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女体化魔王で成り上がり、婬魔の姫と勇者のハッピーエンドのその先に  作者: 水銀✿党員
第1章~始まりは一人の狂人の連れ去り~
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私を庇う..


 私たちは人間最後の都市から無法地帯へ旅立った。無法地帯な理由は魔物の強さ、ドラゴンの棲み家。山など険しい山岳や、平地の少なさ。火山等自然が厳しいのも理由である。


 しかし、そんな場所でも住まう強者がいるらしく。向かう場所は冒険者デラスティが言っていた新都市へ向かい、そして無法地帯を抜けた先から廻り込んで魔国の首都へと向かおうと考えた。無法地帯の魔物は非常に強く恐ろしいが勇者がいるので問題はないだろう。彼の頼みであるが仕方ない。私は弱い。


 馬については売り払い旅の資金に当てる。この先は人を拒む整備されていない未開地なのだ。馬では何処まで行けるかわからない。荷物も人が持てる最少の物だけで挑む。魔物も見つけて狩る事も必要になっていくだろう。


「次の都市はどんな所だろうね?」


 私は彼についていく。何処で告白しようか考えながら機を伺いながら。『彼女』を見つける前に情を持たせて優位を持ち込みたい。婬魔、夢魔である事に今は感謝している。


「まだ『都市としての機能は果たせてない』て書いてる。あんな所に都市を作ってもなぁ………くる奴居ないだろ」


「ドラゴンに潰されるよね」


「まぁドラゴンを倒す寄せ餌にするならいいけどな」


「酷い考え~」


「それが目的かもな?」


「そんなことないと私は思うけどなぁ~」


 仲良くそんな他愛のない会話をしながら二人仲良く並んで歩いていた。私にとっては安らげる時間である。昔より、最初の頃よりから考えられない変化だ。いがみ合いがずっと続いていたのにいつの間にか「私」と言い出してしまっている。


「ん? ネフィア……気を付けろ」


「なにが?」


 ふと、森の中に目の前にローブを着た男が立っている。顔は見えず。ただ薄汚れたローブが少し不気味さを醸し出していた。私が気付いたのは魔法使いである事ぐらいだ。


「君たちは冒険者か? 良いところへ来た。道を間違えているんだ。都市フィールドランドはどちらかな?」


 声をかけてきた男。怪しさが増す。勇者は身構える。緊張感から、勇者の顔が強ばっている。


「………なぁなんでここにいるんでしょうか?」


「ふ、だから言ったではないか道を間違えているとな。トキヤ。君がだよ」


「誰ですか? 彼は?」


「お嬢さん。いいえ、魔王だったかな? ネファリウスだったか?」


「えっ!?」


 勇者が私を守るように「後ろに引け」と言い。護るように私の前に出る。


「黒騎士団長様直々にお出迎えとはな、伏兵が……数人もいるな。気付かなかった」


「勇者!! いま、こいつ!! 私の名前を」


「ああ、誰が一番始めに気付くかと思っていたが…………よりによって黒騎士団長様が一番だった」


 黒騎士団長がフードを捲り、顔をさらす。鉄の仮面で表情は読めない。


「言葉は不要か。残念だよ。私自ら赴いて君を殺さないといけないからね」


 黒騎士団長は両手を開け、火球と冷気を貯めた球を現出させて牽制する。二つの属性を操る魔術師なのだろう。恐ろしい技術なのが伺えた。


「あんたが、わざわざ戦うなんて………!?」


 勇者が剣を抜き構える。構えた瞬間だった。


 勇者が振り向き、私を吹き飛ばし、私を見ながら庇うように立ち回る。


ドンッ!!ザシュ!!!


