゆっくりと開けて顔を覗かせた。すると衛兵の一人がおめ見えする。
「なんでしょうか?」
「アンジュさま、ネフィアさまで間違いないですか?」
ネフィア姉さんはギルドカードを見せ身分を明かす。すると衛兵は胸を撫で下ろし一枚の依頼書を手渡した。その内容をネフィア姉さんは読み。私はそれを覗こうとすると姉さんは手渡してくれた。内容は……
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【クエスト】
[メイン依頼]
不思議な泉の捜索
[目的地]
不明
[報酬金]
金貨袋
[特殊条件]
最近噂の泉に道具を金に変えてくれる噂があり真偽を確かめて欲しい。噂では泉の女神らしき噂であり。女神に近い方々に依頼したいと思います。何卒、弱き我々に知恵をお貸しください。
[依頼者]
ギルド長
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内容を見ると女神がいると書かれており私は眉を歪ませる。女神がいるぅ? 何者よこの内容の人は。
(アンジュちゃん、露骨に嫌悪感をいだくね……そんなに嫌?)
(女神は私です。私なんです)
(えっ……は、はい……そ、そうですね。プッ)
(くっ……すいません。見習い女神です……)
見栄を張った私はそのまま依頼書を丸めて、それを受け取ったネフィア姉さんはそのまま灰にした。
「わかったわ、衛兵さん。細かなお話を聞かせて……ちょっと私はそいつに言いたいことがあるの」
「詳しくはこちらの密書を……人気の無いところでお願いします。同じように消していただければ嬉しい限りです」
「わかった。下がっていいわ」
ガチャ!!
ネフィア姉さんは受け取った密書を私に見せてくれる。
(ふむ。物を落とせば金の物にしてくれるのですね。本当の事を言えば貰える。よくある創作です)
「創作かしらね……私は最近報告書にあった事件を思い出してる。英魔国内の窃盗事件を」
「ネフィア姉さんは心当たりがあるんですか?」
「心当たりしかない。確認する必要がある……罪人に対して。指名手配されてるわ」
「……罪人?」
「ええ、罪人よ……この世界の奴だったのね」
私はなにやら因縁を持つ相手なのだと察する。
「いきますよ。アンジュちゃん……泉を探しましょう」
「どうやってですか?」
「空を飛んでいきます」
「いいのでしょうか?」
「今さら……隠せるかしらね。あんな四天王を倒して目立ったのに」
「確かに……」
私は納得しそのまま姉さんの後ろについていくのだった。
*
都市から空から飛びそのまま、地図にかかれていない泉を一つ見つける。小川から分岐し流れ、そしてまた小川に流れていくその小さな泉を見つけたのだ。小川は石で積まれ人為的に作られていたのがわかり、泉のそこも大きい石で並べられていた。藻も生えておらず透き通った水に魚が泳いでいるのが見えた。
「人工物みたいですね。姉さん」
「泉を作ってるのよ。私が知ってる報告書によると勝手に水路を増設し水を盗んだと聞いているね」
「水を盗む?」
水を盗むなんて聞いたことがない。
「灌漑農業では必須であり、各農家に決まった水量があるのですよ。それを盗んでいるのです。あと、水は貴重であり大切な資源です」
「灌漑農業って? 姉さま?」
「うーんここで灌漑農業してるような畑は見ないですね。まぁ人工池で農作しようと言うものです。水田と言いまして……農作物を作る方法の一つです」
私が首を傾げていると頭に声が響く。
(夢で紹介したおにぎり用のベタつく粘り気のあるお米が灌漑農業で作られてますね。あれ水田と言って水がないと出来ないです。さらさらした米や小麦はそうではないのですがね。アンジュちゃん)
なるほど美味しい物を作るために必要なのか。
「処刑するべし。殺すべし」
