初戦.
島強襲の報は族長の皆の耳に入る。デイゲームで連絡通話の途中での緊急速報や現地の情報によってもたらされた。
全く誤差なく伝えられた情報により一部を残し帰還を行う事が指示された英魔たちは霧の向こうで燃え上がる島の都市を見て背筋が冷え震え上がる。
しかし、その恐怖は一瞬で消える。膨大な魔力の打ち合いの先で6枚の翼を広げて空で白い竜と戦っているボロボロの姿に我に帰り……今度は怒りで身を震わせ、船を接岸し、岸を英魔が走り抜けた。
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「01!! 発艇!!」「02!! 発艇!!」「03!! 発艇!!」「砲船!! 発艇!! 護衛たのむ!!」
海族達が霧の中を突き抜け都市上空に向けて飛び立つ。前もって整備と準備が整った船にスライムパンロット達が乗り込み。パンジャンに命を吹き込む。ブルルルルと音を立てて飛び立つパンジャンを乗せた飛行艇は燃え立つ都市上空に向けて飛びたつ。
その飛び立つ飛行艇に複数の海族長が敬礼を行う。
「エースナンバーズ!! 頼んだぞ!!」
空で飛び立つ飛行艇にその数倍の大きさの飛行艇がゆっくりと浮上する。対、地上、上空用の大型パンジャンを6基つみ、巨体を持ち上げるそれは大きな翼で防衛しに戻るのだった。
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歩兵バリスタを持ちながらオーク族達が矢を装填し天使を狙う。中々当たらず四苦八苦しているが……とにかく数を減らさないといけない。地上に降り立つ天使との戦闘も加熱し、状況は混乱を生む。しかし……昔の魔族の姿はそこにはない。
「居残り組に仕事があるとは思わなかったな!! 楽に『墓場に帰れる』と思ったのにのぉ~」
元オーク族長。デュミナスは笑顔で片手の斧を振るい。天使の翼をもいでいく。流れ着いた彼は息子に任せて隠居していたが始まった決戦が隠居先だったため。慌てて戦闘を始めたのだ。トロール族長も戦いに参加する。
「デュミナス。また、お前の背中を借りるとは思わなかったな」
「トロールの旦那も……名残なくスマートな体になりやがって……誰かわからんかったぞ」
「オデハトロールゾクチョウナリ」
「はははは!! その口調!! 本人だな!!」
筋肉隆々とした元トロール族長は棍棒を振り回し、天使を凪ぎ払う。天使も近付かず魔法で攻撃を行うが投石によってダメージを重ねていく。
「空飛んでるのはズリーなぁ~」
「オデハ……いいと思うぞ。打ち落とすのは楽しそうだ」
崩れた家々の煉瓦や木を投げつけ。天使を叩き落としている途中で咆哮が響く。二人の目の前に竜が降り立つ。
「竜じゃないか!?」
「竜や!? オデ初めて戦う!!」
「ええじゃないか……ええじゃないか!!」
元オーク族長と元トロール族長はそのまま竜に押し掛ける。負ける事なぞ考えずに。
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「ネフィア!! 弱くなったな~!!」
「……弱くなったつもりはない!!」
上空で戦う二人は氷の槍を宙に生み打ち出すネフィアと嵐竜は黒い砂鉄の盾と風の魔法矢で打ち落とし続ける。嵐竜はそこを動かずに笑みを溢す。強者の余裕、傲りを見せつけるように。
「所詮、竜の手を借りないと勝てなかったのだ。1対1では我に勝てぬ。そして……その竜もあそこだ」
「……」
時間を稼ぐ。時間を稼げば私にはあの技が使える。全てを凍らせ破壊する技を。
「時間を稼げば我に勝てると思いか? 魔王ネフィア。会話をしよう。時間を稼ぎに付き合ってやる」
「……優しい。そうよ……あなたを倒すためにね」
「ククク。あの焔城。あのデーモンを葬った魔法のような技を使うのだろう」
「わかってるじゃない」
「やってこい……」
嵐竜が真剣な声に変わる。その声に奢りも何もなくただ力で叩き潰す強い意思が見え、ネフィアの背筋が冷える。そのやる気に満ちた嵐竜が恐ろしく感じたのだ。傲った日々をこの竜は過ごしていない。見てとれる……鍛えた日々を。
「!?」
「傲った日々を過ごすことはしない。我は魔王にも神にも王にもなる!! 頂点を目指す。統べては我にもの!! 生半可な物ではない!!」
大気、都市、総ての音を飲み込む咆哮にネフィアは震えがくる。ネフィアとは違う最強の種族が最強の才に胡座をかかず。努力し、志を示す。その強さに戦慄する。
