奈落都市インバス抹消戦~氷の城~..
トラストは自分の置かれている状況になんとも言えない気分となる。
空を飛ぶことが出来ると言う事に驚きながら……自分が人間ではなくなりつつあることを自覚していく。息子たちは空が飛べず……自分だけである。
だからこそ……
キン!! シャン!!
天使たちの攻撃を剃らし、弾き、防ぐ事に妙な気分になったのだ。ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルと名前を呼び会い。攻撃していく彼女らをただただ。空に慣れない間に相手をする。
地面がなく、重力もないため……重量武器での打撃に威力が出にくいのだ。空中では受け流しが簡単に出来る。叩き潰すという行為ができないのだ。
「ウリエル!!」
「くっ!! うるさいミカエル!! しっかりやってる!!」
動きながら。槍の攻撃を翼や大きい盾で防ぎつつ。背後も気にしながら、四方八方の攻撃を難なく防いでいく。動きが鈍くても……魔王の攻撃を耐えた翼は健在だ。
「ラファエル……何を考えてるの?」
「………何でもない」
「ラファエル!! しっかりやれ!!」
「わかってる!!」
「ミカエル……怒鳴り散らすのはよくない」
「ガブリエル!! 神様が見てるだぞ!! こんな一人に……どれだけ時間を!!」
そう、時間を稼いでいる。元々4人相手にしていたわけではない。ラファエルと言う青い天使と戦っていたのだ。それが……いつのまにかという。
「………4人で倒せない。諦めよう」
「ラファエル!? お前!! そんなことを!!」
仲間割れか……言い合いを初め。私はそれを見ながら眼下を見た。
「!?」
眼下では……黒い影が広がり。影から手が伸びて亜人を掴まえ。四肢切断……いや。もぎ取りながらも影へと落とす。味方はその危険を察したのか屋根を伝って撤退を行う。その迅速な判断に英魔族の強さを感じながも……何人か捕まり飲み込まれていた。
まるで都市が生き物のように脈動し、生きている物を食していた。
「全員……女神から命令……上へ!!」
彼女のリーダーなのか緑髪の天使が空へ向けて飛び天使たちも付き従った。戦闘は終わり、空には何か得体の知れない鳥と亜人の昆虫みたいな部分も持った者だけが残る。追うことはせず、撤退を始めたが。私は……その場に残る。
「……」
「よぉ~ランスの父ちゃん」
「トキヤ君か……君、竜人だったんだね。道理で魔物のような強さだったのか」
「えっと……違うけども……違うけども……まぁいいや。トラストおっちゃんと同じさ」
隣に大きな鋼の竜が滞空し、下の様子。阿鼻叫喚の状況を見続ける。
「四天王……全滅させたと思ったらこれだ」
「……なんでしょうね? 世界はこうも……恐ろしかったのですね」
「そうさ……人間が予想できないものがある」
二人で下の様子を伺いながら……加勢をどうするか考える。
そう……影の中心に。ネフィアさんが居るのだから。
*
世界は広い。知らない戦いもまだある。だからこそ……強くなった。
「深淵の王を名乗るには早いな。ネフィア・ネロリリス!!」
目の前の強大なデーモンの姿に驚かされて再度、世界が違うことを確認した。
最初は影から現れた。その姿は漆黒の翼を持つ褐色の美男子の姿だった。大きな手は全く別の誰かの手らしい。
だからこそ……驚くのだ。
影から……色んな物が這いずっている。人や亜人がゾンビのようにたち。吐き気をもようすような臓物を泥々に流し続けていた。影で全員が繋がれ。私の影さえもくっつき。全て黒となる。
「ククク何人が逃げられたか」
「父上!! どこで!! 何を!! なっ」
ズブズブズブ!!
「息子よ……」
「父上!?」
「お前では奴は倒せんが俺は倒せる」
トレインの体が影に飲まれる。水のように沈み……手だけになった。もがき苦しみながらも沈められた。波打つ影に海を見る。
ピキピキピキ!!
影が私を飲もうとする。しかし、私に触れている影は波が止まり。足場が出来る。
深淵の海。そう……深淵の海だった。 近いのを見たことがある。
「取り込んだ。息子を……取り込んだ四天王を……取り込んだ全てを。我は深淵の王。ヴァルボルグ」
成人した褐色の王の叫びに都市が震える。都市の上に影が覆い。私以外の場所が真っ暗になる。
「深淵の城へようこそ。魔王ネフィア。歓迎しよう」
深い声と共に……影が蠢くのがわかり。明かりが……深淵の底から沸き上がるのが見えた。
ゴバァ!! ゴオオオオオオ!!
