黒騎士団長の憂鬱
ある日、黒騎士団長の元に手紙が届く。内容は店の場所と名前が記入された紙に他国の珍しい金硬貨が同封されていた。表には女性の横顔。裏には太陽のようなものが型取っている。執務室でそれを受け取りこの差出人に心当たりがあり、魔法の触媒を隠し持って部屋をあとにする。
暗い廊下を進み、酒場の裏口に出たあと。そのまま部下に留守を言い渡しその店に向かう。
今日は曇り空であり、一雨来そうな淀んだ空気。出会うあの奴もそんな奴だろうと黒騎士団長は思う。
騎士団長と同じ、ずっと仮面を被り。多くの者を騙した道化の魔導士なのだから。
ガチャン!!
昼の混雑が終わった店につく、店は綺麗な歌声が響き午後の優雅な時間を過ごす人だけが残り静かに透き通った歌を聞いていた。誰が歌っているかしらないが今日はいい歌手を雇ったのだろうと思いながら言黒騎士団長は周りを見た。
「……嘘かと思ったが……いるか」
黒騎士団長は知っている者がいるテーブルに相席する。座った時に店員が注文を聞きにくるのに答えたあと。離れる事を確認して名前を呼ぶ。
「トキヤ……何故、お前がここに」
「やりにきたわけじゃないです。騎士団長様。魔力漏れてますよ……」
相席のフードを被った男がフードを外し笑み溢す。あのまだ若い青い顔をしていた男だったが雰囲気が変わったなと思い黒騎士団長も、注意をされ。即席魔法を放つ準備をやめる。やりあっても仕方ないことだ。
「遊びに来たわけじゃあるまい……今度は何をたくらんでいる」
「……いや。本当に遊びに来たわけですが。信じてくれないようですね。仮面つけている騎士団長の方が怪しい」
「ふん、黒騎士が怪しくなくなった瞬間それは黒騎士で無くなる」
「違いない……」
物騒な言い合いの中でトキヤが煙草を差し出す。
「ふん。何処のだ?」
「マクシミリアン。分けて貰ったんですよ」
「ふむ。マクシミリアンに居たか」
それを受け取り黒騎士団長は火をつける。
「マクシミリアン王国復興にちょっとね……不可侵条約延長と挨拶に。マクシミリアン女王をご存知で?」
「マクシミリアン女王はあの女であろう」
「そう……あの人です」
「全く……面倒事を横流しした結果。縁が出来るとはな」
「あの日、横流しは本当にありがとうございますよ騎士団長殿」
「喰えん男になったな……全く」
黒騎士団長が少し呆れたように言う。そう、自分の考えで重宝した結果。騎士団を裏切り……多大な被害を出したのだ。いつしか騎士団を背負う男と思っていたが気付けば英魔の第2位の貴族。人生わからないものだなと煙草の煙を見ながら彼は呟く。
「……騎士団長。情報売るから教えて欲しい事があります」
「裏切った者に渡す物はないが、交換ならいいだろう……先に聞く。英魔国魔王の次の目的はなんだ?」
「……それは最後に言おう。他にして欲しい」
「質問を変えよう。帝国をどうするつもりだ?」
「それは何もしない。攻めて来たのを弾いただけだ。帝国は攻める気はない。まぁ……人狼は帰って来ているがな」
「人狼……狼の魔族か……」
「よく知っているだろう……迫害していたからな。追われた者はここが故郷。帰って来ているだろう。あれもよくわからない亜人だが……元は人間だったらしい。なお、俺達は関与しない。自由にするだろう」
「面倒事を……わかった。何かあればここの国で裁いていいのだな」
「もちろん。ただ気を付けろ。復讐の根は深い」
「黒騎士を忘れるな。それが仕事だ」
トキヤは沈黙し、頭を掻いてそうだったと思いつつ。重たい空気を払うように軽い口を叩く。
「騎士団長~まぁそこまで身構えなくもなーんもない。ネフィアはこの国が好きだからな。わからんか?」
「……弱った所を狩る。まぁわからないからこそ俺は変に失敗する」
「残念、ちょうど歌が終わったな」
パチパチパチパチパチパチ
誰かが歌い終わり。店内は拍手が起こる。歌い手の女性が店主にチップをもらい笑顔で何か話し込んだあとにトキヤの座る席に歩いて来る。店内の客はその女性を見続けて男持ちなのを理解し、値踏みをする視線を向けた。
