皆に対する顔見せ.
トキヤに連れられ私は城の会議室に赴く。しっかりした石造りの城の廊下を噛み締めるように歩く。巡回の衛兵はおらず全員が出払っており、衛兵が居なくても何も起きない英魔の秩序に感謝を示す。
火事場泥棒ぐらいは居ても良さそうなのだが。そんなのはいない。
「トキヤ……会議室の前にも衛兵いないね」
「皆忙しいから警備にまで人が回ってこないんだ。まぁ……何もないしな」
会議室の扉をトキヤは開ける。すると中では既に集まっていた族長達が一斉に立ち上がる。会議室の脇を進み。ここに居ないヘルカイトやユグドラシルやマクシミリアン等の権力者を思い浮かべる。
これを見るとやはり。「族長達が私の部下で彼らが同盟者である」とも言えた。
席の中央に立ったまま私は号令を待つ。
「敬礼!!」
シュバッ!!
胸に手を当て相手を敬う。私も同じことをし挨拶する。真面目な空気である。そして……手を下ろした。
「直れ!!」
皆が敬礼をやめる。そして私は笑顔で答える。
「座っていい……ではこれから会議を行います」
私の言葉に着席する。約1名……アラクネ族長はそのままである。そしてトキヤが私を小突く。「話をしろ」と言うことだろう。
「えーと……先の大戦は御苦労様でした。個人個人の活躍のお陰で滅びず。私も休養できました。ありがとうございます」
「女王陛下……申し訳ありません……」
エルフ族長が立ち上がり謝り出す。
「先の大戦は私たちの落ち度でした。決戦を前にして……」
「エルフ族長黙る」
「……」
私は手をあげて制止する。
「謝るのは全て終わってからだ。確かに穴が通じているとは調べず。空き巣に入られたが予想できなかった事をとやかく言うのは今は必要か?」
「……」
「喋っていいぞ」
「女王陛下の考えをお聞かせください」
「一に現状の復興作業……二に新人教育。とにかく国力を戻す事が先決であり。それを第一とする」
私は真面目には答える。なお、既にトキヤが動いており命令せずともしている状態だった。
「なお、既に王配であるトキヤが指示したと言うので私からはない。自由に任せる。以上……後は~」
私は手を叩く。そして自分から真面目な空気をやめる。
「もう、なんとかなるだろうから~会議終わり。ただの顔見せでしょう? この通りピンピンしてます」
私が優しく笑みを向けると何人か胸を撫で下ろした。背筋を緩め空気が融和する。エルフ族長が涙を流し始める。
「女王陛下……よくぞ大きくなられましたね.……不甲斐ない族長たちですいません」
不甲斐ないに数人族長がピクッと反応したが我慢する。私はそれを見て一言口にした。
「私のように強ければね」
ピクッと反応した族長達が一瞬で顔を背けた。怒りで反応したのが嘘のように引く。「おい、お前ら……もっと気概を見せろよ。私を越えろよ」と口に出す。
「天災と天才を一緒にしたらダメだぞネフィア」
「トキヤ……同じ言葉じゃないよねそれ」
「災害の天災と生き物の天才な」
「酷いことを……あなただって……」
「一緒にしないでくれないか?」
「トキヤ……怒るよ?」
何か人扱いをされてない空気を感じる。
「ふぅ……それよりネフィア。議会は勝手に終わらすな。復興前に聖球について決めるんだったろ?」
「そんなに重要な会議に思えませんがね……」
ピリッ
「えっ……ええ……」
野球の話になったとたんに空気が重くなる。トキヤが続けた。
「野球は有事の際は辞めることを英魔の法で定められている。『暇がない』と言うことでな。だから……ネフィアにはその禁止を唱ってほしい。納得してもらうためにな」
「ああ、そうなんですね。わかりました……では……」
トキヤが書類を出す。禁止令の書類だ。私はそれを見ながら。ただただ国璽の判として親指に朱肉をつけ押そう考えた。
すると……何故か変に柱の所に目線が行き。柱に隠していたのかボールが転がっていく。
「えっ……ボール? なんで会議室にボールが?」
「………エルフ族長か?」
トキヤがエルフ族長を睨む。首を振りダークエルフ族長を指差した。ダークエルフ族長は「こいつも仲間」とエルフ族長を指差す。子供の怒られる前に擦り付けあう物に見えて私は「大きな大人が……」とクスクスと笑う。
そしてトキヤさんにボールを持ってきてもらい。私はそれを受け取った
「全く。好きですね……」
そしてそれを持ちながら族長を見やる。
「禁止令出すかは多数決にしましょうか」
「「「「「!?」」」」」
族長達が驚いた表情をする。何人かは笑みを浮かべるのを我慢していた。本当に好きだな。一部の奴。
「また会議をします。3日から5日後まで。各々の族に案件を持ち帰り。そこでどうするかを決めてください。法ではありますが……私の一存で決めた事です。私が決めます。よろしいですね?」
私の提案に族長たちは快く頷いた。
「では解散です。これで本当に今日の会議は終わります。いいよね? トキヤ?」
「ああ、いいぞ。では後は族長同士でどうぞ」
私は立ち上がり会議室を後にした。そして……会議室をトキヤと出た後少し歩いて気が付く。
手にボールがあったことを。
「あっ……返さないと」
「そうだな」
切り返し帰る私は会議室の扉を開ける。するとそこで……
「「「「「あっ」」」」」
わざわざ会議室でキャッチボールをしている愚かな大人達を見つけてしまう。そして、「禁止令出すべきでは」と後悔するのだった。




