夜が始まる
クイーンは誰もいない城壁に座り。日が暮れるのを待っていた。首都イヴァリースで衛兵が厳戒体制を敷く中の、ワイングラスに赤いワインを注ぎ、太陽を肴に口に含む。
そんな彼女に悪魔の男性がゆっくりと影から現れて声をかけた。
「クイーンのあねさん……準備出来やした」
「……そう。なら、さようなら。組織も全部あげる」
「ありがとうでさ。それよりもあねさん……あんたは一体何者なんでさ? ここまでしてくれるなんて」
「そっか、そっか、人は知りたがる。知りたがる……けど。それが命とりよ……」
「……」
「まぁ、お酒も全部、気持ち良かったし、楽しかったから。教えてあげる!!」
一枚のトランプを見せつけて真面目な表情で答える。
「クイーン。女王よ。それ以上でそれ以下でもないわ」
「……わかりました。組織、貰います」
「ふふ、じゃぁね~組長。王になれたらよろしくぅ~断頭台用意しといてね。女王の首を落としたいでしょう?」
クイーンが自分の首をトランプでスッと斬る動作をする。ネフィアに似た女性がネフィアの首を斬る動作をし、悪魔の男性はニヤニヤと口を歪ました。
「………」
しかし、何も言わず悪魔は去る。クイーンはトランプを捨て、笑みを作ったままワインを一気に飲み干しボタボタと溢した。
「ふふふ!! できる私ならね……できるわ!!」
そしてそうこうしていると太陽が沈みきり、立ち上がった。クイーンはグラスを手から落とし、グラスがゆっくりと落ちる中で大きく大きく声をあげる。都市に届けるように。
「ふふふ!! はははは!! ようこそ!! おはよう!! こんにちは!! 我が名前はクイーン!! さぁさぁ始まりました残酷劇!! 彩りはたった赤1色!!」
大きく声量は夜の風に乗り都市を覆う。夜の幕は落ち、誰も見ていなのを知りながらクイーンは石壁の上で踊り出す。
「染めて魅せましょう!! 石畳を赤い絨毯に!! 壁を赤いカーテンに!! アンコールは!! 皆の綺麗なお声を頂戴!! 大歓声は心地いいの!!」
語りかけるように、大きく手を広げてクイーンは翼を広げる。
「さぁ!! 怖い怖い悪夢の始まり始まり!! さぁ笑いましょう」
ガラスのグラスが地面に落ち、破片が散らばる。その瞬間だった……都市の至る所から火の手が上がり明るさを生む。多くの悲鳴がクイーンの耳に届き、大きく笑い……壁から飛びたち大きな大通りに降り立つ。
バサッ!!
「ふふふ!!」
機嫌なクイーンは大通りの中心から城へ向かって歩き出した。誰にも止められず。誰にも声をかけらず。見たものは皆、逃げ惑うほど。恐怖を振り撒きながら。彼女はくるくる周りながら、一歩一歩踏み出す。
楽しそうに……始まったばかりの夜に彼女は堪能する。
*
「……ちっ」
夜になるその瞬間に……都市内で大量の爆発と燃え盛る炎が上がり、多くの悲鳴、怒声、泣声、歓声が全て渦巻き。夜を騒がしい者にする。
「義兄さんの舌打ち、久しぶりに聞きました」
「……バルバトス。許せるか?」
「全く……許せませんね!!」
ダークエルフ族長とエルフ族長が怒りを露にし、城から全ての状況を見ていた。そして、逐一耳元にかわいい夢魔の声が二人に届けられる。城の上から逐次報告をしながら民間人を護る事を順位付けた。
「脱走者の一斉蜂起……女王陛下を恨む者共を焚き付けたわけだ」
「……まぁ、女王不在でわからないでもないですが。少し、舐められた物ですね」
「おまえは行くのか?」
「……ええ、衛兵ですから。皆には目の前の敵を狩れと言ってます」
「おまえの所はいいな、指示せずの色々する」
「簡単な決まった事をするだけですからね。都市を護れと言う事を!!」
黒い鎧に兜を被り、斧槍を手に窓から飛び降りるダークエルフ族長は無事着地し、駆け出す。一人の衛兵として暴徒を狩りに野獣のように吠えた。
「エルフ族長さま!! 大通りにクイーンが!!」
「……全員を大通りから下げる。準備をしてください。セレファに連絡を」
「はい!!」
エルフ族長は耳元で聞こえる夢魔の声に答え指示をし、弓を構え、背後にある大樽に入った矢を一本掴み弦を引く。
「……屋根に上がるのをここで狙撃します」
「エルフ族長!! セレファ様がクイーン様と出会いました!!」
「……10分持ってください」
「はい!! お伝えします!!」
エルフ族長は矢を放ち、屋根に上がった遠い所で登った悪魔一人の頭を撃ち抜く。
「……1」
そして、彼は作業をするように見える者を撃ち抜いて行き夜は始まった。




