イヴァリースの戦い ~帝国の英傑、英魔の大英雄~..
少しの影響が波紋のように広げ、帝国軍は散々に逃げ出す。その中で唯一……纏り時間を稼ごうとする部隊と魔国左翼の追撃部隊は睨み合っていた。
「……父上」
そして……その睨み合いの中でアラクネから降りたランスロットが歩き出す。アラクネのリディアは不安そうに眺める。
「リディア。大丈夫……大丈夫さ」
「ランス……わかった見てます。後ろからずっと」
ゆっくりと歩きながらランスロットは向こうも同じように歩いてくる姿を見続ける。
大きな盾のような剣を背中に背負い堂々とした昔から見てきた姿にランスロットはフッと鼻で笑う。
何処でも格好良く見せつける姿に「やはり父親だな」と思うのだ。
「ランスロット……攻めて来ないのか?」
「ん……父上。無闇の突撃は蛮勇と一緒です。それに……もう既に戦いは終わり。次に待っているのは追撃だけです。父上は殿……突破するのは大変そうだ」
「……あの亞人達ではどれだけ耐えられるか分からんがな」
トラストの目はランスロットの後ろで二人の会談に息を飲んで見ている姿を見る。そして……ある女性の亞人と目が合う。不安そうに胸に手をやり震える手。その真摯な瞳にトラストは目を閉じる。
「追放された異国で……大変慕われてるそうだな」
「……皆、いい人達です。父上」
「そうか……では。そろそろいいか」
トラストが剣を構える。大きい剣を軽々と片手で持つ。
「父上……」
「見逃してはくれないだろう……なら戦うまでだ。僕はね帝国騎士である。この背の彼らと同じで」
「………トキヤ!!」
ヒュルヒュル!! ガッシャン!!
ランスロットが叫び、空から両手剣が降り、草原の大地に突き刺さる。それをランスロットは引き抜き構えた。
「それは友人の剣か……その腰に差しているのは飾りか?」
「父上と同じか近い得物でなければ敵いませんから」
「……そうか。それでも敵わんだろう」
両陣営が睨み合う中で……二人は走り出し。
ガン!! ブワッ!!
剣を同時に振りぶつける。大気を揺るがすほどの金属音に二人の周りの草原の草が切り刻まれていき、激しい剣圧が伺える。
そして、両陣営は全く動かなかった。
「……父上。老いましたか?」
「……お前が強くなっただけだ」
「やはり老いましたね。誉め方が厳しくありません」
二人の剣劇の音が草原の中を走る。
激しい金属音に英魔族たちはそのいく末を見届ける。その行為のため……防御側の帝国騎士も動かず成り行きを見届けていく。
何度か打ち合い。決定的に相手を倒せないことをランスロットとトラストは感じ取り距離を取る。剣圧で鎧の布の部分や鎧に傷がつき、ランスロットの頬には薄く切れて流れ出す血がポタポタと汗と共に地面に落ちていく。
ランスロットは拭い息を整えた。そして……彼は両手剣を地面に差し腰の剣を抜く。
「聖剣を抜いたか」
「……本物というのを疑ってますけどね。まだ……抜ける人が多いので」
トラストはその言葉に英魔族の強さの再確認とそれを抜き。どう攻めて来るかを悩ませ……剣を盾に出来るよう防御の姿勢を取る。
ランスロットはその聖剣を両手に持ち。力を込める。オーラのような白いもやが現れる。
「……」
トラストは息を飲む。ランスロットは瞬きせずに視線を寄せる。その殺意に……息子の成長を感じるのだった。
トラストは……何故か過去の息子と一緒に剣を握る光景が少し過り首を振る。
「父上……いきます」
「……来い」
短く、問いに答えた瞬間。ランスロットは聖剣を片手に持ち、少し助走をつけてオーバースローで投げつける。
「!?」
その攻撃方法に驚いたトラストはディフェンダーを前に構えた。
投げられた聖剣は白い軌跡を生み出しながら真っ直ぐ草原の大地の土を舞い上げ。ランスロットは両手剣を抜きそれを追う。
ガキン!!
