余は魔王である!!..
次の日、昼下がり。大きな大きな広間に私は立った。石を組み強いた作りの石畳の中心で私は待っていた。
多くの観衆が居る中でただ待ち続けた。衛兵が距離を取りただただ不安そうに見守る。
「……女王陛下。お待たせしました」
背後から声が聞こえゆっくり振り向く。そこには……彼らがいる。
トロー族長の息子。タイタン・トロール
オーク族長の息子。レオン・オーク
レオンは筋肉隆々とし人のように背は低い。タイタンは巨人と言われる父よりも低く。これもまた……青年と言われればそうだろうと思う。
恵まれない体なようで二人とも身が引き締まった屈強な亜人の男だった。
「女王陛下……手紙の返事……ありがとうございます」
「おでも……ありがとうございます」
「……ええ」
睨み合う二人に私は……堂々と視線を外さずに応えた。
「話があるのでしょう……」
「何故父上を見捨てになったか」
「父上は……何故。残ったのか」
「彼らは……彼らの意思で残りました」
「……見殺したのでしょうか」
「ええ。父上はあなたを強者と言っていた。何故!! 帝国から逃げるのですか!!」
「………」
観衆が息を飲む。元より……私は……逃げたつもりはない。
「逃げたつもりはない。レオン……その苛立ちは置いてかれたと思っているのだろう」
「!?」
「タイタン……父上の最後を知りたくないか?」
「……もちろん」
「なら……確かに私は見殺しにした」
「「!?」」
「恨むなら恨め。だがな……終わってからにしろ。私は逃げないよ、最後まで。彼らが紡いだ可能性が芽生えるまで」
二人が顔を見合わせて私を再度睨んだ。
「まぁ若い故に納得できない感情もわかる。1発……今この場で殴るのを認めてやる。それで今は怒りを押さえろ」
「俺は……最後を知ればいいので……レオンは?」
「俺は納得できない!!」
レオンが拳を固める。そして、そのまま拳を中腰に構え踏み込み近付く。
その勢いはまるで猪の猛突のように鋭く腹にめがけて撃ち抜こうとした。観衆が息を飲んだ。
ズュゴン!!
金属に当たったようなそんな鈍い音が広間に響く。そして……
「んぐ!?」
レオンが拳ごと弾かれ打ち込んだ姿勢のままで後ろに押された。レオンの顔は非常に固いものを殴ったかのようにしかめっ面になり、拳を押さえた。
「………ふぅ……」
私は腹に力を入れていたのを解き。ゆっくり息を吐いた。その場一歩も引かずに立ち続ける。
「……レオン。聞け」
「…………陛下」
拳をニギニギする彼の目にはなにか写っただろうか。
「私には……いや。余は魔王ぞ。背負った重さはそんなものでは動かんよ。わかったな」
私はそれだけをいい背中を見せる。フワッと隣にトキヤが現れて豪華なマントをかけてくれた。そして……皆から私を隠すように姿を消してくれる。
背後、周りから喚声が上がる。私を称賛し、祈るものもいた。
そして……ゆっくりと私は跪く。
「げふぅ……」
ツゥー
「ネフィア……大丈夫か?」
私の肩を叩くトキヤに私は少し胃から逆流した血を滴らせながら微笑む。
「ふふ、大丈夫……結構効いたけどすぐに治る。ふぅ……痩せ我慢しんどいね。体の中身がズタズタよ」
「格好良かったぞ」
「……嬉しくないなぁ~全く。私は女よ」
私は血を拭い立ち上がる。そして……回復した瞬間。彼に抱っこされて城へと戻ったのだった。
*
女王陛下を殴った俺は拳を見ていた。
「レオン……大丈夫か? 拳は?」
隣のトロールのタイタンに拳を見せる。周りは女王陛下に勇ましさに喚声をあげていた。
俺はその中で……拳を見続ける。渾身の一撃だった。「死んでもおかしくない」と思うほどに。
しかし……結果は女王陛下を退けるどころか自分が弾かれたのだ。まるで大きい大きい鉄を殴ったように重たい固さに驚く。
「タイタン……殴った瞬間。重かった」
「……レオン」
「俺は……餓鬼だったようだ。背負うもの背負った重さに気付かされた」
拳を握りしめる。己の薄さに悔しい思いをした。
「タイタン俺を殴れ!!」
バゴン!!
ヨロ……
頬に重い一撃と痛みが体を揺らした。
「これでいいか?」
「ああ……目が覚めた。ありがとうよ」
「いいよ……お礼は。あと、俺も一発」
ボコォ!!
タイタンに女王と同じ拳を手加減して入れる。深く入った瞬間にくの字に折れ倒れるタイタン。立ち上がれずに……倒れたままになる。
「げほっ……重い。これを女王陛下は受けたのか?」
「……手加減している………もっと重い筈だった」
「……」
タイタンを起こして肩を貸す。
「俺は……間違っていた」
「同じく」
ゆっくりと二人で歩く。何も言わず、痛みを噛み締めながら。
*
次の日、私は全族長を集めた。戴冠式を行った玉座に座りトキヤを右側に立たせ、左側にはエルフ族長を立たせた。玉座と言っても借り付けの椅子である。
目的は隊の把握。どれだけの兵数が要るかを確認するためと点呼だ。
変わった奴もいる。黒い鎖帷子でツノがついた兜や、昆虫ぽい種族もいた。知り合いばっかりであるが。リディアは私に指を差してランスロット怒られていた。エルフ族長は自分で2000程度と言っている。
「ダークエルフ族長兵数3000」
「はい」
ダークエルフ族長が応える。次にエリック率いる悪魔族など。九大族長から点呼を取り、スキャラ族長以下、トロール族長、オーク族長の姿はない。スキャラ族長は攻撃中でいないのは当たり前だが。
「トロール族長、オーク族長は居ないのか」
「……」
私は溜め息を吐く。彼ら二人はまだ族長としては若いのかもしれない。「戦法を変えないといけない」と思った瞬間だった。
ギギギギギ
扉が開き、視線が前に向く。
「はぁ……はぁ……トロール族長タイタン。今、父上を継ぎ!! 陛下の元へ馳せ参じる!!」
「……オーク族長襲名。レオン……ここにいる」
父上より流暢に言葉を並べて部屋に入る二人の屈強なトロールとオーク族。その二人が赤い絨毯の上を歩き……皆の視線の中で私の目の前に跪く。
「……お遅くなりました。女王陛下」
「女王陛下……多くのご無礼をお許しください」
「……なに。二人には日時を間違えて言っていたようだ。それに……見捨てたのは事実……いや。殿を命じたのは余だ。非は余がある」
「いえ!! 何も知らなかった我々こそ……非があります!!」
私は立ち上がる。
「そうか……頑なにそう言うのだろうな。なら!! 面をあげよ‼」
二人は頭をあげる。
「オーク族長レオン。トロール族長タイタン。両名を族長と認めよう。そして非を感じるならば戦場で償って見せよ。先代に恥じぬような活躍を期待している」
私は荘厳な声で話をし、少し柔らかい声に変える。
「先代二人は……本当に素晴らしい英雄でした。一緒に打ち勝ちましょう」
そして……二人に手を差しのばす。
彼らの問いは立ち上がっての握手だった。




