姫を護りきった騎士
昼過ぎるかと言う時間、私は昼食もいただき食後の紅茶を嗜む時にここへ来た目的をお伝えする。
「そういえば……ランスロットさんが遺体をこちらに護送したとお伺いしております」
そう、殿として残ったトラストさんのご遺体は英魔オーク族たちよって棺に納められた。それを息子であるランスが母親の元へと護送の依頼をしたと聞いていた。
「はい、ある日……竜人の商人が訪れ。非常に綺麗なまま届けてくださいました。そして、無事……彼をお送りする事が出来ました。墓に彼が埋葬されていない寂しいこともなく。これも英魔の方々、魔王さまのご厚意による所で感謝します。ありがとうございました」
「私は何もしてないです。ただ、彼等がそうしたいと決めた。それだけの事です。そして……墓はどちらに?」
「都市郊外の墓地、丘側をお借りしました」
「やはり壁の外ですね……」
そう、墓地は全て壁の外である。理由は死霊として復活されたら困る事。膨大な土地が必要であり、決まった土地しかない壁の中ではそういった物は圧迫するために外に作られるのだ。もちろん色々の理由に火葬が主流である。
「場所について地図はあるのでしょうか?」
「……もしや、お会いになるために参られたと?」
「はい……あまり会ったことのない方なんですけど。少し心残りかモヤモヤするのです」
「……わかりました。地図はございませんが少し時間をいただければと思います。護衛の準備とがあり、お昼からですと些か……夜となり危ないと思いますので明日でどうでしょうか?」
「少し考えさせてください」
壁の外である故に簡単には向かえないらしい。私は少し悩み。そして……聞いてみる事にする。
「馬はございますか?」
「馬ですか?」
「……私は飛ぶことが出来ますがここは帝国です。騒ぎになります。なるべく静かに行くべきなのです」
「馬でしたら、拝借出来るお店がございます」
「では、提案させてください。今からアメリア様をお連れして案内係として向かえないでしょうか? 二人乗りですが……」
「構いません……しかし、護衛の騎士の依頼が……」
「護衛はいりません。私は魔王です」
手に緑のマナの聖剣をお見せする。危うくフライパンで出すところだったのを剣で出した。
「剣を持ち、お守りする事が出来ます。今、このドレス衣装でも騎士に後れを取ることは絶対にありませんし私は時間が少し惜しいです。如何ですか?」
「はぁ、女性なのに剣に精通されているのですね。わかりました。時間が惜しいのでしょう、すぐに支度しますのでお待ち下さい」
「わかりました。ありがとうございます」
「はい、こちらこそお願いします。女性の騎士さま」
「トラストさんに誓ってお守りします」
「ふふ、それは彼が嫉妬しそうですね」
私は立ち上がり。無理難題を認めていただいたことを感謝しながら頭を下げて馬を借りに部屋を出るのだった。
*
馬を借りたすぐにアメリアお嬢様は数人の使用人に見送られながら屋敷から現れる。可愛い麦わら帽子を被り、化粧をし直したアメリアは幼妻のようにも見える。だが、息子のランスロットはしっかりと成人しており歳はしっかりと取っている筈である。そう思いながら、手を伸ばして彼女の手を掴み馬に股がらせた。
「軽いし、手もスベスベ。本当にお若いですねアメリアさん……」
「結構、気を使って化粧水を使ってますから……トラストさんはちょっとその場で決める癖がありましていつも綺麗にしてないとふとした切っ掛けでデートになりましたから」
「本当にそれだけですか? 私には家で迎えるのは綺麗な私のままでと言う感じに思えたのですけど……」
「……ネフィアちゃんもそんな経験が?」
「もちろんです。そうですよね」
「はい、好きな人の前だとどうしても着飾る事ばかりなんですよね。それよりも……ネフィアちゃん……肌の化粧は?」
「私は薄めに紅を少々……元々白くて。化粧をするとなんか厚化粧みたいになるんです。紅も薄紅ですがどちらかと言えば保温とか唇を守るために使ってます」
「ずるいですね」
「……はい。恵まれた体です」
そう、恵まれた。非常に恵まれた健康な体だ。ただ一つ駄目なのな……下半身だけである。
「では、行きましょう」
私は馬に鞭をうち歩かせそのまま都市外の墓地へと向かった。
*
