亡姫の騎士..
私は帝都に帰ってくる。身分を示す物を持って居なかったが鎧や剣などの風貌で衛兵は快く通してくれる。私自身、そんな適当な仕事はしてはいけないと言いたい所ではあるが。嫁の見えない場所なので気にしない事にする。
「大分、様変わりしたのですね」
帝都の外には新しい城壁が出来ており、広がりを見せていた。衛兵も屈強そうな姿であり。空には天使達が舞い、白い羽根を降らせている。
幻想的な後光が差す城を見ていると、ここがあの帝都とは思えず。物語の中に入り込んだかのような錯覚が起きる。
「………急ぎましょうか。天使は敵らしいので」
武器は大きく目立つ。しかし、黒騎士なども大きい武器を使うためか自然と皆は気にしていなかった。
「フム。住んでいる方はあまり変わりませんね」
懐かしい空気を吸い込み。周りを目に焼き付けながら……自分の住んでいた。ヴェン家の屋敷まで足を運ぶ。
「………」
胸を掴み、高鳴る鼓動を押さえながら……
*
城の上、浮かんでいる聖域の上で私はある姿を見つける。赤髪の天使ミカエル、緑髪の天使ガブリエル、黄髪の天使ウリエルの三人に私は話しかけた。
空飛ぶ聖域の部屋で窓の外に対して私は指を差す。
「……変な人がいます」
「変な人だと?」
「変な人?」
「わーい変な人!! どれどれ」
私たち四天使は女神に作られた者。帝国の人間達を監視し守護する者。その守護する者から外れた人が見えたのだ。
そう、女神の加護を受けていない人間が一人居るのだ。
「あれです」
「あれは……武器から見るに黒騎士か?」
「そうかもね」
「ふーん」
赤い天使ミカエルは荒々しく。緑の天使は大人しく。黄の天使は明るく。私は少し暗い。
女神に守護を任されている私たちは姉妹として生み出された最高峰の天使だ。今は……「護りに徹しろ」との使命を受けている。
「私がいきます」
「ラファエル。行くのか」
「ラファエル……無理はしないこと」
「ラファエル~スケッチしてきて」
「しない。ただ……噂の深淵の者であるかもしれません。私が直接監視します」
私はそのまま、窓を開け。空に飛び立った。創造された神の槍を持ちだして。
*
私は妻の家に寄る。妻の家は……昔と変わらない懐かしいままだったが……標札は変わっている。
「………知らない名前ですね」
少し、落ち込む。
「あっ……どちら様でしょうか?」
メイドの女性が買い物だったのか鞄を持って私に声をかける。私はそのメイドに聞くことにした。
「昔……アメリヤ・ヴィスと言う女性が棲んでませんでしたか?」
「ええっと……すいません。わからないです」
「そうですか。わかりました。答えていただきありがとうございます」
「あの……どちらへ?」
「薔薇が綺麗な学園へ」
踵を返し、屋敷を後にする。心当たりはここ以外もある。他を当たろう。
そう思い次に向かった先は彼女が学び。彼女が過ごした学園に足を運んだ。衛兵が門に立ち、止められる覚悟で近付いた。
「ん……何処の騎士様でしょうか?」
「アフトクラトル家です。人を探してます。アメリヤ・ヴィスと言う令嬢をご存知ないでしょうか?」
「アメリヤ……ヴィス……お前は知ってるか?」
「アメリヤ……うーん何処かで聞いたような聞かなかったような?」
「………衛兵として勤務は長いですか?」
「数年だ。長くいる。色んな令嬢を見てきてる。だが……アメリヤ……アメリヤ……ヴィス………覚えがあるんだ。絶対覚えている。なんかあったんだ? そいつに……」
腕を組んで悩む彼に………大切なロケットペンダントを見せる。彼女の姿があり。彼はそれを見て口を開ける。
「そ、それ!? なんで!? もしかして婚約者か!?」
「夫の方です。アメリヤは私の妻ですね」
「思い出した思い出した!! ん……でも婚約者は居なかった筈だ。いや婚約破棄されて……それで……」
「?」
衛兵が申し訳なさそうな顔をする。
「その……なんかあったか知らないが。旦那さん心を強く持ってくれ」
「…………」
ギリッ
ペンダントを強く握る。察したからだ。
「その子な………1年前に病を苦に死んだよ。一人で」
私は深く溜め息を吐くのだった。最悪の結末に。
*
変な人が屋敷を訪ねてきた。若いメイドが応対した……そしてそのメイドがアメリヤお嬢様の名前を出した瞬間。私は驚いた。何故ならそのお嬢様は1年前に亡くなっているのだ。
詳しく聞けば……「探している」と言う。そして薔薇の学園へ向かったと聞き。私は慌てて服を着替え屋敷を飛び出した。
学園に向かい、彼の姿はなく衛兵に話を聞いた。どうやら今度はアメリヤお嬢様の墓へ向かったらしい。
墓の場所は壁の郊外、天使の力が届く場所であり。私もお嬢様の墓に向かった。
馬を借り、走り向かった先で私以外に誰も訪れない寂しい墓に一人の冒険者のような騎士が花束を置いて跪いている姿を見つける。