極刑やむなし。女神として罰を与えるべきだろう。
「まぁ、昔は処刑していたらしいけどね。でも、こっちでは重要そうじゃないね。雨だけで生産できる物をしてるようだし~」
「本当に物知りですね。姉さんたちは」
「物を知らないといろんな相手に話をされてもわからないでしょ。上に立つのだから少しは知らないと。逆に聞くけど女神なら人の営みを知ってて当然でしょ?」
「はい……」
無知なのが恥ずかしい。そういえば本当に何も知らない。姉さん魔王で怒られるけど。本当にそうだと思う。
「それにしても……ナマズいそう」
「ナマズ?」
「美味しいお魚です。泥抜きしたらね~美味」
色んな話を聞きながら泉を散歩し一周する。何も起きず、私はお姉さんに作戦があると言って姉さんが創った綱の端を掴み準備する。それと同時に私が創っていたナイフを泉に投げ込む。
ポイッ、バッシャーン
大きな音を立てて、投げ込むと……ナイフが溶けて見えなくなる。
「えっ!? 消えた!?」
驚く中でネフィア姉さんが綱を強く掴み直す。
「来るわ。正解のようね」
私は身構えて白い翼を開き、ネフィア姉さんも翼を開く。ネフィア姉さんの身構え方はまるで魔物のように柔軟に見えた。狩る者の姿。カッコいいなと思う。
ポコポコポコ……ばっしゃーん……
「あなたが落としたのは……」
「今よ!!」
私はぐいっと綱を掴んだまま待ち、ネフィア姉さんが現れた水の女性に飛びつき、そのままぐるっと一周して飛んだ後に私も飛んでそのまま泉の対面へと綱を引っ張り大きな木に対して縛り付けようとする。
「えっ!? きゃああああああああああ!!」
悲鳴が響くが無視して飛び。そのままネフィア姉さんは浮いた彼女の首を掴み。木に叩きつける。そのまま睨み付け、許さないぞと言う怒気を生み出し。その捕まえた人は身がすくむ。そしてそのまま私は押さえて動けない間に綱を木に巻きつけて完全に動けなくした。
「捕まえたわ!! 泉の悪霊!!」
「え、えええええ!? いや、まってください!?」
へぇ~悪霊なんだ。
「滅せられないだけでも喜びな!!」
「えっ……はい!?」
泉の悪霊さんはオロオロする。私もお飾りの剣を抜き突き付けて威嚇する。
「おうおう、私がいる場所で女神名乗ってるんじゃねぇよ。悪霊さんよ」
(アンジュちゃん。それチンピラ……)
チンピラ違う。私は私の世界で女神を名乗る不届き者を処罰する立場だ。
「ま、まってください。私は別に悪いことをしようとした訳じゃないです!!」
「本当に?」
「本当です。このゴミなナイフの形をした物を金のゴミなナイフの形をした物を正直者に渡そうとしただけです!!」
私が創ったナイフをバカにされる。それに関してピキピキと頭に何かが走った。
「お姉さん? 処していい? 私が創ったナイフをバカにした」
「バカにされる程度しか創造するからよ。腕を磨きギャフンと言わせなさい。情けない……もっと女神らしく大きい器を持ちなさいよ」
「……ですよねぇー」
ネフィア姉さんに言われると本当に何も言えなくなる。
「うぐ、う、動けない!!」
「しめ縄ですからね。喜んでください、あなたは善きも悪きも神である。私たちと同じで効果があるのですから」
「ネフィア姉さん。魔王なのに効果あるんですね。しめ縄」
「………」
ネフィア姉さんがしまったと言うような顔をするがもうバレバレである。私はヴァルキュリア姉さんから聞いている。義理姉が女神でもあると。
「……私をどうしようとするのですか?」
泣きそうな悪霊。それにネフィア姉さんが怒る。
「そうね、先ずは静かに消え失せろ。あと、私の民から奪った物を返せ」
「……? まだこの世界で活動は初めてでまだ何もしてないです。噂だけ流して貰ってるだけで……勘違いでは?」
ネフィア姉さんが眉を歪ませた。そして、何かを考えた後に姉さんは説明した。それは私も今さっき聞いていた話だった。