「嵐竜……お前の思う頂点とは」
「俺が全ての神である。全ては我の下で平等である。自由に生き自由に死ね、弱肉強食の自然に戻す。旧人類のような滅びの拒否も許さん!! お前ら英魔も我等の下で自由を謳歌させよう!! 我は寛大だ!!」
その言葉にネフィアは孤児院の子供たちを思い出す。そこから……多くの英魔を思い出す。
「英魔の大多数は死に絶えますね……人間も」
「仕方なかろう? それが自然だ」
「ええ、そうですね。ですが……」
ネフィアは拳を握る。震えが止まりそのまま竜に殴りかかる。
「私は英魔の王である!! お前の自然も正しいだろうが……私だって正しい!!」
竜も拳を握り、小さな拳に答える。激しい激突に大気は揺れる。
「矮小であり、女の身でありながらこれだけ力強い。ククク、惜しい。実に惜しいな!!」
ネフィアと嵐竜はそのまま肉弾戦を始める。己が正しいと信じて。
*
金竜は悩んでいた。腐竜に対して全く歯が立たず。ずっとずっと「勝てない未来しか見えない」と。
金竜の能力は予知。その予知で知り得た物を使い攻撃を避け、時間だけを稼ぐ。
「ウロ!! 逃げ惑っても勝てない!!」
「ボロス!! 我慢!! とにかく時間を稼ぐ!!」
「うぐうう」
銀竜に敵わない事を伝えた金竜は爆発の隙間をお掻い潜る。
「ボルケーノの爆炎とヘルカイトの熱線による遠距離に……グランドとラスティの防御……本来は個々で戦うから気にしなかったけど連携は恐ろしく強い」
「ウロ!! じり貧だよ!!」
「う、うん……でも。どうやっても勝つ未来が見えない」
そう、金竜は勝つ未来が見えない。ネフィアも負ける未来しか見えず。この能力を呪う。
「見えてしまうのがこれほど辛い事はない」と思うのだ。
「ん……ウロ!! 後方から竜がくる!!」
「後方から!! しまった!?」
予測……しかし予測が出来ず金竜は驚く。何が起きているかわからずそのまま後方の竜を見続けた。段々と大きくなる。小さな体に……金竜は道を開ける。
後方から来る竜はワイバーンだったのだ。
バァン!! シュンゴオオオオオオオオオ!!
大きな音を立て、高速を飛び。ラスティとグランドの隙間を抜けてボルケーノに迫る。
そして……ボルケーノの翼がもげる。ラスティは驚いた声を上げてその姿を見た。
「なっ!? 速い!? なにこいつ!?」
「「デラスティ!?」」
金竜ウロ、銀竜ボロスはそのワイバーンの名前を口にし、そのワイバーンは大きく旋回して回転し、ボルケーノに尻尾打ちを繰り出す。ボルケーノの体が地面に向けて叩きつけられ。そのままデラスティは追い討ちをかけてボルケーノの四肢をもぐ。ゾンビと化した竜は脆く。ボルケーノは動かなくなった。
「お前はいったい!?」
「僕はデラスティ……ワイバーンのデラスティ。ラスティ姉さんこそなんでそっち側なんだよ」
デラスティの周りに金竜と銀竜が降り立つ。
「デラスティ君……遅かったじゃない」
「デラスティ……あのラスティは雄のまま。察してくれ」
「……そういう事。流れ着いた時にだいたい頭に入ってる。わかった。倒せばいいね」
「本当に……ワイバーンなのにこれほど心強い勇者もいないわね」
「情けないけど。デラスティ頼みだよ」
「うん、わかった」
3匹の竜が飛び立ち。ラスティは自分の使役している竜を呼び寄せる。新たに現れた竜の存在を危険視して。
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女神ヴィナスは外から眺め続けていた。天使の視界を借り、天使に自分の力を流しながら眺めていた。
強襲は大成功であり。大きな大きな優勢が続く。都市や生活圏を破壊し続ける様に彼女はスッと胸のつっかえが降りていく。
「英魔は恐ろしい……本当に……この焦土作戦がどれだけ有用かを見せてもらった」
女神は真似をした。英魔族のこの相手の生活圏を攻撃し、弱らせていく戦法を。この戦法は多くの英魔を苦しめ。英魔国連合軍と言う戦闘員維持さえ影響を及ぼせる事を。
「私の有用は既定数まで無限に産める天使の兵士と天使の維持の簡単さ。そして……継続戦闘力」
ヴィナスは天使を産み出し続けて送り続ける。
「ネフィア。あなたの弱点は有限な戦闘力。膨大な数がありわからなかったけど。有限であるならいつかは消える」
天使を産み出し続ける。
「それは竜も一緒。嵐竜の強さも見せてもらうわ」
女神ヴィナスは二人の戦いも監視する。そして、次に戦うであろう嵐竜の強さを観察し続けたのだった。




