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思惑の交差..


 私はスパルタ国の王が来ているということで待つこと数分。何故か待合室の窓が割れた。


パリーン!!スタッ!!


「ガハハハハハ!! 久しいな王よ!!」


「……………普通に入ってきなさいよぉ。怒られるの私なんですよ?」


「どうしてだ?」


「……私が『指示した』て事になるんですねきっと……おかしいなぁおかしいなぁ~」


 窓の外が騒がしい。まぁこんな入り方はバカしかしない。なので目の前の男はバカである。


 そんなバカの名はメオニダス・スパルタと言う屈強な男で一度は戦った事がある。人間を辞め、超越した一人だ。


「聞いたぞ。『戦争する』てな」


「………まぁ」


 戦争するしかないでしょうと心で愚痴る。


「それで? 用件は?」


「参加を表明!! だがな!! 『どっちにもついてやろうか』と悩んでいるんだ‼」


「どっちとも?」


「亜人の奴隷を解放してやろう。それを使い戦え。我らは帝国につく」


「帝国に? それをわざわざ教えるなんて優しいですね」


「優しくはない。負けた故に本来はそっちにつくべきだが………強いもんに与してもつまらん」


 私はこの人が武人なのを理解する。あまりにも合理的ではない選択だが、それが「男でもある」と言う事も知っている。


「壁が高い方がいいと? 帝国の方が強いですよ?」


「俺は自分の勘と目を見て考える。お前と戦う方が面白いだけだ。だが、それも不義になる。故に亜人解放し、金品を持たせて送ってやる」


「………まぁ願ったり叶ったりでしょうね。屈強な兵士が増えるのは。だけどあなたとはなるべく戦いたくないわ」


 「無茶苦茶強そうだもん」と弱音を飲み込む。


「ククク。いい表情だ。おれは強者と認めてくれている顔だ。なに、最初から手紙では『戦場で会おう』と書いていたくせに」


 まぁ予定通りではある。人間は人間に与するのが普通なのだ。


「そうね。予定通り。人間は人間側につくもんよ」


「そうだろうな。まぁ~それだけだ」


「では、解放は感謝します。そして行き先は首都としてください」


「よかろう……では戦場でまた会おう」


 ガッ!!


 窓枠を飛び越え、またどこかへ行ってしまう。嵐のような男であり、魔物のように恐ろしい男だった。


「女王陛下……窓を壊されてますが暴れましたね? あーあとスパルタ王が走り去って見失いましたので少しお待ちください。暴れないでお待ちください」


 王を見失い慌てて帰ってきたのだろうリザード族長は窓枠を私のせいにする。


「スパルタ王に会った。窓枠壊して入ってきたの」


「女王陛下ではないのですか? 王配からは『問題起きたら陛下が関わってる』と聞いてます」


「………わ、私に会いに来ただけだから」


「今度から呼ぶときは陛下はカゼボ、もしくは窓を開けなくてはいけませんね」


 スパルタ王に私は悪態をつく。「くそやろう」と。





 南騎士団、会議室。メンバーは1から6番隊長に騎士団長、黒騎士団長が座る。


 会議はもちろん。編成変更だ。南方騎士団長の父上が話を始める。私は腕を組んで話を見守った。


「昨日……情報により南方での魔族の攻撃が予想される。滅んだ都市を拠点に帝国を海側から攻めるようだ。相手が先に動き出した」


「情報として魔王直筆の親書。魔族の動き、噂を考えるにこれは主攻と見る。兵は少ないが激しい戦闘が起こるだろう。上陸を阻止しなくてはならない」


 会議は父上の命令でほぼ決まる。会議とは名ばかりで意見の出し合いなのだ。


「ワシは残ることを陛下から指示された」


 もちろん陛下はいない。陛下の代理人の貴族からの指示だ。「自分たちの身を護れ」と言っている。


「3、4、5番隊を残し。その指揮をワシがとって守りに徹する。西騎士団も4、5番隊を残す。他残存する兵で迎え撃つ。ここまではいいな?」


「「「「はい」」」」


「ひとつ。なぜ3、4、5だけなんですか? トラスト……6は?」


 3番隊長が異議を申し上げる。6番隊長は私だ。しかし、特別優遇されているように見えるのだろう。


「6番は遊撃兵としての補助部隊。型にはまらない運用が唯一出来る部隊であり、攻めの機転になるだろう」


「しかし……いや。1番隊長どう思う?」


「……6番は俺より強い。本来は1番隊長になる奴だ。だが……新部隊を作った手前だからな。6番を捨てられない」


「そんな事は知っている。防衛戦に回すべきだ」


「いや!! 攻撃だ!! おまえ、後輩が便利だからって回させようとするなよ!!」


「攻めも先にそう言って取ったんだろ‼」


 とうとう、会議が6番隊を取り合う結果になる。私は頭を抱える。防衛戦なら妻と会えるが攻撃なら遠征だ。命を落とすかも知れず妻を悲しませるのは嫌だった。しかし、6番隊は私の私兵である。黒騎士もどきの。攻撃が得意な部隊だ。


「静かに!!」


 父上が怒った。机を叩き黙らせる。


「ワシが残るから我慢しろ」


「……くっ……はい。お前とは同じ戦場に立ちたかった」


「自分もですよ。5番隊長」


 同じ歳でよくして貰っている先輩だった。まぁ悲しい事に妻には遠征側に変わったことを伝えないといけないようだ。伝えないといけない事に心情は暗くなる。


「では、部隊編成は決まった。遠征組は1番隊長が指揮を取れ」


 父上が何か色々と話をするが……全く耳に入らずに。愛する姫にどのように説明するかをずっと悩むのだった。


 




 気が重い。遠征をするのはいつもそうだった。食事を取りながら私は味がわからず緊張していた。切り出し方をどうしようかと悩む。


「トラストさん? どうかされましたか?」


「……いや。なんでもない」


「なんでもないはずはないです。その顔は……いつも見ている顔ではないですね」


「い、いや。そんなことは………」


 妻のアメリアが微笑む。


「何年一緒と思いですか? トラストさんのその私に隠し事している顔は見飽きましたよ?」


「……すまん……言い出しにくい事なんだ……」


「……………お義父上に『覚悟を決めろ』と怒られました。知ってますよ。遠征に行くことになったんですよね?」


「………………」


 肯定の沈黙で目線を剃らす。父上が先に話をしてくれていたのは良かったが。それ以上に心苦しいことがあった。


「息子と剣を違える。そんな気がする」


「………」


 ガタッ


 アメリアは立ち上がった。そして、あの泣き続けた彼女は座っている私の後ろに来る。そして……後ろから抱き締められる。首筋に仄かな暖かさと花の匂いに。その一瞬だけ出会い、婚約した初々しい時代を思い起こさせた。


 彼女は首に手を回している。それを上から優しく触れた。


「息子を斬るのを躊躇っているのはわかります。だから……放逐した」


「………君が悲しむ」


「はい……悲しいです。でも、それも先伸ばしだったのかもしれません」


「………」


「どんな結果になろうと……私は享受します。だって……トラストさんを愛してますから」


「アメリア……すまない。王子にはもうなれそうにない」


「いいえ。ずっと私の王子様でしたよ……トラストさん」


 私の姫は悲しみを押さえて待つことしか出来ない事を知っている。故に「運命に委ねる」と言う。


「覚悟は出来たのか。出来てないのは私の方だったか……わかった。どんな結果でも……アメリア。愛しているよ。それは変わらない」


 力強く、自分は立ち上がり。振り向いて妻を抱き締めた。どんな悲運でも……二人で乗り越えようと心に誓うのだった。




 









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