トラストの武器に当たり。上空に弾かれて飛んでいく。
「んああああああ!!」
ランスロットは両手剣をその防御する剣に叩き付けた。トラストは難なく耐えるが……
ピキッ!!
「!?」
不穏な音がトラストの手に伝わり……
ガキン!!
盾にしていた剣が砕け、その剣の破片がトラストの頬を切り、血を滴らせる。
「……」
そしてランスロットは聖剣を呼び戻し。力強く横へ飛んでから切り払った。
その剣はゆっくりと鎧を切り裂き。腹部を裂く。
「………そうか。その剣は手に戻るのか。いや……その戦い方。僕が教えたものじゃない」
「…………すぅ……」
トラストは壊れた剣を地面に突き込み倒れないように己を支えた。腹部から血が流れ落ち、草原を地面を塗らす。
「はぁ……父上。そうです……ありがとうございました」
「そうか………多くの出会いがあったわけだ」
トラストは痛みに顔を歪ませながらも顔を上げて息子の勇姿を目におさめた。ランスロットの背後に大きい蜘蛛の亞人。アラクネのリディアが立ち。ふっとトラストは笑顔になる。
「リディア……」
ランスロットが振り返り。愛しくその名を呼ぶ。
「その子が……リディアさんだね」
リディアが手を揃え、ゆっくりとお辞儀をした。震える手と震える声で名を名乗る。
「……リディア・アラクネ・アフトクラトルです。昆虫亞人族長をしております。お……お義父さま」
「そうか……君が息子の……ふぅ……ランスロット」
「はい……」
「すごく綺麗な方じゃないか。品もある………」
「ち、父上!?」
「お、義父さま!?」
トラストは満面の笑みでニヤっとし息子の嫁を褒めた。ランスロットとリディアは亞人を褒める事に驚く。
「お前らの事は……アメリアさんから聞いているからな……ランスロット。お前はやっぱり俺の子だった……ぐっ……」
「リディア手当て!!」
ランスロットがいたたまれずにリディアに手当てを依頼してしまう。
「ランスロット!! 情けは……ダメだ。そんな甘い所も似なくていい。ふぅ………」
トラストは目を閉じる。そして、今までも人生を思い返していた。思い返すのは……成人してから若く無茶苦茶して結婚したことだった。
「はは……死の間際でも……アメリアさんを思い出してしまう。思い出し……不安になる」
「……………」
ランスロットはその愛深い父親の気持ちを理解する。リディアは泣きそうになりながら耐えていた。
「……ランスロット、リディアさん……頼みを聞いてほしい」
トラストは精一杯の力で声を振り絞る。
「アメリアさんに二人から……言って欲しい」
「父上……なんでしょうか?」
「愛ている。これからも……ずっとな…………孫も見せてあげてくれ……はぁ……寂しがりだからな………最後にリディアさん……」
「は、はい!!」
「息子を………頼のんだ……」
「お、義父さま!! はい!!」
返事を聞き、安心し、意志が切れたのかトラストが剣を支えに立ちながら動かなくなる。リディアは涙を流して頷き。ランスロットは胸に手をやり敬礼した。
穏やかな笑みを浮かべ。トラストは眠りについたのだった。
*
右翼英魔軍は撤退する。ランスロットは父上の亡骸を背負い。それに皆が付き従う。右翼は追撃を諦めたのだ。
そして戦場の熱は覚めたのか英魔が撤退するのを確認した帝国騎士たちは反転し逃亡を開始した。
右翼の戦闘はこれにて終了し。多くの亞人が追撃しなかった罰を覚悟して都市に帰還する。
しかし、ネフィアは罰する事はしなかった。兵士達に伝えられた言葉は以下である。
「私は義務を果たせと命じ各々の判断に任せた。褒めることはあれど罰する事はない……怒るならお門違いで罰せられると考えたことだ」
英魔族兵士は……女王賛美を行ったと言われる。




