開戦12日目………そして数日後、最後の灯火..
「塔の数が揃いました」
工兵が不眠不休で作った攻城塔の数が揃う報告が騎士団長の天幕に届けられる。東騎士団長は愚痴る。
「ずいぶん時間がかかったな」
兵士がビクビクしながら報告を続けた。
「魔物が多く……ワイバーンの騎兵もまだ調整不足でして……」
「まぁ東騎士団長どの……ゆっくりでいいではないですか? ワイバーンの騎兵も節約できる訳です。楽に要所を攻め落とせるでしょう……それにこんなにもラブレターが届いております」
北騎士団長は手紙を見せる。12枚の停戦要求が書かれた国書。それを簡易机に置く。
「ふん、やめてと言ってやめるバカはいない」
「ですね」
手紙をビリビリにし、鉄の吸い殻に入れて火を起こす。燃え上がる手紙を無視して話を続ける。
「西騎士団長」
「おう?」
「私は功はいりません。東騎士団長もですね」
「ああ、あんなのはいらんな」
「ほう……いいのか? 戴くぞ?」
「どうぞ」
「やる」
「では、先人の指揮は我々が行います。休んでいてください」
西騎士団長は自分が上がることは無いことを知り。諦めて言葉に従った。
しかし、あの都市を落とした場合はやはり名実を貰えると思うと美味しい部分もあり、なんとも嬉しい気持ちが勝つ。
南騎士団1番隊長はそれを見ながら……自分達の貪欲さに辟易し、仲のよい6番隊長を思い出す。彼と違い、この中は少し淀んでいる気がするのだった。
*
帝国の旗が翻り、攻撃旗が掲げられた。四方から歩兵が勢いよく突き進み。盾を構えて投げ槍を弾く。
「槍が少ない!! 敵は少数押し込め!!」
帝国兵たちは抵抗が何故か少ない壁を登る。帝国兵は喜びながら砦の壁から町へと降り、降りる先で亞人達が待っていた。狭い路地に何人もの亞人たち。
「敵だかかれ!!」
多くの声を揚げての突撃は……大きなトロールの盾に防がれ。叩き潰される。
「狭い路地では部が悪い他の場所から挟め!!」
「後ろからも来るぞ!!」
「な、に!?」
「ぐへっ!?」
狭い路地に挟み撃ちにされ潰される兵士。
路地裏の壁が壊れ突如オーク族が攻めてくる攻撃。
敷き詰められた石畳の上が血で濡れていく。
兵士たちは……街の中を逃げ惑うのだった。
*
「ガハハハ……街の中をうろちょろと走り回りおって」
壁から降りた兵士は大通りに出る。大通りは混戦となり。味方敵が入り乱れる。
しかし、少しずつ帝国兵は敗走を始めた。
亞人との力量差に負けていくのだ。
精強オーク族、獣族からたった1種族だけ抜け出し繁栄した種族は訳が違ったのだ。
「野郎共。人間を陣に担げ、仲間もな」
仲間は供養のために。敵は予備の食料のためだ。都市の食品はみな燃やした。
オークは雑食。味方も食ってでも生きる汚れた行為を行ってきた。
しかし、それを恥ずかしく思うことはなかった。
ネフィア女王陛下も口にした。そして、それは英雄を繋ぎ、内に仲間や同志と共にする行為。
「私の中に仲間の英雄血が巡っています。私の中で英雄は一緒に歩んでくださるでしょう」
誰もが何故か……そんな声が聞こえた気がするのだ。
忌むべき行為を咎めず。受け入れたのだ。
*
壁の上から西騎士団長は苦虫を潰したような顔をする。傭兵の弱さに嘆くのだ。
「兵がみな、逃げ惑っています!! 西騎士団長!!」
部下の一人が報告に上がる。
「……くっ。都市内戦は向こうが上か。仕方ない!! 門を一つでも抉じ開けよ」
「それが……門は砂や木、岩などの瓦礫で塞がっておりまして……すぐには」
「……退けさせろ」
「はい」
命令を聞いた騎士がそそくさと持ち場に戻る。そして、西騎士団長は中央を見た。
岩が積めあげられ、木などの杭が刺さり、如何にも防衛用に陣が作られていた。
「……そういうことか」
都市は広い、故に護るのを諦め……少数だけで護れる砦を都市の内側に作ったのだ。
