第一回 九代族長会議①..
静かな日。外の庭園では花が咲いているし鳥がさえずっている。こんな穏やかな日に私は白いドレスを着込んで腰に愛剣を帯剣し皆が待つ場所へと進む。場所は執務室と言うより会議所であり、大陸の地図がカーテンで隠している場所だ。
「ネフィア……大丈夫か?」
「大丈夫……片目でも馴れた。トキヤ手を離して」
「いいのか?」
「ええ、怪しまれないようにしなくちゃね」
「………王は辛いな」
「全くよ………皆に見られる故に……ね。私は強い事を示さないといけない」
トキヤが手を離し、私はその背中についていく。本来、王の前に立つのは不徳と言われるかもしれないが。昔から殿方の後ろについてきた私は癖でついつい………黙って歩く場合は後ろについてしまうのだ。
まぁ、それも……衛兵から見れば「熟練の夫婦に見える」と言われているので不徳と言うものは居ないのではないかと思うが。
「ついた」
「トキヤ待って………」
「皆が待ってる」
「そ、そうだけど……」
「………王として切り替えか?」
「い、いや……その………なんだろう。ついつい、トキヤの後ろについてきたけど………私が前がいいかなって………」
「…………そういえばそうか。扉を開けてネフィアが先頭の方が普通だな」
トキヤが首を傾げて唸る。
「しまったな………俺もついつい。お前の前に出てしまう。今ではお前の方が上なのにな」
「でしょう!! 私もついつい後ろについて行ってしまうの」
「………」
「………」
「仕方ないか」
「仕方ないね」
私は口元に手を当ててクスクス笑う。居心地のいい雰囲気だ。
ポンポン
そして、優しく頭を撫でられる。
「ネフィア……安心しな。ずっと一緒だから」
「一緒でないと困る」
「ははは……強情なやつめ……これもやっちゃいけないのかな?」
「気にしないで……文句言うやつは首を」
「おお、怖い怖い。立場があると怖いなぁ」
「冗談だけどね」
ガチャ
「冗談でしたらそろそろいいですか? 姫様とトキヤ殿。皆が待っています」
「………すいませーん」
「すまんな。グレデンデ」
エルフ族長が扉から顔を出し、文句を垂れる。王にこんな仕草をしても私は「怒ろう」とかは思えず。手を合わせて謝るのだった。
「いちゃいちゃは後で自室でしてくださいね」
「はーい」
「ネフィア。もうちょっと固い返事をな………」
「へへ……やっぱ身が入んないや」
「……あの早く」
「ごめん!!」
扉を開けて素早く部屋に入る。部屋には重々しい雰囲気で皆が待っていた。それを見ながら頷き……テーブルの最奥に進み座る。トキヤは私から右手の方にある椅子に座る。
メンバーはトロール族長トロール。オーク族長デュナミス。トカゲ獣人族長リザード。エルフ族長グレデンデ。ダークエルフ族長バルバトス。夢魔族長エリック。吸血鬼族長セレファ。アラクネ族長代理オニヤンマのカスガ。スキャラ族長オクトパスにユグドラシル商会からトンヤ・オークズが来ている。
すぐによく集まったものだと感心する。
「………」
「………」
「………」
「………姫様」
「あっ!? ごめん!! そういうことね。おっほん」
慌てて椅子から立ち上がる。他の族長が苦笑しながら私を見た。その視線に答えるよう私は言葉を発する。
「第1回……九代族長会議を行う。皆に集まってもらったのは他でもない。緊急事態だ」
「「「「!?」」」」
「意外そうな顔をするな……余の顔に何か? ダークエルフ族長申してみよ」
「あっ……いえ……どうぞ続けてください。声変わりですか?」
エルフ族長とエリック族長以外、以下数人の顔つきが変わる。真面目そうな顔に笑いそうになる。真面目な声に反応したのだろう。
「内容は知っての通り帝国と戦争になる。会議の話は一つ、情報提供と作戦会議とする。なお、策は用意した。今のところ質問は無しだ」
全員が頷く。驚くぐらいに聞いてくれている。
「まぁ、その前に………ユグドラシル商会のトンヤさん。話がある。これは早急に進めてほしい」
「なんでしょうか女王陛下」
ユグドラシル商会のオーク男性が笑みを向ける。今のところ知り合いのような軽い口調での会話ではない。
「ふぅ、なれないわね。知り合いにこう、固い言葉を使うのは」
「いやー俺もですよ。女王陛下になるとはね~。でっ何を所望で?」
「金、金が欲しい。ありったけ………全財産を利子つきで貸して欲しい。名義は余だ」
周りがざわつく。それを私は目で制する。
「余とトンヤで交渉してる。静かに」
「……全財産。利子つきですか」
「たんまり溜め込んでいるだろう?」
「ククク。利子無しで………お金を出しましょう」
「ん?」
「しかし!! 条件がいる。これは融資である」
「言うてみろ」
ユグドラシル商会のトンヤが立ち上がる。
「一つ、お金を投資する条件として今後の女王陛下領地及び共栄国領地の商売は全部私の一任として欲しい」
「なっ!? それは独占です!!」
エルフ族長がたまらず声を出す。
「確かに独占ですが。ユグドラシル商会の下でなら自由にしますよ。権限を一括し円滑に交易を行いたいのです。ちょうど………族長たちが居ますからね」
「よかろう」
「姫様!?」
