勇者の夢の中..
悪魔になる決意のまま、寝ている彼の側に椅子を置き頭に触れた。やることは一つで彼の夢を見る。それは記憶を覗くことに他ならず。今度は対抗呪文を越えると
意気込んだ。今なら絶対に越えられる。
強い意思を胸に彼から貰ったアクアマリンを握り締める。意識を落とし込んだ。これは夢だとはっきりと認識出来るほどに夢魔の力が強い。現世と夢の混濁した黒い世界を私は落ちていく。だが、私は自分の意思でフワッとゆっくり落下させて見えない地面に足をつける。
すると見覚えのある小さな部屋が私の中心に広がる。
そう、長く住んだ魔国の城。暗い暗い世界。自分は昔、自分には戻っていなかった。鏡を見るとそう。ネフィア・ネロリリスが立っている。
白金の鎧を身に包む女騎士のような風貌。今さっきまでは着ていなかったので今の私がイメージする姿だ。
「ひぐ……えぐ…………」
小さな部屋ですすり泣く声が聞こえる。小さなかわいい少年が一人で泣いている。小さく震えて。寂しそうに。対抗呪文だろう。
「こんにちは。僕」
「だ、誰!?」
「ふふ、誰でしょうね? 綺麗なお姉さん?」
「ナルシスト?」
「ふふ、そうそう………寂しいでしょ」
「うん………」
「大丈夫、貴方は私。もう一人じゃない」
小さな体を抱き締める。そう、抱き締められたら寂しさは無くなる。彼からこっそり教わったこと。
「………うん。そうだね………だって」
「そう、だって」
「「トキヤがいるから‼」」
視界が暗転し。深く深く落ちていく。越えた過去を私は乗り越えた。そして落ちる………深く深く。彼の中へ。夢の中へ。
フワッ
スタッ!!
黒い夢の中、また見えない地面に足をつけた。幾つかの記憶らしいものが泡になって浮いている。記憶の塊だと私は理解した。
いくつもいくつも、どの記憶も糸で繋がっていた。関係があるから糸で繋がれている。
この泡は私のイメージ。糸も私のイメージだ。見やすいようにイメージした。その中を進むと一際大きい泡がある。それが始まりなのか全ての糸が泡に繋がっている。大きい泡に映っている物に私は驚く。
そこには私が映っている。そこには「彼女」が映っていた。
「これが彼が探している彼女なの?」
彼の求める彼女の記憶だろう。それに………私は触れた。そして私は彼の今まで辿って来た道を旅することになる。全ての始まりから。私に出会うまでの物語を。
勇者となる者の記憶を私は盗み見る。




