英魔族、九尾の妖狐
そこは稲穂が茂り、金色の実を多くつける時期。狐の姿で走り回る者が鼠を取っていた時代。私はそこで立ち、風を感じていた。何周目の景色。
心証風景。懐かしい、そう懐かしい子供の時代。鼠を食べてた時代。
力も弱く。ただただ逃げ惑っていた時代。そう、今もそんな逃げ惑っている。
「追いかけろ!!」
「どこ行った!!」
人に追いかけられ逃げ、隠れ。石を投げられる生まれだった。生きるのに必死な人生。そして……
「見つけた」
「ひっ!?」
悲鳴をあげて燃えていく人々。私は逃げる事をやめた日でもだった。
「……お主が殺めたのは多いの」
「……」
「村も焼き払われる。あなたを匿った家も皆殺し」
「……」
「多くの者を自分のために殺めたのじゃ」
草原に声が響き、今度は燃える家々が目につく。私をバカにし……石を投げた子供たちが泣きながら逃げている。
「人を不幸にし、国を傾ける」
私は若い時の過ち。若い時の過ちが目に入れられる。忘れていた訳じゃない。思い出したくなかった。
「見えないように。思い出したくないように逃げて逃げてそして……」
燃える家々に私の知る人々が混じっていく。都市の住人、衛兵が含まれる倒れていき。血だまりをつくって……ドロドロと地面が濡れていく。その中に仮面が落ちており私はそれを無言で拾った。
「愛しい者もいつか、お主が不幸にするじゃろうて」
「……」
私は仮面を地面に置き立ち上がる。すると目の前に稲荷がニヤニヤしながら尻尾のような綱で私の体を縛る。強力な縛るで身動きがとれなくなった私に彼女は顎に手を添えて撫でて深い笑みを浮かべる。
「ふふ、無表情でそろそろいいかしらね。いっぱいいっぱい見えたでしょ」
「……」
「では、あなたを消してあげる」
「……」
腹から大きく笑いたかった。だから……
大きく口を開けて大きく息を吸いこんだ。
「ふふふ、はははははははははは!!」
「なに、あなた精神壊れて!?」
「壊れて? 悪夢を見せて色々と心を殺そうとしてるの見え見えなのじゃが? お主、ぬるいぬるいの。演技に惑わされてやっと目の前にきたのぉ」
バシュン!!
綱をちぎり、そして……九尾を見せびらかせるようにヨウコはフヨフヨと尻尾を揺らす。
「演目"愚かな愚かな小狐"じゃな」
スッと、ヨウコは狐火を手から出し。青い炎を生み出す。
「お主との決着、つけようぞ。四神ももうおらんじゃろ」
「はははははははははは!! なんじゃなんじゃ……精神の世界でワシに勝とうというのか小娘や。何千年も生きたワシに。四神はワシが育てたペットじゃからまた作るから関係ないの。名を与えた鳥、亀、猫、蛇じゃ」
稲荷の零狐は大きな大きな巨大な狐へと変化する。
「なら、一人じゃの……」
逆にスッと後ろから多くの人々が現れる。それは……ヨウコの記憶で出会った人々。ファン、演者のライバル、都市の衛兵たちが小さな火を狐の手に集める。
「確かにの過去は辛いのじゃ、思い出したくはないのじゃが……今はの」
新たに登場したネフィアがゆっくり後ろに近付いて青い炎に触れ、赤い炎へと変えた。そして、そのまま前へ進み勇敢な背中を見せて霧となって消える。
「やらかしたら怒ってくれる奴がいる」
背後の肩に仮面のつけた男。悪魔のエリックが手を置き、そのまま振り向いたヨウコに笑みを浮かべ……仮面を外して優しい瞳で頷く。
「こんな私でも愛してくれる。愛せる者がいる」
空間が切り替わり稲穂の草原になり、大きな狐と相対し、ゆっくりと赤い狐火の掌を握りしめる。
「私がお前に勝てると信じて待っている皆がいるんのじゃ!!」
「ならば私がそれに取って変わってやろうと言うのじゃよ!!」
大きな太陽のような狐火を放つ零狐に九尾は隣のエリックからのデーモンランスをスッと手から借り。掌にあった炎で槍は炙られ茜色に染まる。稲穂が黄金に輝く穂を揺らして風が舞う。
目の前に迫る狐火に向かって、九尾はそれを構え……貫く事を信じて投げつける。
「デーモン!! ラアアアアアアアンス!!」
ゴバアアアアアアアアン!!
投げつけた槍は稲穂など散らし、そして狐火を突抜け、零狐の腹部に刺さる。刺さったまま動かず零狐は笑いだした。
「……ふふ、だめじゃぞ。夢じゃからな。効かぬのじゃ」
「そうです。夢ですね。だから……私の領域でもある」
九尾に槍を貸した男が語る。夢の偽物ではないと零狐は気づく。
「お主!? そやつの!! 夢に!?」
「お初にお目にかかります。族長エリックです。そして……あなたが夢と幻想と思っているでしょう我々は」
エリックの九尾ヨウコの後ろにいる人たちが大きな大きな声で叫ぶ。
「やっちまえ!! ヨウコの姉貴!!」
「姉さん!!」
「あんたこと気にくわないけど!! その化け狐よりましよ!! 勝ちなさい!!」
「ヨウコ!! あなたなら大丈夫!! だって私信じてるよ!!」
多くの声が声援が狐の腹に刺さった槍に力を与える。ブワッと炎が生まれて零狐を焼き出す。
「あがぁああ!? 何故じゃ!? ワシの夢じゃろ!?」
「東方の稲荷狐。そち、勉強不足じゃな……ワシの親友、魔とそして……旦那は」
九尾は指を差して勝ち誇って宣言する。
「英魔族の最強の種族。夢魔じゃぞ!!」
槍が震え爆発し、零狐の絶叫とともに焼き尽くすのだった。
*
「ん……ふぅ。なんじゃ。大層偉そうにしてたわりにあっさりじゃの」
ゆっくり九尾は目を覚ます。
「それは……私たちが強かったからですね。玄武倒して間に合いましたね」
族長エリックの腕の中で。
「そうかのぉ。案外なんとかなったかものぉ。でも……ありがとう。エリック。あなたのお陰で忌々しく痛みを伴う過去を乗り越えて生きていける」
「同じですよ。奴隷だった私もね」
「ふふ」
「おいおい、二人きりの世界かよ」
「全く……族長どのは」
「悔しいわね。私も彼を好きだったのに」
「仕方ないわ、敵わないわよ」
「……」
ヨウコは驚いた表情で周りを見ると都市の人々が成り行きを見守っていたのだ。
「なんじゃ。ハッタリかと思ったぞ。みんなありがとうの……」
「おやすみヨウコ。よく頑張った」
九尾は目を閉じ幸せそうに婬魔の男の夢に堕ちるのだった。