外壁より低いが、低すぎる訳でもなく攻城搭も入らない都市内部。
多くの建物がまるで森の木々のように重なり狭い道。
「これは……亞人の浅い知恵でよく考えましたね」
「北騎士団長……」
「ちょっと様子を見に来たら……厄介極まりない。土地を知り、少数だけで戦闘が出来るように考えられています」
北騎士団長がゆっくりと分析をする。そして……一言言い放つ。
「傭兵に外壁から建物を崩させよ。そして金品は全部渡すように命令をお願いします」
「………すべてを燃やす気か?」
「もちろん。すべてを奪い燃やすつもりです。再利用が出来ないほどに。あまりあんな程度の兵で時間を潰したくはありませんから」
魔王らしきものは居ない事を知る。北に逃げられていることを知っている。馬の蹄から数人しか逃げておらずその一人なのが予想がつき、追いかけても尻尾は掴めないでいた。
北騎士団長は外壁を降りる。残っている将を誉めながらも……その将を消し去れる事に喜びを感じた。
「切り札の1枚……消し去れますね」
「忠誠心は高いだろう。しかし……魔王はただのお飾り。他をゆっくりと消せば連合都市のように弱体化する。そう、これが精鋭なら……今、増員出来た兵はこれだけ」と言う。そんなことを騎士団長たちは考えるのだった。
*
「オーク族長!! 火を放たれ、建物や扉を壊し始めました………」
「……」
「ここも時間の問題です」
「……壊れるのを待つつもりはない」
「っと言いますと?」
「今日は何もないな………明日全軍で出る。用意をしろ」
「……かしこまりました」
天幕の中でぶどう酒のコルクを抜くオーク族長はそれを一気に飲み干す。
「今ある食料を全部食っていい。残りは燃やせ」
「はい」
「最後の晩餐としようや」
オーク族長は無くした片腕を撫でる。そして、笑みを深めるのだった。
*
突貫工事で作った即席の傾いてる杜撰な攻城搭を残し、門を抉じ開けた帝国の傭兵は都市内部で暴れまわる。門から馬車を乗り入れて片っ端から金品を奪い。取り壊していく。
これでもかと金目の物を乗せ、城の外へと運び出した。
その結果……用意していた馬車一杯に積まれた物が列を成して帝国へ向かっていく。
先に勝利品の持ち帰りを行ったのだ。噂も流す。労せず儲かるため……人が集まるのだ。
騎士団達も用意した馬車に乗せ自国に持ち帰れと指示を飛ばす。
目の前の敵に目もくれず、ただただ欲に溺れた。
そして……それが何日も続き。相手が出ないことを知るや好き勝手に暴れた兵たちがゆっくりと牙を向ける。
「西騎士団長どの、傭兵がみな用意ができたのこと」
「そうか。たらふく肥やしてくれたお礼をせねばな!! 旗を掲げ魔法を撃ち込め!!」
騎士団は知る。相手に魔法使いは居ないことを。故に魔法を禁止する呪文をやめ攻勢に参加させた。
帝国旗が掲げられ岩や木で出来た壁が砕けて燃やされて行く。
抵抗もなく……崩れていく。
しかし、その中でゆっくりと燃え上がる門が開かれた。
中の天幕や住宅は燃え上がるなかで……武器を構えたオーク族長トロール族長がゆっくり前へ動き出す。
「敵が出てきます!!」
「応戦!! 槍兵前へ!!」
「グオオオオオオオオオオオオオ!!」
蛮族の王は叫びながら先頭を切り……皆が後に続く。
下された命令は1つ。
少しでも多く……帝国兵を道ずれにしろだった。
*
敵の中心で片腕の大剣を振り回すオーク族長デュナミスは時がゆっくりになるのを感じた。
多くの槍兵を槍ごと凪ぎ払い、魔法使いの猛攻をその身に受けながら……前へ前へと進む。
猪の亞人である彼は引くことを知らない。
いつだって、何度だってその力で全て切り払ってきた。
戦いながら過去を思い出していく。
色んな種族と土地の奪い合い、殺し合い、だまし合いをしてきた。時に囲まれたがオーク族だけでいくつもの苦難を乗り越えてきた。
他の亞人を食い殺しながら。恨みを買いながら。
ザシュッ!!
