トラストさんへの功労..
潜水艦は都市オクトパスの港につき、そこで孤児達を他の魚人に預けて事細かな説明を私は行った。その結果、彼らの技術を貰う代わりに停泊の許可をいただき。力になることを約束してくれる。機体損傷が大きく戦線復帰は大分先の事であるが古代兵器を手に入れただけで十分の成果だった。古代兵器を流用した物が流れ着くだろう。
私は新たな技術を手に入れた事に満足して家に帰り、家事を行い寝たあと。同じレガシーのゴブリンの放火砲の爆音によって起きた。
水が貴重なのにトキヤにワガママを言ってシャワーを使わせてもらい。お湯を浴びながら何しようか悩んでいた時にある目的を思い出す。
→トラストさんへの功労
そう、あのトラストさんへ。唯一功労を送っていない。彼に「功労を贈ろう」と考えたのだ。
*
「………」
綺麗な浜が擬似太陽によって照らさている。多くの亜人が竿をもって釣りをしているのをトラストは眺めながら、亜人のいない岬に向かう。飛べる彼だが、その日は何故か翼が使えなかったのだ。
「………」
いつも向かうその岬はいつだって誰も居らず。トラストだけを待っているようなそんな場所だった。擬似太陽によって岬には草が生え、そこに腰を下ろす彼は胸にあるペンタンドを開けて中身を見る。
その中身には綺麗な姫が描かれていた。
ザァーザァー
「………」
浜の音と風に当たりながら。トラストはただただ想い出を一つ一つ思い出していく。
出会いから……幸せな日々を全て。
「………トラストさん?」
「!?」
ザッ!!
トラストは慌てて立ち上がり後ろを向く。その不安そうな声質に聞き覚えがあったからだ。空耳かと思い見たとき。彼は……優しい笑みを向ける。
「アメリア。流れついたんですね」
「はい……トラストさん」
そう、アメリアが立っていたのだ。綺麗な綺麗な令嬢のドレスを着た小さな体にトラストは何も言わずに近付き。強く抱き締めた
「すまない。君を護れなかった」
「……トラストさん。大丈夫です。ここにいます」
「いいや……君に孫も見せられず……何も出来なかった僕は……ん」
少しトラストは離れ、謝り続けた。しかし、それはアメリアの指で唇を押されて止まってしまう。
「いいえ。トラストさんは護ってくれました。私を家族を……そしてこれからは皆を護るために居ます。トラストさん…大好きな王子。主人公になれますよ」
「……ふふ。そうだね。アメリア」
トラストは昔ながらの気恥ずかしい笑みを溢してアメリアを見る。アメリアも「仕方ない人」と言い。クスクスと笑った。その笑みにトラストは胸が熱くなる。
「……トラストさん。私はまだ。そのランスロットの奥さんに会ってないです。会いましたか?」
「会ったよ。綺麗な娘です。会いに行きましょう」
「はい!!」
トラストはいつものようにアメリアを姫様抱っこしようとして頬をつねられる。
「トラストさん!! 外はダメって言ってたでしょ‼」
「ははは……ごめんなさい。ついね」
いつものアメリアにトラストは素直に手を握ったのだった。
*
「はじめまして。ランスロットの母です」
「あばばばばば!? えじまえして。あああ。ら、ランスロットくくんの」
「リディア。落ち着いて。深呼吸」
落ち着いてランスロットはリディアを落ち着かせる。
「ふふ。そうです。落ち着いてください。確かに……大きくてビックリしましたが。いい子なのは文通で知っているので大丈夫です」
「安心してください。僕の妻であるアメリアも昔は人前では後ろで隠れていたので大丈夫です」
「トラストさん……言わないでください。頑張って頑張って直したんですよ?」
「知ってる。鏡の前でいつもいつも練習していたのも。嫌われたくない一心で僕の見てない所で頑張っていたことも全部。メモにとってあった」
「…………!! そうですよ‼ トラストさん!! 私に対して隠してたことあったでしょう!!」
