初級ダンジョン中編~壊れた機械~..
軍靴の音がする。
死体の団子を倒した私たちは先へ進んだ。ある管理室で地図を手に入れるとは入り口は複数あり。染み出た水がチロチロと流れて行くのが見えた。側溝には泥々の汚泥が詰まっている。
「あそこは死体置場だったんですね。でっ……」
燃え盛る複数の団子を見つめながら。マナはワクワクした表情で周りを見ていた。
「あれだけじゃないと言うね……ママ」
「うん……これはいったん帰った方がいいのではないですか?」
「……うん。ネフィアは?」
「帰宅」
「じゃぁ………」
デュクン!!
大きく私の鼓動が跳ね。あの、死体置場に入る前の廊下の明るさに切り替わる。明るい廊下で……目の前で惨状が起きる。
「うわっ!? なんだ!? この黒い物はああああ!?」
「射て射て射て!!」
銃声が飛び交いながら。団子が血を吐き。生きている者を呪う。そして……生きている者は血の涙を流しながら新しい団子になる。
「……はは……ははは!!」
「やめろ!! みか……」
ジャシュン!!
軍刀を味方に射し込む者、味方だった物に喰われる者。そして……頭を押さえ血の涙を流しながら絶命するもの。多くが死に絶えていく。
そして肉団子が増えていく。
「過去、現在が混ざってる?」
「それよりも!! なに!? 魔力が流れて……頭に直接……精神波?」
「それよりも……ママ……何か変」
「うん……わかる。頭が重い……」
マナと私は現状を理解しながら、火を渡す。槍で団子を切り払いながら前に進む。魔力の濃度が上がり。骸骨の死体も立ち上がる。
「スケルトンだ!?」
「私たちが見てきた骸骨が立ち上がってる!?」
そう、歪む。死体は一つしかない筈なのにだ。
「本当に過去と繋がった……」
「ネフィア……この先……行かなくちゃいけないみたい。私はこれはいけない気がするし。出られない気がする」
「うん……私も」
私は聖なる剣を取り出す。長い長い勇者の大剣を肩に担いだ。
「ネフィア怖くないの?」
「今は……明るいですから」
少しだけ。この場所を調べる必要がある。
*
俺は……腹を押さえながら廊下に座る。奥の凍結された機械を機動した。誰かは知らないが……同胞は同士討ちを始めてしまった。
多くの者が化け物に食われる。観測員の仕事であの化け物の存在は知っていた。死体が喰う意志を持って動く事象は知っている。それも兵器として研究もされていた。それが……脱走したらしい。
「くっ……この場所ももう終わりか……」
今まで、耐えてきた。だが……希望も何もかもない。だからだろう。封印された機械を動かしたのだ。あれだけが「もしかしたら」と希望をもたらしたのだろう。
しかし……所詮それは失敗作。いいや……全く役にはたたない物だ。案の定、狂ってしまった。実験通りに。
使って未来なんかに行くことなんか出来ない。あれはそういう物じゃない。
たったったったっ!!
「ん!? 待って!! ママ、この人生きてる!!」
「あっ……本当ね」
「ん……マナ。少しまって……無闇に走るの。でも届かない」
「そっか!! 拷問すれば!!」
「マナ!?」
「ネフィア冗談だって~」
「ん……君達は?」
俺は目をあける。目の前に緑髪の綺麗な女性が3人。金色の髪の角の生えた女性が一人。ドレスや何か過去の時代劇の鎧を着た人が立っていた。
木の鋭利な槍に剣とまるで……物語の人々のようだ。そう……本が好きな自分が読むファンタジーのキャラだ。とにかく……美少女なのは「天使を見たいから」と言う願望なのかもしれない。
「はは……幻覚が見える」
「……マナ。言葉がすごい訛ってて聞き取り憎い」
「『幻覚が見える』って……幻覚じゃないぞ」
言葉がわかる。訛りが酷いが同じ知能を持つ人らしい。いや……人のような何かか。
「君達は……この施設の被験者か? 知らない……君達を……管理者である俺でも知らない。敵の生体兵器か?」
「うーむ。違います」
緑の髪の女性が俺に対してしゃがんで手を添える。傷の痛みが少しだけ和らいだ。
「あなたは魔力に対する物がないから……時間稼ぎにしかなりませんが少しだけ延命を。私たち探し物をしているんです。一応言います。今、恐ろしい事が起きてます」
「君達……この情況がわかるのか?」
何か影響を受けた人なのか。強化人間か。
「わかります。だって未来から来ました」
「未来……!? そうか、あの装置は効果があったのか……」
「疑ってますね。これ、落ちてたんですけど。証拠になりますか?」
俺は汚れたメモ帳に驚きながら女性の顔を見つめる。未来と言った。俺は……彼女が持つ手帳に見覚えがあった。
「それを……裏を見てくれ。名前は?」
「名前は……ダイスケさん」
「わかった。知っているよ……信じよう未来から」
何となくだが……わかった。