あまりにも様になるその姿に……慌てて声をかけた。
「あ、あの!!」
「ん………ワルダ殿!?」
「えっ!? わ、わたしをご存知なのですか!?」
「え、ええ」
彼は立ち上がって腕を組んで目を閉じ少し悩んだ後に口にする。
「私の事を知っておりますか?」
「えっと………」
私は首を振った。すると彼はなにかを察し、頭を下げる。
「自己紹介が先でしたね。トラスト・アフトクラトル。アメリヤ・アフトクラトルの夫でございます」
アメリヤ・アフトクラトル? 私のお嬢様はヴィス家だった筈。
「あ、あの……アメリヤお嬢様には婚約者はいらっしゃりませんでした……その幻とかでは?」
「……そうですね。幻かもしれません。ですが……これを」
彼が胸にかけているロケットペンダントを優しく私の掌に乗っける。それを見ると……お嬢様は幸せそうに微笑みかけている肖像画がはまっている。小さく蓋に名前も書かれており。アメリヤ・アフトクラトルとしっかりと刻まれていた。
「お嬢様……お嬢様がこんな綺麗な笑みを………」
「………もしよろしければ。彼女の最後を教えていただけないでしょうか?」
「は、はい……」
私はペンダントを返しながらお嬢様のお話をする。
「お嬢様は……婚約破棄後から屋敷から出ず。いつしか心を閉ざし。デーモンの霧が深い時期、弱ったお嬢様はその霧で病に陥り亡くなりました。毎日『死にたい』と嘆いておいでで……最後はやっと楽になれると……微笑み……いいえ目は笑わず……息を引き取りました」
「………そうですか。幸せでは無かったのですね。王子は現れなかった。そうですね」
「は、はい」
彼は深く悲しげな顔で頭を押さえていた。その姿に本当に愛していたことを知り、私は彼のマントを掴んだ。
「……なんで、なんで!! もっと早く!! お嬢様に会いに来てくれなかったのですか!! お嬢様も知っていたんでしょう!!」
「いいえ知りませんでしたでしょう。アメリヤは」
「どうして!!」
「それは……この世界の話ではないですから」
「……どういう事ですか?」
彼は優しく私の手の上に手を重ね。ゆっくりと下ろす。
「……ある世界の話です」
そう、彼は言い。楽しそうに彼は語る。近くの木の影に座りながら。
「何処から話しましょうか? 全部ですね」
出会い、触れ合い、喧嘩し、子を生み、子を育てそして彼は離ればなれになったと長い物語を語る。そう、まるでアメリヤお嬢様が幸せになれる物語を語った。
「うぅ……ううううう」
「ワルダさん。話を聞いていただきありがとうございます。遅かったのは悔やまれますが……仕方がありません」
「………トラストさん」
長い間、彼は私に語ってくれたあとに真っ直ぐ前を向く。そして立ち上がり彼は剣を構える。
「えっ……」
「ワルダさん。この場から離れ、私の事は忘れてください」
「早く!! ど、どうして!? あ、あれは!!」
フワッスタッ!!
目の前に青い髪の天使が舞い降りる。私たちを護る天使が槍を持って降ってきたのだ。そして……ゆっくりと無名の墓に腰かける。
「話は聞かせてもらいました。深淵の者……」
「………ワルダさんは見逃してください」
「………いいわ。だけどあなたは捕まえる」
「捕まえるですか……」
「根掘り葉掘り聞くためよ」
「そうですか。逃がしてはくれなさそうですね。私の名前はトラストと言います」
「四天使の一人。ラファエル……さぁ!! そこの子よ!! 帰りなさい」
私は震える体に鞭をうち立ち上がる。立ち上がり、私はそのまま繋がれた馬に乗りその場を逃げた。何かが起きるのを感じながら。
*
私は槍を構えたまま彼と相対する。
「ありがとうございます。見逃していただき」
「お礼? いらないわ、トラスト。護る者だからね」
「………そうですか」
「不満そうね」
「いいえ。なんでもないです」
彼は大きな剣を地面に差した。
「逃がしては?」
「あげない!!」
そしてそれを見ていた私は槍で彼に肉薄する。四肢をもぐために。
*
【大天使ミカエル】
赤髪の天使。その服も赤く兵士や騎士を守護する目的の天使だが。今は悪魔を倒すために従事する。性格は過激である。
【大天使ガブリエル】
緑髪の天使。服も緑。農業やなどを守護する目的の天使だが。今は悪魔を倒すために従事する。性格は穏和である。
【大天使ラファエル】
青髪の天使。服も青い。病人を癒す力を有し、天使の誰よりも人に触れる機会が多い天使。悪魔を倒すために従事しながら。病人を癒す事もを行っていた。薬剤士の面もある。大人しくも荒い。
【大天使ウリエル】
黄色い天使。黄色。芸術など楽しい事を司り。性格もはっちゃけている。悪魔を嬉々として倒し。喜ぶ性格はどこか異常に見える。




