愛する者、女神の勇者トキヤ……そして敵対..
私の目の前に彼が立っている。
「トキヤさん!! 会いたかったです!!」
私の記憶が彼が何でも解決してくれると伝わえる。いつもいつも一緒に戦い一緒に抜けてきた相棒……恋人……そして……伴侶。
それは深い歴史のような重さがあり。私はやっと知り合いに会えたこと、それがトキヤだったことに剣を落として喜んで胸の飛び込む。
もちろん彼は……両手を広げて抱き締めてくれた。
「会いたかった……トキヤさん。心ぼそくて……」
「そっか……モテる男は辛いな。こんなに慕ってるのに俺は君をしらないから……」
「トキヤさんも記憶をなくして……うぐっ!?」
「ああ。勿体無い女だが……お前は危険だ。誰かは知らないがすまないな」
「と、ときやさ……ん……ぐ……」
ズルズルズル
私は彼の軽装の布を引っ張りながらゆっくりと沈んでいく。腹部に激痛が走り、驚く。白金の鎧が裂けてそこから血が滴っていた。
赤い、赤い血が……
「その鎧、ルーンブレイカーでしか突けないみたいだな。絶対な金属らしい防御魔法だ」
トキヤの片手に虹色に輝く刃の短剣が私を突いたのだ。その先からゆっくり血が滴り、私は……貧血で頭痛がする。毒も塗っているのか、全く傷が塞がらずボタボタと血溜まりを作る。
「どうして……トキヤさん………どうして……」
「確かに俺はトキヤだが……人違いだろう。しかし、この毒の短剣でも致命傷にならないか……驚くな」
「………ひっく……」
私は……力なく倒れる。涙が出て、心が痛む。傷より痛み。涙が止めどなく溢れる。
安心からの絶望。何も考えたくない……あのトキヤに斬られるなんて。
「お前の剣、良さそうだから借りるぞ」
トキヤの足音が背後に向かい、落とした剣を拾う音がし……
ガッシャン!!
激しい落とした音が響く。
「あがあああああああ………くぅ!! なんだこの剣!? 熱が………聖剣の類いか?」
「ひぐひぐ……」
「まぁいい。一思いに首を落とそうと思ったが……短剣で何とかするか。痛みながら殺すが悪く思わんでくれ。これも仕事だ」
「……トキヤさん……やめて……助けてよ……トキヤ……ひぐひぐ」
私は子供のように泣き、痛みで目が霞んでくる。もう無理……そう思って前を向いた時……霧が立ち込めていたのだった。
*
剣を落とした俺は短剣を構え、滅多刺しにしようとする瞬間。目の前の霧に身構えた。
霧はデーモンなどの根城。デーモンが現れるのかもしれない……そう思い魔法を唱える準備をする。すると声が聞こえた。
「行くぞ!! ランスのおじさんよ!!」
「わかっています。私が出ます。彼女を連れて霧の中へ!!」
声の聞こえた瞬間。大きな盾が目の前に現れた。そして……
ドゴッ!!
「ぐふっ!?」
俺は吹き飛ばされる。吹き飛ばされながら、空中で一回転し、地面を滑り。盾の主と相対した。見えないほどの突進。壁が一瞬にして迫ってきたようだった。
「今です。早く。殿は得意です」
「わかった……背負ったぜ……」
「先に行っていてください」
「おう」
「ん………!?」
盾を持つ騎士背後のくすんだ黒と銀色の髪の顔に見覚えがあった。鏡で見た俺の顔だ。似ている。それに……目の前の男も何処かで見覚えがあった。あの大きい盾はよくみると剣であり、あれを易々と持ち力持ちなのが伺える。
俺は背筋が冷える。恐ろしいほどの強者だ。
「……誰だあんたら……見覚えがある」
「………騎士であるなら。自らが先に名乗るべきです」
「トキヤ・センゲ……元黒騎士」
「トラスト・アフトクラトル。息子がお世話になってます。トキヤ殿」
「息子?」
「………ランスロットをご存知でない」
「知らないな……そして。あんたを思い出した。同門黒騎士だ。あんた、戦争で死んだはずじゃ?」
「…………そうなのですね。わかりました」
「回収した。船頭が呼んでる」
「わかりました。行きます………トキヤ殿。また会うことがあるかもしれませんね」
盾を背中に背負い。背後を見せた。そして……深い霧に姿を消し……その場に重い圧力が無くなる。
背中の盾が邪魔で攻撃が通りそうにない。そう思う。
「すぅ……はぁ……ヤバイ……なんだあれは」
突然現れ、突然消えた。そう……嵐のようだ。いつの間にか剣も消え去り。残ったのはゴロツキの死体だけ。
「世界の危機が続くってのに……まだ出てくるか」
俺は新しい驚異に頭を掻き天使を呼び寄せるのだった。報告するためだけに。
*
「ん………はぁ……ん!?」
ガバッ!!
