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最後の火..


 オーク族長は剣を振りながら己の最後を感じていた。


 燃えるように内から沸く力は何を糧にしているかもわかっていた。


 身を焦がすほどの熱さは長くは続かないことを。


 だが、その熱があるかぎり敵を倒そうとする。親方の姿はない。


「……トロールの親方は何処だ……」


 同じ仲間が炎を纏う武器で帝国兵を倒してく中を探す。


「………まだ寝ているか。トロール族長さんよ!!」


 悪態をつきながらも。オーク族長は最後の時がやって来る。


 グラッ!! ガシャン!!


 唐突に体が重くなる。いや……軽くなる。


 内の熱が引き……ゆっくりと冷えていく。


 武器の炎が消え、オーク族長たちは倒れていく。


 逃げ惑う帝国はチャンスと思い迫る。オーク族長たちを突き刺そうとした瞬間それが起こった。






 己は……何処にいるのかわからない。暗い底、何もない場所で横に寝ていた。


 死後の世界というのはわかる。多くの槍に刺されて倒れたのも理解している。


 しかし……何故かゆっくりと暖かく感じた。まるで太陽に当てられてるような暖かさだった。


 目を閉じていたのだろう事がわかる。眩しい光りが瞼の裏を焦がした。


 何処か風に花の匂いもする。


「オデ……ナニガ?」


 目をゆっくりと開けた瞬間に………言葉を失う。


 風に金色の紙を女王旗と共に靡かせ、純白の白金鎧に身を包み、大きい白翼を伸ばし、緑に輝く聖なる剣を突き刺して仁王立ちするネフィアが居たのだ。



 荘厳な鐘の音。女声の歌が聞こえる。



 雲の隙間から太陽が覗かせて彼女を照らす。


 陽に照らされなが真っ直ぐ目の前だけを見る女王の風格に……目を奪われそうになり……多くの視線を感じて女王の目線の先を見る。


 見た瞬間、驚き声がでなくなった。英魔の軍団が一斉にこちらを見ていたのだ。


 見たことのない数の英魔たちが多くの旗を掲げる。そして一人一人の亞人たちがひれ伏し、胸に手を当て……忠誠を誓う騎士のように祈り始める。



 物音しない状況にトロール族長は目を女王に向ける。



 彼女はゆっくりとトロール族長に向き直り……剣を持っていない右手を差し出す。



 トロールは手を伸ばす。美しいその姫の手に触れた瞬間だった。



「いつまで寝ている。トロール族長!! 目覚めろ」



 オーク族長の声が聞こえたのだった。






 逃げ惑う帝国はチャンスと思い迫る。オーク族長たちを突き刺そうとした瞬間……帝国の兵士たちは動きが止まってしまう。


 それは恐怖だったのか……それとも何かを察したのかはわからない。


 ただ、ただ……兵士たちは動かない者たちを見ていた。



 そう、ゆっくり小さな火の流れのような物がある一ヶ所に集まっているのだ。



 連続で起こる不可解なこと。



 火の流れが無くなった英魔の遺体は……ゆっくり白くなり崩れて砂となって風に流されていく。



 ガシャン!!