それは炎の揺らめきであり、都市があった所は崩壊し谷となり炎に呑まれていた。残ったには中央に浮く城だけであり私は翼で飛び続ける。
「やっと浮上することが出来た。多くの魂と血の狂乱の多くの死体と魂を生け贄にな!! 感謝するぞ!! ネフィア!!」
「………」
城の中央で褐色の王が私を睨み付けた。一瞬の出来事に頭が追い付かないが倒さないといけない事だけはわかった。
そして……彼を野放しにした場合の世界も見れた。
「ネフィア。歓迎しよう……奈落だ」
ヴァルボルグの影から多くの死んだ者たち、デーモンが複製され。一斉に私の元へと向かってくるのだった。
*
「……のまれた」
「のまれましたね」
他の皆が都市から離れた位置で待機するなかでトラストとトキヤは待機していた。
「……ネフィアは逃げなかったな。毎度のことながら」
「不安ではないのですか? トキヤ君は?」
「昔から昔から……巻き込まれる。だから様子を伺う。それより……天使だ」
「そうですね……」
都市の偵察を空から見ていた二人は上空を見る。
「膨大な魔力を感じますね」
「大魔法が来ます」
妨害されずに魔法が組上がっていくのだろうと二人は考え、トラストが空に盾を構えた。
「ランスのお父さん!?」
「傘にはなります。来ますよ。下だけを見ててください」
「……はい」
トキヤは下を見続け。トラストは曇天の空を見続ける。結果……
圧力、プレッシャーが降り。身を引き締めた時だった。
雲の中が輝き、落ちてくるのだ。そう……届く筈のない天使の歌声と一緒に。
「「「輝かしい判決」」」
シャン!! シャン!! シャン!! ズバン!! ズバン!! ズバン!!
声と共に曇天の雲が裂け、何本もの光線が都市に向けて撃ち込まれる。その数は天使の数だけあり、膨大な光の柱が太陽光と共に影のドームに当たり続ける。
しかし、影のドームはその光を吸い込んでいく。
「効き目がない? いや……これは虚無!? 吸収されている!?」
「……中々、攻撃が厳しいですね」
魔力が霧散したようなことはなく魔力が消えていくのだ。トラストは光の雨を防ぎつつ苦渋を浮かべる。
攻撃が数分……繰り返され。雨は止んだ。
「威力はいいが。吸収されている。吸収のが早い」
「……あまり肥えさすのはよろしくないのでしょう」
「はい。トラストおじさん」
「トラストでいいですよ」
「……余裕そうですね」
「戦場では余裕を持ってこそです」
トラストは笑みを向け。トキヤは同じように笑みを向ける。戦場を何度も潜った黒騎士の先輩後輩らしい会話に懐かしさを二人は覚える。
「次はもっと大きいですね」
「貯めているんだろうな」
時間がたち。フワッと白い羽根が舞い降りるなか。ある一人の天使が降りてくるのが見えた青い髪の天使であり。トラストは彼女を思い出す。
「……四天使ラファエルさん」
「噂で聞く。四天王のような四天使か」
「……」
トキヤとトラストは殺意のない……槍を持たない彼女に向き合う。なんだろうか?
「すいません……退いてもらいたい」
「……?」
「……?」
「……すいません。退いてください」
「何故?」
「先ずはですね。理由を話しをし、理解を得てから交渉が基本ですよ?」
「むぅむぅ……今から。女神様の力を借りた我らからの大魔法を撃ち込む。だから邪魔をされる恐れがあると思い。私の独断で抜けてきた」
「それで。邪魔をしないでほしいと?」
「今回は今さっきの比ではない。消えたくなければこの場を渡せ……邪魔である」
「消えるからこの場にいるのはダメか?」
「ダメだ!!」
ラファエルが苛々しだす。
「……死ぬんだぞ!! 怖くないのか!!」
「「怖いが俺らは黒騎士だ」」
「!?」
「まぁ、なんだ。その攻撃を防がれると嫌だからやめてほしいと言うが。この中にネフィアがいる」
「そうです。彼の言うとおり護るべきでしょうね。現にお墨付きです。あなたの……ラファエルさんのね。ラファエルさんは防がれると思いなのでしょう?」
「ち、ちが……女神の攻撃は絶対で……」
「なら、見ていればいいです。あなたの信じたい人を信じて」
「………」
ラファエルは距離を取った。ちらちらと様子を伺いながら。
「……見栄をきってしまいました」
「いやーおじさんかっこええ。ネフィアが熱を入れたくなる理由がわかる」
「……はい?」