「ええ。メモを知り合いの小説家に渡したんだ。それを謝らないといけないね」
「うぅ……その後にそれを渡された私の気持ちを汲んでください」
「……ああ。死後も愛してるよ」
「トラストさん……」
「ごほん……母上、父上。ご挨拶ではなかったのですか?」
ランスロットが咳をし、アメリアとトラストは視線を外す。アメリアは視線を下げ、手を足に乗せて申し訳無さそうにする。
「すまない」
「ごめんなさい……そんなつもりはなかったんです」
「母上、父上。お気持ちはわかりますが……今は妻であるリディアを紹介させていだたけないでしょうか?」
「ランスロット……本当に大きくなって……あんなに小さかったのに」
「ああ。一人前になってな……立派な騎士だ」
「ええ。お陰さまです」
ランスロットが深くため息を吐きながらリディアに囁く。
「ああいう親なんだ。変に気を使わないで欲しい」
「ランスさんとよく似てらっしゃいますね?」
「似てない」
「ランスロット。皆、子供はそんなことを言うんですよ? 大きくなって本当にトラストさんに似て……」
「今の状況では複雑です」
「そうか……複雑か」
「トラストさん。反省してください。それよりもリディアさん……」
「は、はい!!」
アラクネの亜人がヘコヘコする。大きい体に不釣り合いな程に気が小さくなっていた。
「これからもランスロットさんを支えてあげてください。男の人はね……いつだって戦って疲れて帰ってくるんです。でっ勝手に『私たちを置いていく』と思います」
「すいません。いえ……ごめんなさい」
トラストがアメリアに謝り。アメリアが笑みを見せる。
「でも……私は幸せでした」
アメリアの言葉にトラストは嬉しそうに昔ながらの微笑みを姫様に向けた。それを見ていたリディアは元気よく宣言をする。
「……はい!! 私はそのわからない事が多いですが頑張っていきます!! ランスロットさんを支えていきます」
「リディア。君は族長だから支えるのは僕の仕事でもあるよ」
「うん……だった……族長だ」
「ははは。本当にアフトクラトル家は安泰だね」
「そうですね。孫も見れればもう安心します」
「そういえば……ランスロット約束していたね。」
「はい……孫ですよね」
「……お会いになりますか?」
「「生まれたの!?」」
「少し違うんですが。アメリアお義母さま……孫が流れついたんです」
リディアはそう言い。照れながら鼻を掻き。アメリアとトラストは期待を胸にそのリディアの子に会いに向かった。
*
場所は都市イヴァリースのダークエルフ族長が有している衛兵騎士団だった。受け付けにお呼びをお願いし。大きい大きい面会室で待つこと数分。
大きな大きなアラクネ族亜人の男の子が現れる。ランスロットのように綺麗な顔の孫に血族なのだと二人は理解し、その立派な体に驚いた。
上半身に鎧を着こみ。顔を見せるためなのか被り物だけで頭を護る。足には鋼の足甲がつき、大きい大き馬上機械槍という三角円錐形の機械武器を持って現れた。
「おばあちゃん。こんにちは……おばあちゃんも流れついたんですね」
そんな体に不釣り合いな優しい声をそのアラクネはかける。その親しい言い方にアメリアは「ああ、彼は私と面識がある未来の孫」なのだと理解する。
「ごめんなさい。その……名前を聞いてもいいですか?」
「ええ……うん……そっか。えっと。おばあちゃんにはローちゃん言われてました」
「ローちゃん……ローちゃん。この人わかる?」
「えっと。お父さんに似てるけど……もしかして。トラストおじいちゃん?」
「ロー君。そうです。君の祖父です」
「お、お、おおおおお!? あの英雄おじいちゃん!! 会いに行こうと思ってたんです!! おじいちゃん!!」
「ははは。元気がいいですね」
トラストが立ち上がり、その孫に近付く。アメリアも偏見なく近づき。しゃがんだそのローと言う騎士に頭を撫でる。
「これからも頑張ってくださいね」
