英魔野球会議①
私は魂に刻まれた言葉などあると理解している。なぜ、断言出来るのかと言うと旦那を見ているとそう思うしかないのだ。
会議室の中央で熱弁するトキヤを見ながら……
「これからは兵を養うのも莫大な金がいる時代。戦争は終わったが帝国やこの大陸以外にも目をやると軍縮は最低限としなくちゃいけない現状、どうお金を貰い受けるかを考えた時。我々は新たな物を創らなければならない」
そう、本会議後。また族長達が集まった。それも夢の中で私の能力を軸に呼び寄せての行動である。こうする事で忙しい中をわざわざ首都まで出向かなくていいと言う理由もある。
道路建築、道路の変わりの高速移動方法の確立など……まだまだな事が多い。そんな理由を考えながらトキヤを見つめ、その拳を握る手から必死さが伝わってくる。
「故に私が王配権限。もとい、女王の力を借りての提案をします。まず成功するかわからない挑戦のために6人の族長でチームを作ってもらい戦って貰おうと思います。ルール周知や、審判教育など多くの初期投資が大きいですが。見返りは十分にございます。お手元の資料をみてください」
トキヤの提案する構想やメリット、デメリットなど書かれた紙が登場する。夢に登場させるために私は全部だいたいの事を暗記させられたのだ。めっちゃくちゃしんどかった。とにかくそれよりも……夜の行いのが今は重要であり……
「トキヤ……これ間違ってます」
「ええ、トキヤ殿。これは……重要な事ですが関係ないです」
ダークエルフ族長が手を上げて話をし、族長達が失笑をする。
「ん? 間違ってる?」
「内容……晩御飯のメニューです」
「ネフィアああああ!!」
「ま、まって!! まちなさい!! 出力違い!! 全員記憶を消しなさい!!」
すごい恥ずかしい!! これはいけない!!
しまった!! 思い出すべき事が全く違う!!
「まぁ他言はしませんよ……ね、皆さん……こんなミスは私でもあります」
ダークエルフ族長が皆に釘を刺すが既に時は遅い。私の計画がバレてしまっている。
「えっ、女王陛下ってこんな事するんですね……へぇ美味しそう」
「婬魔だからは関係ない……なるほど。愛を入れる……参考になるなこれは」
「……ネフィア?」
「ごめんなさい!! 消去!!」
私が叫ぶと紙が消え、違う紙に刷り変わる。今度こそ本当にトキヤの提案書である。
「まぁ、いいや。ネフィアを嫁にしてるんだ。そんな些事より今は……野球のが大切だ」
「……些事? あなた……メニュー決めるのスッゴい面倒なのよわかってる?」
聞き捨てならんぞ。トキヤだとしても。
「ネフィア……ごめん。言葉のあやで……」
「いえいえ、野球のが大切ですもんね~」
「いや、まてまてまて!!」
私は睨むと彼は冷や汗を出す。まぁ後でね……家族会議です。
「さぁ、話しはまだでしょう。どうぞどうぞ」
「くっ……まぁ読んでくれ。それを……」
族長たちが一斉に読み初め……そして……色々と話をする。トキヤに多くの質問が投げられ、それをトキヤはしっかりと答え納得してもらっていく。私はというと、自身の頭に残るように議事録を紙に書いていた。起きたらまた書かないといけないので大変である。また、喋りが早い皆。
「質問は以上か? エルフ族長は何かあるか?」
「そうですね。もう実際やっている所をみないと理解が難しいでしょう。私はわかりますが他はわからないでしょうから……」
皆がどんどん質問などではわからないと言う意見が出る。一回やってみようと言うことを言い出す。そして……その声を聞き。待っていましたと言わんばかりに私は指を鳴らした。道具と球場を夢で生み出すために。
*
