狼煙(狐煙)
「と言うわけなのじゃ」
屋敷に彼女を連れて帰って来た時、衛兵がドタバタと動き回っていた。慌ただしい中で報告されている情報をまとめていたトキヤとエリックに彼女を紹介した。
「「……」」
「と言うわけ。トキヤ」
「「……」」
「「よろしく(のじゃ)」」
「お前の奥さんそっちな」「ええ、女王陛下はお任せします」
私はトキヤに肩を捕まれ。そのまま個室に連れていき鍵を閉められる。タナカさんは衛兵に連れられ何処かへ閉じ込められたようだ。
「……なんで怒るのぉ」
「……怒る訳じゃない。一応、注意だ。接触したらすぐに帰ってこい。紐で縛ってもいい。敵かもしれないだろ」
「いやぁそんなことないよ」
「……親しくなり懐に入りこみ暗殺するのは常套手段だ。狼煙なぞ余計にここに居ることを示す方法だしあまりオススメしない」
「バレてるっしょもう……いいじゃんか!!」
「……それは俺達が判断する。情に脆すぎだお前は」
「……だって。人を信じるのは普通の事でしょ? 大丈夫。もし嘘でも、その時はその時だよ」
スッと剣を抜き前に突き出し。意思表明のような物でトキヤは理解してくれるだろう。
「わかった。お前がそう言うなら1度は目を瞑ろう。ただ……狼煙かぁ」
「仲間が散々になってるってさ」
「……まぁ本当に仲間が来るかな」
「どういうこと? 敵も来るってこと?」
「それもあるが怪しくて来ないかもな。あまりにも罠とも見える。露骨な」
「……うーむ」
「まぁ、狼煙をあげるのは好きにしろ。その火に近づく虫は叩く。それで行こうか」
「トキヤ!? ありがとう!! 早速言ってくる!!」
「ああ、俺はこの屋敷を城のように強固にしておく。籠城しなくちゃいけないかもな」
「護る?」
「……攻めてもいいが帰る場所は残すべきだ。一応な、エリックの家だぞ」
「なら爆破させてもいいね」
「……やめろよ」
狼煙を上げてくれる事になった。
*
狼煙の上げ方はそこそこ面倒だった。薪をするだけではダメらしく。順を追って準備をタナカが行い、途中何やら札と尻尾の毛を入れて呪文を唱え煙に色をつける。すると空に青い色がついた煙が風に乗ってプカプカと浮いて流れていくのだ。一応、都市内の火は厳禁であるが今回は特例として衛兵に通達されている。立派な情報伝達力である。
伝わった結果、中には狼煙の見学者もいるし、私は私でサインを求められたのをヨウコがやんわり断ってくれてた事あった。狼煙よりも噂や衛兵の伝達で伝わってそうだ。
「できました」
「そうか、出来たかの。椅子も持ってきたのじゃ……ゆっくり待つとええ」
「……はい」
ヨウコがせせっと椅子を用意し、私は買ってきたジャガ芋を串に刺して狼煙の近くで炙る。
「おい、ネフィア。なんじゃそれ……」
「じゃがいも」
「いや、じゃがいもじゃぁなくての……」
「焼いてる。焦げないようにしっかりと見てる。バターと
バジル混ぜたのつけて食べるよ。ヨウコの分もタナカさんの分もあるから安心して」
「はぁ、呑気じゃのぉ。タナカを見てみろ緊張しておるじゃろ。ああいう状況じゃ」
彼女を見ると真剣な眼差しでじゃがいもをみていた。やっぱりいいじゃん。じゃがいも。
「仕事するにも腹になければ何もできない。戦うならば尚更。今、食い。力を蓄えるのが一番。腹が満たせば自ずと剣を握る力が出る」
「おぬしのぉ……武人みたいなことを……」
「武人じゃないですよ。普通、普通の英魔の女王やってます」
「私もその……多くの女性を見てきましたが。ここまで武人然とした方も珍しいですね。私たちは影の者なので……そういう方はその……どういった反応すればいいか……」
「武人とか言われるのちょっと嫌だから。姫と言って」
「ネフィア……問うが。戦時中帝国の前で旗を掲げて陣を横切ったじゃろ」
「したけど。女王らしいじゃん」
「単騎で突っ込んだじゃろ」
「目の前に敵がいたからね」
「ネフィア、噂で聞いたがあの目覚めた天災の竜を真正面から迎え打ったと言うことも聞いておる」
「……あれは皆のおかげで正面だったけどさぁ。私じゃない秘蔵っ子が仕留めたんだよ」
「……思えば。名騎士の名にネフィアの名があるの~。今も鎧を着ておるし……活躍を見れば向こうでは武神とも言えるのじゃろ」
「大陸の王はスケールも器も何もかも常人では何いのですね……」
ちょっと失礼な気がして来たね。
「じゃがいもいらないの?」
「いるのじゃ」
「ほらぁ……切り込み入れて皿に乗せるからね」
焼いたじゃがいもを皿に乗せて切り込みを入れてからバターを乗せる。そのままホクホクしたじゃがいもをタナカさんの分も用意した。
「……変わった人ですね。わたしが知っている物語の人とは大違いです」
「……そうじゃろ。変わっておる」
「そんな変人みたいに言わないで」
「変人じゃろ。本当に……色々功績も大陸の長にもなれるじゃろうに。偉そうにせず。もうちょい自慢してもえんじゃないかい?」
「旦那かっこいい」
「いや、私の旦那のがかっこいい」
「……」「……」
何とも言えない空気になったあと私が口を開く。
「まぁ、わからない事はないです。確かに私はここまで上がって来てしまいましたが。私にとってはいつもと変わらず生きてきた結果ですよ」
「そうじゃろうか?」
「そうです」
私はじゃがいもを皿に置き。椅子から立ち上がって空を見る。
「もしも、力を持ち得た場合。私ではなくその人が上に立っていたでしょう。だけどそれを持ち得ていたのはたまたま私だっただけです。そして、私は私の考えで動き当然のように生きてきました。結果……英魔の女王と言う事になっただけで特別な事なんて私はやって来ていないとおもいますけどね」
「ネフィア、常人はお主のように生きては行けぬじゃよ」
「わかってます。常識外なのもわかってます。だけど……常識外であることを知るのは常識を知らないとわからないですよ。まぁ、私は私の思うままの幸せを目指して生きていきますよ。ほんの少し幸せを分けるだけです」
「……」
「タナカよ。なんじゃ? 黙ってじゃがいも眺めて」
「いえ。なんか話を聞いて不思議な気持ちになりました。何か……わからないですけど。ああ、この人は王なんだと思いました」
「……そうじゃろうなぁ」
「今の話で何処が王なのかさっぱりです。ただ、王は……」
私は上空に箸で刺したじゃがいもを掲げる。
「天が選ぶ。そう、私は王に聞きました」
「……じゃがいも」
「しまらないのじゃ。食べ物で遊ぶなのじゃ」
クスクスとヨウコが笑い。私はそのままホクホクのじゃがいもを堪能するのだった。




