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開戦..


 オオオオオオオオオオオオオオオ!!


 大地が揺れるような響き。重圧の下。四方を囲まれ、陣を組まれた中で歩兵が盾を構えて攻めてくる。青天の中での攻撃に私は声を出す。大きな都市であるこの商業都市でも……四方八方に私の命が下った。そして主攻は正面のみというのが分かり、正面に兵士を多く集めた。


 四方を囲んでいるように見せての正面だけの攻撃はきっと都市が広いため。分散するよりも固めた方がいいとの判断だろう。私もそう考える。そして、薄くした所に攻め入ればいい。


「槍を投げよ!! 魔法はいらん!! 対魔により防がれるから‼ 無くなるまで投げ捨てよ!!」


 衛兵、戦士、騎士達が助走をつけて槍を投げ放つ。何本も何本も投げ、青天に槍が降り注ぐ。中には柱のような太さの物も空に放たれる。知らぬ間に野球で鍛えた強肩を持つ亜人がドンドン投げ放った。


 眼下の帝国兵士達がまだ遠い場所で大地に串刺しになっているのをネフィアは見る。


「耐久は低いのね」


「軽装の兵士だからな。ネフィア、後ろに下がれ……弓が飛んでくるぞ」


 トキヤとランスロットが剣を担いでネフィアの前へ出る。大地に槍の雨が降り、相手も応戦とばかりに弓を構え放った。


「今日は雨が降るね」


 矢の雨が都市に降り注ぐが狙いは甘く。壁の上の盾を持った兵士たちに防がれたり。亜人の皮膚には刺さらずに落ちたりとする。ネフィアそれを目に焼き付ける。亜人の兵士の強さを吟味する。


「一応、目に刺さるとダメだが……固いな俺ら……ランスも弾いてるし……」


「矢では死なないよね………どちらかと言うと都市の民に攻撃して、反乱とか、恐怖を植えるのが目的で……何もない都市に攻撃してもねぇ」


 人払いを済ませているので思った以上に効果を生んでいないようだ。帝国の兵たちは数を減らしながらも……梯子を持って壁に真下までやって来る。もちろん、オーク族長やトロール族長以下の屈強な大男たちは壁下に槍を放ち、登って来ようとする者の顔や体を当てて落とす。


「ワラワラと多いな……」


「オデ、マニアワン」


 ヒュー!! ドンッ!!


 壁の一部に大きい石がぶつかる。遠くを見ると投石機が構えられ、何やら鉄塔のような車が3つも迫ってきた。石については当たれば流石に痛いのか亜人たちは避けていく。


「ネフィア……攻城塔だ。あれを近づけさせたら……危険だぞ。兵が雪崩れてくる」


「そっか~梯子では辛いよね」


 正面からの理由はわかった。あの塔は3つしか用意できていないらしい。ひとつでもつけば……勝てると思われている。面白い。


「あの塔を壊せる兵器はない。それより、ドンドン槍を投げさせて兵士を怪我させてください」


 指示を飛ばしながら、兵士に激を飛ばす。激しい攻防戦に私は……高鳴る胸を押さえる。熱い、熱い。


「ネフィア!! バリスタだ!!」


 ビュウン!! ヒョイ!!


 大きな大きな鎖つきの矢が私を狙った。ジャラジャラと鎖が目の前を過ぎる。相手は私が目立つために狙ったのだろう。鎖が壁に絡まり、それを登ってくるのも現れる。


「冴えてきた」


「あっぶないな。あれでも喰らえば壁から落ちてめちゃ痛いぞ」


「だからと言って壁から降りる気はない」


 私は皆に聞こえる声で叫んだ。それを呼応するように壁で歓声があがる。


 おおおおおおおお!!