球場を用意、道具を用意し、クンカ王子と英魔昆虫亜人族蛾族のスズメメさんにも来ていただいている。色豊かな髪色と緑を貴重としたユニフォームに透明な羽がついている。昆虫族の英魔である。きらびやかでは蝶の英魔に似ているが蛾である。
なお、聞けば……蝶の魔族。蛾の魔族から蛾の癖に華やかで嫌われていた種族らしい。女の嫉妬である。
「初めまして。国、アクアマリンのクンカ王子です。よろしくお願いします」
クンカ王子は普通に族長にご挨拶するなかで。スズメメさんは表情を固めてプルプルと震えるだけだった。そのスズメメさんを一応紹介する王子に呼応するように深く頭を下げている。スズメメさんが固くなる理由もわかるが慣れていただきたい。
王子と仲良くするなら自然にならなければいけないのだ。縁を見るとやはり、深く結び付いている。
「ふむ、昆虫英魔族は綺麗な人が多い。なかなか……」
エルフ族長が品定めをするのを族長たちは呆れた表情で見た後。そのまま……トキヤの野球談義へとすすむ。
「今回、ネフィアの意向で一応人質で断りづらいクンカ王子に無理を言い。勉強と練習をやっていただきました」
「トキヤ、本音漏れてる漏れてる」
「おっと、すいません」
クンカ王子が苦笑いをし、族長たちも釣られて笑い出す。穏やか雰囲気の中で、クンカ王子には投手をやってもらい。スズメメさんには打者をやってもらう。
グローブをはめる投手、バットを持つ打者をイメージしてもらい。バッターは私がすることになる。知識がある? 旦那の熱烈指導のお陰であり、夢で怪我しないからと無茶苦茶いじめられたのだ。
「……あぁ、この前のことなのにシミジミする。皆さん、死球は死ぬほど痛いので覚悟してください。死ぬかもね」
「「「は?」」」
そりゃ~どういう事が起きるか皆わからない。仕方ない事である。だからの練習光景を見せるのだ。
「クンカさん、マウンドから投球開始してください。私はオッケーです」
「よろしくお願いします」
マウンドに立ったクンカ王子がお辞儀をし、スズメメがキャッチャーミットをつけて座る。私はヘルメット無しで人型用のバッターボックスに立った。先ずは人型同士の戦いである。
トキヤに関しては族長に説明するため静観をし、ストライクかどうかは……ベースの魔方陣が判断するようにし。今回は球審がいないがベース基準なのでそうそう間違えることはない。
「では、ネフィア。3打席勝負な」
「ええ」
トキヤや族長が見ている中でスズメメさんが。しゃがんだまま声をかけてくれる。
「ネフィア女王陛下。もしも、クンカ王子が勝てたら……自由にさせてください」
「人質王子の件ならもう、自由よ。それはクンカ王子が決めること」
「……」
「一緒に居てあげなさい」
「はい……」
スズメメがミットを構え直し。クンカ王子がマウンドの上で頷き大きく振りかぶりオーバースローで球を投げる。
スパン!!
こぎみいい音がミットから発せられる。そこそこの速球でベースは○が表示された。ストライクだ。
「一球、みましたね。女王陛下」
「……ええ、まぁ。速いけど。打てないことはないわ」
「……」
スズメメがまた構える。今度はどこか……
シュッ!!
(外角低め!?)
バン!!
クンカ王子のオーバースローは外角低めに入り、私はそれにバットを当ててボールをカットし、ファールになる。
「2ストですよ。女王陛下」
「わかってる……わかってるわ」
静かに頷き、バットを構え直す。何が来るか何処へ来るかわからないが。とにかく制球の良さは感じたのだ。
そして、クンカ王子が大きく振りかぶり……オーバーに球を投げる瞬間の指を私は見る。指に挟むように入れられたそれは……私の目の前で大きく落ちる。
スポン!!
