最後の炎~前編~
私はお腹に剣が刺さったままヴィナスを殴り倒した。そう思ったのだが。拳は空を切っている。
感触はあった。しかし、今は何もとらえていない。あったはずの感覚だけが残り。私は何が起きたかを直感で理解した。
スッ!!
ヴィナスは顔を押さえながら距離をとる。軽く触れなくての顔の一部が裂けている。ダメージが入ったがすぐに修復されている。生半可なダメージでは倒せない。
「巻き戻した……それで直撃を避けたのね」
私は腹に刺さった剣を抜く。お腹の傷から血は流れず。変わりに火が漏れたあとに塞がった。私自身が生き物ではない事がわかり。少し……残念に思うがやることはやる。
「ええ、そうよ……中々。いい体ね……いいえ。いい身分かしら?」
8枚の翼を広げ、優しい微笑みを向けたヴィナス。その瞬間足元が消え慌ててフワッと翼で浮いた。星が流れるのを見ながらヴィナスに声をかける。
「噂で、あなたは消えた。いいえ旧人類の王に意思を奪われたと思ってたのですが……違う?」
「違うわ。あれは奪った気でいたのよ。だけど今はもう私……だからこそ。あなたをここで倒したいと願う」
「おかしいと思った……魔の者は悪であるなんて旧人類が言うはずないものね。ヴィナス本人なら納得……名演ね。女優になれるわ。推薦しましょうか? 悪役女優で」
私は時間を稼ぐ。絶対に倒せるまで魔力を高めたいために。相手も同じだろう。考える事は一緒。
絶対に勝てる力で倒す。
そう……鏡のように。宿敵なのだ。油断なんか出来ない。
勝った方がこれからのこの世界を作り上げるのだから。
「ねぇ……ヴィナス。あなたの考えを教えてほしい。何故、旧人類に味方した? そして……何故ここまであなたは時間を戻さなかった? 最後になるから聞きたいわ」
「ふふふ。最後はあなたよ。じゃぁ……先に私から問う。何故消えなかったの。答えたら答えましょう」
「消えなかった訳じゃないです。生まれたが正しいです。皆やあなたも勘違いしてます。私はネフィア・ヴァルキュリア。似て非なる存在です」
「何を変なことを……」
「わからないでしょうね。わからない……だけど生まれる理由はヴィナスあなたの行為で生まれたのよ」
「……」
私はヴィナスが理解出来ないらしいことに気がつく。ある行動で生まれた存在が私なのだ。
「わからない? わからないでしょうね。世界の黄金律にもいたれていない。嵐竜のが至っていたわ」
「魔物ごときが至る法に意味はないっでしょう。それに……私は今回は負けたわ。でも次は勝てる」
「やり直すから旧人類に与してもいいと?」
「ええ。この強さを持ったままね。そして今のあなたに勝てれば3度目で倒せる。それが理由よ」
「ふぅ。私が怖いのね」
「怖い。怖いし妬ましい。それは私個人の理由よ」
「……同じですね。私もネフィアを羨ましく、妬みもした。だけど。そんな事よりも!!」
私は手を上に向け、コイコイと挑発をする。魔力が十分に高まった。体が熱い。
「今はあなたが一番憎い。よくも皆の未来を奪ったな女神」
「英魔の未来なんて全否定よ」
女神ヴィナスは新しく2本の剣を創造する。二刀流なのかと私は驚いた。
「鎌は何処へ?」
「鎌はあなたの喉元です」
シュ!!
私は唐突に創造された鎌に驚きながらも体勢を崩しオデコの上を鎌が過ぎていく。黒い鎌は何処か飛んでいき。空間が広がっていることに驚く。
「私の中です。どんなものでも創造できる。空は膨張し広がっていきます。そう……あなたを倒すためにね」
「勇者に任せるのはやめたの?」
「任せるのは悪手です。役に立たない者を呼び込む必要ないでしょ?」
女神ヴィナスが両手の剣を真っ直ぐ振り抜いた。一直線に剣撃が飛び、私は左右に揺れて見えない圧を避ける。避けた瞬間に氷の粒をピンとはじき。浮くそれに拳をぶつける。
「エターナルブリザアアアアアアド!!」
ピキピキピキピキ!!
何も無い筈の空間に氷の柱が創造され走り、ヴィナスに迫る。ヴィナスは剣を捨て片手で大きな盾を生み出し氷から身を守った。私が知っている女神ヴィナスより遥かに人智を越えた力に前よりもっと強くなっているのがわかる。
ただわかった所で勝たないといけない。
「ふふ、それがあなたの全力? 女神に近い存在なのに?」
「女神に近い存在? そう評価してくれるのですか?」
「私が消してきた同僚よりも遥かに強いわ……褒めてあげる」
私に額に少し汗が吹き出る。正面からの戦いでなら嵐竜がいたが。見える強さだったのだ。今はとにかく……わからない部分で緊張するのだ。
「近付こうと。うかがっているわね」
「……近付こうとしないのね。怖じ気づいた?」
構える拳に何か感じたのだろう。そう、私はヴィナスに近付きたい。信じれる物は拳のみなのだ。だが……彼女は逃げていく。追い掛けても追い掛けても逃げていく。
「……やっぱり近付かせるのは危険ね。でも……これならどう?」
「な……に……を?」
「ふふふ。これは効くのね」
「………」
体が動かなくなり。ヴィナスが槍を新しく取り出し近付いてくる。何故、動けないかを私は記憶で知っている。きっと……時を止めたのだろう。だけど……私は見えている。演技を続ける。
「勇者はこの中でも動きやがりましたがあなたは動けな……何で目が合う!? い、いや。何で動ける!?」
槍で仕留めようと近付いた時だった。私は体を動かす。彼女は勘違いした。能力を発動出来ていると。だから、油断した。
ガシッ!! ザシュ!!
「ぐふ!?」
私は左手でヴィナスの首を掴み。ヴィナスは槍で私の心臓を貫いた。しかし……心臓はなく。槍の刺さった傷から炎が漏れていく。
「おかしいと思いますよね。私もおかしいと思います。ですが……今回だけですよ」
ピキピキピキピキ……
ヴィナスの頬が凍っていく。
「能力を……!?」
「あなたの使う能力を凍結。どうして私にはネフィアにない。まるで鏡のように相反する能力だったのかわからなかったんです。でも……これではっきりしました」
「は、離せ!! 離せ!!」
「離さない……」
「くうぅ!! はぁあああああああああ!!」
ヴィナスが槍を剣に変え、私の腕を切り落とし。離れていく。
「はぁはぁ……体は脆いようね……!?」
ガシッ!!
切り落とされた腕は彼女を離さない。そう……絶対に。捕まえた。離すもんか!!
「ヴィナス!! 離さない。過去にもに未来にも逃がさない!! あなたが行った歴史改編の大魔法の対抗呪文としてね!!」
「対抗呪文!?」
「あなたの魔法のデメリットとして私が生まれた……対価としてね」
私は私自身の存在を明かす。生きていない理由なのは魔法だからだ。
「そ、そんな……そんなバカな!?」
「ありえない事が起きてるからこそ。私がいる……ヴィナス。最後よ」
ヴィナスは必死に私の手を剥がそうとする。しかし、手や翼などが固まり。動きが鈍くなっていく。ヴィナスの足元と私の足元に氷の橋が生まれる。
そして私は氷の塊を右手に生み出しゆっくりとその橋を駆けた。
最後の一撃を決めるために。




