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マクシミリアン王の玉座


 私は早朝、しっかりと体を水で清め。軽装の冒険家装備を身につけてエルミア・マクシミリアンの元へ行く予定だ。胸を張り、夜中の女々しい私は成りを潜める。


 早朝、私はトキヤに抱かれたまま元気よく起きれた。装備の上から優しくお腹を撫でる。真夜中の事を思い出しながらまだ寝ているトキヤを揺すり。満面の笑みで彼を呼ぶ。


「あなた……おきて」


 あの日、あの日から凍った時がやっと動き出した気がした。もう一度私は挑戦をしようと思う。女神とかどうでもいいと思いし。この体と命にかけて、女神になるよりも私にこっちのが大切だった。母親になる。それ熱望している時期があったのだ。それをもう一度だ。


「おきて」


「んん」


 そう思うと、あのエメリアの言葉。産めると彼女は言った。それは彼女の優しさを思い出した。そして、そのエメリアは罪の意識からあの時の事を正直に胸の内も話した。何も考えずただただそれに私はちょっと怒っただけだった。


「なかなか起きないな……。うーん、そういえばエメリア姉さんにはけっこう……よくしてくれてるのに……怒ってしまった。落ち着いたらちょっと大人げなかったかな」


 突発で思い出してのヒステリックは惨めだ。惨めだが……もしかしたら助かっていたと思ってしまったのでそこから一瞬で幸せだった日々から奪われたことを思い出してしまった。


「……でも、落ち着いた」


 そう、あまりにも。あまりにも荒れた心はトキヤの愛が気持ち良すぎて吹き飛んでしまった。いつも大変な時に彼は私を抱き締める。


「んんんん……ネフィアおはよう。元気だなぁおまえ」


「お腹の辺りから凄く元気!! まだまだ出来ないかもだけど。栄養になるみたい!!」


「そっか……なんか生気が奪われた気持ちだったけど……淫魔だなぁ」


「そんなことない。やり疲れだよ。それよりおきてさぁ、エルミアお姉さんの所へ行こう。待ってる筈」


「そうだな……」


 トキヤは起き上がり。着替え始めた彼の背中に抱きつき。怒られるのだった。





 トキヤが着替え終わり。エルミアの天幕にお邪魔する。


「おはよう二人とも……昨晩お楽しみだったかしら?」


「おはようございます。そんな事はないです」


「おはよう、エルミアお姉さん。昨晩はぁ何でもないです」


「……あなた。垂れてるわ」


「!? そんな、綺麗に拭き取って!? はめられた!!」


「ふふふ、大丈夫。皆、一緒よ。二人用でメイドと一緒とかはそうね。彼女持ちとか連れてきてるのもいるわ。防音はしっかりしてるし大丈夫よ」


「お、おう……」


「私も経験あるわ……いつだったかな。王に連れられた遠征先とかで……いつもいつも」


「エルミアお姉さん。その話やめません。恥ずかしいですよ……」


「あら、そう……かわいい事言うわね」


 エルフ族は性に奔放なのだろうか? エルフ族長しかり。


「それよりも……エルミアお嬢。何処へ」


 エルミアお嬢とトキヤに言われた彼女は剣を持ち、ついて来いと手招きする。私たちはついていきながら話を聞く。


「玉座へ顔を出そうと思っています」


「玉座へ?」


「ええ、瓦礫はまだ残ったままで撤去中だけど進めない訳じゃない……何か残ってるかもしれない」


「てっきりもう入ったかと思ったけど……」


「ふぅ……一人で入るの怖かったのよ」


 エルミアが笑みを溢して照れながらそう言った。





 マクシミリアン王の玉座前の瓦礫を越えて錆びた剣や錆びて朽ち果てた後の剣や鎧を眺める。マクシミリアン王の剣と鎧は何故か何処にもなく。錆びた赤い鉄の砂だけが残っていた。


 あの時と変わらず、折れた剣に真っ二つの鎧が中央で転がっているかと思ったがそうではない。


 だが、あの懐かしい激戦を思い出す事はできた。


「懐かしいなぁ……ここでトキヤに惚れたんだよ」


「ネフィア。うっそだろ、おい……勇者とか名前でさえ呼んでない時期だった筈だぞ……うろ覚えだが」


「護って貰ったあの背中……忘れることなんてないよ」


「ネフィア……」


「トキヤ……いいえ。あなた」


「おい、そこ。マクシミリアン玉座でイチャイチャして抱きつくな!! 思い出話をしに来たわけじゃない」


 私たちは注意を受け、抱き合うのをやめる。すいませんと頭を下げるとエルミアがふぅといい歩き出してしゃがむ。


「……綺麗に鉄が砂に……」


 エルミアは自分の切った鎧の場所に形残っている砂を持ち上げる。鉄の砂は魔力によって繋ぎとめられていたのか今では細分化されている。マクシミリアン王の意地だけで動いていた鎧の対価だろう。他は錆び朽ちていているが原型は残っている。


 そう、エルミアの大切だった人の物だけがない。


「……エルミアさん」


「……大丈夫です。もしかしたらとか思ってたのです。玉座すわる?」


 気丈に振る舞いながらちょっとだけの涙をエルミアは拭い。玉座を指差す。綺麗に残った玉座に私は首を振る。


「あれに座るのはマクシミリアン王のみです。簡単に座ってはいいものではないです。気を紛らわしでそんなこと言ってはだめ」


「……そうね。ネフィアちゃん、立派な子になって……昔なら一目散で座ってたでしょう」


「そんときはトキヤに怒られるからね。てか、それ会うたんびに言われるのですが……」


 エルミアの子供扱いは抜けてないような気がした。


「ネフィア。俺は怒らないぞ。そこは別に……そこまでは考えがなかったし」


「トキヤらしいか……奪う者だから」


「奪う者か。手は洗ったんだがな」


「だめよ、トキヤ……口とか……胸の中とかいっぱい盗むものあるでしょう」


「ネフィア……奪いきった気がしたんだが?」


「ふふ、まだまだ。私、奪えるよ」


「そうか、なら。やめる訳にはいかないな」


「ええ」


 私はトキヤの手を取る。


「……あのね……あなたたち。帰ってからやりなさい」


「「すいません」」


「ふぅ。本当に……若いわね。でも、なんか悩んでるのバカみたい。よし、……彼の席に」


 エルミアが前を向き。想い人の席に座ろうとする。それは覚悟を示す。覚悟をする気での行為であり。私にはそれが新たな国の出来る瞬間なのだろうと考える。


 そう、彼女はこの日を待ったのだ。何年も何年も、帝国に息子を殺されながらも。我慢し、生き続けてここ居る。私には想像できない積み上げた物があるだろう。


「……座るわ」


 だからこそ、そのハイエルフでありながら人間であると言い。多くの物を背負った王の姿を私は見続け。右手が疼くのだった。











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