「私は別世界からこちらに来たものです。本名はネフィア・ネロリリス。我が民のうち、大切な大切な武斧を奪われたと泣く者が現れました。そして代わりに置かれた金の斧を持って悲しんでいました。同じように大切な物を泉で盗まれたと言う人々が多く。英魔国内では指名手配を行っていました」
「……」
「心当たりはございませんか?」
悪霊が少し悩んだあと恐る恐る言葉を溢す。
「……もしかして、あの子担当の世界ですか? 最近、泉でしっかりと仕事してたのにいつしか睨まれ、石もゴミも投げつけらてると。捕まえようして、すこぶる嫌われてしまったと……出るところで邪神退散とか。苛められてるとか嘆いてた子なら知ってます」
女神なのに虐げられてるらしい。まぁ、はい。何か良からぬ事になったのだろう。やーいざまぁ。
「あなたじゃないのね……」
「はい。その子を連れてきます!! 見逃してください!!」
「ええ、連れてきて。そのまま逃げたら。この世界で悪事を広めてやる。あなたの泥棒の悪霊として」
「えっ!? そ、それだけは勘弁を!?」
底冷えした声に私は私で何故かワクワクするのだった。
*
綱を解き、この世界の泉の女神がつれてきたのはボーイッシュな髪の女だった。ネフィア姉さんを見た瞬間に怒りに震え上がり、やっぱネフィア姉さん異世界では相当な有名人、手配されてる人そっくりなのだ。やばい、こわい。
「この子です。では、私はさようならぁー」
「……」プルプル
捕まえた泉の女神はそそくさと逃げ、残った少女が震えてネフィア姉さんを見続ける。ポロポロと泣きながら。
「おっほん!! 水泥棒兼武具窃盗の罪を負った者よ、滅せられない理由があるなら教えよ!! 我が名はネフィア・ネロリリス!! 指名手配犯め!!」
怒声にプルプルと怯えた子がポツポツと言葉を溢す。
「……ご、ごめんなひゃい……ただルール通りしただけなのです」
「アンジュちゃんしめ縄で引きづり出せ」
「はい!! おう、お縄に頂戴!!」
しめ縄で縛られ泉から引きずり出した。彼女がポツポツと懺悔を始める。
「えぐえぐ……ルールは正直者には金の品を渡して泉の信仰を世界に広めるのが私たちの存在を確かにするためなんです。信仰がご飯なんです。だから……私はどうしてああも怒られるかわからず。いっぱい金の武具に変えてきたのです……」
「……悪意はないと」
「悪意なんてないです!! ただ、誰も喜んでくれず……」
「……はぁ、何故……返さなかった? 斧を」
「……返さなかったですか?」
「物をね、返せば何もなかったのに。まったく……はぁ……」
ネフィア姉さんが大きな大きな溜め息を吐く。そして、今度は哀れみを感じながら話を始める。
「あなたが嫌われたのは先ず初めに斧を洗っていたオーク族が落とした物がダメだった。あれはね……名誉の戦死をした前オーク族長の片手の戦斧であり、その者が認められて引き継いだ大切な斧だったの。それを……あなたは返さなかったから問題になったのよね」
「……?」
「わからないかしらね……ただの鉄でも。金よりも価値がある物があるのよ。あなたはそれを間違えた。それを何度も何度もしてたらそら怒られるわね……」
(くっそ迷惑ですねこの泉の女神。なんて酷い事をしたのでしょうか。あの斧を盗んだとか滅せられても文句は言えないですね。私が滅しますよ)
「落ち着いてヴァルキュリアさん、彼女の表情に反省と罪悪感がある」
「……ずみばぜん」
泉の女神が泣きながら何度も何度も謝りだす。よくわかってないようだが怒られているのはわかっているのだろう。
「女神ってこんなのばっかなのアンジュちゃん……」
『失敬な!!』とは言わず。優しく反論を口にした。
「同じにしないでください。さすがにそれは私でもダメなのわかりますうううう!! 失礼ですよ、さすがに!! お姉さん!!」