 一際大きい巨人……トロール族長が起き上がる。醜く太っていた体は引き締まり。身長と同じように近くに転げていたオーク族長の黒い大きい剣を掴んだ。


「オデ………オレハイッタイ………ああ。そうか……これが………あの方の……そして………皆の」


 剣を地面に差し、跪きゆっくりと祈る………黒き剣に炎を纏わせた。


「……覚悟しろ。最後に立つは………我トロール族長トロールなるや……」


 身を焦がすほどに炎が傷を癒す。立ち上がり剣を地面から抜き……振り回して構え治した。


「トロール族長……最後の灯火……参る」


 トロール族長が跳躍する。帝国兵士たちは振り払われた剣の炎に飲まれた。トロール族長の足跡は燃え上がり………跡を残していく。赤く溶ける石が続く。


 誰も武器を捨てて………逃げ惑うのが再開されたのだった。








 帝国の天幕、騎士団長たちに初めての悲報が聞かされた。慌てて天幕に入ってきた西騎士団員が声を荒げて報告する。ちょうど6番隊長トラストが相席している時だった。


「ほ、報告します!! 帝国の……西騎士団長戦死」


 天幕の下で……皆が驚いた表情をした。


「て、敵の死にものぐるいの抵抗に……戦死しました」


「いったい……どう言うことですか?」


 事の顛末を話す。死んだ筈の兵が生き返ると言う嘘のような真実に……皆が死霊術を思い浮かべた。


 しかし……それとは何か違うと生き残った騎士は言う。北騎士団長が質問する。


「西騎士団の被害は?」


「数十名ほど………」


「本体は私の北騎士団に合流。南騎士団1番隊長……行けますか?」


「俺が行きましょう」


 北騎士団長の声を遮り。トラストは声を出した。


「魔物狩りなら………俺の方が得意だ」


「6番隊長……なら頼んだ」


 1番隊長が命じ、6番隊長が天幕を後にした。


「………南騎士団の豪傑が相手です。火消しには十分ですね」


 騎士団長たちは何があったかを……再度確認し合うのだった。







 トラストは部下10人を連れて馬を走らせる。相手は一人と聞いていたためと。強者の匂いがしたからだった。


 一人で千を相手に出来るなら。少数で腕の自信のあるものだけで向かうべきだとトラストは思う。


 余波で無駄死にするために。


 だからこそ……一騎討ちを行おうと考え戦場につく。


 門から入った大通りに……一人の大きな大きな巨人が山となった死体の上で座り。傷からは血は何故か流れていなかった。焦げ臭い臭いが充満し、黒焦げた死体が転がる。


 巨人が座れるほどに積み上がった死体にトラストは眉を歪ませた。他の帝国の兵士は違うところへ逃げたのだろう。たまたま……こっちに逃げてきた者は全て殺されたらしい。


「……来たか……新しい将が」


 ユラリと大きな巨人が立ち上がり。トラストは………動けなかった。


 油断したと言ってよかった。トラストの大きな武器は馬上では不向きであり、抜くのは遅くなる。故に目の前に大きな巨人が燃える剣を振り抜くのに間に合わない筈だった。


 ザクザクザクザクザクッ!!


「トラスト隊長危ない!!」


「トラスト先輩!!」


「隊長!!」


 つれてきた。兵士たちは騎士槍を持っていた。それを構え、トラストの前に出て飛翔した巨人に突き刺したのだ。トラストの鍛えた騎士の鋭い突きに巨人は串刺しになる。黒き剣が手から落ちた。


「……あと一歩……届かぬか……」


「喋られるのか……」


 トラストは驚きながら巨人を見る。


「最後に名を聞こう名のある将よ……我はトロール族長トロール」


「トラスト・アフトクラトル。帝国南騎士」


 串刺しにされたままトロール族長が声を出す。


「トラスト……帰って言え……この先進むなら覚悟しろと………」


 トラストは目線を逸らさない。


「お前らが相手にする。我らの姫は………強い……それは……陽のごとく」


 サラッ……


 トロール族長の体がゆっくりと白い砂になり、風に流されていく。


「覚悟しろ………この先は……地獄ぞ」


 サラ……


 トロール族長が一瞬にして砂になる。トラストは……皆に「帰るぞ」と言い。今さっきの光景を目に焼き付けた。


「……胸騒ぎが収まらんな」


 黒騎士だったトラストは今までの戦争より苛烈な物になることを勘で察する。そして……今の事を話そうと思い……帰還を上申する事にしたのだった。







「ん? 待って」


「どうしたネフィア? 早く行くぞ……都市インバスはあと少しだ」


「そうです。追っ手が来るかもしれません」


「………声が聞こえた気がした。皆の声が」


「ネフィア……振り向くな。前を見ろ」


「うん。何度も言わないで……でも私は振り向くよ」


「どうしてですか? ネフィアさん?」


「振り向いたら………いつも背中を見てくれてる人がいる気がする。そう……彼等は見ている」


「………そうだな」


「そうですね」


「行こう!! 彼等が稼いだ時間を無駄には出来ない………無駄にしてはならない!!」


 ネフィアはドレイクに鞭を打った。真っ直ぐ前を向いて。

















 



 



 



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