騎士団会議②..
騎士団長会議後、北騎士団長は東騎士団長を呼び止め。二人で廊下で再三、話を合わせていた。その姿は西騎士団長には好敵手に見え、黒騎士団長には敵同士の探り合いに見え、南騎士団長には何かを棚上げし結託しているように見えた。
黒騎士団長は南騎士団長に連れられ、南騎士団の駐屯地まで馬車で移動し、南騎士団の執務室まで案内した。先着として………元黒騎士部下のトラスト・アフトクラトルと言う6番隊長が席についており、表では精強6番隊長。裏では黒騎士との繋がりを持つパイプ役と報告者として暗躍していた。
「トラストさん元気ですか?」
「元気です。手紙は読みましたか? 黒騎士団長」
「ええ、奥さんと娘さんの文通でしょう」
机の下で受け取ったのは彼の息子の嫁に当たる魔物からの手紙だった。母親との文通や世間話の内容がびっしり書き込まれている。
逆に言えば……近況が分かると言うものだ。しかも、何故か文は速達であり。1月などではなく7日で届くのだ。非常に速いために情報も鮮度はいい。
「やはり………これでわかりました。嵐竜を倒したのが紛れもなく魔王であると」
「情報によると………孫は魔王を知っているらしいな。いや、魔王の王配と親友であり、妻は魔王との親友か」
「ええ……そのとおりです。黒騎士団長……トキヤとはやはり………あの子ですか」
「……………はぁ」
南騎士団は一番情報に精通している。たった一枚の紙が恐ろしいほどに情報をもたらす。何でもかんでも書き込んでいたのだ。
「元黒騎士であり魔物と恐れられた奴ですよ……裏切り者です」
「そうか………ランスロットの親友のあの子ですね」
その表情は暗い。
「なんと言う運命だろうな……孫は放逐された先で魔王と会い。人外を嫁にし………その人外が九代族長の一人とは………」
「……ん? 族長?」
知らない単語だと黒騎士団長は仮面の内側で眉を潜める。
「九代族長?」
それに答えるトラスト。
「魔王の下にいる。種族の代表者らしいです。手紙では纏める人が9人居るとのこと。その一人に選ばれ、ランス共々右往左往していることを書かれていました。だからこそ正確な情報なのでしょう」
「………」
黒騎士団長は考える。知りたいと。
「情報はあるだろう?」
「ああ、調べている。紙で用意した……後で目を通しておいてくれ。それは後でいい」
「はい」
「問題は……この戦……厳しいのではと僕の勘が働く」
「現に一度、帝都は進行されているしな、息子の言うなら」
「そうです。魔王を拐ったために……多くの被害が出ました。ワイバーンの騎兵の需要もあがりましたが……あのドラゴンは………本物です。あれを使役しているとなると……」
「黒騎士全員でかかれと言うことですね。私の経験上、あれは伝説の竜です」
「ドラゴンが出てきた場合ですね。あれを知らないわけがないのに、北伐です」
「……他にも……孫の近況から察するに魔国は思いの外、纏まっている。短期間でひとつの国として立派にな。その纏まりはある都市の名前を変えるほどだ」
「南騎士団長はどうしようと思いますか?」
「トラスト6番隊のみ残し。わしが出る。黒騎士団長は敗戦処理も考えておいてくれ」
「………『負けることを想定しろ』と言うことですね」
「ああ。停戦協定はお主が段取りするだろう」
少しの間、沈黙が場を支配する。
「………そろそろ。私も話しましょう」
黒騎士団長が話をする。
「私は……魔王に会ったことがある」
「そうですか……では、私の妻も魔王に会ったことがあります」
「……知っていました」
「なんだろうな。この運命はな」
「なんでしょうかね。この運命は」
黒騎士団長が仮面を外す。二人が驚いた顔を向けた。そして……黒騎士団長が仮面を外す理由を考えると自ずと言葉が出た。
「黒騎士団長………腹を割って話をする気か」
「ええ、こうまでしないと………話をされないでしょう」
黒騎士団長は何となくだが、彼等の考えを知りたくなったのだ。
「………お父上」
「ああ……わかった」
「………」
一つ溜め息を吐いてアフトクラトル家当主は答える。
「最初は陛下の後を継ぐと思っていた。孫であるランスロットは……罪で放逐し、かの地で族長と結ばれた。ランスロットはその嫁に対し、アフトクラトル家の名前を名乗らせている」
「………亜人に?」
黒騎士団長が眉を歪ませる。人間以外の者に家の名を名乗らせるのは抵抗があるはずだと思ったのだ。
「亜人とな、なりほど人だな。まぁ……こいつも変な趣味を持っている男だ。孫もそうだろう。そして……名を絶やさぬ事は重要だ。ゆえに分家として我々は『認めている』のだ」
それは黒騎士団長にとって。予想外の答えになる。
「魔族ですよ?」
「魔族の前に……孫の嫁だ。それに権力者だ。だから……ワシらは勝っても負けても痛みは他の家より少ない。滅びようと魔国で続いていく」
「………もし。孫と戦う場合は?」
「斬る。向こうも『そうする』と手紙で言っていた。魔族であるとな……今の帝国の王になるより幸せだろう」
「………そうですか」
「残念だったな、黒騎士団長。ランスロットはもう………向こうの手の内だ。聖剣もな」
「ランスロット皇子しか、剣は抜けず……王になる器があると思われる男だったのに………残念ですね」
「やはり。呼び戻したかったんですね黒騎士団長」
「ああ………今の王子たちに……辟易しててね」
深い溜め息を吐く黒騎士団長。ここへ来て。あの蟲毒は効果が出ず。結局、聖剣も失い。ランスロットさえ、向こうに渡った。結果論と言えど運がないと黒騎士団長が思う。
「後手後手な気がしますね」
「実はワシもだ。しかし、孫はいったら誰に似たのか………」
「自分ですね。お父上。愛する人のために何かも捨てる王子様のように教育したのです。聞けば………なかなかロマンチックで筆が捗ると言うものです。魔物と王子。いい関係性じゃないですか」
トラストが腕を組みながら笑顔でメモを取る。それに呆れながらも優しく眺める騎士団長に黒騎士団長は南騎士団の裏切りを見た。
「陛下への裏切りです」
「陛下の旗はどちらに? 陛下は魔王に手渡したと言われてましたが?」
「………」
「黒騎士団長。君は恐ろしい。しかし………恐ろしいだけで人は動かない。知っているだろう?」
「………」
「実はあの命令書も陛下の直筆だ。陛下が何を思ったか……筆を走らした。偽装物ではない」
「……どこでその情報を?」
「義理の娘がね………陛下と共通の話題を持っていてね………色々とコネが効くよ。陛下はもう一度、戦いを見たいそうだ。そう『魔王が勝つ世界を見て逝く』とな」
南騎士団は運がいいようだ。ランスロットのような者を輩出出来ているのも、他の騎士団にない物を掴めている。
「黒騎士団長。安心しろ………兵は全力で出す。勝つつもりでな。しかし、『わからない』とだけ言おう。運命はわからぬ」
南騎士団長が白くなった髭を掴みながら唸り。黒騎士団長は頭を掻くのだった。
あの、目の前に堂々と現れた金髪の女性を思い出しながら。