「えっ?」


 目の前で勇者の腹に防具を貫通した大きな矢が刺さった。それを勇者がつかみ押さえ、血が滴る。ボトボトと彼の鮮血が大地を染める。


「げはぁ、大丈夫か………ネフィア………くそ………スナイパーの姉ちゃんか」


「………ト、キ、ヤ?…………トキヤあああああああああああ!!」


 私は勇者の名前、「トキヤ」と絶叫する。目に見える傷が、血が、恐怖を思い起こさせる。死ぬんじゃないかと焦り出す。


「勇敢なる騎士は姫様を庇う。不意に魔王を射させればお前は絶対庇うだろう? お前が言っていたな『感情が無ければ見えない』と。残念だが分かりやすい感情は見えやすいぞ。まぁお前ドラゴン用の矢でも即死はないだろうが死にかけにはなったな」


「………くそったれ。あんた自身が囮かよ、俺の注意をそらさせるためにな‼」


「その傷でよく喋られるなお前。まぁそうだ」


 黒騎士団長が魔法を唱えるのを止め、手を挙げた。


「全員!! 負傷した勇者を殺し魔王を捕らえろ‼ 気を付けろ!! 奴等は魔王と本物の勇者だ」


 遠くの茂みや身を隠せる場所から身を乗りだし、黒い騎士たちが駆けてくる。四方八方から同時に攻めてくる。私はトキヤが倒れるのを抱き止めた。生暖かいヌルッとした血の感触が恐怖を掻き立て、身を震わして叫ぶ。


「トキヤ!! トキヤ!! トキヤぁあああ!!」


「ああ、聞こえてる。大丈夫、まだ動ける。安心しろって」


「でもでも!! こんな血が!! 今、回復魔法を!!」


「こんな風穴じゃ無理さ………少しの間、女扱い許してくれ」


「な、なんでそんな事を今!!」


ギュゥ


 強く抱き締められる。傷を負っている筈なのに力強く。そして優しい言葉を聞いた。


「お前だけ、絶対。護る。そう約束しただろ……任せろ」


 勇者は私から離れ立ち上がりいつもの背中を見せ騎士団長を睨みつける。


 そして、手を掲げた。手のひらから大きな緑の魔方陣が浮かび上がり、風が舞い上がった。何度も、何度も、何度も、見た大きい背中。大規模な魔力の高まりを感じた。勇者の声が風を震わす。音の魔法を多重で唱え、それによる多重魔法の重ねがけだ。理解できるそれは即効性がある大魔法を一瞬で生み出すための秘策だろう。


「其は風を支配し、使役する魔術士である」


「トキヤ、何するの!?」


「………お前、やはり‼ 魔法使いじゃぁないな!!」


「故に、今ここに風の征服者として我が操る!! 操られよ風よ!! 我が使命のために」


「伝達!! あいつから離れろ!! 今すぐに!!」


 辺り一帯が静まる。なんの物音もしない。そんな中でも耳元にトキヤの声が響く。


「風最上位魔法、絶空」


 その声と同時に手のひらの魔方陣が何枚も重なり層と成した。多重の詠唱が一瞬で魔法現象を生み出す。私とトキヤ以外の周りが白くなり、白くなったと思った瞬間には真っ暗になった。情況が全くわからない。