「うん!! ばあちゃん殺した世界なんか許さない」
「そうです。あの世界なんか許してはいけないですよ、ローちゃん」
「ロー、そうそう。君はどうやら未来側の人間のようだけど……そこでのアメリアはどうかな?」
「あっ……ぐ………………ごめんなさい。喋る事は出来ないみたいです。ただ元気です。帝国でずっと」
「ありがとう。それだけで十分だ。ランスロットもリディアさんもかな?」
「はい、姉も呼んできます」
その問いに喜んだトラストとアメリアはそのローと言うアラクネ達にいっぱい触れたのだった。
*
楽しい時間が過ぎていく。昔の若い時のように都市を巡り、懐かしむように昔話をしながら練り歩いたあと。アメリアと出逢った岬に帰ってくる。
空中の人工太陽はゆっくりと小さくなり、暗くなっていく中でアメリアは寂しそうな表情をする。
「楽しかったですね」
「ええ、楽しかった……まるで最後のお別れのようだね」
「…………あの。最後に抱き締めて貰ってもいいですか?」
「ああ……」
アメリアとトラストは抱き締めあい。愛を確認しあった。
「………トラストさん。一ついいでしょうか?」
「なんだい?」
「トラストさんは何故、こんなに私を愛して戦ってくれるんですか?」
「……トラスト・アフトクラトルは主人公です。主人公は姫を助けるものです。例え、世界を犠牲にしようとね」
「ふふ……昔からそこは変わってないんですね」
「はい」
おでこをくっつけあい。アメリアは笑みを見せつけ続ける。
「……強引にキスをするかとも思ったのですが。紳士ですね」
「ええ、それは少し嫌ですね。楽しかったです。ありがとうございました」
「……はい。ありがとうございました。トラストさん。彼女にお礼言っておいてください」
「はい……」
「最後に……トラストさん」
「はい……」
「大好き……この世で私だけの王子さま……」
アメリアは告白し、目を閉じた瞬間に膝から力が抜けて倒れた。それをトラストが抱き締める。そのまま光の粒子に包まれ霧散し、トラストの背中に粒子が向かい集まって白い翼が生まれた。彼女は最初から翼だったのだ。
光の粒子に包まれていたアメリアの姿は金髪の綺麗なネフィアがグッタリした姿でトラストに抱き締められる。
「……ありがとうございます。ネフィアさん。アメリアも感謝してました」
「……そう、ですか。夢でも会いました。頑張ってください……………すいません。力がでな……」
そのままネフィアは気を失い。トラストは目の前の男性を呼ぶ。大きな翼を広げて。
「トキヤ君。気を失ってしまった」
「そうですか。では、お荷物をお預かりします」
「物みたいな言い方ですね……」
様子を伺っていたトキヤがそのままトラストからネフィアを貰い受けて背負う。
「今は物のように寝てますからね。にしてもトラストおじさんは流石と言いますか。意思が強いですね」
「どう言う意味ですか?」
「いえ。そのまま逢瀬と思いました。よく気付きましたね?」
「気付きます。ネフィアさんのそのネックレスなどはそのままであり。匂いなど……微かな部分の違いがありました。だからこそ、さすがに人の妻を抱く趣味はございませんからね」
「……まぁネフィアもそこは覚悟してたんだけどね。それを越えて潔白な王子さまなのだから。やっぱり変であり、格好いいよ。でも一つだけ……ネフィアが演じているように見えたアメリアおばさんだけどあれは本当に本人です」
「そうですね。そこは疑ってません……」
トラストは翼を折り曲げてそれを撫でる。いとおしそうに。
「背中を押してくれているのがわかってますから……僕は世界を壊すように頑張りますよ」
「ああ、俺もおじさんと同じように頑張るさ」
トキヤはそのまま、暗くなる前に家に飛び立ち。トラストはその岬で翼の光を発しながら。一時の夢の楽しさを胸に飛び立つ。
そして彼は二度とその岬に顔を出すことは無くなったのだった。




