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余の話を聞け……お前ら..


 兵士たちの宣誓が終わったあと大陸地図のある会議場に移動する。兵数把握を行ったあとは作戦の説明があるのだ。


 会議場に魔剣と聖剣と凡剣を私の背後に飾る。一つは魔王の象徴。一つは親友の剣。そして最後は共に歩んだ名の無い剣だが私の伝説が乗った物。それを飾りながら会議場に皆が集まる。9人の族長。そしてそれ以外にあらたに将が加わった。


 私が座るまで直立で身動きをしない中で座れと命ずる。一斉に座り静かに私の言葉を待った。背後にトキヤが直立不動で立つ。


「……ふむ」


 皆いい面構えだった。


 2代目トロール族長タイタン。2代目オーク族長レオン。トカゲ獣人族長リザード。エルフ族長グレデンデ。ダークエルフ族長バルバトス。夢魔族長エリック。吸血鬼族長セレファ。アラクネ族長リディア。


 族長以外にはリディアの背後にランスロット。オニヤンマの女性カスガ。


 旅から帰ってきた黒い部隊を率いるノワールと言う精鋭の隊長に元勇者のサーチ。


 ユグドラシル商会のオーク。トンヤとその付き人のドラゴン。


 そして……数人の民兵代表がこの場にいた。


「……おほん……先ずは礼を言おう。短期間で兵を集めた事と遠い地から駆け付けてくれたことを」


 私は咳払いをして感謝を示す。背中から汗が出そうな緊張感の中で静かに語り出した。


「帝国は目の前に迫ってきた」


 唾を飲み込む音。会議場に緊張が走る。


「まぁ……結果。奴等は私たちと戦いたいそうだ」


 私はゆっくりと立ち上がり。これまで隠していたことを話そうと思い地図に聖剣を抜いて向ける。


「朗報だスキャラ族長がここまで侵入した。快進撃は続くだろう」


 皆が「オオオオ」と感激する。それは勇気を貰える報告だった。「遠い地で勝っている」と。


 地図にスキャラ族長が占領した土地を示す。そして……隣国のマクシミリアンの国も含めた。それにエルフ族長は気が付く。


「……包囲網」


「まぁ~待て。そうだな……包囲網だな。しかし。これまでの流れを言う」


 私は思い描いた盤面を全て話そうと思う。


「私の考えは一つ……帝国を滅ぶほどの打撃を加えようと考えている。我らに戦いを挑もうと思えぬ程度のな」


 全員が顔が驚愕に歪ませる。各々が唐突な話に声を出すがトキヤが黙れと一声。静かになる。


「そのために相手が死力を尽くす決戦での勝利が必要だった」


 何人かふと……勘づいたのか目が合う。ランスロットにいたってはリディアの耳に説明してあげていた。察する者は多い。それだけ優秀と言うことだ。


「ここで……この盤面で敵は二つの選択があった。帝国の危険を排除しに帰還か遠征続行かの二つ」


 どんどん、エルフ族長の顔の血色がよくなる。ダークエルフ族長は首を傾げた。


 ダンッ!!