 何人かはバリスタに当たり落ちても、壁を上がってきた。死なない時点で私たちはやっぱり人とは違うんだなと思う。


「英魔族!! 胸を張れ!! 我々は人より強い!!」


 士気をあげるために叫び続ける。どうにかして耐え続けなくてはいけないために。







「正面からだと、やはり堅い。城門も鉄の塊なのか全く攻撃が無く、攻城鎚が無視されている」


「しかし、鉄塔がつく………亜人の頭では投石機なぞ作れんかった故に防ぐ事は出来んだろう。そこから攻めれば落ちるぞ。裏から開けばそれでいい」


 北騎士団長と東騎士団長は遠くから双眼鏡で眺めていた。兵士の隊長が前線を支えて頑張っているのを後ろで見学する。


 ゆっくりと壁に向かって押される鉄塔が壁についた。二人は笑みを浮かべる。


「1日も持たぬか」


「連合国の方が辛かったですね」


「まったくな」


 二人は事の成り行きを見定める。魔王を討った者には勇者の称号が貰え、未来永劫貴族となれる。


「さぁ……勇者は誰の手に」


 「首を持ってくるのはいったい誰か」と考えるのだった。







「鉄塔つけ!!」


「壁についた!! 行くぞ!!」


 がしゃん!! がんっ!!


 鉄塔が壁につき、矢の雨が全て都市の中へと標的が移る。


 鉄塔から伸びた橋の上に重装甲の歩兵が盾と剣を持って攻めてくる。


「よし!! 雪崩れ込!!」


 ガシャン!!


 先陣を切った男の首が吹き飛ぶ。風のように身を揺るがし、大きなツヴァイハインダーが盾の上から叩き潰す。鉄塔の上に居た兵が驚いた目を向ける。


「久しぶりの臭いだ」


「自分もこうやって。まーた君の虐殺を見る日がくるとは思いませんでした」


 ランスロットは幅広の偽聖剣を抜く。誰かが指を差して叫ぶ。トキヤの鎧を指を差して。


「黒騎士!?」


「それにあれは!! 人間!?」


「構うな!! たった二人だ!! 畳み掛けろ!!」


 そう言い、壁の上での死闘が始まった。





「女王さんよ、鉄塔に突っ込まないのか?」


 オーク族長が鉄塔を制圧し、部下にそのまま降りて戦うように指示をしたあとに私の前へ戻ってくる。


「一緒に下に降りて戦おうや」


 片手に血塗れの大斧を担いで私を誘いに来たのだ。「わーい」と言って行ってもいいが、そこは我慢して鉄塔3つにはそれぞれ、「近接戦闘が得意な兵を向かわせ、そのまま下に降りての戦闘を行わせろ」と命ずる。


「残念ですが……『私自身は弱い』と言うことを見せなければいけないのです」


 弱いと思われないといけない。故に戦うことが出来ない。なるべく……戦わないようにする。


「そうかい、せっかく功を譲ってやろうと思ったのにな。鉄塔の中は大きな螺旋の階段になっている。そのまま、兵士を喰らうてやるから見とけ」


「わかった。任せるよ族長」


「おうさ!! 野郎共、全軍で行くぞ!!」


 全軍と言っても数百程度。本当に添え物程度である。


「……ふぅ……状況は芳しくないけど」


 初戦としてはまずまずである。一騎当千の猛者達がいる。


「……さぁ、じっくり攻めてくるならいいんですが………どうするでしょうね」


 遠くの監視している将を見ながら……黒騎士や腕利きの騎士の姿を探した。多くの矢の中で全くそのような影を見ない。


「………黒騎士は首都かしらね?」


 一騎当千の化け物はまだ見えない。見えないからこそ今日は……凌げるだろう。




 矢の雨が止む、矢が転がっており歩き辛い中で私はピリッとした緊張感が切れるのがわかった。今日はこれでおしまいなのだろう。


「日も高いのに」


 日が高い内に鉄塔からトロールとオーク、トキヤとランスロットが帰ってくる。敵兵が士気が低下して敗走したのだろうか口々に楽勝だったことを口走る。


「ネフィア……兵士の質は低い」


「そうですね。騎士が居ないため、あまりに手応えがなかったです」


 私は眼下を見る。多くの屍が壁の前で山になっていた。少し……かわいそうな気もするがこれが戦争である。命の損耗戦。相手より先に殺すことだけを求め。殺せば英雄になれる野蛮な世界。


