英魔の日常④~女王旗船スピリット・オブ・マザー・ガルガンチュア~
観光名所として一般人が入れる展望台がある。多くの英魔がそこに訪れある1つの船を見るのだ。
女王旗船スピリット・オブ・マザー・ガルガンチュア。
大きな大きな鉄船に何枚ものパンジャンが真横に並びクルクルと風で回っている。その大きさは砦の城壁を横にしたようなほど大きく。英魔の中でもこれが本当に飛ぶのかと思うほどに馬鹿馬鹿しい大きさをしていた。
もちろん。ウルと来た私は二人でその船を見て頭を押さえる。ここへ来て最終決戦に何か物騒な物が来たようだった。
「トキヤ……これ腰抜かすね」
「ああ、村ぐらいか? こんなの飛ばすのかよ」
「飛ぶんでしょう……はぁ……」
二人で驚いていると後ろからダークエルフ族長が現れ、ニマニマした表情で肩を叩く。
「腰抜かしたろ?」
「抜かさない訳がない。これなんだよ」
「説明は……艦長から。お願いしましょうか? これを建造した化学者です」
ダークエルフ族長が連れてきた深いローブと何故か海乗りの帽子を被った船長らしき髭の悪魔族の紹介をしてもらう。ガルガンチュア船長とご挨拶し説明を受ける。
「開発経緯は省くが一番始めに開発された空船のプロトタイプだ。問題点など改良が加わったのが今、英魔の空島と結ぶ航路の船です。女王陛下」
「なんでこんな大きな物を?」
「大きな物しか作れんかった。そこから小型になったのです。大きな箱物だからの……改修が楽なんだ。対エルダードラゴン用の膨大な国費を費やした実験機です。そして結果。女王陛下が魔力を入れないと飛びはするが戦闘は出来ぬの」
「魔法使いがいるだろう?」
「英魔の魔法使いだけでは賄えなの。4分の1ぐらいやの。それでも貯めればいい」
「……」
トキヤが代用出来る疑問はどうやら何か理由があって難しいらしい。そして私は贅沢なと思うのだ。
「贅沢ですね。私一人の船ですか?」
「ダークエルフ族長率いる英魔衛兵旅団の兵士の駐屯地ですよ。とにかく予算が下りるように女王陛下をダシに色々としましたよ。まぁ、予想以上に成功しました。名残で先端に女王陛下の像がエルフ族長によってつけられてます。聖母の船として」
「うわぁ……」
私は船を見る。先端に私の像がついていると言われると恥ずかしいしそれが空に飛びなんてと思う。まぁ……そうしないとお金はもらえなかったのだろう。
「聞きたいが……これ。必要か?」
トキヤが疑問に思うが答えはシンプルだった。
「これ一つで反乱鎮圧が簡単ですよ。と言うよりも権威、膨大な抑止力になりました。戦争の推移の結果ですね。大多数の戦力が戦争の私有を決めるから女王陛下のような個人の戦力が私有を決める時代のあと。個人以外の大多数で個人に対応出来るためのものです」
「そ、そうか……どれだけ恐ろしい兵器かは実戦で確認しよう」
「はい。そうしてください。模擬戦は夢でしか行えない物で……まぁそれは恐ろしい物です」
私はその無駄だろうと思う船を見ながら。あることに気が付く。
「……ねぇ。そういえば……グレートワームって言うのあるよね。もしかしてこっから見えるあれのこと?」
船の先に。鉄の延べ棒のような物が何個も並んでいた。
「そうです。あれがグレートワーム・フォートレス。移動砦の失敗作です」
「失敗作……失敗作なんですね」
「はい……平時では動かしちゃいけないのですよ」
「………」
私は空を飛び近づき砦のように大きい鉄の延べ棒が何個もくっついている物を見て納得する。細く長いそれがどうなるかを。トキヤも上がり同じように確認したとき変な笑いをする。
「これ、都市を壊したりバキバキに壊して進むんだろうな」
「……動かしちゃダメだわこれ」
大は小を兼ねると言うありがたい言葉があるが。限度があることを私はそれを見て学んだのだった。
*
ガルガンチュア船内の食堂もとい騎士衛兵冒険者に解放されているレストランに向かう。
巡回し説明を受け艦長とダークエルフ族長は仕事があると別れた。
「にしても……ひどい」
ウルは途中から何故か滅茶苦茶目を輝かせて船長やダークエルフ族長と話をしていた。何故か私より楽しんでそうだったので聞いてみると男の子は大きいものが好きと言うのを教えてもらえる。
だから……私の胸が好きなんだねと言ったら怒られたのは何も悪くないと思う。
「うぅ……大きいの好きだって言ったのに」
「まだ引っ張るか……だから。胸を揉むな……皆の目線が痛い」
「……皆、見てるね」
「……」
ウルが耳元で囁く。
「ヴァルキュリア……お前は女王陛下な。思い出せ昔の真面目だったお前を」
「嫌だ……嫌だ……もっとバカになりたい。楽しみたい今を」
「なんで俺が気疲れしなくちゃいけないんだ?」
「それ楽しんでるだけでしょ。なーにワクワクしてたじゃん」
「……楽しかった」
正直に笑顔で楽しかったと言うウルに私は声がつまる。屈託ないその笑みに熱を感じ、顔を反らす。
「どうしたネフィア?」
「イケメンの笑顔に攻撃受けた……」
「お前……唐突に言うのやめろ。恥ずかしいじゃないか」
「格好いいと思っちゃうここがいけないね……」
「はぁ……おら」
ウルが手を伸ばし私の手を掴む。
「恥ずかしがってないで行くぞ」
「う、うん」
男の強そうな手に掴まれ私は笑顔になる。
「と、トキヤの手だぁ~」
「ネフィア……そういえば……お前の手」
「うん!! なに!!」
「女の子のわりには硬めだな」
私の笑顔は固まり。握りしめた手を強く握りしめた。
「あだだだだだ!? ああああ!?」
「おい。お前」
「ちょ!? 離れない!?」
「もういっぺん言ってみろ」
「いや!? 力強!? うそだろ!! 俺竜!?」
ベキベキベキベキベキ!!
「ぎゃあああああああああああああ!!」
「あっ……ごめんなさい!! トキヤ!! トキヤ!!」
「あぐ……手が……手が……」
私はトキヤの手に回復魔法を唱え、周りの英魔がそそくさと逃げ出し、私はトキヤより握力が強いことが証明されてしまうのだった。
*
「すん……美味しい」
「女に力勝負で負けるのは驚いたけど……それで食べながら悲しむなよ」
「うん……」