「姫様!! 最初から……最初からですか!!」


 エルフ族長は机を叩き立ち上がる。


「……もちろん」


「ならば……何故もっと早く……いいえ……立派に彼らは役を果たした。知っていたのですね」


「ええ。たぶん勘でしょうが……知っていたのですね」


 エルフ族長は私を見つめる。


「勝てるでしょうか?」


「……勝つしかない。敵は遠征続行を選んだ。選んだために……決着を急ぐ。故に起こるのは……なにかな?」


「決戦です」


 エルフ族長は答えを出した。


「この地を決戦の地とし……帝国を誘った……思惑通り……もしやとは考えました」


「流石エルフ族長。ご明察よ……もし帰還を選ぶなら背後を叩いたでしょうが。それもしなかった。どっちに転んでも、もうやるしかないのよ彼らは決戦を」


 私は地図上の首都を差す。


「皆の者……これから大決戦を行います。陣形を言います。その前に……」


 皆が……静かに震える。私は深い深い笑みを向けて言い放った。


「ただ成すべき事は一つ………勝つ。それだけだ」


 勇ましい言葉に……族長の数人は叫ぶのだった。







 決戦前夜……帝国のある一室でのこと。


「陛下は?」


「お目覚めになりませんの~」


 暗い寝室の中心で医者と共に衛兵と貴族が顔を出していた。眠るように衰弱していく陛下に皆が心配するなかで……ふと声が聞こえる。


「んん……ふぅ。ここは」


「陛下!? お目覚めになったぞ!!」


「………そうか……寝ていたのか。どれぐらいだ?」


 老いた老人が昔からの付き合いの医者に問う。


「……1週間じゃ」


「そうか……」


「陛下!! おはようございます!!」


「………」


 陛下に甲斐甲斐しく世話をする貴族に陛下は冷たい目を向ける。貴族が「恩を売っている事」が見え見えなためだ。


「……ククク。お前……王になりたいか?」


「へ、陛下!?」


「……くれてやる。何でもな……もう私には必要ない……ああ……必要ない。遠征は?」


「え、遠征は順調です。首都目前との事」


「そうか……魔王は出たか?」


「は、はい? ああ。その……『弱音の停戦要求の手紙を贈るほどに弱っている』と聞いております。それはしつこいほどに……」


「………そうか。ククク……で、お前らはそれをそれをありがたく信じたと」


「?」

  

 ゆっくりと苦しそうに笑う陛下。貴族が首を傾げる。


「……若ければ一戦交えたかった……いいや、若ければ夢を叶えるか……全く最後にもう一度……逢いたいの」


 空を見上げる陛下。だが、みるみるうちに顔が変わる。


「な、何故ここに?」


「陛下?」


「そうか……ハハハハ」


 貴族達が唐突に笑い出す陛下にビックリする。


「そうか……そうか……見たかったな。前線でお前の勇姿を……ふぅ……」


 陛下が震える手で空を掴もうとする。


「……優しいな、お前は。はぁ。いい女だ」


 震えが止まり陛下が唐突に叫んだ。


「悔いは多いが……満ち足りた最後だった!! あとは……お前が叶えよ……夢をな」


 ふっ


 唐突に「叫んだ」と思った瞬間……手が下ろされてゆっくりと陛下は目を閉じる。そうして帝国の王は静かに息を引き取ったのだった。







 これは夢だろう……会議場で部隊配置と作戦を言った後の決戦前夜。私は何故か親しいおじいちゃんの前に立っていた。


 今にも炎が消えそうなおじいちゃん。そう……帝国をここまで大きくした英雄が今にも消えようとしていた。


「……陛下……」


 私は夢の中で呼ばれたのだろう。強く強く。私を呼んだからここに要るのだろう。


「……陛下。こんにちは」


「な、何故ここに?」


 私はゆっくりと横になっている陛下に近付く。


「陛下がお呼びになりました。『最後を看取ってほしい』と願われました。私に」


 静かに私は話し出す。


「帝国兵は私の目と鼻の先です。私は明日出陣します」


「そうか……そうか……見たかったな。前線でお前の勇姿を……ふぅ……」


「……私も陛下の勇姿を生でみとうございました」


 陛下が震える手をあげた。私は察してそれを両手で優しく包む。皮は固く。肉は厚い手。力強くて老いても感じる熱を持った手だった。


「……優しいな。はぁ。いい女だ」


「ありがとうございます。陛下……私はここにいます。見届けてさせてください」


 私は強く手を握った。すると……それを握り返し陛下が叫ぶ。


「悔いは多いが……満ち足りた最後だった!! あとは……お前が叶えよ……夢をな」


 夢とは……きっと。あのことだろう。


「陛下の夢は叶えられないかもしれません」


「かもしれぬな……」


 ふっと手に力が無くなり陛下の手が滑り落ちる。そして……ゆっくりと私は手を広げた。


 ゆっくりと火を継がせ……役割を終えた火が消えていく。


 ゆっくりと……火の粉となって空に舞う。


 ゆっくりと……歴史が終わりをつげる。


 ゆっくりと……光が消えていった。


 手の平に熱を残して。






 晴天の早朝、私は鎧を着たのち。陛下からいただいた帝国旗を持つ。


 そして、強く自信に満ちた足取りで集まった臣下を見下ろせる壁の上に立った。


「……」


 多くの臣下が一人一人抱負をいい。歓声が上がり士気の高さが伺い知れる。


 黙っていた私は最後の番らしく……途中で一歩前に出る。


 万の目線を受けながら。帝国旗を靡かせ……それを掲げて優しく言う。


「我らの戦いに陽の加護があらんことを」


 短く何も言わず。祈るように……皆がひれ伏した。歓声が鳴りを潜め静かに静かに頭を垂れたのだった。










 


 











 

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