表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
438/732

第一回、英魔族長本会議


 新設された。会議場……数十人が座ることの出来る大きな大きな部屋で私は最後に顔を出さない。最初に顔を出すこともない。決められている時間にこればいいのだ。


 だから私は用意された魔王のドレス衣装に赤いマントを羽織り、トキヤを従えて扉を開けた。


 中にはすでにエルフ族長、ダークエルフ族長とアラクネ族長代理のカスガ代理長さんが座っている。この3人はこの都市が活動拠点なためだろう。


「おはよう、皆さん」


「「「おはようございます女王陛下」」」


 元々、王が最後に顔を出すのがいいだろうと言われていたが……私は迎える立場の方が好きである。まぁ、細かい所はすでに無礼講である。


「カスガさん……今日も綺麗ですね。殿方でも?」


「あ、ありがとうございます。いえ……殿方はまだですが。いつ、求婚されるかわからないので見た目には気を使ってます」


「いい人見つかるといいですね」


「はい!! トキヤ殿のような、ランスロット殿のような人間の方がいいんですけど……中々、厳しいです。冒険者もいらっしゃいますが……」


「トキヤとかランスロットさんとかの騎士は人気ですぐに結婚してしまいますからね。というより、方や亡命、方や裏切り者。国にはじかれた者です」


「芯をもってはじかれた方々です。はぁ、多忙な毎日が辛いですね……今は冒険者となって帝国など探しに行く者もいるのに」


 昆虫亜人族のカスガさんは白いドレスを着込みながら大きいため息をつく。透明な羽根をじゃましないように椅子は背もたれがない。透明な羽根が窓から差し込む太陽明かりでキラキラと輝いていた。ただ……仕事で出会いがないと嘆くのは致し方ないような気もする。


「えっと……頑張ってくださいとしか言えません……」


「カスガさん。エルフ族なら何人かを紹介させていただきますよ」


「人間の方で劇的な運命の出会いを信じたいです。エルフ族長ありがとうございます。すいません夢見がちで」


「いえいえ、カスガさんの気持ちもわかります」


 族長同士、世間話を初め。色々な情報が飛び交う。面白い話から複雑な情報など。多くを暴露する。そんな中でゆっくりゆっくりと知らぬ間に族長が増えていく。


 気づいたらほとんど揃い。最後に二人の族長、大きな巨体に筋肉隆々としたトロール族長と身長が低いがオーク族長が入ってきた瞬間に皆が揃ったと思い私を見つめた。それに答えるようにトキヤが手を叩き。その音で静まる。


「えぇ~揃いましたので本会議を行いたいと思います」


「トキヤ、その前に少しお話を。皆さん、遠路遥々。我が都へ来ていただきありがとうございます。そして、多くの災難がございました。一部の族長はその旨は大変お疲れ様でした。ですがこれからもまだ終わった訳ではないので……それを含めて本会議を行わせていただきます」


「では、議題を書きながら説明する」


 トキヤが流暢に用意していた黒板に議題を書く。各々に茶色い紙と筆記用具を渡す。カスガさんなど、書けない人にはエルフ族長の教育した婬魔の使用人がつく。オーク族長は拳の武人ぽい見た目に反して文字書き出来るらしい。


 いや、旅行。またはギルドカードを持つためには名前ぐらい書けなければいけないので物書き出来るのだろう。物書きだけで出来る事が増える時代がきつつある。これも考えないといけない。いや……たぶんもう族長で話がついてるかも。


 小娘一人の知恵なぞたかが知れている。質問として残しておこう。


「ネフィア……おい、ネフィア」


「あっ……はい。なんでしょう?」


「なに考えに耽ってるんだ。お前がまず話をするんだぞ」


「えっと……そうだったわね。ごめんなさい。違う事考えてたわ。また後で話をする。そうね……何を話そうか……」


「ありがたい話かな?」


 誘導ありがとうトキヤ。筋が決まった。


「ありがたい話ね……基本原則に関わる話に通じる話をしましょう。ありがたい話ではないですね。考え方の話です」


 私はそういい、カップの紅茶を飲み干す。そしてそれを置き、トキヤに合図をする。するとトキヤは魔方陣を描きそこから小さな水球を生み、私の掌へのせた。


 掌で回り、うねる水球を眺めながら……私は話をする。多くの事を目で見てきた後に思う事を。


「ここに水がございます。我々はこの水のようにうねり。集まって流れております。違っているようで似ているのです」


 それをゆっくり掌の上で転がす。


「この水はどうなるでしょうか? 時間を経てば渇くでしょうか? 今は流れがありますが流れがなくなれば淀むでしょうか? また、カップにこのように入れて維持できてますが……カップが割れ漏れてしまうかもしれません。逆に……水が増え溢れてこぼれて……床に堕ちるかもしれません」


