夜会話④..
私はアラクネ夫妻に会いに来た。そしてなにかがあることを察する。
「おじゃましまーす」
カンテラを玄関に置き、部屋の灯りだけの灯っている方に声をかける。すると……見覚えのある足が見えカサカサとリディアと言うアラクネの女性が現れる。
「あっ……ネフィア姉さん!! おはようございます‼ よかったあぁぁぁぁ~」
「う、うん。会えてよかった」
すがるようにペタッと足を広げて私の服を掴む。
「く、空気……お、重たいです」
「……あぁ~」
私は納得する。義理の父親に顔見せが息苦しいのだろう。何を話せばいいかを苦しんでいるのだ。
「ええっと。今日は元気な姿が見えたので帰るね」
「まって!? お姉さま!! どうして意地悪すうのぉ………」
「ふふ、ちょっとからかっただけよ。じゃぁおじゃましまーす」
私は機嫌よく。上がり込み……リビングに顔を出した。結果……
「……」
「……」
予想以上に言葉につまる父親と息子の姿があった。何を話せばいいかを二人は悩んでいる。
「今さっきから……ああなんです~」
「ふーん。おーい。お客ですよー」
「あっ………ネフィアさん。おはようございます」
「ネフィア様おはようございます」
「イケメン二人がいるなぁー」と思いつつ。私は席を一つ借りて座った。
「なんか、空気が重いね」
「……え、ええ」
「ネフィア様……怪我は大丈夫ですか?」
「ん。安心していいよ。四肢は吹き飛んでも復活した。大概の事では死なないよ」
「そ、そうですか……いえ、大陸みたいなのが浮いていると聞き。少し安心出来ませんでした」
「確かに……私の想像を越える物だった」
心配されている。「イケメン二人に心配されるなん贅沢」と思う。
「ネフィア姉さん……お茶入れますね?」
「うん。紅茶がいいな。でっ……私はいいからなんか話をしないの?」
「………はは。何ででしょうか………今更なんですけど」
「そ、そうですね……うん」
これは……逆に話すことはないのだろう。すでに今生の別れをした筈だから。そういうのは、まぁ時間が解決するだろう。
「……まぁその……いいのですけど。アメリアさんは見つかりましたか?」
「……まだですね。途中魔物に襲われ。帝国へは辿り着いておりません」
「父上……母上をお探しですか?」
「ランス、そうだ……気持ちはすでにわかるだろう」
「……はい」
ランスロットがうなずき。台所のリディアを見る。私は何とも「甘いなぁー」と思う。愛の深い二人だ。
「それで……ランス。一ついいか?」
「はい……父上」
すごい真面目に二人は見つめ合う。これは何か凄い事を伝授する流れだきっと。うん……うん……必殺技や秘伝を伝授する流れだ。
「孫はいつだ?」
「!?」
ガッシャーン!!
「あっ!? ランスさん!! 大丈夫ですか!!」
「リディア大丈夫!! 片付けるから!! 大丈夫!!」
「息子よ……何故動揺する?」
「するわ!! 父上!!」
「しかしな………あの可愛い娘との孫。見てみたいのだが……」
「父上……異種族であり、そうそう簡単に出来るとは限りません」
「ランス……私は妻であるアメリアがまだ学園で………」
トラストさんが昔話をしだす。私はランスの割ったカップを持って台所へ行く。首を傾げるリディアが二人を眺めていた。ランスは頭を押さえている。しかし、その空気は何やら柔らかいものだ。
「ネフィア姉さん……何があったんです?」
「子はまだかって」
「あっ…ふ………」
「ねぇ~まーだ?」
「………」
リディアがお湯を沸かすヤカンのように赤くなる。ふふっと私は彼女に聞いた。
「欲しくはないの?」
「………………」
「ふーん……欲しくはないんだね?」
「……………ほ、ほしいです……」
彼女は小さく。囁き、私は耳元で囁いた。
「異種族だからって出来ない事はないよ……私も出来た。あなたも………やれば出来るよ。回数分だけ確率あがるよ?」
リディアの目がグルグルしている。
「紅茶、ふふ……もういいわ~私は次にいくね」
少しだけ……唆し。私は笑顔で外に出た。
*
「うーむ。何か普通だったなー」
事件があると思ったが見当違いだった。カンテラを持ってランス宅から出た私は都市の中央に進む。昔より大きい大きい樹が沈まぬ月に照らされて全貌を見せる。
「じゃぁ……後はあの普通じゃない樹を見ましょうか」
大きすぎる。記憶よりも。遥かに大きい樹の下まで歩を進めた。
途中立ち入り禁止処置がされ、魔法の障壁により入れないようになっているが。私は入ることが出来た。障壁と言っても……人によってはただの紙のようにすぐに破れ、壊すことが出来る。
だからだろう……強者は素通りだ。
「………」
ゆっくり歩き、ゆっくり樹の根本まで来る。そして……カンテラをかざした瞬間だった。
スタッ!! スタッ!! スタッ!!
