come out『カミングマオウ&ゴット』
私が魔王であると言うことを伝えた時、アンジュはどんどん顔色が悪くなり頭を押さえて唸った。世迷い言に聞こえたのだろうと思う。
「……それを信じろというのですか?」
「何度も言うけど……私は魔王である自覚はある。嫌々だけどもね。信じるか信じないかで私はパーティを選びます。隠しても微妙ですし~バレるの気にして演じるのは疲れます」
「じゃぁ、本当は黒い羽根で召喚されたのですか?」
「いいえ、私の翼は白い。悪魔だから黒い羽根というのは偏見ですね。残念ながら白です。嘘はつきました天使だとね」
黒い翼に憧れてるのだが……悲しい事に白い。白い黒いのメリハリの服がすきなのだ。だから……羽を広げる時はなるべく黒い服を選びたいと思っている。羽根は一種の重りであり、衣裳である。
「じゃぁ、その姿は偽りと?」
「偽り? そんなことはない。私は私です。言いたいこともわかる。悪魔らしくないとか思ってるでしょう。婬魔ですから少し変化するぐらいですが、だいたいこの姿が私です。天使に間違われる悪魔です。もう本当にそれを何度も何度も説明してきたことか……神でもなんでも良いですけど……原点は婬魔です。婬魔と胸はって……」
(愚痴は後にしましょう。ネフィアさん)
頭の中の人にたしなめられた。そうだ、愚痴は後にしよう。
「……えっと。最後に質問いいですか? なんで召喚されたのですか?」
「それはわかりません。その答えを私は持っていないです。魔王が勇者として召喚された理由なんてわからない。私もそういうのは聞いたこともないです。私が倒した勇者は私のような者ではなかった。確実に女神によって呼ばれている筈なのです」
そう、私は過去に勇者を倒した事がある。女神の尖兵としての強者だったもの達を焼き殺し、一人は寝返りも何故かして黒衛兵団の悪魔の隊長と仲良くやっている。考えてみれば……寝返りした者は今では大司祭と王配と族長補佐とかに大出世してるし、寝返りしたけども信頼を勝ち取っていた。
「勇者を倒したことがあるのですか?」
「同じように女神の尖兵として用意された駒を少々刈り取りました。ただ、この世界のようにしっかりと準備をしたわけでもなく数も指で数えるぐらいです」
「……」
「だから、そんな敵のような存在に魔王を倒してほしいと言うのは些か変ですよね。この世界の女神様も何を考えているか……わかりますか? わたしにはわかりません」
「いえ、わからないです。ただ、ネフィアさんは帰りたいと言う意思は伝わりました」
「はい。というよりも考えて見てください。魔王ですよ、一応。それに……家でくつろいでたところにこれです。怒らないだけマシだと思いませんか?」
「あっはい……すいません」
アンジュが申し訳なさそうに頭を下げる。
「まぁそう言っても。帰る術はここにはなさそうですけどね。誰一人魔王を倒せていないので帰れてないでしょう。帰れらせてもらえないと言うことですね。はぁ大変です」
「……」
アンジュさんが何か深く悩み出す。さっきから何かを考えている節が多い。すると頭の中でヴァルキュリアが声を響かせた。
(ネフィアさん、ネフィアさーん。音を解放しましょう。ご飯が来ます。パスタなので、すぐですね)
「……」パチン!!
