インターミッション~物語の主役同士、魔王ネフィアと王子トラスト~..
「ふふ、特等席……」
私は親友が決闘をすることを聞き勝手に夢に繋げた。マナの木である私もそんな力がある。神として信託を残すために。そして……深く根を張り彼等に宿り木のような小さな種子をくっつけた。私のことは気付いてるだろうが……今は目の前の人しか見えていないのだろう。
「……ごく」
ネフィアとトラストは剣を構えた。ネフィアは肩に、トラストは両手でもって制止する。そしてネフィアは空いた手に私があげたマナの聖剣を取り出す。
観戦者はいない。丸い円形の訓練所。その訓練所で二人は決闘を行う。太陽の光が彼らを照らす。
己の今を知るために。夢の中で二人は同じ夢を見る。
ヒュン!!
ネフィアが聖剣を空高く投げる。それがゆっくりと落ちていく中で……時間が引き伸ばされたような感覚となって二人を包む。
剣はゆっくりゆっくり回転しながら落ち……それが回転が遅くなり……砂地の地面スレスレで時が止まるほど遅くなり。
ザッ!! ヒュン!! ガッキーーーン!!
聖剣が刺さった。音と同時に金属の激しい音が鳴り響き。ネフィアとトラストの立っていた場所の硬い土が抉り吹き飛ぶ。
目にも止まらぬ速さでネフィアはツヴァイハインダーを上段降り下ろし、トラストは下段から振り上げた。音の方が遅れてやって来るほどに……速い初撃に私の強さを考えさせられた。
そう、これが戦ってきた者の重さと速さ。負ければそれで終わりの道を歩み。勝ちを重ねてきた者たちの強さだった。
カァーン!!
そして、ぶつかり合いの結果はネフィアの大剣が大きく弾かれる。ネフィアの考えが掌、宿り木から伝わる。
「やはり……私の剣じゃないから……弾かれる」
長きに渡る。つかってきた剣の重さをネフィアは感じた。そして再度……炎の剣がちらついていた。
「……ごめん。ネフィアさん。私の剣が……弱くて」
私はそんな親友の嘆きに。聖剣を託した事を心で謝る。聖剣では……不十分なのだろう。
「くっ!? 速い!!」
トラストが弾ききったままもう一度剣を振るった。一撃からの二撃目の速さに目が滑っていく。追いきれない……あんな大きい盾のような剣なのに……一瞬で左右に振り抜いていく。それに対して剣を消し、再度生み出し。片手で聖剣を、片手で勇者の剣をと交互にトラストの攻撃に合わせる。
ガキン!! ガキン!! ガキン!!
重厚な金属音が訓練所に響き。訓練所の壁に剣筋が現れる。始めてみる剣圧と言うものに私は……想像を絶する。
「これが……これが……ネフィアが戦ってきた人達の重さ………正面から……」
それを耐えるネフィアの足に霜が、背中の羽が……白く雪のように輝く。
「霜渡り」
ピキピキピキ!! サッ!!
ネフィアの足元から氷の槍が産み出され奇襲をかける。もちろん鋭い槍だろう……だが。その槍は彼に当たり。
パッキン!!
砕け散る。そう、届かない。即席の苦し紛れは……だが。ほんの一瞬、動きが止まったのをネフィアは見逃さず。トラストの脇をすり抜ける。抜けた先を真っ直ぐ突き進み。歩はすべて白い氷が張り。翼からは白い雪が舞う。
そして……距離を離し剣を捨て両手をネフィアはトラストに向ける。
「氷河!!」
ピキピキピキ!!
目の前に地面から多くの氷の刺が生え、壁と攻撃を両立した。視界に埋まるほどの膨大な氷の波にトラストは盾を構える。
「押し通る!!」
そして……同じように白鋼色の翼を広げ歩く。トラストの目の前に大きい盾の紋章壁が浮き上がり波が塞き止められ。全く前へといけず上へ上へと氷柱を作った。そしてそのまま……砕け散り、小さな矢となりトラストに殺到する。
「…………」
ザッ!! ザッ!!
「う……そ?」
私は見た。波が塞き止められたあとの膨大な面による攻撃を彼は盾を構えるだけで防ぎきり歩き出すのだ。万の兵を止めたと言う彼の伝説がそこにあった。もちろんそれに……驚くネフィア。そして……笑顔を見せる。
「………お強い」
「………お強いですね」
トラストは盾を下ろす。ネフィアは……右手を握りしめ。少し開きまた力を入れる。
「……まだ。本調子じゃないけど……」
奥の手……考えが読み取れる。
新しい彼女の力。鍛えたからこそ出来る技を使うらしい。
グゥン!!