物音が3つ。木の実が落ちた音が背後からする。私は振り返り………
「へっ?」
「よく来ました」
「……????」
「一番!! 魅惑な毒を持って世界を破滅に導き世界を再生させた世界第一の樹!! マナ!!」
「に、二番………えっと………商人の樹エウリィ」
「三番!! 都市ヘルカイトを護るために根付いた守護樹!! ユグドラシル!!」
「三人合わせて!!」
「「聖樹三姉妹!!」」
「せ、せいじゅ……さんしまい………」
キャピーン!!
よく似た3人が決めポーズを取る。一人は顔を真っ赤にして。
「決まった」
「決まったぁ!!」
「……うぅ……」
私は……記憶を呼び起こし一つだけ疑問を口にした。
「………三姉妹?」
「あっ……えっと。一応違うよね。知ってる。でもまぁーその。やりたかったから」
「ええ……お母さんはあまり乗り気じゃなかったけどね」
「………ごめんなさい」
私はクスッと笑い。3人を見る。右からマナ、エウリィ、ユグドラシルの女の子たちは凄く似ている。やはり家族だなと思う。まぁ姉妹ではなく。右から祖母、母、娘の順なのだが。
「……元気そうでなにより」
「ネフィアも……」
「ネフィアさんも」
「ネフィア姉様も」
三人のドリアードが私に近付く。縁が本当に深い一族だ。全員を知っている。
「そうそう、ネフィア。私はあなたと少し……二人だけで対談したい」
「ん?」
私はエウリィとユグドラシルを見る。ユグドラシルは不服そうな表情をエウリィが大人の事情と説明しなだめる。
「少し場所を移しましょう」
「……何処へ?」
「壁の上がいいな?」
「じゃ、お手を」
「うん」
友達であるマナの手を握り、翼を広げて足に力を入れる。
ぶわっ……ピキピキピキ!!
片手を振り上げた。雪が舞い。壁へ向かった一本の氷橋が出来る。
「行こ」
「……へぇ~すごい」
マナの手は……すごく暖かかった。
*
「でっ……二人だけで話ってなに?」
私は壁の上に座り。カンテラの灯りに照らされた隣の世界樹。マナの顔を伺う。死んだ筈の人が目の前に居る状況に私は慣れて来ていた。
「話は……いっぱいあるんですが。外の世界に私は居ませんでしたね?」
「枯れてた……」
「そうですよね。外の私はただただ悩んで答えを持たず亡くなってます」
「…………記憶があるの?」
「はい。向こうの私の記憶があり……そしてあなたと出会った記憶もある」
マナが月を見上げる。
「……捨てられた島って良いところです。人も多く。私の後に続く子達に会えました。そして……転生先も見ました」
「………?」
見上げるのをやめ私に向き直る。
「ユグドラシル……変ですが。彼女の魂と私は同じものです。きっと……夢が叶った結果なのでしょう。ありがとうございます。ユグドラシルには言えませんね」
「えっと……私は何も……してない」
「いいえ、何もしていない事はないですよ……私よりも世界に大きく影響を与えてました。色んな言葉を根から拾い、まとめた。エウリィとユグドラシルと考えた結果。私はこの島の原点がわかった気がします」
スッと私の置いている手に彼女は重ねる。
「ネフィア……友達としてお伝えします。ここはあなたが存在した者たちが流れ着く場所となりました。そして……本来、捨てられて忘れられた存在の島である筈が変わったのです」
彼女の手が暖かみが増していく。そう……手から枝がつき私を縫い付けた。
「逃げないよ?」
「いいえ……耳を塞ぐでしょ? 金竜の言葉から逃げたでしょ」
「むぅ……」
それは……私が偽物だから………いや、今は話を聞こう。
「では……仮説を2つ。流れ着く人の特徴がある。色んな人が流れ着く中で根から聞こえる声。皆が調べる中でピースをはめる。すると見えてきたの」
「………」
「一つ、英魔国民である。二つ、英魔国民が英雄であると思う人。前者はユグドラシル、エウリィ。後者は私……なんでだろうね。トラストさんはわかるんですけどね」
私は首を傾げる。それはわからない。
「んん……よくわからない」
「そう。まだ……こっちを先に言えばよかったね。『捨てられた島と向こう岸の違い』ってなんだと思う?」
「………えっと。空が曇ってる」
「たった一つの違いです。皆が集めた情報……いいえ。確実にそうだと言えるのがある。最初はきっとそうではなかった」
「………」
考える。違いを。多く私が見てきた世界と大きく違っていた。トキヤも敵だった。
「私は……仮説として。捨てられた島はネフィアさんが居る未来。そして向こう岸はネフィアさんが居ない世界だと思うのです」
「………確かに向こうの私は居ません。しかし、他の人も……」
「ここで、戻ります。流れ着く人は英魔国民のみ。そして……向こうで産まれなかった人たち、死んでしまった人々です。そう、ネフィアさんが居ないために」
