ネフィア・ヴァルキュリアの大号令
女王旗船スピリット・オブ・マザー・ガルガンチュアの船の前で私は見上げた。最終戦に間に合った我が英魔の発展の象徴たるこれは私が挑んだ防空壕の技術が使用されているとのこと。ゴブリンの放火砲が取り付けられたこれに乗る。黒い鎧にマントを翻す。
目の前の魔物はブルブルと羽音を轟音をならし巨船の体を温めていた。
未来で必要だと思えない人造魔物はまるで今このときのために作られたようなそんな気がした。
「この船が運ぶは未来かしらね? それとも」
「女王陛下準備が整いました」
「わかった」
私はアラクネの衛兵騎士についていく。彼は私の知る者の子である。
「アフトクラトルの騎士よ」
「はい」
「先に言っておこう……素晴らしい騎士であるわねあなたは」
「お褒めいただき光栄でございます」
私はそのまま船に最後に乗り込み。乗り込んだ先で衛兵が直立で立っている。その視線を一身に受け堂々と歩き私に用意された寝室に向かう。
「女王陛下、期が来ましたらお呼びします」
「ええ」
「そして、王配から再度の確認です。全力での猛攻し障壁を弱体させ、ゴブリンの放火砲による攻撃で障壁を破壊。障壁の再構築の前に黒い烏とともに潜入し破壊の限りを尽くせとの事でした」
「わかった。作戦名は? 聞いてないわ」
私はアラクネの騎士に問う。少し彼が逡巡したのち。申し訳ない表情で答えた。
「作戦名はアローヘッドです。申し訳ありません」
「ふふ、そう。いい名ですね。謝らなくていいですよ。分かりやすいです。解き放たれた矢の先であり訳ですしね。私が」
矢の先は私である。英魔の弦から放たれた反撃の矢。多くの意味を内包出来るいい作戦名だ。
「我ら英魔が先に立たず……女王陛下を矢の先とするのは如何なものかと」
「トラストの血を持つもの。勘違いしているな」
私は強く答える。私の炎がそうさせる。
「先立つものが英魔の王。私であろう。お前らが偉大な王の背中を押せばいい。それが……英魔のあり方だ。そして、同じように継いでいけ」
強く強く。もし、ネフィアならこう言っただろう事を私は彼に伝えるのだった。
*
私は空を飛ぶ船の甲板に出た。先端の女神像のあるスピリット・トップ・ヤードと言う。帆船の帆を張る必要があった部位に乗る。今は帆を張る必要などなくただの装飾と化している場所で6枚の翼を広げ。先に展開を済ませた英魔軍を捉える。
最後の最後。決戦前の大演説をしろという。士気向上のための方法であり。英魔と人間の決戦。トラストさんが英雄として死んだ戦いでは白いドレイクに乗って旗を持ったネフィアが軍を駆け抜け昂らせたという。
今は私がそれを行おうと言うのだ。
「……」
期待を一身に受け、眼下で大地を走る人造魔物のグレートワーム・フォートレスを見つけた。
1年間、英魔の復興のために大地を走り。旧人類の空中都市を牽制し続けた人造魔物も今は静かに言葉を待ち、その上に英魔達が並んだ。
多種多様、人間もいる中での演説。前もって何を話そうかと考えたときに多くの小さな火種のような物が目に入り込んでいく。それは何千何万とも眼下で小さく揺らいでいる。
私はそれを見続ける。目に焼き付ける何度でも。
「……女王陛下?」
「ああ、なに。多くのも者がいて緊張したんだ。私でも今日は緊張する」
直立で待つ衛兵に声をかけられ私は静かに微笑み返す。この声も皆に伝わったか何かピンっと張った糸がほどけた。何事も口に出してみるものである。
「おほん………英魔諸君!!」
私は強く大きな声で英魔に声を届ける。
「私は最初、一人であの島に流れ着いた……一人で戦いを始め。そして今、多くの英魔が流れ着き。ここまでやって来た!! 気付けば長い道のり。気付けば短い道のりでもあった。そう!! 流れ着いたが我々は諦めずここまで来れた!! 英魔のその力は悪魔の四天王、嵐竜、女神の部隊さえの追い返した!! 我々は戦える!!」
大気を揺るがすほど声量をあげる。
「そして!! 今日!! この日!! 我、英魔王が直々に女神と決着をつける!! 長きに渡った未来を取り戻す戦いも今日で最後だ!! そのために皆には我から頼みがある!!」
正直に正直に頼む。
「私が勝つことを信じてくれ!! 未来を取り戻せると信じて私に託させてほしい!! 必ず!! 必ず!! 余が女神に捨てられた未来を奪い返す!! だから力を貸して欲しい!! 英魔諸君!! 私が女神の喉元を喰らうために!! 英魔諸君!! 余は英魔王ネフィアだ!! この名で失敗はない!!」
「「「「「「陽の加護がありますように!!」」」」」」
「陽の加護を!! 英魔諸君に!!」
至るところで歓声が沸き、私は耳元に愛しい人の声が届く。
「ネフィア・ヴァルキュリア……作戦開始合図を。もう、英魔を押さえることは出来ない。さぁ!! 最後の大号令を!!」
私は叫んだ。
「全軍行動開始!!」
叫んだと同時に英魔は解き放たれた。最後の戦いは私たちが攻め側、向こうが守り側となる。
そう……向こうが守り側なのだ。
そして私も英魔を信じ、準備をするのだ。突入に向けて。