「情況はここに入って色々と探っている時に巻き込まれました。未来に帰るためには何かをしないといけないんです。それを探してます」
「……すまない。君達を巻き込んだようだ。『機械を止めよう』とする人が現れるなんてな……未来は……俺達はどうなった?」
「……」
彼女が首を振って答える。どうやら助からなかったらしい。
「そうか……どうせ皆、居なくなる。国も何もかも……一発残しておくべきだった」
「……はい。すいません。私たちは部外者です」
「……そうか……ん!? 君のそれは?」
俺は指を差す。指を差された子は同じような歳の女性に「ママ、これの事かな」と聞いていた。同じ歳に見えるが親子らしく。優しく聞かれた女性は頷いた。
「それは……国旗か?」
「そうそう、国旗です。私の大好きな人の国ですよぉ~」
「そうですね。これを取り戻そうとしている所です。一応これで味方かを識別してますね」
女性の右肩に太陽が目印の模様の布が張ってあり。それを指差しながら、「国を取り戻そうとしている」と答えた。俺はそれに神の慈悲を覚え……我々の国は滅ばない事を知る。ここで朽ちようと。故郷は生きている事は嬉しく感じる。
「ありがとう教えてくれて……わかった。君達の未来に返すために教えよう。あの機械は未来と過去を繋ぐ装置として開発されたが……空間が歪み、人の意志が混じり合い。狂う精神波も放つため。不良品として封印されたんだ」
「不良品?」
「事故が多かった……それを機動させた。場所は……地図があるか?」
「あるよ」
一人の金髪の女性が地面にボロボロの地図を広げる。マッピングがされており。侵入経路がA4と言う死体安置所、検体保管所のマンホールからはいってきたらしい。
「ここだ」
そのマッピングされている地図に秘密の箇所を教える。封印された区画への道だ。
「ここから……進める。その先の地図はこれだ。これのZ-001の場所が【壊れたタイムマシン】がある」
「ありがとう。その……長くはないと思う。楽に出来るけど……」
「ああ、いらない。まだ少しだけやることがある。君達ももう行くべきだ」
「わかった……あなたに祝福があらんことを」
「………ありがとう。最後に会えてよかった。祖国万歳」
4人は俺にお礼と祈りを捧げ。走り出す。俺は痛みの引いた体を持ち上げた。最後の力を振り絞って。
*
私たちは団子の猛攻をしのぎながら戦った。勇者に作った剣は切った先から団子を燃やし浄化させる。聖剣として悪しき物を斬る効果は絶大だった。
だが……私はそれを振ることしか出来ない。今はそれでいいが……全く。体に馴染まない。
「ふぅ……ふぅ」
剣を地面に刺して休憩する。
「ダンジョン入って何分?」
「3時間以上」
「ネフィアさん……お疲れですね」
「ごめん。ネフィア……こんなに長くなるなんて」
「いい……しょうがない。それに……こんなのが島の地下にあることが問題」
「そう!! ママ、おばあちゃん!! これが外に影響を及ぼしたらダメだと思う!!」
「うん……そうね。ネフィア……前衛交替」
「わかった」
団子の敵を倒し、隠された区画の廊下を走る。そして、肉々しい扉が目の前に現れ……調べずともそれが目的の部屋だと知る。肉の壁が私たちを遮る。
「避けて3人……私がこの剣で斬る」
3人が私の前から後ろへと移動し。それを見届けた私は扉にむかって袈裟斬りを行う。肉を燃やし斜めに斬れた状態の扉に向かって3人が体当たりをして扉を吹き飛ばした。
がしゃん!!
扉の奥は……何か鉄柱のような物があり、パイプに繋がれ至るところ肉片がくっついていた。肉片は目がついておりギョロギョロと私たちを見る。そして……ベチャっと音を立てて落ちた。
「死体が希望として機械に取りついてるわ」
「でっ……守ろうとする」
グチョグチョグチョ
落ちた肉片が鉄柱に集まり。鉄柱が肉片で埋まり……長い黒い手がニョキニョキと生える。まるで肉片の木。
「簡単には倒せそうにないね‼ 行くよ、皆!!」
「ええ、ネフィア!!」
「ネフィアさん……いきましょう!!」
「都市ヘルカイトの皆に危険な目にあわせない!!」
私は覚悟と共に剣を構えなおした。
*
【壊れたタイムマシン】
過去、未来と繋ぎ。過去の改編、未来の技術流入等を行い。戦争の優位を勝ち取ろうとした。しかし、結果は空間が歪み。記憶が混雑し、生物は狂化。未来の魔物流入を加速させる事件が起き封印された。
滅んだ世界では希望の機械として封印が解かれたが結局は同じ事故が起きた。
【死体団子】
それは死体が集まって出来た黒い塊。その本能は同じ苦しみを与えること。苦しみが解放される事。そのために生きたいと願う事が歪んだもの。だからか【壊れたタイムマシン】にすがるようにくっついて同化した。