「エルフ族長……大丈夫。悪さはしないわ彼は」
「女王陛下に誓って。それに………」
「そう」
「「大商人は夢でもある」」
私は彼を知っている。だからこその応援の意味を込めて。認めようと思う。実際は「経済管理者」となるのだろう。最大商業家になりつつあり、逆に仲間に引き込まないと危ないまで肥大化している。
「エウリィさんも喜ぶわ」
「ええ、女王陛下。ありがとうございます。正直な話は女王陛下に頑張ってもらわなければゆめが叶わないのですけどね」
「ええ、わかってるわ」
帝国が勝った場合……きっとユグドラシル商会は潰されるだろう。そういうことだ。
「………そしてもう2つ目」
「何かしら?」
トンヤが汗を滴らせて言葉を捻り出す。
「……エルダードラゴン。ワン・ドレイクをください」
「あれはあげたわよ?」
「口約束ではなく……書面でお願いします」
私は首を傾げて。考え……「ああっ」と思いつく。
「ユグドラシルちゃんね」
「……発言い、いたしかねます」
「娘に甘いのね」
「……」
「わかった。契約しましょう」
「ありがとうございます。では、こちらにサインをお願いします」
「あら? 準備がいい」
「前もって、予測できましたからね」
汗を吹きながら笑顔のまま私に近付き。羽ペンと上質そうな紙を用意する。それに私はサインをした。
「資金はいつまでにどれだけ集められる?」
「城一杯に出来ますよ………帝国からいただいたのでね」
「帝国から?」
「情報提供………兵糧の買い出し分の把握が出来ておりますので後で売買記録をお持ちします。それとですね。権限の行使を即日にしていただけたいと思います。帝国からの交易を閉じ、スパイ流入を防ごうと思います」
「わかった。追々、見ましょう。即日ね」
「では、帝国の商人どもを蹴散らしましょう。早く動かないといけないので私はこれで失礼します。今後もご贔屓に」
「わかったわ。ありがとう」
トンヤが契約書を持ってその場を去る。資金は確保できた。
「資金分配は半分を9等分にしましょう」
「幾らほどか?」
虫系亜人でオニヤンマのカスガが聞いてくる。気になるのは仕方ない。
「そうね………来るのを楽しみにしましょう。ちょっと想像できない額らしいわ。耳打ちではね。把握出来てないそうよ」
「そうか………資金繰りは困らないのだな」
「簡単に解決できたわね」
資金は十分貰えるだろう。幾ら蓄えがあるのかは知らないが。
「次に、敵についてお勉強よ」
私は立ち上がり大陸の地図の前に立った。大陸の地図に魔力を流すと模様が変わるだけ。拡大は出来ないようだ。
「新しい黒板は?」
「その地図の裏です」
「ん?」
地図に触れるとズレ、奥から黒板が現れる。地図の裏は色々な物が置いてあり、そのなかで丸められた白紙を尻目にそれをトキヤに渡すとテキパキと紙を木の板に張り付けた。私は白い粉を固めた物。チョークを手に取り、書き出す。
「おお、いいかんじ」
「黒板……姫様が言う通りに用意してみしたがどうでしょう?」
「うむぅ……便利」
ささっと凸を描いて展開図を描いた。
「敵の主力は両翼と背後の予備部隊からなる騎馬部隊だ。非常に多く、機動力、突破力に優れる」
凸に3方向からの矢印を書く。予備部隊は大回りし、背後を叩く。
「機動力を用意し、両翼から挟み込むように戦うのが得意であり。背後に回り叩くのも行う。予備部隊は臨機応変に援護に入ったりするほど柔軟な運用ができている」
そしてもう一つ凸を描く。
「それとワイバーンの竜騎兵と言うのも存在し、空からの撹乱と背後から回られる恐れがある。帝国の主兵は以上だ。歩兵は数の多さで圧倒するが。騎兵、竜騎兵をどうするかが戦争の分け目である。騎兵、竜騎兵はすぐに撤退も出来るからな」
私は黒板に兵数という項目を書く。
「エルフ族長!! 数は!!」
「………予想で30万………35万でしょうか……」
会議がざわつく。ダークエルフ族長もオーク族長も驚いた顔をするのはそれだけ数が多いってことだろう。
「さ、30万!?」
「ほぅ……」
「義兄……まじか」
「一番、最大な数です。これから何処まで絞ってくるかですが………」
獣族長リザード。蜥蜴男が立ち上がる。
「エルフ族長、遠征だ。全力でやって来るぞ‼」
「だから会議だ」
「ふふふ……」
皆が私を見る。何で見るのかわかっている。笑っているからだ。エルフ族長が私に質問を投げる。
「姫様? 何故お笑いに?」
「いや、『首級の奪い合いをせずとも良いな』と思ってね」
歪め私よ。今ここではそれが求められる。
「いっぱい首があっていいではないか? 皆に均等に褒美がやれそうだ。沢山倒せる。数を聞いて安心したよ。全員に行き渡らせれそうだ」
「姫様………」
「ククク!! 女王陛下ハハハハ!!」
オーク族長が大笑いし、大きな声で叫ぶ。
「女王陛下は数を聞いて。首に困らないか!! 確かに!! ガハハハ!!」
私は空気が柔らかくなるのを感じる。
「まぁ、そうね」
それを感じ取った瞬間に邪悪な笑みを浮かべる。底冷えする声で……皆に示した。
「勝つつもりだから。そこんとこよろしく」
誰も否定はしない。誰も疑わない。私も疑わない。