墓地は都市の全方位にあり。場所によって貴族のみしか入れないようになっている場所もあると言う。だが、それは訪れにくいと言うことであの教会のカタコンベのようになっている所もちらほらあるようだ。いつしか誰も来ることがなくなるのだ面倒になり。
私は墓標が馬から降り、近くの馬を繋げておく事が出来るように用意された鉄塔に手綱を結ぶ。
そして、そのまま馬にくくりつけていた花束を外し。それを片手に警戒しながら墓標が並ぶ平原を歩く。
「……えっと、ここです」
数十分歩き、並ぶ新しい墓標の一つに目的の人が眠る場所につく。太陽はまだ高く登っているがここからゆっくりと落ちていく時間に到着する事が出来た。
「トラスト・アフトクラトルここに眠る……ですね」
「はい」
私は花束を墓標の前に置き許しを得てそれに火を放つ。花束は燃え上がり灰となって空に舞い上がり、しっかりと届けれたと信じ手を合わせる。
胸の焦りや、落ち着かない部分がゆっくりとおさまっていく。同じようにアメリアさんも目を閉じて祈りを捧げた。
「……どうやら。彼はもうここには居ないのかもしれません。居れば会えるような気がしましたが」
「それは……ネフィアちゃんにはそういうのが見えるのでしょうか?」
「……どうなんでしょうか。見える時もあれば見えない時もございます」
「ふふ、そうですか。きっと悔いなく旅立ったのでしょうか」
「そうかもしれません……私もいつか……寂しい思いをするのでしょうか?」
アメリアさんは少し寂しそうに話を始める。
「……お相手によると思います。寂しいと感じるほどに大切だったと言う事です。ネフィアちゃんもその時まで……甘えれる時に甘えておくことをオススメします」
「……もっと触れたかったのですね」
「……それは贅沢な悩みです。必ず別れはあります。ただ、その贅沢な事があった。気がします。実は何故かわかりませんがお別れをしっかりと出来た気がするのです」
「お別れを?」
「ええ、何処でなにがあったかわかりません。ですが、死後の彼の背中にいて優しく抱きしめていた。そんな日々もあったと記憶してます。それと同時に私は……彼に勇気を貰い。しっかりとランスロットの孫に会わないといけないと思うのです」
「孫ですか?」
「気が早いと思いますが、絶対に可愛い孫に会える。そう確信してます」
「……不思議ですね」
「不思議です。でも、ネフィアちゃんと会えた事も必然だったのかもしれません」
「……」
私は深く墓標に頭を下げそしてアメリアさんと一緒にその場を後にするのだった。
*
ブワッ!! バサァアアアア!!
墓地の平原に竜の影が雲の影と重なりながら動く。ネフィアが帰り誰も居ない平原に竜の影だけが動きそして消える。
フヨッ
そして、消えた影のしたに二人の男女が影を伴って姿を現しトラストの墓の前に来る。その姿が鮮明になり、片方は銀髪の男を片方は金髪の女であり。女性は翼を携えていた。そう、魔王と勇者によく似た二人であった。
「……こんにちは」
「こんにちは」
二人は墓に挨拶をする。大きな墓標の裏から人の気配がし、スッと立ち上がる姿があった。片手に花束を持ち。ランスロットのような精悍な顔つきの美男子が現れる。
「こんにちは二人とも……あれ以来ですね」
「ええ、トラストさん。別れの挨拶はまだでしたので……ご挨拶しに来ました。何処にいらっしゃるかわからなかったので……彼女にちょっとお願いしてしまいました」
「どうりで……彼女とは私は関係がほぼないですので不思議でした」
「はい、ですが私は覚えております。トラストさん」
「そうですか。あの世にお迎えにですか?」
「いいえ、トラストさんは彼女を待つのでしょうここで」
「……ええ、お迎えにあがるその日まで」
トラストは笑みを溢し、長い年月ここで一人待つつもりだった。それに対して彼女は手を差し伸べる。
「島にもう一度来てみませんか? 何年も待つようになる間は暇でしょう」
そう、アメリアは一人で立てる立派な令嬢になった。故にトラストはもう悔いはない筈だった。しかし、どうも強すぎる結びは中々切れるものではないと言う事である。
「ええ、ここで見る事は彼女と会ったときの楽しみとしましょう」
そう言うと、誰もいない平原に風が走り。何もない場所でただ竜の影だけが平原を走るのだった。