「ぐふっ………おおおおおおお!!」
「う、ぎゃあああああ!!」
槍が腹に刺さり、それを掴み兵ごと投げ飛ばす。刺さったままの槍をそのままにし前へ前へ……進んだ。気付けば周りに自分以外は居ないことに気が付く……ついてこれなかった訳ではない。
妻もみな………あのトロール族長さえ地に伏していたのだ。
「………ククク」
笑みが溢れる。これでいいのだと。
オーク族は嫌われの種族。それの代表者である。多くの者が死を望んだだろう。
多くの罪を重ねてきた。和解なぞ出来ぬ程に。多くの敵を作った。故に本来は……いつか全員に潰され消える運命の種族だっただろう。
「あと一匹……お前……行けよ」
「ま、まて……全員でやろう!!」
槍が全周囲から構えられる。魔法使いはすでに休むために消えている。
「くくく……まだ、まだ倒したりない」
そう、まだ陛下に恩を返せてない。
オーク族長デュナミスは……感謝していた。
全ての敵であるオーク族の未来を変える事が出来たことを……恨みを自分一人に向けて背負い死ぬことが出来ると。
「おおおおおおお!! ぐふっ!?」
槍が投げられる。それを振り払おうとした瞬間だった。手に槍が刺さり……動かせなくなったのだ。
そして……全身に槍が突き入れられ。血が石畳に染み込んでいく。
「やったぜ!! 俺が首級をもらう!!」
「あっ!! 抜けかげはよせ!!」
オーク族長は……痛みを感じず……眠気に襲われた。ゆっくりと目を閉じ。祈る。
1つ、族の繁栄を……2つ……英魔の勝利を……そして太陽の女神に感謝を。
冷たくなる体を感じながら。
……
…………
カーン……カーン………
眠気の中で鐘の音をオーク族長は聞いた。鐘は壊れた筈だ。
アーアーアー
眠気の中で聞いたことのない聖歌が聞こえた。ここにはそんなのはいない。
「………魔族は魔の物? いいえ……そんなことない」
ハッキリする意識の中で女王陛下の声が聞こえる。女王陛下はそんなことを言ったことはない。
「英魔……それは……英雄の輝ける力を持った種族なり」
手が、足が……動く。冷えた体に内から燃えるような熱さを感じた。
目開けると恐怖の表情をした帝国兵が見えた。体が軽く感じ、切り落とされ失った手が見えた。少し赤く燃え上がる手を見た瞬間にオーク族長は笑みを浮かべた。
周りには同じように立ち上がり剣を握り直す同志が見えた。
武器が炎を纏い、まるで誰かの武器のように燃え上がる。
女王陛下の力、英魔の力………そう我らにはまだ光が残っている事を。皆の耳には確かに聞こえる。
聖鐘の音が、聖歌の声が。
「………」
オーク族長の刺さった槍が抜け傷から火が溢れる。
炎の大剣をかざし……叫んだ。
「アアアアアアアアアアアアアアアア!!」
同調するように仲間とともに目の前の敵を凪ぎ払うのだった。身を焦がすほどの熱を持って。
*
「西騎士団長!?」
一人の傭兵の代表が現れる。血相を変えて先に帰ろうとしていた騎士団長は振り返った。
「なんだ?」
「……そ、それが。死んだ筈の敵がぞ、ゾンビに」
「ネクロマンサーだと!? 急遽魔法封じの大魔法を唱えさせろ!!」
「……………」
「どうした!? さっさとしろ」
「……申し訳ありません……それが全く効果がないのです」
西騎士団長は急いで前線へと仲間の騎士と共に向かう。そして、逃げ惑う傭兵や兵士を掻き分け……その姿を見た。
傷がつこうとそこが焦げ、そして塞がり。炎の武器や炎を一部纏い……繰り広げられる虐殺を。西騎士団長は騎士に命令を飛ばす……全軍に攻撃通知を。敵は生きていると。
「……化け物め!!」
騎士団長は舌打ちをしたのだった。