そう、その歌い手はとにかく目立ったのだ。金色の長い髪にどこぞの姫のような高貴さがあり。誰にだってそれが綺麗な人間のように見える容姿で騙し。貴族令嬢の騎士なのを考えていたのだ。だが、それは知らない者の反応。
黒騎士団長は大きく驚き煙草を落とす。
「ネフィア、喉はもう大丈夫なのか?」
「ええ、トキヤさん……声失う前と変わらないです。ねぇねぇトキヤさん。チップ弾んでくれました。あの店主……本当に昔から変に衣装に拘るけど優しい人ですね」
「ネフィア、会えてよかったな」
「はい、潰れてなくてよかったですね……もしかして反逆者として罰せられてるかとヒヤヒヤしました」
「何故、魔王がここに!!」
「黒騎士団長。それはここでは禁句でしょう……場所を移りましょう。俺んちでどうですか?」
「いいだろう……逃げるなよ。騎士団を動かさないといけなくなる」
黒騎士団長はつい言葉を溢すほど驚き。そして、落とした煙草を消し店員に注文取り止めと金貨を置き立ち上がり。3人で店を出るのだった。
*
私は懐かしい家に帰って来た。一昨日から埃掃除に換気を済ませた勇者の家に騎士団長をお招きする。家具など一式残ったままの空き家だったが。荒らされず綺麗なままである。
「黒騎士団長。きれいに使われてて良かったです」
「ふん、調べても何も無かったがな。占い師の家の方が問題だった」
「へぇー」
トキヤと黒騎士団長は椅子に座り。私は汲んだ水を煮沸し、紅茶の淹れる準備をする。
「……トキヤ。魔王にお茶を出させるのか?」
「魔王じゃない……ここでは俺の………奥さんだ」
ガッチャーーーーン
「「……」」
「ごめんなさい!!」
私はカップを普通に落としてしまった。慌てて掃除をする。トキヤの強い言い方にときめいての手の誤りでる。
「私の手、メッ!!」
「「……」」
「あっどうぞ……気にせず。どうぞ」
(ふむ、あの前線を戦った魔王は別人か? 影武者か?)
(やめろ、ネフィア……可愛かったじゃないか……)
何か二人が腕を組んで悩み出し、私はごみを袋につめ。手を洗う。少しして悩みが終わったのか動きがあった。重々しい空気である。やはり、黒騎士の裏切り者。そうそう許せる物ではないだろう。
ゴトッ
「懐かしい物を……黒騎士団長。それは高価な物だろう」
「個人で解読、模倣し作ったのだ。量産には時間がかかる高価な物だが。模倣にしては、まぁ精度はいい」
黒騎士団長が机にベルを置く。私はそれがなんなのか知っており。おおっと思いつつ紅茶をお出しする。
「これって真実のベルですよね。嘘ついたら鳴るものですね」
「……ああ、そうだ。お前は魔王か?」
「はい」
「ふむ。鳴らないか……いや。信じている場合も鳴らない。前回、それで出し抜かれた」
「あっ、黒騎士団長。それは音を奪って鳴ったが音を伝えなかっただけですよ」
「それは本当だな。鳴らない」
面白いアーティファクトである。でも鳴らないので私は首を傾げる。なお、テーブルの後方で立ったままでだ。座らないのはこのまま調理もしようと考えているからだ。すでに材料は買っている。
「作ったんですよね? アーティファクト」
「ああ、どこでも使えるからな。審問に」
「でも、鳴りません」
「嘘をつかない場合は鳴らない。まったく……トキヤ。ここまで嘘をつかないとはな。魔王本人だとは思えんかったが……そうなのだろう」
「何処からどう見てもネフィアだろうに……なぁネフィア」
「トキヤ。そうだね、私だね。にしても本当に鳴るか試してもいい?」
「……いいでしょう」
黒騎士団長が煙草を取り出し。私は灰皿を用意する。そしてそのままベルを手に持ち。優しい目で嘘を言う。
せっかくならトキヤが奥さんと言ってくれたのだから思いを伝えようと声に出す。
「この世で一番トキヤが大嫌い!!」
パッキャアアアアアアアアアアン!!
「ネフィア!?」「なに!?」
私の手のひらにあったベルは大きな音を立て、ハンマーを打ち付けて甲高い音を出した後にベルはバラバラになる。額の汗が頬を伝い。トキヤと黒騎士団長が椅子から立ち上がった。
「……ごめんなさあああああああい!!」
私は壊したベルを手に何度も何度も頭を下げるのだった。




