英魔の日常②~日常の二人の仲~
竿を持って私とウルは早朝浜辺に顔を出した。朝食はゴブリンの放火砲が打ち上げる疑似太陽の前に食べて移動し。打ち上げ後に準備をする。既に来ていた人も多くが同じように場所を取り始める。
「お、多い……」
「今ええ時期だからな。暖かいし」
「そ、そうだね」
人の多さに驚きながら。麦わら帽子と白のワンピースに身を包んだ私は笑顔で周りと手を振って挨拶した。距離感を保って貰えるのはありがたい。
「よし……出来た。生き餌をつけて投げるんだ」
「生き餌ですか?」
「これ」
ウネウネウネウネ
「ひっ!?」
ウルが小さな袋から広げた餌を見せつける。ウネウネ動く親指の大きさのワームに私は腰を引く。
「まぁ気持ち悪いな。これを取り出して」
ブチュゥ
ウルが目の前で針に餌をつける。そしてそのまま大きく振りかぶって沖に向かって大きく投げた。同じように投げている英魔が多い。私はそのまま、砂浜に座りウネウネの入っている袋から離れた。
「無理じゃないのですか?」
「なれる……」
「なれるか? なれるものなのか?」
「おう。魔王ボイスで驚くな。あっ……当たった!? ぐっ……うん。きたきた」
「……う、うん?」
ウロがグルグルと巻き、引っ張る。そして浜に上がってくる魚を見ながら私はおおっと声を出した。隣同士の英魔もつり上げる。白い銀色の光沢のある魚だった。確かに白く美しく口が小さいキスを求めてる人みたい。
大きさは顔より大きい。
「小さいけど疑似太陽が出来てこの時期はこれが群れで来てるらしい。数釣りだな」
「これが……キス?」
「そう。調理は任せた」
「切り身でしかしらない……」
既に加工された物を買っている。こんな形だったのは初めてしった。
「食べてた魚ってこんな形なんですね……英魔みたい」
「英魔の人魚も魚っぽいもんな。にしても今日はすぐに当たりが来たからええな」
「……周りも釣れてるね」
「まぁ群れで来てる」
「狩り尽くす?」
「いや。これだけで狩り尽くさないぞ」
ブチ、シュン!!
ウロがまたワームを掴み針に刺して投げつける。それを何回も何回も行い。釣っては投げての繰り返しを行う。バケツに乱雑に置かれてビチビチ動く魚を見続ける。
「どうしようかな?」
「天ぷらがいいそうだ」
「わかった。頑張ってみる」
そう言いながらすごく真剣にずっと海に目線を向けるウロを私は見続けるのだった。
*
お昼頃。バケツに数匹が入った状態でウロは引き上げる。竿を納めて私は彼についていく。
「もういいの?」
「全部食べきれないだろ? 今日は本当によく来る」
「そうなんだ……」
「じゃぁ昼御飯どうする」
「ちょうどそこに店があるぞ?」
「……うんあれ気になってた」
私は出店のテントを見る。お店なのはわかっていたのでこんなところでも商人はいるんだなぁーと思ったのだ。
「商魂逞しい」
「まぁここ人が多いからな。軍食売ってる」
「軍食ですか?」
「そう。パンをな」
私は一緒についていくと魚人でイカっぽい英魔人が切り盛りしていた。そしてメニュー表にイカスミパスタとタコスミパスタや、肉をパンで挟んだ物など豊富にあり驚く。
「え、ええ……レストランみたいにある」
「女王陛下? 今日はどういった用件で?」
「ただの釣りの付き添いです」
「釣れましたか?」
「ええ感じにな。にしてもはよ店を直せって」
「店吹き飛んだ。氷の結晶が降ってな~」
私は背筋が冷える。心当たりがあった。
「大決戦だったもんな。ネフィアなに頼む?」
「あっうん……フィッシュサンドかな?」
「美味しいですよー女王陛下」
「じゃ、同じの。店主、飲みもんも2本」
「はいよ、そこから貰ってくれ」
ウロが箱に氷と共に入っている瓶詰めの飲み物を取り出してw私に手渡す。フィッシュサンドを貰いそのままテーブルについた。フィッシュサンドをどうやらパンに揚げた魚を挟み。調味料をかけた物らしい。何となく美味しそうなので頼んでみた。
「うーん……トキヤ」
「なんだ?」
「これってデートじゃない? デートの誘いだったの?」
「えっ?」
「えっ?」
私はその反応で全くその気がなかった事を理解する。瓶の蓋を取りながらウロは申し訳なさそうに私に話をする。
「……いや。誘ってみるだけだった」
「うん。わかってる。そんな気だったね」
「あーもっとお上品な感じがいいのか?」
「ううん。一緒にいるだけでいいよ。それに……見てて面白かった。ビチビチしてるし」
釣果を見ながら私は不思議がる。
「まぁビチビチだな」
「これ、どうやって生きてたんでしょうね」
「どうだろ……そういえばそこまで詳しくないな」
「生きてるね」
「まぁ……」
浜を見ると英魔がまだ釣りをしたり。泳いだりしている。寒くないのだろうかと考えたとき。そういえば私自身が寒くない事を思い出す。体温があり、暖かい。
「泳いだりしてるね」
「まぁ今、大分暑くなったからな。疑似太陽の調子がいいらしいから暑いんだと」
「もっと弱めてもいいと思う」
「調整難しいからこのままだろう。それに薄着のネフィアが見れるからいいと思うな。寒がりだろう?」
「そうだね……寒がりだね。その……服褒めてくれてありがとう」
結局、私は彼の事が好きなのだろう。この服着てきてよかった。そう思い胸に手をやるのだった。
*
家に帰ると私はエプロンをつけ、本棚から魚の捌き方を見る。研いだ包丁で頭を切り落とし開きにするといいらしい。開きにすると結構大きい気がするので3枚におろそうかと考えた。
「ネフィア~」
ギュッ
「きゃ!? ちょっと!! 包丁持ってるのに後ろから抱かない……!? 酒臭い!?」
「いやぁ~結構かかるかなって思ってあけたんだ」
「それとこれとはダメです!! 包丁あ危ないでしょう」
「へいへい」
「もう……」
そう言いながらも胸の内にある熱は体を燃やそうと燃え上がってしまった。ドキドキしているのがわかり。紅くなる。
「トキヤ……大人しく待ちなさい」
「ウル……ウルツウァイト」
「ウル。めっ」
「わかった。わかった。一人の晩酌が辛くてな……」
「野球見てなさい」
「………おっと。時間は。そろそろだな」
ウルが頭に赤いバンダナをつけ、買っている魔石を起動した。魔石には夢魔の術が施され夢を経由し遠くの様子が浮きび上がる。
「よしよし。始まったばかり……ふぁあああああああああああ、初回炎上かよ!?」
「ふぅ……もう」
私は後ろで頭を抱えるウルの子供っぽさに苦笑し、魚を捌くのだった。




