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都市インバスの孤高の銀狼..


 家に上がらせてもらい、執務室で珍しい酒を戴いた。小さな木枠のお酒だ。人狼からは姐さんと呼ばれて子は一人娘がいるらしい。予定ではあの気絶した男が婚約者であるようだ。


「ふぅ~島を荒らすセレファにお灸据えに行ったら。もっと上のもんに会えるとはおもわなんだ。どこで、私らのシキタリを?」


「どこと言いますと~夢魔で夢の中と言いましょう」


「同じく。付き添いだな」


 嘘である。知識としてある日を境に手に入れたのだ。生で見るとは思わなかったが。


「ふむ。まぁ~驚いたが所詮、堅気……聞けば夜に太陽を産み出し都市を救ったのは聞いている。まぁ~それでお前の下に下る気はしない」


「そりゃ~そうでしょう。パッと出の私が『下につけ』と言われたら断ります。セレファももう少し考えて物を言えばよいものを……」


「ふん、奴が都市を手に入れているも同然のこの状況ならいい手段だが。私には効かなかったな。前から細々とぬらりくらりとやって来た私らにはな」


「………今の情勢は?」


「知っている。憎き帝国との戦争中やろ」


「話が早い……交渉したいのです」


「ええで、聞こう。思うとこあったんや」


 銀髪鬼が笑みを深める。


「帝国の足止めをお願いしたい……決戦は都市イヴァリースで相手の将のタマを取る予定です」


「なにかの画を描い(作戦を練る)とるわけか」


「それには時間が足りない。急戦を帝国は行っておりそれを遅くらさせて兵を整えての攻勢に出ようと思うのです。数を減らす目的でもある」


「ほーん……それで我らにも声をかけるちゅうわけやな……ワイらは仁義を重んじる。その仁義を捧げられる相手ならええんやが~」


「交渉といいやした。別に私に忠誠を誓わなくていい。何か……交渉といきましょう」


 銀髪鬼が目線を下げ、木枠に入った透明な酒を口に含んだ。トキヤは酒をいただきながらうなる。旨いのだろう。


「東の国の酒はうまい。うまい話なら聞きたいが………せやな………私からの提案でええか?」


「いいですよ。叶えられるならなんでも」


「我らを……祖国に返してくれ」


 私はハッとして銀髪鬼の顔を見た。悲しんでいると言うより憤りが見えた。


「ワシらはな……元人間……それが突然に狼になった。そして……ここに捨てられた。いつしか捨てた帝国に復讐できる日が来るのをずっとずっと待っておった。あんたが倒した悪魔に魂を売って手を汚しながら見ていた。そう……私はクドルシュチェル家に復讐したいの……元旦那にな」


 沸々と溢れる言葉に。彼女に過酷な人生を思い起こさせた。ここまで登ってくるのにどれだけの苦難を伴ったか……私は想像することしかできない。


「復讐できる機会を与えましょう。そうですね……帝国に住まわれるとはどうでしょうか?」


「騎士団に狩られるぞ?」


「簡単に狩られるおつもりで? 帝国に住めるようにします」


「ほう……」


「住めるようになった場合……あとは知りません。好きにしていただいてどうぞ。復讐でもなんでもやりなはれ」


「…………面白い。そんな事が出来ると? 騎士がいる」


「騎士は弱体化する。裏で繋がればもっと便利になる。そう思わせるのも手です。きっかけを用意いたします」


 銀髪鬼がクククと笑う。


「ええで……子孫、全員でのつとめは終わり。放免祝いが出来ると言うわけやな。ええでええで」


「ありがとうございます。クドルシュチェル家の組長さん」


「中々、胆力もったやっちゃ……ええなぁ」


 クドルシュチェル組長が立ち上がり。一本の酒瓶を持ってくる。それの封を切り。何処からか持ってきた赤い盃をテーブルに置いた。


「言わんでも分かるな。堅気やめてもらうで」


「この歳で姉妹になるとは思いませんでした」


「あんたの名前借りたいんや」


「姉妹です好きにつこうてください」


「……おおきに」


 赤い盃に酒が注がれそれを私は啜る。そして、私も注ぎ返し。その盃を戴いた。


「よう分かっとるの~スムーズや」


「そりゃ~わかってます。色々とね」


「約束じゃけん……な?」


「全員祖国に返します。任せてください」


 銀髪鬼と約束し、その日はそのクドルシュチェル家に泊まるのだった。風呂も入り、酒盛りをして、仲間の死を愚痴り慰められたあと。酔った勢いでトキヤに全身脱いでもらっての二人での筋肉や全身観賞会も行い。小さい娘も紹介してもらい。無事に何事もなく夜が明けたのだった。


