得体の知れない悪魔
私がそれを聞いた時、耳を疑った。都市オペラハウスで負傷者の治療に明け暮れていたときだった。テント内で竜人は私に伝言があった。
「首都で大量殺人が行われ。殺人鬼が恐怖を撒き散らしております。女王陛下……エルフ族長、ダークエルフ族長が力をお貸しくださいと言っております」
「……二人でも無理なのね」
「はい、助けをお願いします!!」
竜人が私に頭を垂れて、状況を説明してくれる。得体の知れない殺人鬼が好き勝手に荒らす状況を説明を受け、負傷者たち多くの者が行ってあげてくださいと懇願し私は頷いた。後は我々でなんとかするといい。私の助けを必要とする人達にと背中を押された。
もちろん、すぐに行くつもりだった。竜人は全力で飛び、疲弊していたがすぐに飛ぶと志願したが、私がそれを静止させ……そのまま私は旦那を皆に任せて一人で飛んで来た。思い出す事はそれだけである。
不眠で飛び、そして……帰って来たときには火が上がり、暴動の最中であった。その中で、大通りで戦う姿を見たときに背筋が冷える。
私に似た人がインフェと戦っていたのだ。その戦う声を聞くと噂の殺人鬼であり。丸腰は危ないと慌てて城へ降り立ち武具を引っ張り出して帰って来たときにはエメリアお姉さんが戦っていたのだ。それに割り込む形で炎球を落とし、もう一人の私と出会った。
ドッペルゲンガーと言う亜人を思い出すほど鏡写しのように似ており。白と黒、明るさと暗さなど正反対のイメージが湧く。
「英魔族女王、ネフィアよ!! よくもまぁ人に似せた姿で、趣味の悪い事をやってくれましたね!!」
「ははははははは!!」
奇っ怪に口が裂けそうな程、品のない笑いに私は睨み付ける。黒い剣や、黒い鎧に邪悪な声が響き渡る。
「どうですか!! この劇場!! いい場でしょ!! 整った現実の残酷劇!! 私はね……もうたまらなくうれしいの。主役!! 貼り付けられる聖女の姿!! それに火をくべて焼けば最高じゃない!!」
「ええ……最悪な物ですね。斬る」
「おっと、待って待って!! 折角主役が来たんだし!! 色々説明してさぁ!! ミステリーのネタばらしをしようよ!!」
私は駆け抜けて、剣を引き抜き。炎の斬り付けを行う。ブワッと舞う炎にクイーンが黒い剣で振り払い。同じように黒い炎で斬りつけを真似てくる。
ギャキャアン!!
金属同士のぶつかる音が響き小競り合いをする。力は私の方が強く押し込める。
「あっ!? いや、強い!? 女ぽくない!? ああ、バカ力の女ってかわいくないよ」
「黙れ」
クイーンの言葉に私は苛立つ。気にしている事をこいつは!! 初対面にここまで言われるのは癪だった。
「おっと……言われたくないのね? 魔物女」
「人をバカにして楽しい?」
「スッゴい楽しい!! 他の人も強いけど!! こんな死ぬかもしれないと思うと!! 高まって……高まって……濡れてしまうわ!!」
目の前の女性がずっと笑い続け。剣に力を入れて私の剣を弾く。その瞬間に回転し、黒い翼で凪ぎ払おうとする。私が取った防御は空いた手で炎を生み出し……黒い翼に触れる。
だが、黒い翼は炎に一切。溶けず燃えず。消し去る。
「ん!?」
黒い翼に当たり、大きく吹き飛ばされる。だが、地面を転がらず翼を出し。浮力を得て滑り……大きく大きく距離を離すことになる。
「受け身は上手くできた。でも……」
炎が効かなかった事が気になり、手を見る。何も起きておらずただただ魔力だけが失われている。抜けるようなそんな気がし……少し考えて剣を納め。炎の槍を精製し凝縮。炎の塊の炎球をクイーンに投げつけた。当たれば一瞬でワイバーンさえ火だるまで穴も空く。
「ふふ……では、では手品と行きましょう」
私は避けない彼女を観察する。よけることもせず……右手に黒い炎を生み出し。その手で炎球を掴んだ。
すると……炎は黒い炎へと変わり。彼女の手から消え去る。
「ええ……」
「ふふ、驚きました? お客さん? 炎を生むものが居ればそれを消すものもいる。さぁ? 次は?」
「……」
考える。考えて、私は剣を掴み、地面を踏みしめて居合いの構えを取る。炎剣に魔力を流す。魔法のイメージはそのまま鳥をイメージする。
「結局、やることは変わらない。あなたをここで倒さないと危ない。都市に被害が出たとしても」
「被害大きかったですもんねぇ!! 狐のせいで……うんうん。火の鳥は強かったですか? いま……力が弱まってますけど。白虎ですか? それとも……婆さん狐? 誰と戦いました?」
「……」
ふと、私は疑問に思う。何故、そんなことを知っているのかと。
「だから、ネタばらしです!! 皆さんも言いたくないですか? 自分の秘密を、自分だけが知ってる話を!! 人に話して容認要求満たしたくないですか? そうでしょ?」
