復讐の魔王VS女神ヴィナス..
白い宮殿、赤い絨毯を私たちは駆け抜ける。迷うこと無くエメリアが道を切り開き、天使の猛攻をものともせずに突き進む。
外では竜と天使の舞台が出来上がり、物語の一編を見ているような激戦に「物語の中みたい」と感想が沸き上がる。そう……ここまで来たのだ。私はここまで来たのだ。あのトキヤと出逢いからここまで。
「すぐそこです!!」
エメリアが天使を魔力だけで雑に吹き飛ばす。その姿に……ああ、やはり神と言う者の姿を見た。失礼だが……最初のイメージの荒々しい神らしく。雑な強さを見せる。
「いま、失礼なことを言いましたね?」
「………」
「声が出ないのをいいことに好き勝手に思い描いて……失礼ね」
なんとも、付き合いやすい神様だ。
「あれか? エメリア」
「そう、トキヤさん……あそこに封印してます」
「封印?」
廊下の終着点に大きな扉が鎮座し、魔方陣が浮き上がっている。背後から天使達の増援が来る。
「………そう、封印しました。本体を」
「……まぁいい。その話は今する事ではないだろう。エメリア。ネフィアと一緒に入れ、ここは俺が」
「いいえ。私が居ます。行って!!」
バァン!!
扉が開かれ、私とトキヤは滑り込む。
バァン!!
そして、閉じられる。中は大きな柱の主柱が立ちのぼる大きな大きな広場だった。戦うための大きさとも言える広場に私は一歩前に出る。
「勇者と魔王……その場にふさわしいのは貴方達です。安心してください………全て天使を消し去って加勢しますよ。ネフィアさんをヨロシクお願いします………かわいいかわいい私の………ですから」
何か最後が聞き取れなかった。気にせずに前を進む。
「わかった。ネフィア……やるぞ」
「…………」
「ネフィア?」
進んだ先で私は目の前の女神に目を奪われる。彼女と視線を合わした。
「ああ……魔王。エメリアも愚かね……貴方を寄越すしか無いなんて。自分では倒せないのを知ってるからね……フフ。まぁ封じただけは素晴らしく、そして酷く憎いけど」
「………」
黒い翼を広げ、大きな鎌を構えて宿敵となった彼女は待っていた。私は…………ここまで来た。「ねぇ……お母さんね……ここまで来たよ。ここまで………」とお腹を擦りながら。唇を噛んだ。
*
「ネフィア!? おい!! ネフィア!!」
俺は一歩一歩、前へと歩くネフィアに声をかける。ゆっくりと歩き、剣を構えるネフィアに手を伸ばそうとした。その瞬間、膨大な魔力で近寄れなくなる。
「……ん……あぐ………ふぅ……ふぐううううううう」
声の出ない筈のネフィアが唸るような声を出し、歯を食い縛っている。
「…………が……オマエ……オマエガ!! オマエガアアアアアアアアアア!!」
ブワッ!!
ネフィアの周りの魔力が黒く淀んだ物となり、パッと油のようにへばりつく。そして……火が上がり。黒い煤のような翼が生えていった。
「ユルサナイ………ユルサナイ………」
声を失った筈のネフィアの口から。濁った声が吐き出される。怨嗟の声を絞るような喉の震えが声になっている。
ジュッ!!
「くっ!?」
火の粉が熱い。近寄れない。ネフィアの姿は肌が黒く。大きい角が生え……まるで悪魔のような姿だった。
「ゆるさない?」
「……ワガコヲ……」
「忌み子ね。人間と忌み族との子なんて許すわけないでしょ? バカなの? フフ」
「グググ……コロス……ユルサナイ。アノコガ……グググ」
ネフィアの目に悔し涙が落ちる。俺は……察した。
どれだけ俺は愚かだったのだろう。
ネフィアが「子の死を乗り越えた」と勘違いしていた。
ネフィアは………ずっと。忘れずに苦しんでいたのだ。それを表に出さず。
「ガアアアアアアアアア!!」
恨みを残して我慢していたのだ。
「来い。魔王……オマエを倒し。封印を破ってエメリアに亡骸を突き出してやる!!」
ネフィアが黒い炎を纏いながら肉薄し、鎌と剣が交差する。金髪と黒髪、同じ黒い翼の羽が散る。
キン!!