私は指を鳴らし、秘密話は終わりを告げた。アンジュさんはその音に反応し慌てて顔を上げて私を見る。
「ご飯にしましょ」
そういうと店員が大皿に乗ったパスタが置かれ、小皿とフォークを準備する。そして、そのままフォークを手に取りくるっと一回転させて笑みを向けた。
「信じるか信じないかは任せます。私からは以上です」
(うー美味しそう。ネフィアさん、いただきますはしっかりとね)
「いただきます」
そのままフォークを掴んだまま手を合わせる。
(フォークは置きましょう。そのまま手を合わせるのいけません)
(細かいわねぇ。ヴァルキュリア)
(……いや。しっかりと感謝を胸にですね。初心でしょう)
(……確かに。不誠実ですね)
私はフォークを置いてしっかりと手を合わせた。
「何ですかそれ?」
「食べる前の儀式です。もぐぅ」
パスタを小皿に移してそのまま口に運ぶ。普通にパスタ、普通に美味。何処でもある素朴なトマトペーストのお味。しかし変わらない味だからこそ今はいとおしい。私が美味しくいただいてるとアンジュさんも恐る恐る皿に盛り。口に含んだ。
「……!?」
そして、何故か驚いた後に目を輝かせて黙々と食べるのだった。
*
腹も満ち、グラスの水を飲み込み。ぷはぁーと声を漏らす。大皿に乗っていた料理を全て平らげた私は彼女に問う。
「どうする? 私は帰る術を探す旅に出ます。魔王は気にしませんが……会っても良さそうですね」
「……私は。私は信じるか信じないか。嘘か本当か全くわからないですが一緒に行き。それを見て判断します」
「いいですよ、よろしく。一人は寂しいから」
(私が居ます。それに……そんなポコポコ快く受け入れすぎです)
頭の声には無視をする。裏切られたそれでいいのだ。その時は容赦はしないだけである。背中を刺すなら刺せばいい。私は逃げない。隠れない。受けて立つのが今も昔も変わらない私である。
「……よろしくお願い……いたします。その……」
「何かしら?」
「私は隠し事をしています。それでもよろしいですか?」
「隠し事している旨を伝えたことでチャラでいいですよ。気にしません。人は隠し事を持ってる生き物です。一つ二つ、気にしても仕方ないでしょう。私だって小さな物から大きな物もあります」
「わかりました」
途中、彼の顔の仮面など外れた気がする。可愛い顔なのだが目付きは鋭い。何かの密命を持っているのだろう。そしてやはり女性だった。
「えっと……でっ。私はまぁまだ……ここを旅立つ気がしますせん。図書館で過ごすでしょう」
「あの中には帰る方法はないです。実は教会の禁書にそういう類いのがあるかもしれませんよ」
「禁書の類いですか?」
「召喚しているのは教会です。教会が隠しているかもしれません。そこで交渉するために頑張るのもどうでしょうか? 魔王を倒せば……手伝ってくれると思います」
「そうですね。でも、信じてあげれるのはあなた一人だけにします。店、出ましょう。そういえば冒険者ギルドでカード登録すませてませんから」
「そうなのですか。それならすぐにでも登録するべきです」
会計を私たちは済まし、席に立ち上がった。向かう先は冒険者ギルドと言う。人材派遣などをする施設へ向かう。そう、働くには信用がいる。お金は絶対に秘密だ。
(……ネフィアさん。本当にそうやって危険そうな人をいれるんですね)
(そうですね)
これが私のやり方だ。ナンパだと思ったが……まぁわかりやすいそこそこの協力者がいてよかったと思う。
*
ギルドに到着する。ギルドとは仕事の人材派遣のようで冒険者などを管理、処罰などする組合みたいな物である。傭兵とも似ているし、まぁ何でも屋みたいな側面があるのだ。そこは私の知る最初期の冒険者ギルドと変わらなかった。
なお、私の国では旅行するために登録するほど冒険者が大衆化してしまった。ギルドカードがあると本当に旅では便利なのであり、遂には壁内への入場に義務化さえされてしまているし、ギルドカードの絵柄も材質も変わっているし冒険者ギルドの発行手数料や維持にお金を取るのでえらく肥えたと聞く。
そんな、故郷との違いを感じながら。小さな待合所に顔を出して受付の際どいお姉さんにギルドカードの登録を済ませる。
「そのカードは勇者としての証明です。栄光の剣の輝かんことを……」
「ええ、ありがとう」
金色のギルドカードを受け取り。それを見ていると文字が浮き上がり。その者の本質が文字として書き込まれる。
この世界のギルドカードと私の世界のギルドカードは似ているが……全く似て非なる部分があった。ステータスと言う項目があるのだ。
「ん……ステータス? アンジュさん。これは一体?」
「個人の能力値です。非常に信用できる数値として見れるので強さが分かりやすく。情報としてギルドに行きます」
アンジュさんが私のギルドカードを指を差す。
「ギルドカードを見せあい。強さの違いで優劣を決められるので無駄な戦いが起きにくいのです」
「へぇ……そういう争いの回避方法があるのですね」
「ええ。なので見せる者。見せない者もあり、いいことでもあると思うのです」
「……まぁでもそんなので人なんか測りたくはないですね。なるべく……」
(ステータスが浮かんできましたね。能力を可視化させないといけないなんて大変ですね。争いが多いのでしょうか?)