「……聞く耳もたない」
「いいえ、聞きたくなる。だって……あの狐に夢を見せたの私ですもの」
「夢を?」
「そうそう、想像して想像して」
クイーンが笑みを作り、大きな声で嬉しそうに話す。子供のイタズラを告白するように。
「ある一匹の老いた狐が居ました。彼女には足りない物がありました。そう、人の温もり、人の愛。冷えた心を熱するような熱い熱い熱情。だから……夢を見せた!! なんの夢を?」
私は背筋が冷えていく。頭を振って考えを払拭しようとする。想像してしまった。考えてしまう。
「答えは……幸せになった狐の夢を!! それも実態験を!! 拾われ、多くの者に受け入れられる九尾の夢をね!! そして……エリック族長という仮面の騎士への愛の物語を!! 十年!! そんな実態験がない? 夢だから嘘も混ぜてね!! 子供ができた。ああ、幸せだなと言うときに……醒めた」
背筋が体が震える。私は、怒りを覚える。角が生まれ、怒りが具現化する。燃え上がるほど熱くなる。
「醒めた。彼女はそれはまぁ!! 起きたときそれはもうお腹を触ってねぇ~夢の中の自分が現実か現実の方が夢なのかといった話で悩み。苦しんだ!! 十年の夢は!! 彼女を蝕み……凶行を走らせる。そして……殺された。ああ、かわいそうかわいそう。彼女は誰にも愛さない。お腹の子供なんて最初からいないねぇ!!」
「おまえはあああああああああ!!」
他人を弄んだ。許せない。愛を冒涜している。吐き気がする悪意。勝てない凶行に走る理由が……悲しすぎる。想像出来るからこそ許せない。許してなるものか!!
「フフフ!! 怒った? 他人でしょ? あなたが狩り取り英雄になった。ほめてよ!! 英雄にさせてあげたんだから」
「死ね!! 歪んだ悪魔め!!」
右手で剣を抜き、左手に緑の聖剣を生み出し。クイーンに力一杯斬り落とす。地面に剣筋が刻まれる中でフワッと私の上を飛び。クイーンはニタニタと私を笑う。
「フフフ、子供……殺された人はそこで怒るね。ねぇねぇ!! 答えて!! あなたもそうやって多くの人の命を殺し、生まれてくる筈だった者も刈り取って英雄になった。私も……多くを刈り取った。同じ英雄じゃない?」
「お前と一緒にするなああああああ!!」
ガッキンッッッ!!
黒い翼に私の剣が防がれる。大石を斬っているような鈍い響きが私の両手に伝わる。
「フフフ、憎悪が私を強くする。あなたに殺された者、あなたが上に立つためにどれだけ骨が積まれたかわかる? ねぇ、ヒーローなんでしょ? ヒーローが人を殺しちゃいけないなぁ!!」
「……黙れ!!」
私は魔力を込めて6枚の翼を広げる。魔力が発散し、大きく大きく声をあげる。
「私と一緒に吹っ飛べ!! 十二翼の爆炎!!」
発散した魔力が炎となり連続した爆発が私たちを巻き込む。爆発後に炎となり、都市を照らしてくれる。目の前が炎で何も見えず。体の節々に痛みを伴いながら、自分の炎の間を抜けて空へ逃げる。
私が居た中心が炎の渦となって焼け野原のように丸く地獄の釜となる。ドロドロに溶けた地面に私は……悪態を吐こうとした瞬間だった。
中心で黒い塊が生まれそれが炎を吸い込みその中心を目指して渦を巻き。ドロドロだったり炎が上がる可燃物がすべて鎮火する。熱も何もかも奪う黒い塊の目を奪われ凝視し、クイーンを見ようとした瞬間だった。
「はぁい。こっち……」
後ろで声がし振り向く。すると……夜の暗闇から突然クイーンが現れ私の首を掴み。そのまま……ズンっと重さを感じ
た。
「な、に!?」
「風魔法に黒魔法。行くよー!! 地へ堕ちよう一緒に!! あのデラスティの必殺技だよぉ!! ソニックバレット!!」
ゴオオ!! ガバァアアアアアアアアアン!!
背中から、強い衝撃と。痛みと体全身が砕ける感覚がし……地面に食い込まされる。息が吸えなくなり、口の中で血が奥から溢れる。内臓や肺が骨で突き刺さり……そのまま目の前のクイーンが立ち上がり腹を踏む。子宮の辺りを。
「あーあ、あーあ。子宮、壊れたかなぁ? 子供生めないねぇ……どんなに強力な皮膚、強力な魔法防御でも。中身はねぇ。あーあ、声も出せないか?」
私は……意識が遠く遠くなりそうになる。負けると思う。ああ、そっか。トキヤが言ってた。大技の後の隙を……どうして今。思い出すかな。
「……トキヤ。私が貰うね? ああ、回復されちゃう。燃やそう」
力がはいらない……そんな私に黒い炎が体に触れる。回復間に合わず。ゆっくりと焦げる。
「回復する前に炎で燃やし続けよう。聖女の最後は火炙りが通例だから……」
諦めたく……ない……ない……けど……ね……む……い……
「……あーあ。おやすみ」
………