金属の打ち合う音に俺は見ることしかできなかった。二人の戦いは熾烈を究め、魔力波により近付けないのだ。そして……俺さえも拒絶するかのような猛攻に支援をする隙はなかった。
「ネフィア………」
ネフィアらしくない。優しい表情は全て消え去り。口は裂け、目は充血し目の前の者が憎くて憎くて仕方ないほどに悪意に染まった表情で力任せに剣を振るう。
「くっ……やるわね魔王」
「コロス!! コロス!! オマエミタイナ!! クソヤロウ!! ユルサナイ!!」
声でない声の絞り出される語彙が一つ一つ呪詛を含み。聞いている俺さえも吐き気が出るほどに濃厚な呪いだった。
ガッキン!!
「怒ってるわね? そう、怒ってる。憎い? バカじゃない。死んで当然だった」
「グググ……ぐぎ」
鎌を剣に変えて黒いドレスの女神ヴィナスは小競り合いを続ける。挑発をしながら。
「オマエに………お前に。何がわかる……何がわかるのよ!!」
キギギギ!! キン!!
ネフィアの声がいつもの声色に変わる。喉が治った訳じゃない。魔法で声を代替したのだろう。
「わかってどうするの? 敵でしょ?」
「……そうね!!」
「!?」
キィイイイン!!
女神ヴィナスの剣が弾かれ後方に飛び。ネフィアの剣が女神を貫く。重い一撃だった。
「うぅ………」
「……やった………呆気なく終わりね……お母さんやったよ……」
「……フフフ」
「!?」
貫かれた女神が笑いだす。痛みも何も感じてないように………彼女はネフィアの剣を持つ手を掴む。
「愚かね。エメリアになにも聞いてないの? 人が作った物で神を殺せるなんてバカね」
「な、は、はなせ!! ぐぅ!! ファイアランス!!」
女神の腕にネフィアが空いた手に生み出した炎を当てる。しかし、何も起きず。魔法は弾かれネフィアの黒く染まった手が皮膚が裂け血が滴る。
「んあああああ!?」
「神を侮ったね、魔王!! 私が直接手を出さないと油断した? ここなら……出せるのよ。フフフ!! ハハハハ!!」
高笑いをしながら女神が空いた手で何やら光る球を生み出した。ネフィアの手を引っ張って勢いよくその腹部にその球を押し付ける。
グルル!! バシュン!!
その球にネフィアは包まれ。吹き飛び……柱に叩きつけられる。そして………光る中で刃が創造されていた。
「きゃああああ!!」
ネフィアは痛みで悲鳴をあげる。押さえ、潰されて、切り刻まれるネフィアに俺は意識を戻し、呪いを弾いて女神の元に走り込み大剣を振るった。
「今度の相手は俺だ」
「そう……裏切り者め」
ネフィアが光る球から解放され、ズタズタになった服から血が滴り、血で床を濡らす。あの魔法は鎧を貫通するらしい。切られた跡がある。
「勇者め……貴方は絶望を教えてあげるわ!!」
「ふん……知らんぷりだ」
大剣を構え、降り下ろす。女神はそれに合わせるように鎌を生み出して剣に刃を当てた。
パッキン!!
「なっ!?」
「人造の物が神の獲物に敵うわけないないわね~フフフ!!」
俺の長年使っていた剣が折れる。そして、その女神の姿から予想できない強靭な力に手が震え……剣の柄が背後に飛んでいく。その柄はネフィアの目の前に転がり……俺は背後を見て……焦った。
「フフフ。トキヤ……おしかった。柄の先を彼女に当てようとしたのに。悪運は強いわね」
「くぅ……」
「焦りだす。どう? 魔法使う?」
俺は……剣を失った。