 カップに優しく入れ……それの取っ手を掴み。ひっくり返す。中に入ってた水が魔法の力を失い私の膝の上へと堕ちる。


「またはこのように水を溢ぼす者も生まれるかもしれません。カップを壊すのもいるでしょう。そして……新たに作る者もいる」


 私は静かにカップを置き、言葉を続ける。


「そう……我々は水のように淀まないように動き。溢れないようの維持をし、割れないように護ったり溢れてもいいように外にもっと大きいグラス……国を用意したりとこれから多くの事をやっていかないといけません。しかし……その維持を怠ると。たちまち水は机に広がるでしょう」


 私はカップにトキヤが新たな水を用意したのを見せる。


「しかし、広がった水も空気となった水もこうして集まりカップに入りました。我々は何度も何度もずっと……カップを壊し、作ってきました。カップも永遠はありません……故にいつか。また、我々は床に溢れるでしょう」


 族長の中に厳しい顔をする者が現れる。そうだ、私が言う言葉の意味を知れば知るほど……恐ろしい事を言っているのだ。だが……私が女王ならこれだけは通す。これだけは原則とする。そう、これが『基本原則』だ。


「しかし、溢れた、こぼれた世界は民に辛い時代です。故に私たちは多くの困難を越え、国という器を長く維持出来るようにしなくちゃいけません。そして……器の維持が出来ないのなら!! 新たな器を生み出す時間を短くすることを目指すためにも用意しなければなりません。この水をこのまま維持するためには……我々は多くの努力を必要とします」


 強い言葉を考える。色々な言葉を考えた。しかし……私には分かりやすい言葉見つからなかった。だから、軽い言葉にする。


「宣言します。私が貴方たちに伝える事は『英魔は陽によって凍らずの水である』です。この言葉に多くの解釈を持ってください。多くの災難を予想してください。多くの幸せを求めてください。やっと温かく流れるようになったこの時代を長くしてください。以上です」


 私は凡人である。うまく伝わればいいと一生懸命に席を立って宣言していた。立っていることに気付いたのはいい終えてからだった。


 誰も、何も言わない。沈黙の中でオーク族長が立ち上がる。その手は震えており。厳しくも逞しい表情をする。すると一人づつ席から立ち上がる。同じように使命をおびた表情を。


 そして……そのまま。私に向かって胸に手を当て敬礼をする。そういえば今日は敬礼をしていなかったと思う。そして代表としてエルフ族長が言葉を溢す。


「我々にその力があるでしょうか?」


「なければここにこんな顔ぶれは揃わない」


 堂々とエルフ族長に言葉を返した。臆する事はしない。


「……わかりました。使命を全うします」


 そう、エルフ族長が宣言し、敬礼をやめて手を叩いた。すると段取りするように彼は明るい声で言う。


「さぁ、気を緩めて会議しますよ。ちょっと思った以上に深い深い話でお堅くなりましたが。こんなんじゃ、凍ってしまいます。さぁさぁ~席に座りましょう」


 エルフ族長はそういい一番に座る。私も座り……各々があれこれと隣の席の人と喋り出す。


 それを見ながら……トキヤが再度手を叩き。本会議の続行を指揮する。


 決める事が多い。考えることの多い本会議は休憩を挟みながら……深夜までかかることとなった。







 深夜、終わりの宣言はせず。睡眠し、再度……朝から本会議を行う。その前に私は寝室へ向かう廊下でトキヤに聞かれる。


「ネフィア、水の話はどこで考えたんだ?」


 私はトキヤの手を掴みながら空いた手で首をかしげる。


「さぁ? ただ……私達は流れていると考えた時……似ているなって思ったの」


「似ているな……海とも解釈できる」


「そうですね。海だとスケール大きいから見えずらいですけど。あれも器ですよね」


「……ネフィア。お前の言う器は国だろう」


「そうですね。国です」


「国はな、一人の王で始まる。ネフィア、器はお前だと思う」


「違いますよ。トキヤ」


 私は彼に微笑みかける。


「こんな器がいいなと思った皆で合わさって作るもんですよ。色も形も材質もバラバラで、それでも壊れず溢れず漏れずにしっかりと受け止めている。材質同士、しっかり結びつかなければ出来ません。トキヤさん……私一人では無理ですよ。穴を開ける事はできますけどね」


「……ネフィア。お前……その思考何処から来る?」


「世界が私に教えてくれた気がします。わかりませんが……生きてきた。それが原因でしょう」


 私はトキヤと手を繋いで歩く。空いた手は何も繋がっていないが……確かに繋がっていた。


「……新たな時代。平和が長く続くといいですね」


「ああ、続くといいな」


 私は彼に笑いかけて……歩き続ける。あの、逃避行から首都へ向かおうと言ったあの日から変わらずに。








 
















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