「んわっ!?」
私は立ち上がる。ベットの上で寝ていたらしく周りを見た。何故か……知らない寝室で、私が生きてることはわかった。仄かにカンテラが部屋を照らす。照らす隣で……黒いくすんだ銀色の髪の男が驚いた声をあげる。しかし……その姿は……よく知っている。
「と、トキヤさん?」
恐る恐る聞く。あのトキヤさんと違う。でも……トキヤぽい。
「ん……まぁ……トキヤと言えばトキヤと言えるしトキヤじゃないと言えばトキヤじゃない」
「えっ……どういう……」
「ウルツワァイト……鋼竜だ」
鋼竜ウルツワァイト。それは……トキヤが倒し取り込んだ竜の名だった。
「まぁ。むずかしい話は傷が癒えてからだ……ちょっと皆を呼んでくるからここで」
ぎゅっ
私は服を掴む。
「ぐしゅ……ぐしゅ……行かないでトキヤさん」
「………ああ。俺はここだよ」
私は何故か服を掴んだまま離したくなかった。そんな私にトキヤが抱き締めてくれる。懐かしい暖かさで私は胸を借りて心に負った傷から血が涙となって彼の服を濡らし続ける。
「うぅ……うぅ……怖かった怖かったよぉ……」
「……ああ。ああ。安心していい……安全だから」
私は優しく撫でられ……泣き疲れて寝てしまうまで。彼は私に付き合ってくれたのだった。
*
「はぁ………」
「お疲れさまです。彼女は?」
寝室から俺は出た。トキヤではないがトキヤであるような錯覚が残っており。ウルツワァイトとという個があやふやである。きっと……取り込まれての人生が俺の中で一番、奴と同調した割合が大きいからだろう。幸せだったのだ。
「……ふぅ」
現に……彼女に対して非常にいとおしさを感じたのだから……俺は毒されている。
「泣き疲れて寝たよ。トラストさん……あなたの息子は俺が知ってる」
「……そうですか」
壁に立つ騎士はトラスト・アフトクラトル。俺と同じ時にこの捨てられた島に今さっき辿り着いた。イケメンであり、ランスロットの父親と言われて納得できる。何故……ここにいるかは俺はわかるが彼はわからない。
亞人の敵であり、人間に味方をする人の筈。だが……今は仲間である。
「では、自分は少し寝室で記憶を整理します」
「わかった。食事は……」
「すでに済ませました」
彼はキザな仕草で去る。俺は彼の背を見つめると少しだけ……そわそわしている気がする。
「……俺も記憶をまとめよう」
そう……来たばっかりでネフィアがピンチだったために二人で対岸に渡ったのだ。彼も手伝ってくれた。敵でありながら。
「………はぁ」
そして……ゆっくり理解する。俺を取り込んだトキヤがこの世界に居ない事と敵であることを。
「…………」
その事実にネフィアを憐れんだ。知っているからこそ。そのショックの大きさは想像ができた。そして……俺は彼女が戦い続けないといけない事を予想し胸を痛む。
「せっかく勝ったのに……落ち着けないのか」
何が起きたか悩む俺にはわからなかった。
*
【勇者トキヤの敵情報が追加されました】
【鋼竜トキヤ・ウルツワァイトが仲間になりました】
【盾剣の英騎士トラスト・アフトクラトルが仲間になりました】
【都市イヴァリースの情況が追加されました】
【何やら捨てられた島に変化があります。船頭に話を聞きましょう】