「これは一体なに………」


ドサッ‼


「トキヤ!? 火球!!」


 右手の炎玉を転がして辺りを照らす。トキヤがすぐ近くで倒れており服などが赤く染まっていた。深々と刺さった矢。何が出来るかわからない。両手で彼の右手を掴む。


「トキヤ!!」


「………ネフィア。魔法が解けたら北へ。戻るな。黒騎士がいる」


「トキヤ!! どうして!! どうしてそこまで私を護ってくれるの!! 『彼女』に似ているだけなのにどうして………いつも、いつも……」


 右手を掴んでいる手に額を当て、また泣き出してしまう。大切な人が私を庇って死にかけている事に涙する。


「…………はは、泣いているのか」


 トキヤが目を閉じながら声を出す。


「だって、だって………トキヤが、トキヤが」


「大丈夫、ただ一人の狂った騎士がいなくなるだけ………泣くなよ………生きろ」


「嫌だよ!! 死なないでトキヤ……」


「泣かないでくれ………ああ、泣かないでくれ」


 トキヤは私の声が聞こえてないのか伝わらない。しかし、空いた手で涙を拭い、目を閉じながらも笑っている。すごく、幸せそうに。


「なんで笑ってるの!? ねぇトキヤ!!」


「ああ、泣き止まないなぁ………はは、泣いてくれてるの………うれし……んだけ……ど」


「トキヤ!! トキヤ!!」


「笑ってる……ほう………が…………いま……はいい……な…」


「トキヤアアアアアアアア!!」


 私は叫び彼の体を揺すった。


「目を覚まして!! 私を護るって!! 魔国まで帰すって言ったでしょ!! お願い!! お願いだから!!」


 彼は満足そうに眠っている。息はある。


「嫌だ‼ 起きて!! 私はまだ、言ってない事が沢山あるの!! 沢山貰ったもの返せてない!! お願い…………お願い………」


 私は錯乱し彼の手を強く握った。白い世界が明けた。すると周りにいた黒騎士達が倒れている。全員、気絶していた。私はトキヤに覆い被さる。行きたくない。彼を置いて行きたくなかった。


トクンッ


「!?」


 覆い被さって聞こえてきたのは鼓動。耳を当てると彼はトキヤは生きていた。矢が刺さっているが生きている。


「まだ!! まだ生きてる!! 諦めちゃダメだ!! 諦めちゃダメだ‼ 神よ私の愛する人を助けたまえ!! 癒しを!!」


 両手で矢の刺さった辺りを止血する。矢は抜かない。抜いた場合傷口が大きくなり私では止血する事が今は出来ない。矢ごと傷口を塞ぐ。魔力を注ぎ込み。何とか止血は出来た。しかし、中身や矢は刺さったまま。失った血もある。


「後戻りは出来ない。殺されちゃう………なら、進むしかない」


 私は地図を見て距離を確認する。出来るか確認するが絶望的。でも………やるしかない。諦めたくなかった。


「トキヤ、ごめん。私が回復魔法とか全然出来なくて………でも置いていかないから」


 荷物をもって、彼から貰った鎧を脱ぎ身軽になる。そのままトキヤの装備も置いていく。そして軽くなった彼を背負い、歩き出す。


「トキヤがくれた鎧。綺麗だったけど………トキヤほど素晴らしい物じゃないから置いてくね」


 私は力強く歩き出す。進むしかない。少しでも彼を見殺しだけはしたくはなかった。都市に行けばなんとかなると信じて。






「はぁ………はぁ…………はぁ…………」


 森に入りゆっくり背負いながら、気を付けながら進む。


ガッ!! ドサッ‼


「うッ!!………つううう」


 木の根っこに足を取られ転けてしまう。トキヤを心配し見ると矢が刺さっている以外は問題は無さそうだった。


「はぁ………よかっ……つぅ!! はぁはぁ」


 足に激痛が走りそれを押さえる。足が取られた所が腫れていた。変な方向に捻ってしまったらしい。


「ヒール!!」


 何とか痛みと腫れも抑える。しかし、完全に治ったわけではない。鞄から痛み止めの薬とトキヤが用意していた塗り薬も塗る。体がそれに答えるように完治する。


「こんな所で………休んでる訳にはいかない!!」


 トキヤを背負い直して立ち上がる。まだ少し痛みはあるが歩けない訳じゃない。「トキヤがやってくれたことに比べればどうってことない」と言い聞かせて歩む。


「はぁはぁ、頑張れ私。彼のために」


 生きてて「誰かのために」と思った事はこれが初めてだろう。それほど強く私は彼を想っている。


「生かさなくちゃ、生かさなくちゃ!! こんなにしてくれたのに‼ まだ、なにも恩返し出来てないのに!!」


 自分を奮い立たせる。そして前へ前へと……突き進んだ。突き進みながらふと、物音がした気がする。小さな葉を踏む音だ。


「………音拾い」


カサッ、ザッ!!