 次の日、トキヤに尻を10発叩かれたが……クドルシュチェルの令嬢は爆笑して指を差す。印象深かった。人前でやめてよと。





「あー」


「姐さんお水です」


「すまんな……いつつつ」


「いいえ。久しぶりに笑顔を見ましたよ」


「そかそか……後は頼むで娘と二人で帝国を物にするんや」


「……姐さん?」


「私はちと……歳を取りすぎてな。若いのに任せるわ」


「………わかりました」


「ちと、出るで……セレファに挨拶してくる」


「一人でですか?」


「せや、あやつと戦争するつもりやない……ただ。立場をわからせる」





 ランスロットは首都イヴァリースに明るいうちについた。多くの種族が入り乱れて工事を行い。一部は徹底した体力錬成を行っていた。空は竜が飛び交い、商業も賑わう。


 都市の外にも多くの家やテント、天幕が立ち。難民達が生活している。


 ついた瞬間に借り宿で族長として君臨する嫁には会わず。先にセレファ族長の婦人に会いに来た。理由はひとつである。


 セレファ族長の部隊指揮所に顔を出すと。お人形の女性が座っていた。明るい場所では人形でしか動けないと聞いているので今は休んでいるのだろう。


「すいません……ランスロットです」


「………」


 人形が顔を上げる。


「お休みの所で申し訳ない……姉上」


「………」


 すっ!!


「あっ、ごめんなさい。今、憑依します」


 壁の中から丸い幽霊が現れて人形に入っていく。人形が立ち上がりお辞儀をした。


「えっと……お仕事してましたの。ごめんなさい」


「そうですか……忙しい中……すいません」


「あの……なんでしょうか?」


「……僕の事は覚えがないでしょうか? インフェ・アフトクラトルさん」


 昔の名前を呼んだ。


「えーと確か……そう!! ランスロットちゃん!!」


「そうです。お姉さん」


「大きいですね。もう……大人です」


 さわっ


 優しく頬を触れる彼女に僕は悲しい気分になった。


「おじさんはやはり……あなたをお捨てになったのですね………」


「ええ……父様には捨てられました。でも、素敵な出会いがあり満足です」


「……」


 僕は昔、何も分かってなかった時に彼女が床に伏せているところに出会っていた。呪いのような病気に苦しめられており。亡くなったと聞いていた。そのあと……同じ名前の娘も産まれ………その名前を継いで忘れられた存在になる。


「姉さん。良かったです……一緒に帝国から捨てられた同士、頑張りましょう」


「うん、そうだ!! リディアさんとのなりそめを聞きたいですし~」


「いいですね。お教(おし)えします」


「ふふ、ありがとう。ランスちゃん」


 ランスロットは軽い返事に後悔した。何故ならこのあと帰してくれなくなったためにリディアに会うのが遅れたのだった。





フラッ……


 教会でお祈りを捧げていた吸血鬼が気配を察知し背後を見た。


「お前は……銀髪鬼!!」


「セレファ族長……こんにちは」


 衛兵が守っている中を事も無げに侵入した銀髪鬼。セレファ族長は護身用の紅いナイフを構えておく。


「今日は見えるぞ」


「あら、今日は手加減してるわよ」


 人狼の隠れる能力を警戒しながらの会談。


「そうそう……セレファ族長。結局あなたの下には入らない。でも、私が上なら許す」


「上なら? はぁ……冗談は……!?」


 銀髪鬼が動く。セレファ族長はその動きに合わせてナイフを出そうとした瞬間。銀髪鬼の姿が揺らぐ。ナイフが刺さったように見えるが幻影であり、セレファ族長は後ろを見た。


 ガシッ!! ダンッ!!


「ぐっ!!」


「ククク」


 銀髪鬼が頭を掴み、地面に叩きつける。セレファ族長は銀髪鬼を睨んだ。


「私は嫌いな物が二つある。一つは温い酒……そして、もう一つはお前みたいなのが、さも当然のように私を見下す事だ」


「……見下すか……確かに見下していましたね。昔から」


「ふふ、しかし……これで形勢は逆転。私は自由にさせて貰う」


「……交渉。下につけばある程度……頼めるか?」


「……どうした? 狼風情と昔は侮ったのに」


「女王陛下と仲良くしたのだろう……契りも交わしたと聞いた。なら……上はお前らでいいさ。族長になるか?」


「…………」


 銀髪鬼が離れる。セレファ族長はゆっくり立ち上がった。


「……最初から。そう言うつもりだったのだろう銀髪鬼」


「……食えない男だ。せやな、お灸添えてから言おうかと思った。ふぅ……そう言う事だ。セレファ族長そう言う……つも!?」


 銀髪鬼が手を捕まれ………今さっき地面に叩きつけた男がひれ伏し。手の甲にキスをした。


「なっ!? なっ!? お、お、お、おまえ」


「クドルシュチェル家の綺麗な令嬢。このセレファは家に使える事を約束しますよ」


 バッ!!


「気色悪い!!」


 慌てて手を離し、ムッとした顔をする。


「ブラッドさん。自分は首都に行きます。好きにここを使うといい」


「……はぁ。わかった。最後にちょい今夜付き合いな」


 銀髪鬼は頭を掻きながら空いた手の手甲を眺めた。何十年ぶりに久しぶりにドキドキし、まだその感情が残っている事を喜んだ。


 人の心は残っていると。ほくそ笑む。



















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