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丘上の墓~ユグドラシルの若木


 都市ヘルカイトにある私の家から、山へ向かった先。丘上にトキヤと私が買った土地がある。厚遇。ヘルカイトや英魔の人々がたまに来ては拝む場所となっており……小さな箱に小銭が入っていた。岩をそのまま掘り出し、刻まれる名前がなく……ただ。静かに眠ると言う文だけが寂しく掘られている。我が子の墓でありながら綺麗に手入れがされている。母は忙しく……来ることもままならないからこそ感謝しなくてはと感じるのだ。


「……ただいま」


「ただいま」


 私は小銭の入った木箱の前にユグドラシルの白い花をお供え火を使い燃やす。灰となった花は空へ舞い上がり雲の上へと運んでくれるのだ。トキヤと二人で目を閉じて祈り。そのまま冬口の寒い風を肌で感じる。


「そろそろ冬ですが。今日は晴れて良かったです。行きましょう」


 そう言いながら私は我が子に背を向ける。長くいれないからだ。いればいるだけ……悲しみで歩くことが出来なくなりそうだから。そんな母親をあの子は求めてないと信じてお別れをする。


「ああ、運がいいな。ネフィア……今日は」


「明日は大雪で本格的な冬が訪れると妖精が言ってましたね。本当によかった」


 そう、時期はもう冬になっている。だが、今年は遅いらしい。理由は英魔が盛り上がり熱をもっていたとも言われるがそんなバカなと私は思う。ただ……どうやって冬が来るのかは実の所、知らなかったりもする。


「雪女が降りてくるらしいな」


「そうですね。雪女といいつつも妖精ですけども」


「いや、本物の雪女と言うか。氷を生み出す魔法がうまいだけの魔法使いだったりするんだがな」


「ま?」


「まっと言う所。本当だ」


 私は首を傾げる。トキヤはそのまま北の方を向いて唸った。私の知らない事をいつもいつの知っていて、何でも知っているような気さえする。賢者と言えばそうなのだが賢者ぽくもないのに。


「今まで、何もかも距離を取っていた者たちが便利さと裕福さを求めて集まっているから、色々とある」


「そうなんだね……時代変わったね。私の知る所よりも遥かに」


「本当にな……」


「でも変わらないのはある」


「愛とか言うのか? わかりやすい」


「……」しゅん


 安直にそう思ったのだがトキヤが呆れたような口調でいい。私の言葉を奪ってしまった。わかりやすいかもしれないが……黙っても思いつつ。そこでああ、面倒な女だなぁとも自己嫌悪する。


「流石、俺。お前の事はなんでもわかった。正解は嬉しいな。俺も変わらない。あの日からずっと愛してる」


「トキヤぁ!?」ぱぁ~


 笑顔で彼の横に行き腕を組みすり寄せる。時代が変わるが私のこの愛は変わらない事をその行為で示しながら丘を下った。





 丘を下った私たちは家の掃除に取りかかる。換気をしホコリを集めて私の日で焼却し、灰になった物を庭にまいた。そうこうしているうちにリビングに緑髪の女性が座り。キッチンで料理をする私に笑みを向けて手を振った。かわいい仕草でゆったりとした洋服を着て私を呼ぶ彼女の名前はユグドラシルである。


 そう、木の精霊。聖樹ユグドラシルである。昔に比べ非常に大きくなった体は何処か親友の世界樹のマナを思い出させる。


「おかえり、ネフィア姉さん!!」


「ええ、ただいま」


「トキヤお兄ちゃんは?」


「買い出し。少しだけ滞在しようと思います」


「そうなんですね!! ワンちゃんが会いに来てくれず拗ねて小屋から出てこないのでワンちゃんに会いに来て下さいね」


「……怒ってない?」


「売ったことは怒ってないですよ。ただ一緒に戦えない事を悔やんで悔やんで……ご飯も食べず痩せて。医者に見せたこともありましたが今は大丈夫です」


「うん、ごめんね!!」


 謝ろう。これはかわいそうだ。


「まぁその。大丈夫です。もう私のですし。頑張って頑張ってますよ?」


 両手を合わせて笑いながら自分の物であることを強調する。なお目は笑っておらず背筋が冷える物がある。おかしいなもう冬ってきたかな?


「こーんなワンちゃんと愛し合ってるです。今さら……返してって言わないですよね? お姉ちゃん?」


 これは……雌の顔だ。わかる。私もこれで帝国の姫をぶっ殺した。あのときは私怨なんかないとは言えないのも私の愛の深さだと思う。理解できる部分で私は彼女に伝える。


「好きであるならば。本人以外に迷惑かけてはダメよ」


「……ネフィア姉様は迷惑かけてはないのですか?」


 私は頭を押さえる。だめだ、私は迷惑かけてる側だ。しかし、このままでは発育によくない。


「えっと私みたいになるわ」


「ネフィア姉ちゃんみたいになりたいです!!」


 おかしいなぁ。おかしいなぁ。


「そうです!! ネフィアお姉ちゃんには辛いですが教えて欲しいこともあったんです!!」


「えっと、なにかな?」


「子供ってどうやったら出来るんですか!!」


「……」


 私はユグドラシルの肩を叩き一言。


「オークのお父さん。どこ?」


「あっ……これ。家族会議案件なの……やっちゃった?」


「安心して。あなたは悪くないの。お父さんが悪いの」


 私は教育がどうなっているかを問いたださないといけないと考えながらも。ふと思い出す。


「あれ? 根っ子がいろんな所にあって知る事が出来るよね?」


「へへ」


 私はユグドラシルが舌を出して遊ばれている事がわかり彼女の頬を摘まむ。


「ユグドラシルちゃん!!」


「ごめんシャイ!! でも!! でも!!」


「ふぅ、騙された」


「騙しちゃいました。てへ」


「うーん」


 かわいい。世界樹と商人の木の落とし子に翻弄されながらも。元気な彼女に遠い目で頭を撫でた。そして、私は撫でながらマナとエウリィに心で紡いだ種子は大きく育った事を静かに喜んだ。


 都市ヘルカイトを護る聖樹ユグドラシルは大きく育ってますよと。


「なんかお婆ちゃんみたいな目をしてます。ネフィア姉ちゃん」


「お、お婆ちゃん。お婆ちゃん……」


 ちょっと幼くズゲズケ言う部分はあるけれどもと済ませ。私はそのまま手鏡を用意しシワを探すのだった。






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