大きく体勢を崩されてバットが空回る。ベースすれすれまで落ちたそれに私は対応出来なかった。
「!?」
「「「「!?」」」」
「あれなんや!?」
「うそやろ!?」
族長たちトキヤも驚いた表情で私達をみていた。
「空振り三振です」
「へ、変化球は卑怯よ」
「降らなくてもストライクです」
「くっ……ちょっとヤバい」
冷や汗をかきながら。私は息を整え、2打席目の挑戦を行う。そう、私は……最初はクンカ王子が挑戦者かと思ったのだが。
どうやら私が彼への挑戦者なのだと。たった3球で理解させられる。冗談抜きで練習してきている。
「女王陛下……次は横に曲がります」
「……」
「女王陛下?」
クンカ王子と目線が合う。捕球した王子の瞳に遊びを感じさせなかった。これは……確実に……真剣勝負なのだ。
「………」
王子が振りかぶり、そして……さっきと違った球を投げる。それは落ちる中で横に大きく動きストライクゾーンから外に球が逃げるように見えた。
もちろんストライクであり。ベースに○が表示される。
難しい逃げ球のように見えたが。ストライクに入って動いたので逃げた球でもなかった。芯をずらすために投げたのだろうが……
(当てるのも精一杯かしらね)
そう、私は判断する。握りは投げる瞬間に見えるため、球種はわかる。故に、狙い球を絞ろうと思ったのだ。
(高めに絶対に投げてこない……低めに集めてくる)
クンカ王子が捕球し、また大きく振りかぶる。今度は……そのまま速球であり。そして……内角低めに放られ私は体勢を崩す。
だが、崩したのは腰だけでそのまま内角の球をバットで振り上げ、ファールゾーンへ球が飛んでいく。
2ストになってしまったが私は気にせず。また、バットを構え直した。焦りを見せず堂々とし、世界が球場が小さくなった気がする。
「………」
「………」
すると……クンカ王子の表情に焦りが見て取れた。表情を一生懸命固めようとしているが……唇が震えている。小さな変化に私の感覚が息を吹き返す。
そう、遊びだが……ここは戦場だと震い起き出すのだ。
ゆっくりとなる。空気の中で……汗を拭ったクンカ王子が大きく振りかぶり。一球外しのボール球を投げる。完全の逃げた球。
だが、甘く。私のバットの先に届く距離であり。ゆっくりと遅くなる球に私は大きくしなるバットを当て、ボールを引っ張っるように打ち返す。
ガッキイイイイイイイイン!!
当たった瞬間、クンカ王子が後ろを見た後。私はバットを投げる。先っちょだったがボールに力を加えられた。
ゴオン!!
そして……遠くの木の座席に当たり、ボールが跳ねていく。
「……ほ、ホームランです。女王陛下」
「ふぅ、あら。スズメメさん。ボール球の要求は悪手だったわね」
「………いいえ。あんな球を……何でもないです。1勝1敗ですね。悪球打ちの打者だったんですね」
「ええ、そうね。甘い球だったわ」
「甘かったかな~?」
私は族長たちが息を飲む中でバットを取り、構える。クンカ王子が背中を向けたままからゆっくり向き直り。悔しそうな顔をした。わかる……失投したわけではないだろう。
(来る!!)
私がそう思い。バットを強く握り、ギュッと音がするまで絞る。手の届く球は全て当てられると信じ……クンカ王子を睨みつけた。
するとクンカ王子が笑みを溢し……今さっきの緊張が嘘のように穏やかな表情をする。そして……その顔で投げられる球は……
ビュッ!! スパン!!
「!?」
全く落ちず。速球ど真ん中を投げられた。スズメメのミットには思った以上に高い位置にあり。私は困惑する。速球だったが……今さっきと違うのだ。
そう……投げられたら。何故か加速するようなそんな球だ。
(ああ、これが……ノビですね)
どこかで知った知識を思い出す。やっかいこのうえない球であり。それを頭にいれてバットを構えた。すると捕球したクンカ王子は……
カン!!
同じように全く同じコースに速球を投げつけて来たのだ。それを私はバットの下側であてて、ボールがベースの当たるほどに角度を変えてファールになる。
2スト。そう、もう後がない。だが……2球続けてなのだ。もう……わかる。
「なめてもらっちゃ困る」
「………」
そう、次もきっと同じコースだろう。だから私は……構える。当てたら絶対に場外へ叩き出すために。
「………」
「………」
誰かが喉の唾を飲む音が聞こえる。族長のだれか……私か……それともクンカ王子かわからない。静かに集中する私の耳に入る。行けると思った。
球が遅くなるほどに集中出来ていると。
クンカ王子が大きく全身を使い、強く踏み込みオーバーに球を投げる。速球のそれは私の思った通りのコースを描き……私はバットを出した。
だが……ゆっくり動くのは私のバットもそうだった。そう……私のバットの方が……遅い!!
ズバアアアアアアン!!
「……」
私は大きく大きくバットを振りかぶり。クンカ王子の球はしっかりと捕手のミットに収まったのだ。
そして……族長達が驚きながら私を見た後にトキヤを見る。そのトキヤはゆっくりと言葉をこぼした。
「野球に絶対勝つとか……ないんだよ。ネフィアの力だとしても無理なもんは無理な時もある」
一部の族長達がそれを聞き。私と同じようにバットを手に私に退けと手を振り。真剣な顔をして交代する。
5人の族長が野球に興味を示し、そして……ゆっくりとその魅力に浸かり出したのだった。
そう、私の負けにより。族長たちの私が勝つと言う事が砕け散った瞬間に。