 その世界に私は足を踏み入れた。


 敵兵が壁から離れて行きその背中に向けて壁の上の兵たちは槍を投げつける。


 槍が届かなくなった時には私は命令を下し、攻撃をやめさせ。負傷者を壁の下にある野戦診療所に集めよと指示する。


 一通り指示を飛ばした後に皆が集まる。


「初戦凌いだが。うちらも結構被害が出た……じり貧だ」


「オデノナカマモナンニンカヤラレタ」


「……そう。もう先に英雄になったのが出たのね」


「英雄か……ククク。死ぬなぞ情けないと思ったが英雄と言うか」


「神話では勇敢な英雄はヴァルハラに行くと思います」


 空を見上げる。高い日が今度は沈んでいく。トキヤが剣についた血を拭いながら声をかけてくれる。


「ネフィア。戦争を実感して何かあったか?」


「初めて見たけど……想像以上に大変ね」


「だろう。これが何日も何日も続いて行くんだ」


「そう………じゃぁ。私は診療所に行ってきます。ここは任せます」


 私は壁から階段を降りていく。何も考えず……ただ淡々としながら。





 診療所では回復魔法を使える者が一生懸命に傷を癒していた。


「女王陛下!?」


「女王陛下が!?」


「女王さま!!」


 多くの人が私を見て声をかけてくれる。ベットの上の怪我人も私に対して身を乗り出してでも挨拶しようとする。


 私は優しく声をかける。ナース服を着たラミアに声をかける。


「治療手伝います」


「女王陛下が!?」


「少しでも役に立てれると思うから」


 矢は効かない者もいればやはり効く亜人もいるようで……至るところで呻き声が聞こえた。


「では………その……」


 ラミアの口からは躊躇われるのか……部屋の奥へと向かう。


「……」


 そこは……軽傷ではなく重症であり。中には助からないと思われる人も居た。


「女王陛下……」


「言わなくていい……そうね。家族と離れて戦ってる。だから……私が看取りましょう」


「……お願いします」


 ラミアは悲しそうにお辞儀をし、負傷兵の治療を再開する。私は……一人一人、息も引き取っているだろう兵にも声をかけて回る。


 治療よりも必要な事なのだろうと私は心に言い聞かせて。







 辺りはすっかり暗くなった日、私は壁の上に来ていた。多くの兵を看取ったあとに……カンテラだけを持って歩く。鉄塔は解体されているため。兵士に頼んで梯子を下ろしてもらう。


「女王陛下……壁の外でなにを?」


「……少しね。今は魔法が唱えられるから」


「………」


 蜥蜴と猫の亜人に見守られながら梯子を降りた。ブニッと冷たい遺体の上に降り立つ。


 カンテラで照らす一面に人間の遺体が転がり。私はその中を歩く。


「ああ……ん……よし。声は出る」


 喉の調子を確かめ。カンテラを置き私はその場に祈るように手を前に組む。


「死は平等であり始まりでもある。生まれ変わるなら英魔として私の元へ来ることを望みます」


 翼を広げ、私は声ではない声を響かせてメロディーを作り想いを込める。


 静かに真っ暗な夜空の下で数分だけ歌うのだった。








 帝国兵は風に乗ってくる歌に驚く。


 英魔兵は風に乗ってくる歌に驚く。


 次の日、帝国兵の誰もがその夜。戦場に立つ天使を見たと言う噂になった。


 英魔兵は姫様が敵味方関係なく。慈悲深い人と尊敬の念を持って持ち場についた。


 2日目が始まり。騎士たちが動き出す。


 見ていられないと。








 





 



















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