 何かが近づく音を拾う。


「いっぱい、いる。これは………魔物!?」


 私はトキヤをおろし、木に立てかける。魔物がこちらに来ていた。血の臭いで寄せ付けているかもしれない。


「背負って逃げられない。やるしかない」


 私だけ持ってきた右手で剣を抜き。そして左手で火球を現出させた。そして、音を便りに打ち出す。


 何匹いるのかわからない。今のうちに数を減らそうと思い攻撃する。


 打ち出された火球は森の木々の隙間を縫うように音がするほうへ向かわせる。着弾を音で確認した。襲ってくる気配はなくなる。


 そして再度トキヤを背負い、歩き出した。彼はすごく重たい。鎧より、荷物より。何故か重たかった。





 夜、彼を木に腰かけさせる。胸と口に手を触れる。息はある。強い鼓動もある。


「はぁ、はぁ………急がなきゃ……だけど」


 魔物がついてきていた。目の前に狼系の魔物達が私を囲み、機を伺っていたのだ。彼が死ぬのを舌を舐めずって涎を垂らし。「早く、早く、捨ててくれ」とついてくる。


 絶対の私が捨てると言う事を信じて待つことに苛立つ。


「うぅ……」


 暗がりの中、瞳だけが見える。トキヤは本当にいつも夜番をしてくれていた。私はそれに甘えていた。


「今度は私が……」


 剣を構える。魔物は距離を取っていたが次第に円を狭めてくる。ぎらついた瞳が私を睨む。「食べさせて。美味しそう」と言っているように聞こえて身震いをした。


「どっか行け!! これは餌じゃない!!」


 火の魔法を唱え、打ち出す。ウルフが燃えるが身震い一つで炎を消す。火山地帯の生き物らしく火耐性があるらしく。ゆっくりと狩りの範囲が狭まる。ここは他と違った魔物なんだと理解する。一定の距離で睨み合い。私は体力を減らす。彼らは時間をかければいい。私は時間もない。トキヤから離れられない。


 分が悪すぎた。知恵を絞れ。考えろ考えろと私自身を奮い立たせる。そんな中で火球を打ち出し。周囲の視界を確保していたが情況は悪化していく。冷や汗が滴り、唇を噛む。


バサァアアアアアアア!!!


 そんな中で今度は大きな翼の音が聞こえてきた。


バキバキバキ!!


「な、なに!?」


 そして、木々をなぎ倒し。大きい何かが降ってくる。


ズシャ!!


 光に照らされたそれは一匹のワイバーンだった。細い体で逞しい咆哮をあげる。ウルフ達がそれに驚き一目散に逃げていく。


 私は剣を構えなおす。前、戦ったことがある素のワイバーンだ。「大丈夫、大丈夫、ウルフの数よりは厄介じゃない」と言い聞かせる。そんな中でワイバーンが慌て出した。


「ま、まって!! 僕だよ‼ デラスティだよ!!」


 ワイバーンが私から距離を取って喋り出した。ワイバーンの体が霧に包まれ少年へと変貌する。


「け、剣を納めてお姉さん!!」


「本当に………デラスティ?」


「そうだよ‼ まって!! ワイバーンに戻るから‼」


 ワイバーンにまた変貌した彼。そして状況を説明する前に近付く。


「トキヤお兄さん重症だね!! 時間がないから僕の知り合いの所に連れていくから‼ お兄さんを背中に括って!! 安静で治療が一番だろうけど無理だから‼」


 私は神がいる事を知る。私は感謝をした。この僥倖を。神様を。


「ありがとう………本当にありがとう」


「恩はあるからね‼ さぁお姉さんも乗って」


 ワイバーンに抱きつき、トキヤを紐で縛り、空を飛んだ。火球が魔力を失い暗くなるが、遠くに小さな火の明かりが見えた。空は涼しく、しかし、暗く。星が綺麗だった。


 この奇跡に私は懺悔室のあの声の主を信仰しようかと思うのだった。

























































































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