ヴァルキュリアが呆れながらも少しそういうのが気になっているのが伺えた。そして何故か……
「可視化はですね。その、まぁ人は目の前のことが重要で本当にそこは仕方ないことなんです」
アンジュが反応した。
「ん?」(ん?)
「どうしましたか?」
「いえ。何でもないです」(反応しましたよね)
(反応しましたね)
「……ステータス。見ないのですか? ついでに私も登録してみます。どれどれ」
アンジュの変な行動に疑問を持ちながら。私は浮かんだステータスを見る。きっとどうでもよくなるだろう事は知っているが念のために。
攻撃:50
防御:50
敏捷:50
魔力:50
魔攻:50
魔防:50
ヤバい。わかんない。ステータスがどの程度の強さか。しかし、安心する。体重が乗っていなかった事が。
(わかってましたけど。ネフィアさん私より軽いですね)
(えっ……嘘でしょ。それって……)
(デブじゃないです!! ネフィアさんだって体重だけならオークでしょ!!)
(覗いたなこいつ!! 最低ぃ!!)
(なら!! 明確な数字を思い浮かべないでください!! ショック受けたのはこっちです!! うぐぅ)
(えっ!? ヴァルキュリアは私よりぜんぜん重いの!? ヤバくない!? えっ……同じ背丈でしょ? 痩せなよ)
(太ってる訳じゃないですよ!! 鍛えてるんです!! 脱いだら凄いんですからね!!)
ステータスよりも大切な部分が私たちには大切だった。だが、そんな呑気に言ってられない状況が生まれる。
種族:婬魔、悪魔等
性別:魔王
(えっ?)
(察しました。そうでしょうね)
私は性別が女でない事に驚き。そして、魔王が性別なのだと言う事に再度確認をしたくなる。
(どういう事!? ヴァルキュリアわかるの!?)
(英魔の方々にはネフィアさんのように男から女性に変わられる場合。もしくは逆の場合があるのです。正式な区別表記を考えた時に皆が知っている言葉で第三の性。魔王となりました。そういう敬意をご存知ない? 常識です)
(全く……知らなかった)
いつの間にそんな事にと思う。だがこれでは……魔王だと一瞬でバレて勇者に囲まれる気もする。
(あっ……アンジュさんも登録終わったようです)
「アンジュさん、私のカードが大変な事に……アンジュさん?」
ギルドカードを神妙な顔で彼女は見ていたが、私の声にフッと我に帰り慌ててギルドカードを隠した。匂う、色々と。
「アンジュさん……どうしたんですか? 見せ会いましょう。一応ね。種族とかありますから。私の本当を見せられます」
「あっいえ……信じてます!! 大丈夫!! 大丈夫です!!」
「……」
私はスッと近づき。ぐるっと背後に回ってギルドカードを盗む。私のカードを差し出すがアンジュは私の奪ったカードを取り戻そうと手を伸ばしたのでスッと距離を取った。周りの視線を感じるが気にしないでの奇行である。
「は、速い!?」
「あなたが遅いだけよ。本当に遅いね」
「あああ!! 返してお願い!!」
「ん?」
何か口調が崩れたような、違和感が生まれる。慌てているためだろう。そして私はそのギルドカードをチラ見し……目を大きく開けてしまう。アンジュは顔を押さえて震え……絶望した仕草を見せた。
まぁ、そうだろう。何故なら……ギルドカードには。
種族:神族
性別:女
思ったこの彼はなんと彼女だったのだ。
(ネフィアさん!? 驚く所違う!! 気付いてたでしょ!?)
そう、彼女は女だったのだ。
(落ち着いてネフィアさん!! そこじゃない!!)