それがわかった瞬間。膨大な圧力を感じ、魔力の高鳴りを感じたトラストは駆け足で剣を両手で掴んで走り抜ける。
「アイスウォール!!」
氷の壁がトラストの前に立ちはだかり。トラストはそれを切り払う。壁が砕け散りネフィアへ破片が飛んでいった。しかし、それは消えていく。だが……その一瞬で良かったのだろう。
トラストが叫ぶ。考えが伝わった。正面から受け止める気だ。防ぎきるつもりなのだ。
「アメリア………僕に……力を!!」
翼が大きくなり。守るよう。優しく抱き締めるように盾の横まで包む。絶対鉄壁を誇る事が……遠くからでもわかった。
ネフィアの方を見る。
彼女は……右手に貯めていた魔力の氷のような小さな結晶を親指で上へと弾いた。それがゆっくりと上がる。そして……時が引き伸ばされるようなプレッシャーを放った。
ネフィアは足を開き。氷が足に絡み付く。手は右手を前に、左手を固定して……右手の指を弾けるよう中指を親指で止め、力を溜める。中指に魔力が流れ集まるのが見えた。膨大な魔力が中指に集まる。デコピンの構えだが……魔力が重力を持つほどにネフィアの右手が蜃気楼のように歪んでいく。
重たいのか大きく6枚翼を真っ直ぐ拡げて重さを調整した。
物理法則が歪んだ。右手の前に……上に弾いた凝縮された氷の粒が迫る。
…………ごく。
何が起きるかわからない。わからないなりに……ドキドキして様子を見ていた。
ゆっくりと……ゆっくりと……
落ちていき。
右手中指の前に粒が来る。そして……彼女は叫んだ。
「エターナルブリザード!!」
中指が親指の拘束を逃れ、勢いよく粒を中指が魔力を乗せて弾く。
ドゴオオオオオオオン!! フォオオオオオオオオ!! ピキピキピキ!! パッリーン!!
膨大な魔力と建物が震えるほどの岩石が落ちたような轟音と風とが吹き荒れる。彼女の右手を上方へ弾き。大きい反動があったのか上半身が膝から後ろへと仰け反り。翼が反動の風と重さで揺れて白い雪を散らす。
そして、その重く打ち出された弾体は風切り音のあとに周りに氷の結晶を生み出しながら進み。遅れて衝撃が氷の結晶を丸く穴を穿ったように砕いて軌跡を見せて進む。
バッキャアアアアアアアアアン!! ピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキ!!
進んだ弾体がトラストの盾に激突し、砕け散った。砕け散った瞬間に封じ込められた魔力が暴走し当たり一面を氷の世界に書き換えていく。私も根で防御した瞬間……根が凍り、私自身……それ以上。夢を見る事が出来なかった。
*
私は……打ち出した結果に満足せず。氷を溶かして走り出す。向かうはトラストさんの背後。
氷によって翼も何もかも凍ったまま包まれているトラストさんの盾の反対に回り込み。私は力一杯拳を固めて凍りのドームを殴る。
結晶が砕け散り。翼ごと吹き飛ばした。
舞う、羽根に……もう一度攻撃を仕掛けようとした瞬間だった。
中から……トラストさんが現れ。翼も何もかも持たない。彼が拳を固めているのが見えた。
記憶が蘇る。
いつしか……私もしたことがある。
だからこそ。私は強く唇を噛み。ゆっくりになる世界で……彼の左腕の拳を正面から見るのだった。
*
「プハッ……ぜぇはぁ……ぜぇはぁ……」
私は寝室のベットの上で荒く息をし、胸を撫でる。隣のトキヤは起きてきそうにない中で……悟る。
「背後の翼を千切り。盾も捨てのカウンターですか……」
私が昔にスパルタ王にやったように。私は自分自身の鍛えた物でやられた。そう……力が強くなったと思う。
「はぁ……自信あったのに負けちゃった」
だけど……胸はワクワクした。実感する。強くなった事を。そして……負けることを。
「まだ。まだ……上を目指さないといけないのですね」
異様な達成感の中に……もっと強くならないとと言う向上心も芽生えるのだった。
*
『神技解放、雹撃弾エターナルブリザードを覚えました』




