黒狐
「トキヤ……どうやってこれを?」
「なに、路地裏で情報を聞いていたら。ちょっと変な余所者がわかる奴から居場所を聞いて捕まえわけだが。死んでしまったな。口を強く噛んで自害した」
私は飄々としているトキヤが持ってきた敵であろう死体に驚きつつもじっくりと見た。エリックが首を傾げて死体を指差す。
「トキヤ殿……死んでいる者を持ってきても……」
「そんなことはない。今から色々と調べる。ちょうどここに夢魔もいるしな……エリックこれがお前の敵だ」
「姿は知っておりますよ……ただ死んでは口を割れませんよ」
「いいや、武器はこの刀だ。小刀と言って刀よりも短く。ナイフよりも長い武器で、直刀という刺すに特化した形だ。服を脱がしたらわかることもある」
ビリビリ……
黒装束を脱がすと小さい山が二つ見えた。女性らしい。ただし発情するバカはいない。淡々とトキヤが言葉を口にする。
「性別は女性。耳や尻尾があり。狐の英魔族の尻尾に似ている。口を噛んで死んだが……舌を噛みきって死ぬではないな……口の中を見ると……なにやらあるな」
ズボズボ
トキヤが口に手を突っ込み顎を外して何やら引き抜く。それを見せてくれたものは噛みつぶれた歯だった。トキヤは臭いをかぎ首を振る。
「独特な臭いがするがわからない。これは毒かもしれないな。これを噛み砕き飲み込み自害し、情報を話さないようにする。よく訓練された影の者だな。おれはそんな事出来ないから上を行く忠誠心か使命を持っている。やる気満々と精鋭レベルがここに来ている事がわかるな」
「トキヤ……確かに自害しなさそうだね」
「お前に逢うまで死ねるわけないだろ……例え同じように暗殺者でも生き続けてネフィア・ネロリリスに逢わなくちゃいけなかったからな」
「と、トキヤ!?」
「ふっ……お前の笑顔。見ずに死ねない。ああ、何度でもな」
「トキヤぁあ」
ぎゅっ
包容、そして囁く愛の言葉……キスをするために目を閉じ……
「おい!! この糞バカっプル!! 死体の側でラブラブするのをやめるのじゃ!!」
「あっ……」「あ」
「はぁ」
ヨウコに怒られて慌てて彼から離れる。一つ咳をトキヤが行い話を続けた。
「黒い服は黒装束と言い。影や夜に見えにくくする装備だ。動きやすいように防具は胸に当てなど最低限の気休め………持ち物はと」
トキヤが死体を服を脱がして装備を見つける。
「木の箱に札が入ってる。文字として4属性にちなんだ文字と封印と書かれているな」
「それは……なつかしいのぉ。呪符と言うて呪いを和紙から吐き出して相手に害を与えるのじゃ。ここで言う魔導書と一緒じゃが。魔導書は媒介、何回も使う魔法具。しかしこれは一回使いきりの魔法具じゃな」
「……使えるか? ヨウコ嬢?」
「ワシはそんな物を使わずとも威力ある魔法を打てるからの。使ったことがないのじゃ。まぁそこそこ便利らしいのぉ」
ようは、誰でも扱える武器。大衆や魔法使いの下位が使うようなものなのだろう。誰でも扱えるからこその便利さが売りなのだろうし即席なのも良さそうだ。
「ほれ、エリックにやるよ。鹵獲品だ。使い方は調べてくれ。動作でもなんでもいい。知ればその動作前に倒せばいいからな」
トキヤが札を出した木箱を死体から剥ぎ取りエリックに投げてそれを仮面の彼は受けとって腰につける。
「わかりました。ありがたく使わせてもらいましょうか……他にプリンスの気になる所は?」
「そうだなぁ。解剖させるのもいいが……ヨウコ的に気になるのは?」
「手裏剣ないのぉ? 昔はそれで毒殺されかけたの」
「手裏剣あるの!? 手裏剣!!」
私は服を掴んで手裏剣を探す。生の手裏剣なんて見たことがない。
「呪符を持ってるからだろうな。手裏剣持ちもいるかも……それで気が付いたが毒も用意されていると見ていいな」
「手裏剣みたかったなぁ」
「ネフィア……もうちょい緊張感を持てよ」
「お腹すいたね」
「……ふぅ。エリック。この死体だけでも結構情報を手に入れれるからどうする?」
「衛兵のゴブリンたちに引き渡します。魂も残ってそうです」
「魂……残っているな。残留しているから会話出来る……魂が一ヶ所を護るようにしている?」
トキヤが小刀を死体に差し込み。腹を割こうとした瞬間だった。
ガシッ!!
「「「「!?」」」」
小刀を掴む手があり。それは……死体が動いて刀を止める。顔は……目が開きギョロっとしてトキヤを見た。全員、危機を感じ距離を離れ、そして身構えた。
死体の周りから黒い黒い影が伸びそして形を作る。
黒い影の狐へと。