「!?」
「ネフィアさんの治世でしょうか……そこで産まれる筈だった人々、生きている筈だった人々がここに流れ着くのです」
「…………そうなんですね」
何となく……何となくだが。そんな気はしていた。金竜の言葉から。
「そして……同じように。英雄や女神などで尊敬を持つ人。私やトラストさんのように後世に語り継がれ昇華する人もこちら側です。そうですね。英魔族が『その人は英雄である。もしくは神様である』と思った人も流れ着くようです」
「じゃぁ……いまここも?」
私は都市ヘルカイトを眺める。
「そう、ネフィアさんの手が入っているからこの都市は生まれた。きっとこれからもそういった物が流れ着くと思います。故に……捨てられた島と言う紛らわしい言い方より。『殺された可能性の未来』と言う方がしっくりします」
殺された未来。確かにそう言われたら……納得出来るような情報が多い気もする。
「じゃぁ……何故。私たちは殺された未来なのに。今を……そう。向こう岸を渡れるの?」
「そこまではまだなんともわからないです。ですが………そう。向こう岸の人が何か手を加えた結果。本来あるべき未来を失ったのだと予測します」
「それって、つまり……誰がか未来を変えた?」
「はい。金竜さんが言ってました。不自然に続いていると。だから……誰がどのようにしたかわかりませんが。『ネフィアさんを後で殺した世界』なんだと思います。だって………こっちにはネフィアの覇王譚なる本があります。こっちの歴史は決まってるのです」
「すごい調べてるんだな」と思いつつ。私は何故か冷静で居られる。
「決まってるのも、もう一つ………皆さんいつから先の人かを聞いてみました。結果……全員はある事件の後です」
「事件の後?」
「女神ネフィアと女神ヴィナスの決戦後」
私は息を飲み込む。ピシッ何かが崩れたような音がした。またかと……また奴なのかと。
「女神ヴィナスの決着後に何かあったと考えます。それが何かはわかりません。しかし……犯人は」
「ヴィナスだ……奴が何かしたに違いない。確証はないけど……」
私はお腹を擦りながら歯を噛み締める。私だけに留まらずに英魔の子達も葬ったのだ。
「因縁なら……多くある。帝国との戦争や、我が子を殺したこと等。そして勇者召喚も行い私を殺そうと躍起になっていた。私だって奴は嫌いで殺そうとした。結果勝った」
そう、本能的に奴を私は疑う。
「ネフィア。わかった?」
「わかった。ありがとう……もう少し真面目に取り組むよ」
「うん……まぁまだ情報が少ないけど。時間が立てば大丈夫と思う。流れ着く人々も多くなる」
「うん」
「だから……」
重ねた手を離し、彼女は月に向ける。そして握った。
「私たちの未来を取り戻せる方法を探しに行こう。私は死んでいるけど………奪われた未来を取り戻したい。そして……これを」
マナはそう言って月を掴んだ手に緑の刀身の剣を創造する。
「その剣は!?」
「マナの剣。私が友人に『世界を頼む』と託した剣です。この剣を使い未来を切り開いてくれました。もう一度……英魔……いいえ。私の見た明るい世界をお願いします」
「………」
私は黙ってその剣を受け取ったのだった。皆は何故か……私に託すものが多い。
そう、多い。
*
【英魔族元人間族。騎士ランスロット・アフトクラトル】
名家アフトクラトルの長男。事件を起こし帝国追放された身だったがそこで運命の出会いを果たす。アラクネ族リディアと恋仲になるきっかけにネフィアは関わり。王配トキヤの親友でもある。父親譲りの王子様気質だったが父親の影響が大きい。王子様なのだが性欲はある。息子は有名な黒騎士である。
【英魔族昆虫人族アラクネ族。昆虫人族長リディア・アフトクラトル】
人間のイケメンを好きになった結果、九大族長にまでなってしまった一人。治める都市はないが昆虫人族の融和の象徴でありそれの代弁者でもある。しかし、仕事は旦那任せと代理人任せであり、権威のみの蜘蛛姫と呼ばれている。英魔分家のアフトクラトル家はいつしか本家を超えるほど英魔国内で隆盛する。ネフィアは彼女の相談役兼友達である。
【マナ、エウリィ、ユグドラシル】
3世代の木の精。ドリアードの家族。旧人類を滅ぼした原初の木マナ、商人の木エウリィ、聖樹ユグドラシルと言う英魔族木精族の3人。緑髪の姉妹のように見えるが祖母、母、娘と言う間柄であり。ネフィアと深く関わり続ける木精である。原初の木はネフィアに木に刺さった聖剣を託し旧文明復活の阻止をお願いし。商人の木はオーク族の大商人を生むきっかけを。聖樹は新しい都市ヘルカイトを守護し、多くの種族を助ける木となりネフィアとかかわっていった。