「おじさん。ネフィアが結構……気にしてるぞ。やったな。気持ちがわかる。気になる」
「それは……残念ですね」
「ん?」
「私は妻子持ちです」
トラストは盾剣を片手で空に向け。魔方陣のように紋章が浮かび上がる。盾の紋章。
「これが……アフトクラトル。皇帝の血族の紋章?」
「いいえ。盾の紋章は……私の覚悟の紋章です」
曇天の避けた空が人一倍輝き始めるのが見え。トラストが右手に力を込めるのだった。
*
「時間……結構たったね」
奈落の城の空でデーモンを凍らせ落としながらもそんなことを思う。ニヤニヤと様子を見ているヴァルボルグに私は遊ばれているのを感じた。
「そろそろ凌辱されては?」
「凌辱? 優しいのね?」
「なーに。孕ませ……新しい新しい最強の種が出来そうじゃないか? 最強の軍団もな!!」
「婬魔抱いてろ!!」
「すーぐ壊れて死ぬ。孕んでも毒で死ぬ。中に出しても死ぬ。雑魚な種族だが……お前は違うだろう?」
「同じ婬魔です」
「悪魔でもあるだろう? お前の母はいい肉だった」
下卑た会話をしながらもデーモンの攻撃は止まない。使役する数が多く。会話をしている余裕がなくなりつつあった。
「余裕そうだな。まぁいい。ワシは外の方が気になる。女神からの愛の囁きがな」
影のドームに轟音が響き渡っていた。外からの攻撃を行っているのだろうと思われ。何が起きているかを予想するしか出来ない。そん中でヴァルボルグが城の中へと隠れていく。
「………ヴァルボルグも出ないほどに外の攻撃が激しい?」
そう、ヴァルボルグは部下に私を任せている。勇者の剣を振りながら。飛行し距離を取る。
「………外の攻撃が激しいなら!!」
ある行動の考えがまとまる。うまくすれば外と同時に攻撃が重なって割れるかもしれない。思い付いたら即行動。城の門に突っ込み。扉を強引に勇者の剣で切り開く。
チーズのように裂け、裂けた穴を氷で塞ぎながら……カンテラの光を頼りに城の中枢へと向かう。
罠はなく、豪華な内装に玉座の間に私はたどり着き。扉を完全に氷の壁で封鎖した。
「よし……どれだけ。大きくなったか?」
私は魔力を右手に集中させ。氷の物体を取り出す。凝縮された魔力の氷は拳ぐらいの大きさになりズシッとした重力を発し手に収まる。それを重すぎるので全力で上に投げ、落下地点を私の真下目の前に調整させる。ゆっくりと上がる。
「………エターナル………」
投げた氷の物体がゆっくりと減速し、落ちていき。今度はしっかりと加速をつけて落下する。
だが……落ちる速度がゆっくりになる。いや、感じた。
感覚が鋭くなり。息もゆっくりと少し吐き。爪先から下半身、上半身と力が込められていくのを感じる。
何事も止まっているような世界の中で、背中の翼が雪を散らした。
深く腰を沈め。拳を固く握りしめ、それを引き。歯を噛み締め……氷の塊が落ちてくるのを待った。
………3………2………1
氷の塊が目の前で止まった。私がそれに対し、全身全霊の今持てる力を込めて右手を振り上げ、天をつくように伸ばした。
拳が氷の塊に触れ、大きく魔力が反発する。
「ブリザアアアアアアアアアアアアアアドオオオオオオオオオッッッ!!」
バグゥウウウウウウウウ!! シュウウウウウ!! バシュン!! バキバキバキ!! ゴバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
拳と氷の激しい衝突音が床をめくりあへるほどの風圧を生み。氷の質量分、床がひび割れ陥没し。拳圧によって柱が砕かれて。弾体となった氷も大粒は城の中心を破壊しながら進む。
大粒が大穴を空け、通ったあとに質量がつき抉り。風圧が周りを一瞬で氷土とし。拳圧がもう氷土を砕き周りに飛び散らせて破壊を広範囲に撒き散らす。
城を中心から撃ち抜き。城全体が揺れ、窓が割れ。すべての壁を破壊し、飛び散らせた氷がまたその触れ。城を氷城へと変貌させる。
そのまま大きな風穴を空けた弾体は空へと舞い、影のドームに触れ大きく窪ませて破裂させて進んだ。
私はそれを見ながら……骨が砕け、腕の皮膚から剥き出しになったそれを押さえ。笑みを浮かべた。
「……ククク!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
爽快な破壊の跡に満足しながら。ただただ大きく笑うのだった。