「ごめん。そうね……こんな屑と一緒にするのはすごく失礼ね。ごめん」
「うぐうぐ……私の初めての担当だったんです……あの世界で……」
「でっお姉さんどうするの? この屑」
「まぁ、私は私で解決したいから。あなたにやることを記します」
紙をネフィア姉さんは生み出し、すらすらと文字を書いて泉の女神に見せる。それを涙ながらボーイッシュな青い髪の女神が読み。姉さんを見つめなおした。
「まぁ今回は悪意はなかったという事で私の権限で不問にします。代わりに!! 奪った物を全てダークエルフ族長に渡し、私の親書を渡してください。あとそんな泉のルール変えてください。金を渡すのも禁止です。エルフ族長等にどういった形で信仰増やすかは私が帰ってから相談してあげます。それまでは大人しくしていてください。いいですね!!」
「えっと……」
「返事は『はい』のみ!!」
「「はい!!」」
(アンジュちゃん反応してる……クスクス)
(ヴァルキュリア姉さん……笑わないでください……)
泉の女神の綱が姉さんによってほどかれる。
「では、これを持って濡らさずにお願いします。約束します。泉の女神として信仰増やしてあげますから……物を返してあげてください」
「本当にですか!! やったぁ!! これで兄弟姉妹から苛められなくて、バカにされる事もなくなるんですね!!」
「そうね……たぶん」
「わーい、行ってきます!!」
そう言い、勢いよく泉に飛び込んだ泉の女神。私はこれで報告書はどうするのと考えている時にヴァルキュリア姉さんボソッと口に出す。
(異世界……繋がってるなら。帰れたのでは?)
「「あっ」」
すでに泉の水面は揺れず、太陽の光でキラキラと輝いているのだった。
*
魔王の寝室で魔法研究者達が入り浸り、魔王失踪の原因追及を進めるなかで一人の少女が顔を出す。綺麗な青い髪の少女は私こと、ダークエルフ族長に謁見しに来たのだと言う。私はなんだろうかとその場を任せて後にして会う。
「なんでしょうか? 何者ですか? ん!? 手配書の顔!?」
しまった武器がない!!
「あっ……逃げません。その……泉の女神という者です。すいません……今まで奪った物をお返しに来ました。罪を償いに……」
「……ほう。このくそ忙しい時期に……」
女王陛下がいないこんな時に……面倒ごとを……
「ダークエルフ族長!! 庭園の噴水周りに武具がいっぱい!!」
本当に忙しい時期に忙しい事が重なる。そして、あの指名手配を目の前に見るに何処から来たか気になったが衛兵の言葉で理解できた。泉から現れたのだろう。
「わかりました。それは押収し、落とし物として公表してください。あなたに任せます……」
「はい!! わかりました」
部下にお願いし、私は目の前に震える少女の肩を掴む。
「話は別室で聞こう。逃げるなよ」
「えっと!! あ、あの!! ダークエルフ族長さんにこれを……」
「これは……これは!?」
唐突に手渡された手紙を受け取り。それを裏返した。裏に書かれている名前に驚く。そう、女王陛下の字であり、名前であるのだ。勢いよく封を切り、中を確認する。すると、目の前の女性が本当に泉の女神であり、紛失事件の全容と不問にする事と信仰復活のため助力をお願いしたいとの旨だた。そんな内容よりも問題は……
「いったい、いつ、どこで、これを!!」
「えっと、その……今さっきです」
「!?」
声が出ない。驚きすぎる。今の今まで音信不通だった女王陛下のてかがり。それが思いもよらない所で音信があったのだ。深呼吸をして彼女にもう一度お願いする。
「すまない。ありがとう……そしてちょっと来て欲しい」
「はい……」
私は彼女を連れて揉めている現場へ向かう。そう、権力争い中の8人の族長の会議室へと足を向けたのだった。




